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転生してホモスパイラルから逃げられたと思ったら前世で俺の処女を奪ったクソ野郎とエンカウントしちまった件  作者: KP


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9/14

周りの人々はかく語る〜王様編〜


余はリチャード・デ・ラ・ウル・サウザンド。

が、名で呼ばれることはあまりない。

皆が余を呼ぶ時は、王様、あるいは国王陛下、捻ったところでは我が君、などと呼ぶ。

そう、余は誇り高きサウザンド王国の国家元首なのである。

しかし目下の心配事は、我が長男。

エドワード・デ・ラ・ウル・サウザンド…エドのことだ。

おそらくは、我が子を思う気持ちには国王も平民もそう違いはないのではあるまいか。

なので、しばし余の悩み事に付き合ってもらいたい。




エドは、対外的には実によくできた息子である。

文武両道、ついでに王妃に似て眉目秀麗な美男子よ。

余も父として、国王として、自慢に思う。

だが、一方であまりに風変わりが過ぎる子でもあった。


あれはそう…エドが3歳くらいになった頃か。

近習の者たちとその日の政務をこなしていた折、突然として王妃に呼ばれた。

普段はそのようなこと、ありえぬ。

我が王妃は王妃たる立場をよくわきまえているので、間違っても余の仕事の邪魔になるようなことはせぬのだ。

つまり、尋常ではない事態ということよ。

その頃はまだ第二王子は生まれておらず、大事な一人息子だったエドが、乱心したという。

余は執務を中断し、取るものも取らず駆け付けた。

果たして、確かにエドは乱心していた。

王族として生まれ持った強い魔力を嵐の如く荒ぶらせ、部屋を無茶苦茶の有り様にしておった。

荒れ狂う暴走魔力は、さながら小さな竜巻よ。

その竜巻の中心部に、幼い我が子が呆然と佇んでいた。

エドは言葉を覚えるのも早かったのだが、舌っ足らずの口調で、「たろーちゃん!たろーちゃんは…どこ!?」と繰り返し呟いていた。

…たろーちゃんとは、なんぞや??

疑問に思ったが、後回しだ。

王妃は乳母やメイドたちと共に、為すすべもなく部屋の片隅でガタガタと震えておった。

無理もない。

エドの暴走した魔力は、それほどに脅威である。

抑え込めるとしたら、父である余くらいのものよ。

なので、そうした。

予想よりも遥かにエドの魔力は強く、これがまだ3歳の我が子の力かと思えば、頼もしいやら怖ろしいやらだったが…

ともあれ、なんとか暴走を抑え、落ち着かせることに成功。

楽になるようベッドにゆっくり横たわらせて、どうしたのかと問うてみた。

が、どうも要領を得ぬ。

エドは呆然とした…というより、死んだ魚の如き目で、やはり同じ繰り言をした。「たろーちゃん…」と。

…たろーちゃんとは??

改めて疑問に思ったが、エドはそれ以上何も答えようとはしなかった。

この事件は、成長期に稀にある魔法力の暴走、ということで片付けはしたが…


それから、エドの様子が明らかにおかしくなった。

以前は年相応に感情をあらわにし、あどけなく笑うことも多かった息子なのだが。

あれ以降ずっと、死んだ魚の如き目をしておる。

余も、王妃も、それはもう気を揉んだ。

対外的には、相変わらず出来の良い王子ではある。

既に王族としての教育は始まっていたのだが、指南役の教師たちが舌を巻くほど賢く、途方もない程の知識を有しておる。

皆、口々にエドを褒めそやしたが、余はそれもまた気掛かりだった。

いくらなんでも、3歳にしては賢すぎやせぬか?

我が子に、何かが起こっておる。

そのような不安が常につきまとっていた。


少し成長したある日、王城に設えた庭園に連れて行ったことがある。

エドの死んだ魚の目がどうにも心配だったので、少しでも心を慰撫できればと思ったのだ。

庭師が丹精込めて造り、世話をしている庭園は、まさに花盛りの見事な様相だった。

「ねえ、エド。お花きれいね?」

王妃が機嫌を取るように声を掛けた。

それに対するエドの反応。


「…バラもコスモスたちもみんな枯れてしまえばいい…」


これが十にもならぬ子供のセリフか?

一体何がエドをそこまで絶望させているというのだ…!?

ショックを受けた王妃がくらっとよろめいたので、余は慌てて抱き留めて横から支えることとなった。

それにもエドは無反応。

目は相変わらず死にっぱなし。

…以降、下手にエドをなんとかしようという試みがされることはなくなった。

我が子ながら、どう対すればいいのか扱いに困る…!




「いやあ、我が子が心配になるのは当たり前のことではありませんか」

そう申したのは、フュリューリンゲン卿。数いる宮廷貴族の一人。

こやつ、余の相談役兼取り巻きで、非常に優秀ではあるのだが、権謀術数に長けすぎておって腹に一物も二物もある輩よ。

いつも余に忖度するようなことを申すが、油断はならぬ。

ご機嫌取りも度が過ぎると不快であるぞ?と思いながら一応耳を傾けていると、

「私めの愚息も、まったく悩みの種でして。碌に勉強もせず体を動かすことばかり好んで……武芸も貴族の嗜みとして必要なことではありますが、何も考えず勢いだけで生きているようなアホの子に育ってしまって。賢く思慮深いエドワード王子殿下が羨ましい限りですよ」

ふん、そうか?

