↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル・ステップ』  作者: さらん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/25

『デジタル・ステップ』 第13話

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


秋晴れの空の下、校舎全体が色めき立っていた。

この日、学校は年に一度の学園祭の熱気に包まれていた。


「いらっしゃいませー! 2年B組、特製フルーツクレープはいかがですかー!」


クラスお揃いの鮮やかなTシャツを着たマナミが、満面の笑みで客引きの声を張り上げる。

その横では、シオリが手際よく注文を取り、奥の調理スペースへ声をかけていた。


「ユヅキ! チョコバナナ二つ、イチゴスペシャル三つね!」

「了解。ケント、生地の焼き上がりどう?」

「完璧。排熱モーター全開で焼いてるぜ!」


調理台の前では、ユヅキとケントが並んでクレープの生地を焼いていた。

彼らのクラスの出し物は、定番中の定番であるクレープ屋だ。元の世界の学園祭なら、必ずと言っていいほど「サボる男子」や「出し物の方向性で揉める女子」が現れ、ギスギスした空気が流れるのがお約束だった。


しかし、この世界のクラスメイトたちは違った。全員が完璧な協調性を持ち、それでいて「お祭り」という非日常を心から楽しんでいる。誰もサボらず、誰も不機嫌にならず、ただ純粋な熱気だけがそこにあった。


「はい、お待たせしました!」


マナミが満面の笑みでクレープを手渡すと、他クラスの生徒たちが「美味しそう!」「生地モチモチだね!」とはしゃぎながら受け取っていく。

バイオプラントで生成された完璧な食材を使っているのだから、学生の素人料理であっても味は一流スイーツ店並みだ。


「あー、忙しい! でも超楽しい!」


シフトの休憩時間になり、三人は屋上のベンチに腰を下ろした。

手には、自分たちで作った売り物のクレープや、他のクラスから買ってきた焼きそば、タピオカドリンクなどが山のように抱えられている。


「この焼きそば、ヤバい。お肉が口の中で溶けるんだけど」


マナミが焼きそばを頬張りながら、幸せそうに目を細めた。


「ほんとだ。てかマナミ、さっきから食べすぎじゃない? いくら太らない食材だからって、胃袋のキャパはあるんだからね」


シオリが呆れたように笑いながら、自分のタピオカドリンクをストローで吸い込む。


「だって美味しいんだもん。あー、元の学校の文化祭もしょぼくてそれなりに楽しかったけど、こっちの学園祭はレベルが違うわ。みんな優しいし、食べ物は最高だし」


マナミの言葉に、シオリも大きく頷いた。


「わかる。準備の時も誰も喧嘩しなかったしね。なんか、嫌なことが一つもないお祭りって感じ」


二人の顔には、心の底からの明るい笑顔が浮かんでいた。

あの保護局の待合室で、絶望して泣き崩れていた姿が嘘のようだ。未来への不安も、自分たちだけが生身であるという疎外感も、今日というこのお祭りの熱気の中では、完全に忘れ去られている。


ユヅキは、自分のクレープを小さく齧りながら、そんな二人を静かに見つめていた。


(……これで、よかったんだな)

ユヅキの心の中に、ふわりと温かいものが広がっていく。

もしあの時、自分が合理性だけを求めて機械化の申請を出していたら。シオリとマナミは完全に心を閉ざし、こんな風に無邪気に笑うことは二度となかっただろう。


生肉の不便さも、いつか来るかもしれない病気の恐怖も、確かにそこにある。

けれど、こうして三人で並んで美味しいものを食べ、他愛のないことで笑い合える「今」があるなら、その恐怖から目を逸らす価値は十分にある気がした。


「あ、見て! 中庭でダンス部のステージ始まるよ!」

「マジ!? リナちゃん出るやつじゃん、見に行こ!」


マナミとシオリが慌てて立ち上がり、ユヅキの腕を両側から引っ張った。


「ちょっと、引っ張らないでよ。クレープ落としちゃう」

「いいから急いで! 最前列で見なきゃ!」


二人に手を引かれながら、ユヅキも自然と声を上げて笑っていた。

少しだけ汗ばんだ二人の手のひらの体温が、今はちっとも鬱陶しくない。この非効率で、曖昧で、だけど確かな温もりに満ちた時間を、もう少しだけ延長してもいい。


雲一つない青空の下、三人の笑い声が、学園祭の喧騒の中に心地よく溶けていった。


お読みいただきありがとうございます。


アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。


もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉(オリジナル)であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。


少しでも「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の☆から応援していただけますと、作者の生身の肉体(ハードウェア)の執筆エネルギーに直結します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。