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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第23話「うつるもの」

あの、不義理の見本市から——数日。


学園の中庭の、一角は。

すっかり、様変わり、していた。


かつて、アンジェを、囲んでいた、貴公子たちが。

今や——アルフォンスの稽古に、列を、なしているのである。


「師匠! お願いします!」

「し、しごいて、くだされ……!」


『……ねえ、武士さん。なんか、弟子。増えてない?』


(うむ。あの一件で、目が覚めた、とかでな。次々と、な)


先頭で、ローランが。得意げに、新入りたちを、束ねている。

一番弟子の、貫禄、である。





そして。

ひかりが、目ざとく——あることに、気づいた。


『……あれ。ねえ、武士さん。あの子たち。なんか……喋り方が』


クラリスの許嫁——アランという、青年が。

木刀を、振り下ろし、ながら、声を、張り上げる。


「せいっ! ——か、かたじけ、ない! ……っと、違う。えっと——ありがとう、ございます、師匠!」


別の青年は。素振りのあと、きりり、と、静止して、呟いた。


「……これが。噂に聞く、"ざんしん"、という、ものか……!」


『……うわ。写ってる。武士。写っちゃってるよ』


ひかりは、がっくりと、頭を、抱えた。


『ユリウスといい、この子たちといい……。武士さんの周り、感染が、広がってない!? なんなの、その——武士ウイルス……!』


「ふむ。皆、見上げた、心がけよ」


当の、アルフォンスは。

我が事のように、満足げに、頷くばかり。

——自分が、その"感染源(かんせんげん)"だとは。露ほども、思って、いない。


しかも、彼らは。

稽古の合間には。きちんと、己の婚約者の令嬢を、気遣うように、なっていた。


隅で。

クラリスたち、婚約者連合の令嬢が。そんな、変わりゆく許嫁たちを。

少し、照れたように、嬉しそうに——見守っている。


中庭に、流れる空気は。

かつての、浮ついた、ハーレムの、それとは。

まるで、違う、ものに——なって、いた。





——その、片隅で。


ただ、ひとり。

アンジェは。誰の輪にも、入れずに。ぽつんと、立ち尽くして、いた。


かつて、我先にと、自分を、囲んでいた、貴公子たち。

その誰もが、今は——アルフォンスのもとや。己の婚約者の、隣に、いる。


(……ほら。見て。あの男が)

(あなたから、何もかも、奪っていく。みんな、あの男に、取られて、しまった)


あの、"自分のものではない声"が。

ここぞ、とばかりに——囁きかける。


(……ちが、う)


けれど、アンジェには。

もう、その囁きに、頷く気力すら——湧かなかった。


ただ、ただ。

胸の中が——空っぽで。寂しくて、たまらなかった。





「——お? アンジェ嬢じゃねえか」


ふいに。

明るい声が、かけられた。


稽古の汗を、拭いながら。ローランが、人懐っこい顔で、近づいてくる。


「ひとりで、どうした。……お前、最近、ずっと、元気ねえだろ。——心配してたんだぜ、俺」


「……ローラン、様」


「なあ。何か、あったんなら。話くらい、聞くぜ。——俺、難しいことは、分かんねえけどさ。……友達だろ、俺たち」


——友達。


その、なんの、裏も、ない。

まっすぐで、あたたかい、言葉に。


アンジェの、胸の奥が。

——つきん、と、痛んで。そして、ふいに——熱く、なった。


ずっと。

誰もが、"聖女様"として、自分を、見ていた。

あるいは——攻略の、対象として。


けれど、ローランは。

ただ、"アンジェ"を。ひとりの、友達として、案じて、くれている。


そんな、当たり前の優しさが。

今の、アンジェには——どうしようもなく、沁みた。


(……あ、れ)

(わたし……いったい、何を、してたん、だろう)


ふっ、と。

あの、"声"が——遠のく。


ほんの、一瞬。

けれど、確かに——アンジェの心に。久しぶりに、自分自身の声が、戻ってきた。





その、様子を。

少し、離れた場所から、見ていた、アルフォンスが。

ふっ、と、目元を、緩めた。


『……今。アンジェの、"影"。ちょっとだけ、薄く、なった』


ひかりが、静かに、言う。


『ローランの……ただの、まっすぐな優しさが。引力の隙間に。——ほんの、ひとすじ。光を、差し込んだ、みたい』


「うむ。——人を、救うのは。いつだって。大仰な、理屈では、ない」


アルフォンスは、穏やかに、目を、細める。


「ただ、そばで。案じる者が、ひとり、おること。——時に、それだけで。人は、闇から、半歩。戻れるもの、よ」


まだ。

アンジェを、縛る"影"が、消えた、わけでは、ない。


——けれど。

凍てついた、その心にも。

たしかに、ひとすじの——あたたかな、光が、射し込んだ。


ちいさな、ちいさな——救いの、兆しが。

そっと、芽吹いた、瞬間だった。


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