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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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番外編②「沈黙は、金なり」

大夜会の、騒動から——幾月か。


国王は。

少しずつ。アルフォンスを——一人の、王子として。認め、始めて、いた。


そして、ある日。

彼に、こう、命じた。


「——隣国、ガルニエとの。通商を、巡る、会談。そなたも、同席、せよ」


ガルニエは。

近年。何かと、難癖を、つけては。こちらに、不利な、条件を、呑ませようと、して、くる——油断ならぬ、相手で、あった。





会談を、前に。

外交を、司る、老臣が。アルフォンスに、そっと、釘を、刺した。


「殿下。——くれぐれも。込み入った、交渉は。我ら、文官に。お任せ、ください」


「うむ」


「そして……どうか。余計な、お言葉も。お顔の、色も。——お控えを。手の内を、相手に、悟られては、なりませんので」


(……ふむ。なるほど)


アルフォンスは、深く——頷いた。


(感情を、(おもて)に、出さず。心を、波立たせず。——平常心。不動心。……要は、武士の、心得、よ)


『……あ。武士さん、それ。——絶対、変な方向に、解釈、してる』


ひかりの、嫌な予感は。

——だいたい、当たる。





会談の、卓。


ガルニエの、使節は。

でっぷりと、太った——いかにも、狡猾そうな、男だった。


「いやはや。此度(こたび)の、条件。貴国にも、決して、悪い、お話では——」


ぺら、ぺらと。

舌が、よく、回る。


その、正面で。

アルフォンスは——ただ、座って、いた。


一言も、発さず。

微動だに、せず。——ただ、まっすぐに。使節の、目を。じいっと——見据えて。


(……心を、鎮め。ただ、相手を、見る。——これぞ、武士の、目付(めつけ)よ)


本人は。

"感情を、出すな"を。馬鹿正直に、守って、いる、だけ。


——だが。





「……っ」


使節の、額に。

じわり、と——汗が、滲み、始めた。


(な、なんだ。この、王子は……。先ほどから、一言も、発さず。ただ、こちらを——射抜くように、見据えている)


(白銀の、髪に。血の、ように、紅い、瞳。……まさか。我が方の、思惑など。——とうに、見透かされて、いるのか?)


しん、と、した、沈黙が。

卓の、上に——重く、のしかかる。


たまらず。

使節は——口を、開いた。


「……あー、その。じ、実は。先ほどの、条件は。少々……欲を、かきすぎた、かも、しれません。い、いくらか。譲歩、を——」


『……えええ!? 勝手に、譲歩、しはじめた!?』


ひかりが。

素っ頓狂な、声を、上げた。


『武士さん、何も、してないよ!? ただ、黙って、ガン見してるだけ、なのに!』


『……って。——あれ? これ』


ひかりは。

強烈な、既視感に——目を、ぱちくり、させた。


『……赤ちゃんの、時と。——おんなじ、だ』


『生まれて、すぐ。"喋っちゃ、だめ"って、言ったら。武士さん、何年も、無言で。乳母を、じいーーっと、見つめ返してさ。……周りの、大人、みんな。ビビり倒してた、やつ!』


『あれから、十数年。——あの時と、まるっきり、同じ。"無言ガン見"で。今度は、一国の、外交官を、震え上がらせてる……!?』


——と。

そこで、ひかりは。はた、と、もう一つ、気づいた。


『……あ。そっか。——"沈黙"だ』


『交渉でね。片方が、黙ってると。もう片方が、不安に、なって。……つい、しゃべりすぎたり。譲歩、しちゃったり、するんだって。"沈黙は、金"って、やつ』


『武士さんの、馬鹿正直な、"無言ガン見"が。……まさかの。超・高等、交渉術に、なってる……!?』





会談は。

アルフォンスの、沈黙に、押される、まま——着々と。こちらに、有利に、進んで、いく。


だが。

使節も、ただでは、引き下がらない。


「し、しかし……。この、国境の、件だけは。——もともと、我が国の、民が。先に、住んで、おった、土地。これを、手放せとは——」


それは。

明らかな——偽り、だった。


その土地に、先に、暮らして、いたのは。——こちらの、民。

それを、奪わんと。歴史を、捻じ曲げて、いる。


——その、瞬間。


アルフォンスの、奥底で。

"義に、もとる"——武士の、魂が。ぐらり、と、たぎった。


——次の、刹那(せつな)


ぐぬ、と。

それまで、彫像のように、端正だった、その美貌が。


眉は、太く、濃く。

目は、爛々(らんらん)と、見開かれ。

輪郭には——墨で、ひと刷き、なぞったような。ごつい、陰影が、差して。


まるで。古い、時代劇の、劇画から。そのまま、抜け出して、きたかの、ような——厳めしい、武者の、顔へと。


ぐぐぐ、と——変貌した。


無言。

ただ、無言の、まま。

その、いかつい、劇画顔で——使節を。ぎろり、と、睨め、据える。


(……許せぬ。義に、もとる、虚言(きょげん)よ)


——本人は。

ただ、純粋に。腹を、立てて、いる、だけ、なのだが。


「————っ、ヒィッ!?」


使節が。

椅子ごと、のけぞった。


(こ、殺される——!! い、今、確かに。"その嘘、見抜いたぞ"と。——目が、そう、言った——!!)


『いやいや待って待って! それ、ただの——武士さんの、"ブチギレ劇画顔"だから! 義に、反することが、あると。顔が、勝手に、そうなる、だけ! ……そういう、体質なの! 赤ちゃんの、時から、ずーーっと、そう——!』


ひかりの、必死の、ツッコミは。

——もちろん、誰の、耳にも、届かない。





「も、申し訳、ございませんッ! こ、国境の、件は……ぜ、全面的に。貴国の、ご主張を——認めますッ!!」


がば、と。

使節は——卓に、額を、擦りつけた。


——かくして。


ガルニエとの、会談は。

当初の、想定を、はるかに、上回る——空前の、好条件で。妥結、した。





「……お、おお……!」

「殿下が……一言も、発しない、うちに。相手が、勝手に、膝を……!」

「な、なんという……底知れない、御方だ……!」


居並ぶ、文官たちは。

アルフォンスを——畏敬の、眼差しで、見つめた。


後日。

報告を、受けた、国王も。——感嘆の、息を、漏らした、という。


「ふむ。……あれは。言葉を、(ろう)さず、相手の、本質を、見抜く。——大した、ものよ」





——その頃。


当の、アルフォンスは。

庭で、光丸の、手入れを、しながら。きょとんと、して、いた。


「……はて。それがし。ただ、言われた通り。黙って、座って、おっただけ、なのだが」


「なにゆえ、皆。あれほど、喜んで、おったのだ?」


『…………』


ひかりは。

そっと——天を、仰いだ。


『……うん。もう、それで、いいよ。武士さん』


『——なんだかんだ。上手く、いっちゃうんだから。あんたは』





その後。

"無言の、外交王子"の、噂は。


近隣諸国へと——静かに、広まって、いった、とか。


——曰く。

「かの国に、底知れぬ、王子あり。

一言も、発さずして、相手の、心の、底を、見透かす」と。


……まあ。

真相は。ただの——"言われたことを、馬鹿正直に、守る、武士"、なの、だけれど。


『……あ。武士さん。今、ちょっと。——得意げな、顔、した』


「——む。して、おらぬ」


『してたよ』


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