鬱憤晴らしの討伐戦
俺はアルバート。通称アル。
とある王国の貴族の子。
諸事情あって、この国の第一王位継承者である王子に尻を狙われている。
…このへん、もう詳しく語る気にもなれねー。モヤモヤするかもしれねーが、汲み取ってくれ。
とにかく、王子であるエドに執着されてるせいで、しょっちゅう王城に呼ばれている俺。
普通に友達作って遊んだりする暇もねえ。
エドの野郎があえてそーしてるみたいだけどな。
「可愛いアルに手を出そうとする輩がどこにいるとも限らないんだから…!」
とかほざいてやがった。
寝言は寝て言えってんだ!
おまえじゃあるまいし、俺をどーこーしたがるホモ野郎なんてそこら中にいてたまるか!
そう怒ってみたこともあるのだが、エドは頑として譲らない。
そのせいで曲がりなりにも一応俺の友達って呼べる相手、そのエドしかいねーよチクショウ!
王城に呼びつけられる建前は『御学友』だし!
諸事情あった際に、こいつに対する友情なんてとっくの昔に死滅してるってのに。
その上、周囲の野心的な貴族からは、うまいこと王子に取り入りやがって的なやっかみの視線を向けられたりもする。
見当違いも甚だしい…と俺自身が訴えたところで効果ナシなんだよな。ハァ。
おかげでフラストレーションたまりまくりだぜ。
武術の鍛錬なんかで体を動かして発散してるけど、いい加減それも限界だ。
なんか、スカッとすることはないかなー…と思ってた矢先だ。
好機が訪れた。
近郊の村の周辺に、モンスターの群れが出没するようになった。
討伐しないと住民たちが危ない。
かといって、村に駐屯している兵士程度では太刀打ちできる規模ではない。
有害なモンスターは定期的に駆除されてるから、あんまりこんな事態にはならないのだが、ごく稀に爆発的に数が増えることがあるんだそーな。
スタンピード、ってやつか?
対応として、王城から騎士団が派兵されることとなった。
それにエドもくっついていくという。
単なるオマケなんかじゃなく、将軍格の指揮官としての同行なんだって。
こう見えてエドは文武両道に優れた王子という世評を得てる奴だからな。
王族の義務として、いざって時には剣を取って民草のために戦ったりもするんだと。
「それは別にいいんだけど、しばらくアルと一緒にいられないのが辛いよ…!」
いや待て。
俺もついてくぞ!
「えっ!?」
俺の武術の腕前は知ってるだろ?
おまえで倒せる程度のモンスターだったら、俺でも役に立てるはずだ。
指揮とかは無理よりの無理だけど、一兵卒として扱ってくれれば。
「本当かい、アル!?」
おうともよ!
「ああっ、アルも僕とは片時も離れたくないってことだね!感激だよっ!!」
それは違う。
激しく違う。
俺は単にモンスターをぶっ飛ばして、日々のストレスを発散したいだけだ。
あとこれは秘密にしてるけど、将来的にはこの国を出奔して冒険者にでもなって身を立てていくつもりだから、実戦慣れしときたいし。
「いいんだよ、分かってる!父上と騎士団長に進言してアルも一緒に行けるようにしてくるね!」
エドは最後まで分かってなかった。
勝手に都合のいいように勘違いしたまま、ウキウキルンルンと王様たちのところに走って行っちまった。
…まあ、いつものことだ。
考えても仕方ないので、俺は考えるのをやめた。
そして出立の日。
討伐部隊の末席…隅っこに加えてもらったはずの俺。
…何故か、エドの片腕みたいなポジションに配置されてんだけど。
移動のために騎馬まで用意されて、完全に指揮官クラス。ヒラの騎士はみんな歩きなのに。
おいいいいッ!?
思ってたのと違う!
聞いてねーぞこんなの!?
「だってアルには常に傍にいてもらわないと僕はすぐにも死んじゃいそうだよ!」
嘘こけ!
おまえだって剣術も体術も達人級の上に魔法まで使えるじゃねーか!
「アル不足で発狂してしまう!」
そっちの方面まで責任持てるかぁぁぁッ!?
し、しかし、これは俺の落ち度でもある。
エドに頼んだらこーなりそうなことくらい、あらかじめ予想して釘を差しておくべきだった!
もっとよく考えりゃよかったぜ!しくった!
