『デジタル・ステップ』 第4話
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翌日、三人は保護局の無機質だが日当たりの良い応接室に呼び出されていた。
向かいのソファに座っているのは、この世界に迷い込んだ初日に彼女たちを保護してくれた青年、リオンだった。
「昨日は驚かせてしまったようですね。保健教諭からも報告を受けました」
リオンは相変わらず、一点の曇りもない柔和な微笑みを浮かべている。
しかし、シオリとマナミの態度は初日とは打って変わっていた。二人はソファの端に身を寄せ合い、まるで得体の知れない怪物を見るような目で、引き攣った笑いを貼り付けてリオンを見返している。
「あの……じゃあ、リオンさんも?」
マナミが恐る恐る尋ねると、リオンはあっさりと頷いた。
「ええ。皆さんの言葉を借りるなら、私も機械の身体です。現在、この世界で生身の肉体を持っているのは、動植物などの食用バイオプラント内の存在くらいですね」
そこからリオンが語ったのは、この世界の成り立ちだった。
かつて、魂を機械の身体に移植する技術が確立されたこと。
そして技術はさらに進歩し、今では「新しい魂」を人工的に発生させることすら可能になったこと。
「つまり、今の世代は生まれた瞬間からこの身体なのです。遺伝子情報に基づいて、身体の側が個別に『成長』していくんですよ」
「機械なのに、成長するんですか……?」
シオリが信じられないというように声を上げる。
「ええ。バイオテクノロジーの産物ですからね。私たちの身体はただの金属の塊ではなく、タンパク質と金属がナノレベルで融合した特殊な生体物質で構成されています。だから、皮膚の温もりも、食事を味わう味覚も、あなた方と何も変わりません」
テーブルに置かれたティーカップを手に取るリオンの所作は、どこまでも滑らかで自然だった。皮膚の質感も、息遣いも、人間そのもの。
しかし、その説明を聞いたシオリとマナミの顔には、明確な「嫌悪感」が張り付いていた。
「……じゃあ、学校にいる子たちも全員、作られた偽物ってことじゃん」
マナミが小声でシオリに耳打ちする。
「ね。成長するって言っても、しょせんはプログラム通りにデカくなってるだけでしょ? なんか……キモいよね」
シオリも、自分の二の腕をさすりながら身震いした。
「見た目はおなじでも、中身は全然違うんだ。私たちみたいな『本物』の人間なんて、ここにはいないんだね……」
二人の言葉は、リオンに聞こえないほどの小声だったが、隣に座るユヅキの耳にははっきりと届いていた。
ユヅキは無意識にため息をつきそうになるのを堪えた。
(何が『本物』よ。昨日まであんなに普通に笑い合ってたのに、中身がタンパク質と金属のハイブリッドだと知った瞬間に、態度をひっくり返して見下すなんて)
ユヅキの目から見れば、リオンも同級生たちも、感情豊かで親切な「ただの人間」だ。
むしろ、目の前の事実を直視せず、「自分たちは純度100%の生肉だから偉くて本物なのだ」と根拠のない優越感に浸り、勝手に不気味がるシオリたちの方が、よほどグロテスクなバグを起こしているように見えた。
「素晴らしい技術ですね」
ユヅキは、隣の二人の怯えを無視して身を乗り出した。
「病気や寿命、生体特有の疲労といった『バグ』を排除しつつ、遺伝子による多様性と成長のプロセスは維持している。タンパク質と金属の融合なら、脳の演算処理……いえ、感情の処理も、生肉よりずっとクリアで高速なんでしょう?」
ユヅキの率直な称賛に、リオンは少しだけ目を丸くし、やがて嬉しそうに目を細めた。
「その通りです。ノイズのない健やかな精神と身体。それが、私たちが到達した進化の形なんですよ」
「……ユヅキ、あんた何言ってんの?」
マナミが信じられないという目でユヅキの袖を引く。
「機械に魂なんてあるわけないじゃん。ただのプログラミングで動いてるだけだよ。私たちみたいな、複雑な感情とか絶対わかんないって」
マナミのその言葉こそが、何一つ論理的な裏付けのない、ただの思い込み(ノイズ)の産物であることに、彼女自身は全く気づいていなかった。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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