『デジタル・ステップ』 第14話
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それでは、本編をお楽しみください!
週末。三人はクラスメイトのリナに誘われ、街の中心部にある大型の商業施設へと来ていた。
「これ、どうかな? 私の肌の色に合うと思う?」
アパレルショップの鏡の前で、リナがマスタードイエローのニットを胸元に当てて振り返った。
「うん、めっちゃ似合う! リナちゃん色白だから、そういうハッキリした色すごく可愛い」
マナミが絶賛すると、リナは嬉しそうに目を細めてニットを買い物かごに入れた。
「よかった。最近、少し背が伸びて去年の冬服が全体的にツンツルテンになってきちゃって。買い直さなきゃいけなくて大変なんだよね」
「あー、わかる。私も最近、なんか全体的にキツくて……まあ私の場合は横に成長しちゃってるんだけどね」
「マナミ、それはただの食べ過ぎ」
シオリの容赦ないツッコミに、マナミが唇を尖らせ、リナがくすくすと笑う。
彼女たちの会話には、もはや生身も機械も関係なかった。
遺伝子情報に基づいて「成長」する彼らは、生身の人間と全く同じように背が伸び、体型が変わり、それに合わせて服を買い替える。おしゃれを楽しみ、似合う色に悩み、友達の意見を求める。
そこにあるのは、どこにでもいる女子高生たちの、平和で他愛のない休日の風景そのものだった。
「ユヅキはどう? なんかいいのあった?」
「んー……私は、とりあえずこのマフラーかな」
ユヅキがシンプルなグレーのマフラーを見せると、「ユヅキっぽい!」「大人っぽいね」と二人が笑う。
買い物を終えた四人は、施設内のオープンテラスがあるカフェに陣取った。
テーブルには色鮮やかなケーキセットや、温かいフルーツティーが並べられている。
「そういえばさ」
ケーキの苺をフォークでつつきながら、マナミが声を潜めるようにしてリナに身を乗り出した。
「最近、リナちゃん、隣のクラスのタクトくんとよく話してない?」
その途端、リナの白い頬が、ほんのりと——本当に、人間が照れた時と全く同じように——赤く染まった。
「えっ……嘘、見てたの?」
「見てた見てた! 昨日も放課後、廊下でなんかいい感じだったじゃん」
シオリもニヤニヤと笑いながら追撃する。
「いい感じって言うか……その、最近、彼のおすすめの音楽プレイリストを教えてもらって、その感想を言ってただけで……」
「出たー! 音楽の貸し借りは完全に脈ありじゃん!」
「ちょっとマナミ、声大きいってば!」
リナは顔を真っ赤にして、慌ててマナミの口を塞ごうとする。
その慌てぶりは、完璧に制御されたアンドロイドのそれではなく、恋バナに照れて焦る、ただの等身大の女の子の姿だった。
ユヅキはフルーツティーに口をつけながら、微笑ましくそのやり取りを眺めていた。
ここに来たばかりの頃、マナミやシオリは「機械に感情なんてない」「プログラムで動いてるだけ」と決めつけていた。
しかし今、目の前で恋の噂に照れて赤面するリナを見て、彼女がプログラムの塊だと感じる者は誰もいない。彼女たちは悩み、笑い、成長し、誰かを好きになる。
処理系がCPUであろうと、身体がタンパク質と金属のハイブリッドであろうと、彼女たちの心は間違いなく「本物」なのだ。
「……ねえ、今度の日曜日、みんなで遊園地に行かない?」
リナが少し落ち着いた後、提案してきた。
「タクトくんが、友達連れて一緒に行こうって……もしよかったら、みんなも来てくれないかなって思って」
「行く! 絶対行く!」
「ていうかそれ、完全にダブルデート……いや、グループ交際ってやつじゃん!」
マナミとシオリが目を輝かせて歓声を上げる。
「ユヅキも、予定空いてる?」
リナに首を傾げて聞かれ、ユヅキは小さく笑って頷いた。
「うん。空いてるよ。一緒に行く」
機械の身体と、生身の身体。
決定的な違いは確かにあるはずなのに、こうして他愛のない時間を重ねていると、その境界線は陽炎のようにぼやけて見えなくなっていく。
ユヅキは、カフェのテラスから見える、平和で穏やかな街の景色に目を向けた。
(このまま、ずっと続けばいいな)
ただの女子高生として笑い合える、この何事もない普通の日常が。
微かなノイズすらも心地よい子守唄に感じるほど、三人はこの世界の平穏に、ゆっくりと深く沈み込んでいた。
お読みいただきありがとうございます。
アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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