第24話「断罪の舞台」
王城の、奥深く。
宰相の執務室は。重い、沈黙に、満ちていた。
「——して。刺客は、しくじった、と」
底冷えの、する声で。
宰相——セドリックの、父が、言った。
メルツ家。
代々、宰相を、輩出してきた。王国、随一の、権門である。
そして——かつて。
ヴァレンシュタイン家に、謀反の濡れ衣を、着せ。一夜にして、焼き滅ぼした。
その、張本人。
ロザリンドが、復讐を、誓う、相手。
——それが、この男、だった。
「は。申し訳、ございません」
セドリックは、頭を、垂れる。
「アルフォンス王子。……あの男は、尋常では、ありません。心理戦も、武力も。ことごとく——通用、しませんでした」
宰相は。
細く、目を、眇めた。
「忌々しい、呪い児よ。——本来であれば。蔑まれ、孤立し。いずれ国を呪う、"災いの種"。捨て置いても、勝手に、潰れるはずで、あった」
「それが、今や。騎士の子も、貴族の子弟も。次々と、あの男に、心酔し。あまつさえ——あの、ヴァレンシュタインの、生き残りまで、囲っている」
声に、初めて——苛立ちが、滲んだ。
「あれを、放置すれば。いずれ、メルツ家の、足元を、脅かそう。……それに。あの娘が、我らの過去を、嗅ぎ回るのも。——目障りだ」
◇
「——もはや、小細工は、無用」
宰相は、立ち上がり。窓の外の、王都を、見下ろした。
「両名とも。衆人環視の、公の場で。正式に——"断罪"する」
「公の、場……」
「ひと月後。建国祭の、大夜会だ。——王侯貴族、ことごとくが、列席する、晴れの舞台」
その双眸が。冷たく、光る。
「あの場で。確たる証拠と、しかるべき証言を、揃え。叩きつける。——呪い児の王子は、危険分子として。ヴァレンシュタインの娘は、謀反人の血として」
「一度。公に、断じて、しまえば。——もはや、誰にも、覆せない。たとえ、生徒会長の権限とて。あの場では、何の役にも、立ちはしない」
(……そうだ。ユリウス王子が、いかに、弟を庇おうと。王と、貴族の、見守る正式な断罪を。覆す術は、ない)
セドリックの、頭の中で。
盤上の、王手が——静かに、組み上がって、いく。
◇
「証言は。例の——聖女候補の、娘を、使え」
「は。……ですが、父上」
セドリックの、眉が。わずかに、曇った。
「あの娘。近頃……少し、様子が。妙、なのです」
ここ、数日。
あれほど、こちらの思惑どおりに、傾いていた、アンジェの心が。
——どこか、ほどけて、いくような。手応えの、薄さ。
(……あの、騎士団長の、息子か。よけいな、ことを)
セドリックは、冷たく、思考する。
(……構わない。もう一度。あの娘の傷を、抉ればいい。——"皆を救う正義"という、甘い毒を。たっぷりと、注ぎ直すまで)
策士の、昏い算段は。
一片の、ためらいも、なく。——次の、一手を、組み上げていた。
◇
——その、夜。
「……ひかり殿。風が。変わったな」
『……うん。なんか、やな感じ。学園の外——お城の、ほうから。すごく、冷たい、気配がする』
ひかりは、ぶるっと、身を、震わせた。
『……武士さん。たぶん、来るよ。原作の、いちばん大きな、山場が。——"断罪イベント"』
「断罪、か」
『そう。本当なら、ここで。武士さんも、ロザリンドも、まとめて、断罪されて。武士さんは、それを逆恨みして、ラスボスに……っていう。物語の、大本命の、ルート』
アルフォンスの、紅の瞳が。静かに、夜の闇を、見据える。
「——あい分かった」
『……出た。人生、最大の、ピンチを前に。その、落ち着き』
「逃げも、隠れも、せぬ。——正面から、受け。斬るべき"影"を。叩き斬る、までよ」
ひと月後。
建国祭の、大夜会。
すべての、糸が。
その、一夜へと——手繰り寄せられて、いく。
——カウントダウンは。
すでに、静かに。始まって、いた。




