『デジタル・ステップ』 第22話 「赤点と放課後カラオケ」
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「はい、じゃあ前の席から順番に取りに来るように。……ケント、お前は放課後残れよ」
担任の無慈悲な宣告とともに、教室にドッと笑い声が湧き上がる。
期末テストの返却日。教卓の前で自分の解答用紙を受け取ったケントは、この世の終わりのような顔をしてうなだれていた。
「……嘘だろ。俺、絶対いけたと思ってたのに。なんでここ、マイナスじゃなくてプラスにしてんだよ……俺のバカ……ッ!」
自分の席に戻るなり、机に突っ伏して頭を抱えるケント。
その横から、マナミがひょいっと覗き込んで意地悪く笑った。
「あはは! ケント、32点じゃん! 私より下だ!」
「うるせえ! 見んな! ていうかマナミ、お前何点だったんだよ!」
「ふふん、私? 私はね……じゃーん! 45点!」
「威張るな! それでも平均点以下だろうが! どっちにしろ週末の補習組じゃねーか!」
どんぐりの背比べのような言い争いを始める二人をよそに、リナは自分の解答用紙を見つめて深い溜め息をついていた。
「あーあ……ショック。ここの計算式までは合ってたのに、最後の最後で掛け算間違えてる。これ落としてなかったら80点台乗ったのにぃ……」
「わかるー! そういうケアレスミスが一番引きずるよね。私も、見直ししたはずなのに記号問題でマークずれてて最悪だったし」
シオリが深く頷きながら、リナと慰め合っている。
ユヅキは、返却された68点という至って普通の点数が書かれたテスト用紙を半分に折りたたみながら、教室内を見渡した。
良い点数を取って小さくガッツポーズをする者。
信じられないような低い点数を見て、慌てて解答用紙をカバンにねじ込む者。
「お前何点だった!?」「言わない! お前が先言えよ!」と友人と点数を見せ合って騒ぐ者。
(ほんとに……なにも変わらない)
ユヅキは、つい頬を緩ませてしまった。
彼らは病気もせず、身体のスペックは自分たちよりも遥かに高い。しかし、一枚の紙切れに書かれた赤い数字に対しては、生身の人間と全く同じように打ちのめされ、歓喜し、嘆き悲しんでいる。
その姿が、どうしようもなく滑稽で、そしてどうしようもなく「ただの人間」だった。
「おっす。お前らどうだった? 俺、物理ギリギリ回避したわ」
休み時間になり、隣のクラスからタクトがホッとした顔で顔を出した。
「タクト……お願いだ、お前も補習組だって言ってくれ……」
ケントがすがるような目でタクトの袖を掴む。
「悪いな、俺52点。週末は家でゆっくりゲームさせてもらうわ」
「裏切り者ぉぉぉッ!!」
膝から崩れ落ちるケントを見て、タクトとリナがゲラゲラと笑い、シオリもマナミもお腹を抱えて笑っている。
「よし! もう終わったテストのことは忘れよう!」
マナミがパンッと両手を叩いて宣言した。
「点数悪かった人も、良かった人も、今日は駅前のカラオケで打ち上げね! 補習組のケントのおごりで!」
「なんで俺なんだよ! 慰めろよ!」
「文句言わない! ほら、放課後すぐ行くよ!」
ケントの抗議など完全に無視して、放課後の予定が勝手に決まっていく。
テストの点数に一喜一憂し、終わってしまえば「とりあえずカラオケで発散しよう」と逃避する。
そこにあるのは、機械だとか生身だとかいう複雑な壁なんて一切存在しない、どこにでもある高校生の放課後だ。
(……このままでいい。ずっと、これがいい)
ユヅキはカバンにテスト用紙をしまいながら、心からそう思った。
窓の外には、冬の澄んだ青空が広がっている。
カラオケで何を歌おうかと考えながら、ユヅキの足取りは、いつの間にかマナミたちと同じくらい軽くなっていた。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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