「チッ……王子の腰巾着が…!」
「あんなぽっと出のふざけた野郎が騎馬で同行するだと…?」
「騎士団の職務をナメやがって…!」
あああっ!?
周囲からの視線がめちゃ痛いッ!?
ヒラの騎士団員のみなさんはもちろん、団長まで俺を見る時すっげー渋い顔だッ!?
ヒソヒソと陰口を叩かれてる気配も感じるが、状況が状況だけに怒れねえ…!
あっちからすりゃ、俺は王子に取り入って好き勝手に振る舞ってるクソ野郎ってことだもんなぁ!
つっ…辛すぎる…!!!
ヒラの騎士団員には俺と年の近い奴もいるし、この機に友達になれねーかなーとか考えてたけど、甘かった!
ごめんな、みんな!気分を害しちまって!
でも、俺には必要なことだったんだ…!
ストレス発散と実践経験。一石二鳥のこのチャンスはどうしても逃せなかった!
せめてモンスター討伐では精一杯戦力になるから、しばらく勘弁してくれ…!
上機嫌のエドの隣で、俺は針の筵のよーな気分で騎士団の行軍にくっついていった。
村の近隣にある雑木林の中。
モンスターがわんさか湧き出してくる地点は、そこだった。
なんで急に…?って疑問にもすぐ答えが得られた。
雑木林の中に切り立った崖みたいに段差ができてるところがあるのだが、そこに洞窟型ダンジョンが発生してたんだ。
ダンジョンっ!
冒険者が攻略してお宝ゲットしていくことでお馴染みの!
近くの住人にとっては抜き差しならない大問題で、こんなことを思うのは不謹慎かもしれないが、俺ははしゃぐ気持ちを抑えきれなかった。
だって、やっぱワクワクするじゃん。ダンジョン攻略。
そのうち冒険者になった時の予行演習としても好都合だ。
まあ、今回は洞窟内には入らずに、溢れ出てきてるモンスターの討伐までにしておくって話だけど。
エドが騎士団長と相談して、そう決めていた。
「こんなものができていたのでは、定期的な駆除だけではおっつかなくなりそうだね」
「冒険者ギルドにも情報共有しておけば、連中も攻略に来るでしょうが……村の防衛対策はいちから見直すべきでしょうな」
二人、難しい顔して話し合っている。
…こーいうやり取りは、エドもさすがだと思う。俺は頭を使うことは苦手だからな。
その代わり、体を使うことだったら任せとけ!
雑木林の中では、騎馬は逆に動きにくくて不便だ。
俺は馬から飛び降りて、支給された剣を構えた。
練習用の模擬刀ではない真剣を振るうのは初めてだが…
「チッ……腰巾着がでしゃばりやがって」
「おい、下手に怪我でもされたら邪魔になってしゃーねえぞ」
「しょうがねえな……おいてめえ……じゃなかった、アルバート様、あんたは俺たちの後ろに下がりやがってくださいよ」
俺の部下っぽく配属されたヒラの騎士たちがゴチャゴチャなんか言ってたが、俺の耳にはもう入らなかった。
早速、第一モンスター発見!
喰らいやがれ!うおぉぉぉぉぉぉッ!!
「あーっ!?あいつ、勝手に飛び出して…!」
「しかもあれ、グレートウルフじゃねえか!Bランクモンスターの!?」
「マジふざけんなよ!?てめえに怪我されたら俺たちの責任に…!」
黒い犬か狼みたいなモンスターが俺に向かって飛びかかってくる!
だが、遅い!
動きも単調で丸見えだぜッ!
ザシュッ!
つまらぬものを斬ってしまった…
なーんてなっ!
この程度のモンスターだったら楽勝だな。
でも気を緩めないで行こう。
「うっ……ウッソだろ、一撃で…!?」
「あいつただの腰巾着じゃなかったの!?」
「エドワード様の御学友で…互角の腕って、ふかしこいてんじゃなかったのか!?」
あ。
なあ、おまえら。
「「「はっハイっ!?」」」
おまえらの後ろからいくつか気配がする。
そんな強くなさそーだし、そっちは任せた。
「え”っ!?」
「ギャーッ!?リカントの群れがっ…」
「全然気付かなかったーッ!?」
…あれ?
