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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第25話「原作に、いない」

それは。

建国祭まで、あと、ひと月——という、ある日の、ことだった。


王立学園に。

ひとりの、留学生が、やって、きた。


海を越えた、遠い国の——第一王女。


その姿が、講堂に、現れた、瞬間。

ざわめきは——ぴたりと、止んだ。


燃えるような、(あか)い、髪。

贅を尽くした髪飾りで、結い上げ。切れ長の、紅い瞳に、紅い唇。抜けるように、白い肌。

身に纏うは——深紅の、ドレス。


圧倒的な、存在感の、美貌。

そして、その瞳に、宿るのは——獲物を、見定めるような。酷薄な、光。


「——ごきげんよう」


優雅に。

けれど、その目は——少しも、笑って、いない。


「わたくし、イザベラ。……以後、お見知りおきを?」


しん、と、静まり返る、講堂。

誰もが、息を、呑んだ。


(……な、なんだ。あの、王女)

(絵に描いたような……悪役令嬢、オーラ……!)





そして——。


アルフォンスの、頭の中で。

ひかりが、ぴしり、と——固まって、いた。


『…………あれ?』


『……ねえ、武士さん。ちょっと、待って』


『あの子。……こんなキャラ、原作に……いた、っけ?』


ひかりの声が、みるみる——うろたえて、いく。


『……いない。いないよ。聖女ルートにも、悪役令嬢ルートにも。どの攻略対象ルートにも——こんな、真っ赤な王女、出て、こない……!』


『え、なに。原作に、いない、キャラ……? そんなの——わたしの、原作知識。まるっきり、通用、しないじゃん……!』


ひかりは、頭を、抱えて、混乱した。


『どこから、湧いたの、あの子……。っていうか……あれ? なんか……どこかで、見たような、気も……』


『……いや。気のせい。気のせい、だよね。うん』


(原作とやらに、おらぬ者、か。——ふむ。それは、また、面白い)


アルフォンスは、むしろ。

どこか、興味深げに——その紅い王女を、見やった。





イザベラの、紅い瞳が。

つ、と——講堂を、舐めるように、見渡す。


その、慇懃無礼な、佇まいに。

ことに——ロザリンドを、知る生徒たちは。気が気で、なかった。


(ヴァレンシュタイン嬢に、続いて……また、濃いのが……!)

(あの二人、ぶつかったら……いったい、どうなるの……!?)


——と。


イザベラの、視線が。

ふと、アルフォンスで、止まった。


呪い児と、蔑まれた、白銀の王子。

なのに——その瞳には。怯えも、媚びも、ない。ただ、まっすぐに。彼女を、ひとりの人として、見返してくる。


(……あら)


イザベラは。

ほんの少し、目を、細めた。慇懃な微笑みを、湛えて——口を、開く。


「……あなたが。噂の、呪い児の、王子様? ……ふふ。ずいぶんと、肝の据わった目を、なさるのね」


「いかにも。それがしが、アルフォンス。——遠路はるばる、ようこそ、おいでなされた。イザベラ殿」


慇懃無礼な、含みも。

どこ吹く風と——ただ、まっすぐに。礼を、返す、アルフォンス。


その、あまりの、手応えのなさに。

イザベラの、優雅な仮面が——ほんの一瞬。きょとん、と、揺らいだ。


(……何、この人。……調子が、狂うわ)


『あ。武士さんの、まっすぐビーム。悪役令嬢オーラに、ノーダメージで、突き刺さってる……』





その、時だった。


イザベラの、紅い瞳が。

ふいに——ある一点で。止まった。


視線の、先に、いたのは。

人の輪から、少し、外れて。ひとり、うつむき気味に、佇む——アンジェ。


イザベラの、瞳から。

すっと——あの、酷薄な光が、消えた。


代わりに、宿ったのは。

何か、ひどく——静かで。深い、色だった。


(……ああ)

(あの()の、あの目)


イザベラは。

誰にも、聞こえぬほど、小さく——呟いた。


「……知っているわ。あの、目」


「闇に、片足を——踏み入れて、しまった者の。……目」


かつて。

誰よりも、深く、その淵を——覗き込んだ、ことの、ある彼女には。


ただ、ひと目で。

——分かって、しまったのだ。





紅い王女、イザベラ。


原作の筋書きには——どこにも、いない。

ひかりの、原作レーダーにも、映らない。


予測の、つかない、闖入者(ちんにゅうしゃ)


その彼女が。

今、静かに——ひとりの、傷ついた少女に。

じっと、眼差しを、注いで、いた。


『……ねえ、武士さん。原作に、いないキャラが。アンジェに、近づいてく……。これ、吉と出るの? 凶と出るの……?』


「——案ずるな」


アルフォンスは、静かに、言った。


「あの王女の、眼の奥には。(くら)い淵を、知った者だけが、宿す——(なぎ)のような、静けさが、ある。……敵では、あるまい」


物語の、台本には、ない。

紅い、不確定要素(イレギュラー)が——。


アンジェの、運命に。

そっと、関わり始めた——瞬間だった。


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