余は良いと思うがな、そのような年相応に子供らしい子は。

こんなことを言うと互いに無い物ねだりのようであるが。

まあ、腹の中真っ黒で狡猾なフュリューリンゲン卿の子が、本当にそこまで考えなしのイカレポンチとも思えぬ。

どうせ盛っておるのだろう、話半分に聞いておくが吉であるな。

だが、武芸か…

それは良いかもしれぬ。




エドはこの頃、よく厨房に出入りしていた。

料理をしたいのだと。

およそ普通の王族のすることではないとはいえ、それでエドの気持ちが少しでも安らぐのであれば、好きにさせよう。

と、半ば放置して静観していたのだが、エドの作った料理を見て司厨長たちは騒然となっていた。

「王子様はまさに天才です!」

エドの作った料理は、いずれも斬新で画期的。しかも極めて美味。

我が子にそのような才能まであるとは…

内心複雑ではあったが、完成した料理を眺めるエドは「これ、たろーちゃんが好きだった…」と呟き、ほんの僅かにだが微笑んでおった。

…もはや謎のたろーちゃんとやらには、言及せぬが。

その言葉を口にする時だけ、一瞬、エドの目に生気が宿っておる気がする。

悪いことではないのだろう。そう思うことにした。

ともあれ、余が訪れた時、ちょうどまた新たな料理が完成したところだったようだ。

なに、ぷりん、とな?

甘味であれば王妃やウィルが好むであろう。

司厨長よ、研究のための味見と称して食い尽くそうとするな。後で二人にも届けるように。

さて。

エドよ、そなたに少し話がある。




思うのだが、エドは賢すぎる。

それが死んだ目の一因となっている気がするのだ。

一度、頭が空っぽになるくらい体を動かしてみてはどうか?

と思いつき、父親らしく、共に鍛錬しようぞ!と誘ってみたのだが、

「ああ……たろーちゃんも、体を動かすの、好きだったなぁ……僕もよく放課後サッカーとかに付き合わされて…」

謎の単語がいくつか出てきた。

それに、どうしたエド。そなたの一人称は「私」のはず。

時々、口調もおかしくなるな?

「気にしないでください、父上」

気にする。

「…鍛錬、ですよね。喜んで付き合いますよ」

おっ、そうか!

エドが、ほんの少し嬉しそうに微笑んで頷いてくれた!

よしよし!

やはりこの方法は正解だったようだ!

フュリューリンゲン卿もたまにはまっとうに役立つことを申すものよ!




それから余は、忙しい政務の合間を縫っては、エドのために時間を設けて二人で鍛錬に勤しんだ。

まあエドは賢くともまだ幼い。小さな体で、あまり本格的な筋トレなどは難しかったが…

エドが喜んでくれるようなので、余が代わりに体を鍛えまくった。

やがて、中年太り気味だったこの身がスッキリと引き締まり、腹筋も割れてきた。

ずっと椅子に座りっぱなしで政務だけこなしていた頃の持病だった、肩こりと腰痛がなくなった。

体を鍛えるとは、かくも良いことずくめである!

なんだかエドのこととは別で、余は楽しくなってきてしまった。

誰もいないところでもダンベル上げなどして鍛えていたら、「父上って割と脳筋ですよね。…たろーちゃんと同じなんだ、フフっ…」とエドに見つかって笑われた。

たろーちゃんが何なのか、今だに皆目見当もつかぬが。

どうやら好印象であるらしい。

余を見るエドの目に、より親しみがこもっておる。

ますます鍛錬することにのめり込んでいく余であった。




それでもエドの目は基本的に死んだまま。

心配は尽きなかったのだが…

ある日、唐突に転機が訪れた。




貴族の子弟は齢12で登城し、我ら王族へと目通りを許される。

彼奴らにとって、栄達のための足がかりとされる習わしであるが、我らにとっても将来的に有望な人材がいないか見定めるいい機会よ。

今回はフュリューリンゲン卿の息子も来ることになっていた。

余は、他の子たちよりは若干の興味を抱いて、アルバートとかいうその子が来るのを待った。

なにせ、あのフュリューリンゲン卿が事ある毎に「うちの愚息は…」と溜息混じりに愚痴を零しておったので。

最初は話を盛っているだけと思っていたのだが、あれだけ繰り返しているのだ。誇張でもなんでもなく、本当にアホの子であるらしい。

あの狡猾と評されるほど知能派のフュリューリンゲン卿の子がなぁ…

などと感慨に耽りつつ、待っていた。

来た。

まずは型通りに我らの前で跪き、臣従の礼を取る…かと思いきや、


「あ”…あ”ああああああああ!!!!???????」

「ああっ君は…!?」

「っギャーーーーーーーーーーーーーッ!!!寄るな触るな近付くんじゃねえボケェェェェェェッッ!!!!!」


バキャッ!!!


