『デジタル・ステップ』 第25話 「年末の大掃除とこたつ」
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「あーもう、なんで年末ってこんなにやること多いの! 窓拭き終わったと思ったら、今度は換気扇とか聞いてない!」
12月30日。
底冷えするような寒さの中、居住ユニットのリビングにマナミの悲鳴が響き渡った。
頭にタオルを巻き、ジャージ姿で窓用のワイパーを握りしめている彼女の顔は、疲労と寒さでへの字に曲がっている。
「文句言わないの。ほら、バケツの水替えてきて」
シオリがマスク越しに鼻声で指示を出しながら、棚の上の埃をハンディモップで絡め取っていく。
クリスマスという華やかなイベントが過ぎ去った途端、待っているのは現実的で泥臭い「大掃除」という名の労働だ。
いくら住環境が最適化されていようと、生活していれば埃は溜まるし、窓ガラスは曇る。新年を綺麗な部屋で迎えるために、年末は誰もがジャージ姿で雑巾を握る運命にあるのだ。
「おーい、段ボールと雑誌の束、ゴミステーションに運んどいたぞー」
開け放たれた玄関から、ケントとタクトが息を切らして戻ってきた。二人とも首にタオルを巻き、フリースの上着には白い埃がうっすらと付着している。
「ありがとう二人とも。ほんと助かった」
脚立に乗ってエアコンのフィルターを外していたユヅキが、振り返って労いの声をかけた。
「いやマジで、お前ら三人ともなんでこんなに通販の段ボール溜め込んでんだよ。運ぶのめちゃくちゃ重かったんだけど」
「女の子は色々買うものがあるの! 化粧品とか、服とか、冬用のあったかグッズとか!」
文句を言うタクトに、マナミがバケツを持ちながら言い返す。
「はいはい。じゃあ俺たちは終わったから、先にこたつに入らせてもらうわ」
「あ、ずるいケント! 私も窓拭き終わったし!」
一足先に大掃除を終えた男子二人が、部屋の真ん中に鎮座する真新しい「こたつ」へと滑り込む。
このこたつは、数日前に六人で大型ショッピングモールへ買い出しに行った際、「冬の日本人の心といえばこれ!」とマナミが熱弁を振るって購入したものだ。
「……あー、生き返る……」
こたつの電源を入れ、肩まで毛布を被ったタクトが、完全に魂の抜けた顔でとろけている。
「ほんと、これ発明した昔の人間は天才だな。出られなくなるわ」
ケントもみかんの入ったカゴを引き寄せながら、深く同意の息を吐いた。
数十分後。
ようやくすべての掃除を終えたユヅキたち三人も、吸い込まれるようにこたつへと潜り込んだ。
「あーっ、ダメだ。腰が痛い。腕もパンパン」
「水が冷たすぎて手先の感覚ない……みかん剥けない……」
シオリとマナミがこたつの魔力に抗えず、机に突っ伏す。
ユヅキもまた、冷え切った足先がじんわりと温められていく心地よさに、思わずふぅっと長い息を吐き出した。
「お疲れさん。はい、みかん」
ケントが綺麗に筋を取ったみかんを半分に割り、ユヅキの前に差し出してくれた。
「ありがとう。……甘っ。美味しい」
「だろ? 箱買いして正解だったな」
全員がジャージ姿で、髪は少しボサボサで、手先は掃除のせいで少しカサついている。
疲労感で口数も減り、ただ暖かなこたつの中で、テレビの年末特番をぼんやりと眺めながらみかんを頬張る。
誰もが等しく疲れ切り、誰もが等しくこたつの温もりに幸せを感じていた。
「ねえ、明日の大晦日、夜ご飯どうする?」
こたつから首だけを出したマナミが、目を半分閉じながら尋ねる。
「そりゃ、年越しそばでしょ。駅前のスーパーでエビ天買ってきて乗せようよ」
「賛成。年明けたら、みんなで近くの神社に初詣行こうね。リナちゃんも誘ってさ」
シオリの言葉に、タクトが「あ、リナなら着物着ていくって張り切ってたぞ」と笑いながら付け加えた。
「えっ、着物!? じゃあ私たちも着たい!」
「今からレンタル間に合うかな? 調べてみる!」
さっきまで「もう一歩も動けない」と死にかけていたはずのマナミとシオリが、急にスマートフォンを取り出してキャッキャと騒ぎ始める。
その切り替えの早さに、男子二人が呆れたように顔を見合わせた。
ユヅキはみかんの甘酸っぱい味を噛み締めながら、こたつの中で足を伸ばした。
偶然、誰かの足先とぶつかって「あっ、ごめん」と笑い合う。
大掃除で疲れた身体。こたつの温もり。年末特番の賑やかなBGM。
そして、他愛のない明日の約束。
世界中が忙しなく動き回る年末の空気に包まれながら、ユヅキたちの時間は、どこにでもある普通の、けれど何よりも得難い平和な軌道の上を、ゆっくりと進んでいた。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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