『デジタル・ステップ』 第10話
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秋の気配が深まってきた頃、学校で定期健康診断が行われることになった。
体育館に設置されたのは何台もの流線型のスキャナーゲートだった。
生徒たちは次々とゲートをくぐり、自分たちの「成長」や「最適化」のデータをタブレットで共有しては、楽しげに笑い合っている。
「ケント、骨格の金属融合率上がってるね。順調じゃん」
「おう。ただ排熱効率がちょっと落ちてるから、冷却系のメニュー多めに食えってさ」
彼らにとって健康診断は、互いの成長を喜び合い、未来のコンディションを共有する明るいイベントだった。
「次、転入生の三人ね」
白衣を着た教諭に呼ばれ、ユヅキたちがゲートの前に立つと、教諭は申し訳なさそうに手を止めた。
「ごめんなさい。この学校の設備はハイブリッドボディ専用だから、あなたたち『生体』の身体はスキャン自体が通らないのよ。だから、今日の午後は公欠扱いにするから、保護局へ行ってきてちょうだい。あそこなら、旧時代の医療設備が残っているはずだから」
教諭の言葉に悪意は微塵もなかった。ただ「規格が違うから、専用の場所へ行ってね」という、事務的でフラットな配慮だった。
しかし、その言葉は三人の間に、見えない巨大な壁を打ち下ろした。
「……あ、はい。わかりました」
体育館を後にする三人の背中に、ケントやリナたちの「冬の大会に向けて関節調整しよーぜ」といった、健やかで楽しげな声が遠ざかっていく。
いつもはあの中に混ざって、一緒にお弁当を食べ、他愛のない冗談を言い合っていた。同じ制服を着て、同じ教室で、同じ人間のように過ごしていた。
しかし今日だけは違う。彼らが当たり前に共有している輪の中から、自分たち三人だけが「規格外の旧式」として弾き出されてしまったのだ。
学校から保護局へ向かう電車の中、重苦しい沈黙を破ったのはマナミだった。
「……別に、よくない?」
マナミは窓の外を見つめたまま、強がるように吐き捨てた。
「あんなゲートくぐって、データ見せ合って喜ぶとか、やっぱりアイツら機械じゃん。キモいよ。私たちは本物の人間なんだから、あんなのに混ざれなくて当然だし」
「マナミ」
シオリが、ひどく疲れたような声で遮った。
「強がるのは、もうやめようよ」
「強がってなんかない!」
「……寂しいじゃん」
シオリのその一言に、マナミはハッとして口をつぐんだ。
「普段はみんな、普通に接してくれるから忘れそうになるけどさ……。こういう時、思い知らされちゃうんだよ。私たちは、絶対にあの子たちと同じにはなれないんだって」
シオリは自分の膝の上で、両手をぎゅっと握りしめた。
「元の世界の家族も友達もいない。ここには、あの子たちみたいな『同じシステム』を共有できる仲間もいない。……私たち、どこにも属してないんだよ。ただの迷子。だから、こんな風に『特別扱い』されて、隔離されるんだよ……」
その言葉は、マナミが「嫌悪感」という盾で必死に見ないようにしていた、底知れない孤独の正体だった。
相手を機械だと見下したところで、弾き出されて孤独を味わっているのは自分たちの方なのだ。絶対に交わることのできないハードウェアの壁。その境界線の外側にポツンと取り残されているという事実が、真綿で首を絞めるように三人の心を削っていく。
保護局の無機質な待合室。
呼ばれるのを待つ間、マナミとシオリは肩を寄せ合い、ただ黙って俯いていた。その姿は、この世界から完全に孤立してしまった子供そのものだった。
その横で、ユヅキは静かに前を見据えていた。
(特別扱いなんて、いらない)
ユヅキは思った。
生身だから、オリジナルだから。そんな理由で隔離され、孤独を抱えながら生きていくことの、どこに価値があるというのか。
あの教室で、リナやケントたちと、当たり前のように未来を共有して笑い合いたい。同じシステムに組み込まれ、この穏やかな世界の一部になりたい。
ユヅキの中で、「彼らと同じになる」という決意が、極めて純度高く、論理的な結論として弾き出された瞬間だった。
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アナログの肉体が抱えるノイズ(脆弱性)と、デジタルの最適化。
もし病気も寿命もある「完璧に理にかなった機械」が存在したら、生肉であることの価値はどこにあるのか。そんな思考実験のようなヒューマンドラマです。
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