『デジタル・ステップ』 第3話
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保護局での手続きは、拍子抜けするほどスムーズだった。
身元不明の迷子という扱いになった三人に対し、この世界の行政は極めて寛容だった。最低限の生活を保証する居住ユニットが与えられ、毎日決まった時間に食事が提供される。
最初の数日は戸惑って泣いていたシオリとマナミも、ひと月が経ち、現地の高校へ編入する頃にはすっかり落ち着きを取り戻していた。
「あはは! マジでそれ!」
「いや、お前ふざけんなよー。昨日クリアするって言ったじゃん!」
真新しい制服に身を包み、校舎の廊下を歩く三人を包んでいたのは、元の世界の高校と大して変わらない喧噪だった。
ふざけ合って肩を叩き合う男子たち。スマホのような端末を見て大きな声で笑い合う女子たち。すれ違いざまに肩がぶつかれば「あ、わりぃ」と軽く手を挙げて去っていく。
「なんだ、もっとお高く止まったエリート校かと思ったら、案外フツーじゃん」
マナミがほっとしたように息を吐く。
「ね。みんなおしゃれだけど、ノリは私たちと変わんないね」
シオリも同調して笑った。
だが、ユヅキだけは奇妙な違和感の正体を探っていた。
確かに彼らは騒ぎ、怒り、笑っている。しかし、そこには元の世界にあったような、ドロドロとした「陰湿な空気」や、相手の顔色を窺うような「探り合い」が一切ないのだ。
怒る時は一瞬で怒鳴り、笑う時は一瞬で爆笑する。そして用が済めば、まるでスイッチを切り替えたようにスッと次の行動に移る。感情の発露が、極めてクリアで「離散的」なのだ。
「あー、編入生の三人ね。よろしく」
案内された保健室で、白衣を着た若い女性教諭が気怠げに片手を挙げた。机に腰掛け、タブレット端末をスワイプする様は、どこにでもいる少し適当な保健医そのものだ。
「とりあえず学内システムにパーソナルデータ登録するから、そこのスキャナー通って。一瞬で終わるから」
教諭が顎でしゃくった先には、ゲート型のスキャナーがあった。
まずシオリが「はーい」と軽い足取りでゲートをくぐる。
淡い光が彼女の全身を舐めるように上下した。
『ピーーーッ』
無機質で甲高いエラー音が保健室に鳴り響いた。
「ん? なにこれ。バグ?」
教諭が眉をひそめ、タブレットの画面を指先で強く叩く。
「えっと……循環フィルター応答なし。人工心肺、未接続……ってか、全身炭素ベース? は?」
教諭は画面から顔を上げ、目を丸くしてシオリを、そしてユヅキたちをまじまじと見つめた。その顔に浮かんでいるのは、隠しようのない「純粋なドン引き」だった。
「あんたたち、まさかまだ『魂の移植』やってないの?」
「……はい?」
シオリが間抜けな声を漏らす。
「いや、だから。骨とか内臓とか、中身全部『生肉』のままなの!? うわ、マジか……」
教諭は信じられないものを見る目で、三人を指差した。
「えっ……生肉って、人間なんだから当たり前じゃないですか。先生、何言ってるんですか?」
シオリが引き攣った笑いを浮かべる。マナミも「冗談きついですよ」と同意を求めた。
しかし、教諭は一切の冗談を含まない、ただ事実を確認するだけの平坦な声で言い放った。
「当たり前って……知らずに生活してたわけ? この世界、生身の人間なんて一人もいないわよ。私も、そこの廊下で騒いでる連中も、全員、機械の身体だから」
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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