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破滅する悪役王子に転生した武士、生後三秒で腹を切ろうとして妖精に泣いて止められる  作者: めるしー


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第20話「不義理の見本市」

中庭の、一角は。

今日も、いつものように、華やいでいた。


アンジェを、囲む——幾人もの、貴公子たち。

我先にと、聖女候補の気を、引こうと、している。


絵に描いたような、乙女ゲーの、一場面。


——だが。

それを、少し離れて見ていた、アルフォンスの面が。

すうっと、眉太の、劇画調に、変じていた。


『……あ。やば。ついに、来た』


ひかりが、身構える。


『前から、思ってたんだけどさ。乙女ゲーのハーレムって——武士の"義"の前には。ただの、不義理の、見本市、なんだよね……』


だが、アルフォンスが、見ていたのは。

その、貴公子たちでは、なかった。


——彼らから、少し離れた場所。

そこに、うつむき、肩を寄せ合う、数人の令嬢たちが、いたのだ。


己の婚約者が。他の娘に、現を抜かす、その様を。

ただ、黙って——寂しげに、見つめている。


「……ひかり殿。あの、令嬢たちは」


『あー……。あの子たち、たぶん、攻略対象の、婚約者だよ。原作だと、ほぼモブ扱いで。ヒロインに婚約者を取られて、泣き寝入りする、役回り……』


「——許せぬ」


低い、声で。





アルフォンスは、つかつかと。

ハーレムの、ど真ん中へと、歩み出た。


「——方々(かたがた)に、申し上げる」


凛と、響く声に。貴公子たちが、振り返る。


「貴殿らには。それぞれ、許嫁が、おられるな」


「……は? あ、ああ、まあ……いるが」


「ならば、何ゆえ。その許嫁を、捨て置いて。揃いも揃って、他の女子(おなご)の周りに、群れておるのか」


ぴしゃり、と。


「一度、交わした縁を、ないがしろにする。——それは、武士の、最も恥ずべき、不義よ」


そして、アルフォンスは。声に、熱を、込めて——続けた。


「そも、貴殿らは。名のある家に生まれ、いずれ、人の上に立つ、身で、あろう。——責任ある立場の者ほど。誰よりも、誇り高く、あらねばならぬ。家を、守り。己の信ずる道に、忠義を、尽くす。——それでこそ、人を率いる者の、(うつわ)よ」


「中でも——。生涯を、共にすると、誓うた、女子(おなご)。その、ただ一人にすら。礼を、尽くせぬ者が……何の、家を守れる。何の、忠義を、語れる。己と添うと決めた、ひとりを、慈しむことすら、できぬ男に。——大事の、成せる道理など。ありは、せぬ」


ぐるり、と。アルフォンスは、貴公子たちを、見渡した。


「武士道、とは——。いや。これは、武士に、限った話では、ない。(おとこ)と、生まれたからには。守ると決めた者を、守り抜き。交わした約定(やくじょう)を、(たが)えぬ。——それが。(おとこ)の、道というものよ」


そして、アルフォンスは、振り返り。

隅で、うつむく令嬢たちを、まっすぐに、示した。


「見よ。貴殿らが、現を抜かす、その陰で。——あの方々が。どれほど、寂しい思いを、しておられるか」


その言葉に。

貴公子たちが、はっと——己の婚約者へと、目を、向ける。


うつむいた、令嬢たちの、その肩が。小さく、震えているのを。

彼らは、初めて——きちんと、見た。


「ク、クラリス……」

「す、すまない……僕は……」


ばつが悪そうに、目を逸らす者。青ざめる者。

華やかだった、中庭が。しん、と——静まり返った。





そして、ローランは。

群衆の中の、ひとりの、小柄な令嬢を、見て——雷に、打たれたように、固まった。


「……リ。リーゼ……! そ、そうだ、リーゼだ! 俺の、許嫁の……! ……お、覚えてた! ちゃんと、覚えてたぞ、俺は!」


「……ローラン、様」


ずっと、隅で。彼の背を、見つめていたのであろう、小柄な令嬢が。

くしゃり、と——泣き笑いの、顔に、なる。


『……どう見ても、今、思い出したよね』


ひかりの、ツッコミが、むなしく、響いた。





それから、アルフォンスは。

その中心に、立つ——アンジェへと、向き直った。


「アンジェ殿。——そなたにも、申し上げたきことが、ある」


「……っ。な、なんでしょう」


「許嫁ある男たちを。これほど、侍らせて。……そなたは、それを。心から、望んでおるのか」


「わ、わたしは……!」


アンジェの、声が、震える。

わたしは、ただ、皆が、勝手に——。そう、言いかけて。けれど、言葉が、続かない。


アルフォンスの、紅の瞳は。

責めるでも、蔑むでも、なかった。

ただ、まっすぐに——彼女の、奥の奥までを、見透かすように。


「そなたとて。本心では、こんなものを、望んではおるまい。——周りに、流されるうち。いつしか、己を、見失うては、おらぬか」


その、図星に。

アンジェの、胸が——ずきり、と、痛んだ。


(……ちがう。ちがう、わ)


けれど、その痛みを。

あの、"自分のものではない声"が——すかさず、塗りつぶしていく。


(ほら。あの人まで、あなたを、責めている)

(あの令嬢は、庇うくせに。あなたには、こんなに、冷たい)


「……っ、わたしは……わたしは、悪く、ありません……!」


アンジェは。

ぎゅっと、唇を、噛んで——逃げるように、その場を、去っていった。


『……あー。武士さん。あれは、ちょっと、刺さりすぎたかも。引力に、また、油を……注いじゃった、かな』


「……かもしれぬ。なれど」


アルフォンスは、去りゆく、その背を、静かに、見つめる。


「偽りの優しさで、包むより。まことを、告げるが——武士の、情けよ。あの娘が、いつか、己を取り戻す。その、種に、なればよい」





——そして。


うつむいていた、令嬢たちが。

ゆっくりと、顔を、上げた。


その先頭で。

凛とした、ひとりの令嬢——クラリスが、アルフォンスの前へと、進み出る。


「アルフォンス殿下。……わたくしたちのために。あのような、お言葉を。——生まれて、初めてでしたわ。誰かが、わたくしたちの寂しさに、気づいてくださったのは」


深く、頭を、下げて。


「わたくしたちは。殿下の、お味方です。——もし、殿下や、ロザリンド様に。火の粉が、降りかかることが、あれば。わたくしたち婚約者一同。微力ながら、必ず、お力になりますわ」


ずらり、と。

令嬢たちが、揃って、優雅に、礼をする。


『……うわ。すごい。武士さん、今度は——"婚約者連合"を、味方につけた』


不義理の、見本市と、化していた、中庭は。

今や——義に、目覚めた者たちの、場へと。


塗り替わって、いたのだった。





頼もしき、味方が。また、増えた。

——だが。


その、陰で。

深く傷ついた、ひとりの少女が。

"影"に、さらに——呑まれて、いったことに。


気づいている者は。まだ、ほんの、わずか、だけ、だった。


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