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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第19話「師匠と、兄者」

放課後の、生徒会室。


ユリウスの招集で、アルフォンスは、そこへ、呼ばれていた。


「——師匠! 遅いっすよ!」


開口一番、そう言って、勢いよく立ち上がったのは——ローランだった。


『……ねえ、武士さん。あの人。いつのまにか、あんたのこと、"師匠"って呼んでない?』


「うむ。十日ほど、前から、だな」


あの手合わせ以来、ローランは、来る日も来る日も、稽古をねだり。気づけば、すっかり、"師匠"呼び、である。


「だってよぉ! こんなに強くて、こんなに筋の通った奴、他にいねえもん! 俺、一生、師匠についていくって、決めたんだ!」


すると——生徒会長の席で、ユリウスが、むっと、眉を、寄せた。


「……ローラン。貴様、いささか、馴れ馴れしいぞ。アルフォンスの、いちばんの理解者は——この、私だ。なにせ、十年来の、付き合いだからな」


「はぁ!? 師匠の一番弟子は、この俺っすよ! 兄貴面、しないでくださいよ、会長!」


「兄面では、ない。事実、兄なのだ!」


『……一番弟子と、実の兄が。格付けで、揉めてる。武士さん、人望、ありすぎでしょ……』





「——戯れは、ここまでだ」


ひとつ咳払いし、ユリウスが、生徒会長の顔に、戻る。


「今日、二人を呼んだのは、他でもない。——近頃の、学園の空気だ」


声が、低くなる。


「ロザリンド嬢を巡る、不穏な動き。先日の、偽りの告発。……その背後に、ちらつくのは——メルツ。宰相家の、影だ」


「私は、生徒会長として。弟と、その婚約者は、必ず守らねば、ならぬ。——だが」


ユリウスは、悔しげに、続けた。


「相手が、正式な手続きや。私より上の権威を、持ち出してきたら……生徒会長の私でも、抑えきれんかもしれん。それだけは、頭に、入れておけ」


迫りくる断罪の場は、もはや——力ずくでは、止められぬところまで、来ている。

ユリウスは、それを、見抜いていた。


「心得た、兄者。——心強い、限りよ」


アルフォンスは、静かに、頷く。

そして、ふと——口を、開いた。


「ところで。——アンジェ殿の、ことだが」


その名に。

ローランが、ぴくり、と、反応した。


「アンジェ嬢が、どうかしたんすか、師匠」


「近頃。あの娘の周りに、剣呑な影が、差しておる。……お主は、あの娘と、親しいのであったな」


「お、おう。まあ、な」


ローランは、頭を、かいた。


「アンジェ嬢は……いい子だぜ。誰にでも、分け隔てなく、優しくてさ。……ただ、最近、ちょっと、元気ないみたいで。何か、あったのかなって、心配は、してるんだ」


その、屈託のない言葉に。

アルフォンスは、目を、細めた。


(……この男は。アンジェ殿に、巣食う"影"に、気づいておらぬ。なれど——その、まっすぐな情けこそが。いずれ、あの娘を、救う、糸口になるやもしれぬ)


「ローラン。——その娘とは。これから先も、変わらず。親しゅう、しておれ」


「……? お、おう。言われなくても、そのつもりだけど」


ローランは、きょとんと、しながらも、頷いた。





「よいか、二人とも」


アルフォンスは、ふたりを、見渡し——静かに、告げた。


「それがしが、守らんとするのは。ロザリンド殿だけでは、ない。——アンジェ殿も、また。救わねばならぬ」


「……え?」


ローランが、目を、丸くする。

アンジェは、近頃、明らかに、ロザリンドへ、敵意を、向けつつある。なのに、その両方を、守る、と。


ユリウスも、訝しげだった。


「アルフォンス。……それは、いささか、欲張りが、過ぎないか」


「かもしれぬ。——なれど」


アルフォンスの、紅の瞳が、まっすぐに、前を、見据える。


「斬るべきは、人ではなく。人を、惑わす"影"のほう。——ならば、誰ひとり、見捨てる謂れは、ない」


その、揺るぎない言葉に。

二人は、顔を、見合わせ——やがて、どちらからともなく、笑った。


「……はぁ。やっぱり、敵わねえな、師匠には」

「……ふっ。まったく。これだから、我が弟は」


『(……武士さんだけは、分かってるんだよね。アンジェも、被害者だって。だから、誰も、切り捨てない)』


頼もしき、味方の、布陣が。

こうして、静かに、整っていく。





「——時に、ローラン」


辞去しようとした、ローランを。

アルフォンスが、ふと、呼び止めた。


「お主。——許嫁は、おらぬのか」


「え? ……あー」


ローランは、少し、考えて。


「……いたわ。そういえば。なんか、ガキの頃に、家同士で、決められた……えーと。名前、なんつったかな……」


ぴしり。


その瞬間。

アルフォンスの面が、すうっと——眉太の、劇画調に、変じた。


「……お主」


「ひっ、な、なんすか、その顔!?」


「許嫁の、名すら。——忘れた、と申すか」


『……あ。出た。義センサー、再起動』


ひかりが、遠い目を、する。


『言っとくけど、武士さんのこれ。本気で怒り始めると、長いからね。……この学園、攻略対象、だいたい全員、婚約者ほったらかしで、ヒロインに群がってるから……。武士の"義"が、それを、見逃すわけ——ないんだよなあ』


そう。

迫りくる断罪の影とは、別に。


もうひとつの、嵐が。

——静かに、近づいて、いたのである。


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