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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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番外編①「特等席」

——わたしの、声は。

たった、一人にしか。届かない。


ロザリンドにも。アンジェにも。ローランにも。

イザベラにも、ユリウスにも。——誰にも。


この世界で。

わたしの姿が、見えて。わたしの声が、聞こえるのは。


ただ、一人——アルフォンス、だけ。





……ねえ。

ちょっとだけ。わたしの、話を、してもいい?


わたしは、もともと。

——この世界の、住人じゃ、ない。


前世は。どこにでも、いる。ふつうの、女子高生だった。

友達は、少なめ。休み時間も、放課後も。ウェブ小説ばっかり、読んでた。


異世界。転生。悪役令嬢。——そういう、お話が、大好きで。


ぱっとしない、毎日の、中で。

わたしは、いつも——"物語の、外側"から。きらきらした、世界を。指を、くわえて、眺めてた。


そんな、わたしが。

ある日、あっけなく、死んで。——本当なら、次は。自分が、生まれ直す、はず、だった。


——けど。


『君、転生もの、詳しいじゃん。——案内役、やらない?』


天界の、"上の方"に。ひょいと、スカウトされて。

気づけば、わたしは。転生待ちの、魂を。次の、人生へと、送り出す——"案内役の、妖精"に、なって、いた。


……皮肉、だよね。

自分が、生まれ直す、番を、なくして。それでも、相変わらず——。

"物語の、外側"から。誰かの、人生の、始まりを。見送る、だけ。





——そんな、ある日。


わたしの、担当に、なったのが。

やけに、古めかしい、言葉づかいの——一人の、お侍さん、だった。


転生ものの、いろはを、教えても。

チートだの、ざまぁだの。ぜんぶ、生真面目に、頷いて。「果たし合いのようなものか」とか、ずれた、感心を、して。


……正直。

ちょっと、面白い人だな、って。——思ってた。


そして、別れ際。

あの人を、トンネルへ、送り出そうと、した、その時。


転生を、嫌がって、暴れる、魂が——わたしを。どん、と、突き飛ばした。


(へり)の、向こうは。

無数の、トンネルが、口を開ける——奈落。


(……あ。落ちる)


そう、思った——瞬間。


「——危ういっ!!」


あの人が。

ためらいも、せず。地を、蹴って——わたしを、抱き、留めた。


わたしは、無事だった。


……かわりに。

勢いを、殺しきれなかった、あの人が。

自分の、行くはずだった、トンネルとは——まるで、違う。


"破滅する、悪役王子"の、人生へと——落ちて、いった。


『——え。えっ、なんで!? なんで、私を庇って。自分が——!!』





……ずっと。

わたしは、ただ。外側から、見送るだけの——案内役、だった。


物語に、手を、出すなんて。——できない。しない。それが、ルール。


でも。

その、時だけは。


考えるより、先に——体が、動いて、いた。


見ず知らずの、わたしを、庇って。

誰かの、間違った、人生へ。落ちて、いく——あの、不器用な、お侍さんを。


——見捨てられる、わけが、ない。


『——あーもう!! なんで、こうなるのよ——!!』


わたしは。

自分の、居場所も。案内役の、役目も。——何もかも、放り出して。


あの人と、同じ、トンネルへ。——頭から、飛び込んだ。


生まれて、初めて。

"物語"の、外側から——内側へ。





……そうして。

たどり着いた、先で。


生まれたばかりの、赤ちゃんが。

いきなり、切腹を、しようとした時は。——さすがに、泣きながら、ツッコんだ、けど。


それから、ずっと。——一緒、だった。


おかしな、言動に、ツッコんで。

ゲージを、見張って。原作の、筋書きを、教えて。


……気づけば。

わたしは、もう——"読者"じゃ、なかった。


物語の、いちばん、内側で。

誰よりも、近くで。——この、おかしな、お侍さんの、生き様を。見て、いた。





……正直、ね。


たまに。

ちょっとだけ、寂しく、なる。


みんなが、笑ってる、輪の中に。

わたしだけ、入れない。誰も、わたしを、見て、くれない。


天界の、役目も、捨てて、きちゃったし。

元の、世界に、帰れるのかも——もう、分からない。


わたしは、結局。

この、賑やかな、物語の——どこにも、名前の、ない。声だけの、存在。


『……はぁ』


つい。

ため息が、こぼれた——その、時。


「——ひかり殿」


ふいに。

アルフォンスが、口を、開いた。


『……っ。な、なに? 武士さん』


「いかが、した。——元気が、ないように、見受けられる」


(……見受けられる、って。姿、見えてない、くせに)


少し、笑って。

わたしは、ごまかそうと、した——けど。


「そなたは」


アルフォンスは。

静かに——けれど、はっきりと、言った。


「天界にて。それがしを、庇う、いわれなど。——何ひとつ、なかった」


「なのに、そなたは。己の、居場所も。生まれ直す、(おり)さえも——投げ捨てて」


「こんな、破滅(さだめ)の生に。それがし、一人の、ために——飛び込んで、きて、くれた」


『……っ。それは』


「以来、ずっと。傍で、それがしを、導いて、くれた。——そなたが、おらねば。それがしの、フラグへし折りなど。とうに、破綻して、おったろう」


アルフォンスは。

ふっと——優しく、笑む。


「姿は、見えずとも。声しか、届かずとも。——それがしには。そなたが、誰よりも、近くに、おる。それで、十分では、ないか」


「そなたは。物語の、隅で、見過ごされる、脇役などでは、ない。——それがしの。生涯の、相棒よ」





……ずるい、なあ。

ほんと。——ずるい、よ。武士さん。


そんなこと、言われたら。

泣いちゃう、じゃん。


『……ばか。武士さんの、くせに。たまに、決め台詞、上手すぎなんだよ』


ぐす、と。

洟を、すすって。わたしは——笑った。


そっか。

——わたし、もう。


外側から、見送るだけの。"読むだけ"の、わたしじゃ、ないんだ。


この、賑やかで。あったかい、物語の。

ちゃんと、一員(いちいん)なんだ。


……うん。

帰れるか、どうかなんて。——今は、もう、いい。


だって、わたしは、今。

人生で、いちばん——"物語"の、いちばん、近くに。いるんだから。





『——よし! しんみりは、おしまい!』


わたしは、ぱん、と。両手で、頬を、叩いた。


『ほら、武士さん。次の、稽古、遅れるよ! あと、ロザリンドが、また、菖蒲っぽい花、枯らしそうだったから。あとで、見てあげて!』


「……まったく。忙しない、奴よ」


苦笑する、武士さんの。

頭の中で。


わたしは、今日も。——にぎやかに、生きて、いる。


物語の。——いちばん、いい、特等席で。


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