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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第22話「はじめての、笑み」

街外れからの、帰り道。


夕焼けが。長く、長く——二人の影を、地に、伸ばしていた。


廃教会での、騒ぎの、あと。

アルフォンスは、当然のように、「学園まで、送る」と言って、聞かなかった。


「……別に。送って、もらう、いわれは、ないのだけれど」


「夜道に、女子(おなご)を、ひとり、帰す。——そのような無作法。武士の、するところでは、ない」


(……まったく。この人は)


ロザリンドは、小さく、息を、吐く。

——けれど。その隣を、離れようとは、しなかった。





しばらく、無言で、歩いて。

やがて、ロザリンドが、ぽつりと、口を、開いた。


「……ねえ。どうして、あなたは。あんな、見え透いた罠に。のこのこ、出かけて、いったの」


「ふむ。——罠と、承知の、上で。行った」


「……は?」


「逃げれば、相手は、また、別の手を、打つ。ならば、いっそ、誘いに、乗り。膿を、出させたほうが、早い。——それに、だ」


アルフォンスは、こともなげに、言った。


「丸腰で、討たれるほど。——それがしの、修行は。浅くは、ない」


(……本当に。どこまでも、まっすぐな、人)


ロザリンドは、思う。

——この人は。世界中に、呪い児と、蔑まれても。家族にすら、疎まれても。少しも、ねじ曲がらない。


「……ねえ。あなたは。怖く、ないの」


「何がだ」


「みんなに、化け物だと、後ろ指を、さされて。なのに、どうして。そんなふうに——まっすぐで、いられるの」


アルフォンスは。

少し、考えて——静かに、答えた。


「人が、何と、言おうと。——それがしが、それがしであること。それは、変わらぬ」


「……」


他人(ひと)の目は。己の生き方を、決める物差しには、ならぬ。——大事なのは。己が、何を信じ。何を、なすか。……ただ、それだけよ」


その言葉は。

誰よりも——"罪人の娘"の烙印に。縛られ続けてきた、ロザリンド自身の、胸に。

すとん、と——落ちて、きた。


(……ああ。そう、か)

(わたくしは。ずっと——"他人の物差し"に。雁字搦めに、なっていたの、ね)





「——時に、ロザリンド殿。先ほどから、少し、気に、なっておったのだが」


「……何」


「そなた。先ほど、駆けつけて、くれた折。——その髪に。木の葉が、一枚」


「……え」


慌てて、髪に、手を、やる、ロザリンド。

そんな彼女に、アルフォンスは。律儀に、手を、伸ばし——その黒髪から、ひとひらの枯れ葉を、そっと、摘まみ、取った。


「うむ。——取れた」


あまりに、自然で。

あまりに、無防備な——その仕草に。


——ぷっ。


こらえ、きれず。

ロザリンドの口から、小さな、笑いが、こぼれた。


「……ふふっ。なに、それ。命がけの、修羅場の、あとで……木の葉、って」


それは。

——家を、焼かれた、あの日から。

ずっと、ずっと、凍りついていた彼女が。


幾年(いくとせ)ぶりに、見せた——心からの、笑顔、だった。





その、瞬間。


アルフォンスの、胸の奥が。

——とくん、とくん、と。先日よりも、確かに。大きく、跳ねた。


(……はて。また、か)


そして。


『——あ。あー……やっぱり』


ひかりが、頭を、抱えた。


『【執着ゼロ装甲】耐久……96パーセント』


『……また、削れてる。しかも今度は、一気に、三パーセントも。前は、一パーセントだったのに……』


ひかりは、はあ、と、ため息を、つく。


『ねえ、武士さん。十五年、びくとも、しなかった、あんたの心が。——ロザリンドが、笑った。たった、それだけで。こんなに、削れてるんだよ。……これ、もう。認めるしか、ないと思うんだけど』


「ひかり殿は。先ほどから、何を、ぶつぶつと——」


『いやいや。"何を"じゃ、ないんだってば……』


ひかりは、遠い目を、して、呟いた。


『……このペースで、削れていったら。武士さんが、自分の、気持ちに、気づく日も。——そう、遠くは、ないのかもね』


夕焼けの、帰り道。

凍りついた令嬢の、はじめての、笑みが。


難攻不落の、武士の心を。

また、ひとつ——静かに、溶かして、いったのだった。


そして。

当の、二人は。まだ、どちらも——。


その意味に。気づいて、いない。


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