『デジタル・ステップ』 第13話
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それでは、本編をお楽しみください!
秋晴れの空の下、校舎全体が色めき立っていた。
この日、学校は年に一度の学園祭の熱気に包まれていた。
「いらっしゃいませー! 2年B組、特製フルーツクレープはいかがですかー!」
クラスお揃いの鮮やかなTシャツを着たマナミが、満面の笑みで客引きの声を張り上げる。
その横では、シオリが手際よく注文を取り、奥の調理スペースへ声をかけていた。
「ユヅキ! チョコバナナ二つ、イチゴスペシャル三つね!」
「了解。ケント、生地の焼き上がりどう?」
「完璧。排熱モーター全開で焼いてるぜ!」
調理台の前では、ユヅキとケントが並んでクレープの生地を焼いていた。
彼らのクラスの出し物は、定番中の定番であるクレープ屋だ。元の世界の学園祭なら、必ずと言っていいほど「サボる男子」や「出し物の方向性で揉める女子」が現れ、ギスギスした空気が流れるのがお約束だった。
しかし、この世界のクラスメイトたちは違った。全員が完璧な協調性を持ち、それでいて「お祭り」という非日常を心から楽しんでいる。誰もサボらず、誰も不機嫌にならず、ただ純粋な熱気だけがそこにあった。
「はい、お待たせしました!」
マナミが満面の笑みでクレープを手渡すと、他クラスの生徒たちが「美味しそう!」「生地モチモチだね!」とはしゃぎながら受け取っていく。
バイオプラントで生成された完璧な食材を使っているのだから、学生の素人料理であっても味は一流スイーツ店並みだ。
「あー、忙しい! でも超楽しい!」
シフトの休憩時間になり、三人は屋上のベンチに腰を下ろした。
手には、自分たちで作った売り物のクレープや、他のクラスから買ってきた焼きそば、タピオカドリンクなどが山のように抱えられている。
「この焼きそば、ヤバい。お肉が口の中で溶けるんだけど」
マナミが焼きそばを頬張りながら、幸せそうに目を細めた。
「ほんとだ。てかマナミ、さっきから食べすぎじゃない? いくら太らない食材だからって、胃袋のキャパはあるんだからね」
シオリが呆れたように笑いながら、自分のタピオカドリンクをストローで吸い込む。
「だって美味しいんだもん。あー、元の学校の文化祭もしょぼくてそれなりに楽しかったけど、こっちの学園祭はレベルが違うわ。みんな優しいし、食べ物は最高だし」
マナミの言葉に、シオリも大きく頷いた。
「わかる。準備の時も誰も喧嘩しなかったしね。なんか、嫌なことが一つもないお祭りって感じ」
二人の顔には、心の底からの明るい笑顔が浮かんでいた。
あの保護局の待合室で、絶望して泣き崩れていた姿が嘘のようだ。未来への不安も、自分たちだけが生身であるという疎外感も、今日というこのお祭りの熱気の中では、完全に忘れ去られている。
ユヅキは、自分のクレープを小さく齧りながら、そんな二人を静かに見つめていた。
(……これで、よかったんだな)
ユヅキの心の中に、ふわりと温かいものが広がっていく。
もしあの時、自分が合理性だけを求めて機械化の申請を出していたら。シオリとマナミは完全に心を閉ざし、こんな風に無邪気に笑うことは二度となかっただろう。
生肉の不便さも、いつか来るかもしれない病気の恐怖も、確かにそこにある。
けれど、こうして三人で並んで美味しいものを食べ、他愛のないことで笑い合える「今」があるなら、その恐怖から目を逸らす価値は十分にある気がした。
「あ、見て! 中庭でダンス部のステージ始まるよ!」
「マジ!? リナちゃん出るやつじゃん、見に行こ!」
マナミとシオリが慌てて立ち上がり、ユヅキの腕を両側から引っ張った。
「ちょっと、引っ張らないでよ。クレープ落としちゃう」
「いいから急いで! 最前列で見なきゃ!」
二人に手を引かれながら、ユヅキも自然と声を上げて笑っていた。
少しだけ汗ばんだ二人の手のひらの体温が、今はちっとも鬱陶しくない。この非効率で、曖昧で、だけど確かな温もりに満ちた時間を、もう少しだけ延長してもいい。
雲一つない青空の下、三人の笑い声が、学園祭の喧騒の中に心地よく溶けていった。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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