何が起こったのか、一瞬分からなかった。

余の息子…エドが、急に瞳を輝かせてフュリューリンゲン卿の息子に駆け寄ったかと思ったら、次の瞬間盛大に殴り飛ばされておった。

こんなこと、ありえぬ!?




もう謁見の場は滅茶苦茶だったのだが。

エドは、さらに滅茶苦茶なことを言い出した。

初対面で第一王子を殴り飛ばした狼藉者を『親友』などと申す。

余の息子は大丈夫か!?とこれまでも散々に思ったことをまた思ったのだが…

…なんという生き生きとした目をしておるのか!?

これまでの死にっぱなしの目が嘘のようにキラキラと輝いておる!

一体どういうことだ、エド!?

分からぬ!

分からぬが…この息子に関しては分からぬことなど、今更よ!

余は、エドの申すことをそのまま飲み込んで受け留めることとした。

狼藉者…いや、フュリューリンゲン卿の息子であるアルバートと、二人きりで話したい?

よい、好きにせよ!

どういうことか不明ではあるが、あの少年と出会ったとたんエドは人が変わったように生気と活力に満ち溢れておる。

きっと悪いことにはならぬであろう。

…対象的に、アルバートなる少年が煤けた表情と目をしていたのが少々気になったが。

まるで市場に売られていく仔牛の如く悲しげな瞳をしておった…!

すまぬな。少年よ。

だが諦めてくれい。

余にとってはエドが大事なのだ。

そもそも、うぬも悪いのだぞ。仮にも王子をグーパンで殴り飛ばすとは何事か。

臣下の子として、エドのために尽くしてくれ…!

「いやあ、私めの愚息を気に入っていただけるとはありがたい限り!これからもアルの奴めをよろしくお願い致します!」

…おぬしはもうちょっと息子を思い遣るべきではないか、フュリューリンゲン卿!?




かくて、謎の急展開ではあったが。

エドはアルバート少年と出会うことによって、若者らしい活力を取り戻してくれた。

「私は親友であるアルとずっと共にいたいのです!どうか彼を私の学友に!」

初対面の翌日にそんなことを請われたのには、面食らったが。

…出来が良すぎて、今まで碌に我儘も言わなかった息子である。

ようやく人並みに我儘を言って甘えてくれるようになったのだなぁ…と内心で喜びに咽びつつ、余はすぐさま快諾した。

エドは輝くばかりの笑顔であった。

余もますます嬉しくなったが…

こうなると気掛かりなのは、あのアルバートなる少年のことよ。

フュリューリンゲン卿は実の息子をつかまえてアホの子などと酷評しておったが、実際のところどうだか分からぬ。

初対面の王子にグーパンかます程度には破天荒な子ではあるようだが。

あの父親の子だ。

考えなしのアホの子は実は演技で、我ら王族に取り入るために腹に一物も二物も抱えている奸物である可能性は否定できぬ。

しばらくは様子を見ていたが、一年程経ったある日、エドは彼をゆくゆくはパートナーにしたいなどと言い出しおった。

第一王位継承者のパートナー。

つまり、将来の王配である。

これは看過できぬ。

余は改めてかの少年を見定めてみることにした。




余の私室に招き、まぁもてなしに茶などを出して…

アルバートは戸惑っていたが、興味深そうにあたりをキョロキョロ見回していた。

…仮にも王の私室なのであるが。礼を失するとは思わんのか?

それに、出した茶請けの菓子も遠慮なくモリモリと頬張っておる。

まさにアホの子…

こほんっ!

い、いや、素直な子だな?

これがもし演技だとしたら空恐ろしい限りだが…

エドが世話になっていると礼を述べ、こっちから話を振ってみたら、「はい、そーですね」ときたものよ。

本当に遠慮が一切ないな!?

謙遜とかせぬのか!?

おぬしの父であるフュリューリンゲン卿だったら絶対に謙遜しつつ自らの評価を上げる巧みな話術を弄してきたぞ!?

いや父と息子は別物だとは思うが…

う〜むっ!?


その後も、いくつか質問をして。

結論。

この子は安パイである。

腹の中まっしろ。

さらには頭は空っぽそうで余まで心配になるレベル。

フュリューリンゲン卿が愚痴りたくなる気持ちも分かるが…

良いではないか、こういう息子。

正直、エドの取り扱いに苦慮し続けていたので、単純なアルバートと話すのは気楽で心地よくすらあった。

裏表なく素で接してくれる点も、好感度が高い。

…エドのパートナーとなれば、彼もまた余の息子か。

うむ。

良い!

のではないかなっ!?




余は、二人の若者の洋々たる前途を思いつつ、アルバートをエドの婚約者候補として認定する書類に可決のサインを記した。

我が王国の未来は明るいぞッ!

そう信じて、疑うこともなかったのである。

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