若いヒラ団員だけどうちの国の騎士団に採用されてるんだから、あれくらい余裕だと思ったんだけど。
苦戦してるな…
しょうがねえ、おまえらちょっとどけ。場所開けろ。
「「「ひゃいっ!!?」」」
剣に闘気を込めて…
おりゃっ!!
スッパーーーーーーッッ!!!
「「「ひぃぃぃぃッ!?まとめて胴体チョンパっ!?」」」
名付けて真空斬っ!
とか言ってみたりして(笑)
闘気を込めて剣を振るえば、直接刃を当てなくても飛んでいく剣圧で広範囲を攻撃できる。
地面と平行に横薙ぎにしたから、まさに一網打尽ってなもんよ。
たぶんこれ、この剣と魔法ありきの世界だから可能なんだろーけど、便利だよなぁ。
「あーっ、アル!?それ、あんまり人の多いところでは使わないでって言ったよね!?」
あ、やべ。
ちょっと離れたところで別の部隊を指揮してるエドから注意されちまった。
確かに、こんな集団戦じゃ同士討ちの危険があって不向きだよな。
今のは俺が悪かった。ごめんなエド。
「うん、アルは強いんだから気をつけてね」
チートの王子様がなんか言ってらぁ。
でも、反省反省。
おまえらも、すまなかったな。
助けるつもりが、迂闊だったぜ。
「いいいいいいえっ!?」
「滅相もないっ!」
「お手を煩わせて恐縮ですっ!」
って、言ってるそばから、また。
おまえら、後ろ、後ろー。
「ヒェぇぇぇぇっっ!?でかっ…」
「マーダーグリズリーだぁぁぁぁぁぁッ!?」
「Aランクモンスターまで!?こんなの無理無理無理無理ィッ!?」
でっかい熊みたいなモンスターだ。
あれは、ちょっと手強そうだな。
あいつらの剣も通ってない。数人掛かりで斬りつけてんのに、ゴワゴワした毛皮で弾かれててまるで利かないみたいだ。どんだけ剛毛なんだよ。
あーいう奴には、これだな。
一旦剣を鞘に収め、腰溜めに力を溜めて…
ドゴンッ!!!
闘気を込めたグーパンで、鳩尾を抉り込む。
結局、これが一番強くて威力がある。
エドはこっからでも復活してきやがるけど、この熊っぽいのはどーかなー?
ずしんっ
あ、あっさり倒れた。
巨体過ぎて倒れる時も大地を揺るがしたけど、完全に落ちてるな。もうピクリとも動かねえ。
じゃ、トドメを刺しとこう。
毛皮が鋼鉄の鎧みたいに頑丈で刃も通らないから、それ以外の部分。
伸びて半開きになってる口の中に剣を突き入れて、頭蓋の反対側まで突き破る。
ザシュッと音を立てて…簡単に終わった。
やっぱりここは防御力が低かったみたいだな。
「Aランクモンスターまでいとも容易く…!?」
「しかも素手でいった!?」
「思ってたのと全然違う…腰巾着とか言ってマジでスンマセンしたっ…!」
…ん?
周りの騎士たちの、俺を見る目が変わった…?
そっか、一緒に戦ってれば、自然と分かりあえて打ち解けられるよな!
…その割にはなんかやけにガクガクブルブルしてる様子が気になるっちゃー気になるが。
もしかして武者震いってやつかな?
俺とあんまり年の変わらない奴なんかは、これが初陣なのかもしれない。そりゃ気持ちが昂って震えも走るだろう。
よーし、乗ってきた!
この調子でモンスターを殲滅するぞっ!
「「「はいぃぃぃぃっ!!!」」」
俺は、部下として割り当てられた騎士たちと一緒に、その後も夢中になって戦った。
そこまでの強敵や難敵が出てこなかったのはちと物足りなかったが、思いっきり暴れてスッキリすることができた。
やっぱ体を動かすっていいよなぁ!
それが他の奴を守ることにも繋がるなら、やりがいもあるしな!
さて、雑木林に溢れ返っていたモンスターも粗方駆除できたって頃。
みんな、気が緩んで油断していたのかもしれない。
ちょっとしたハプニングが起こった。
ダンジョン化している洞窟から、また新たな一体が飛び出してきたんだ。
…内部に発生してるモンスター群はどんなことになってるのか、気になるところだが。
出てきた奴が、問題だった。
今までのモンスターと違って、空を飛べる奴だったんだ。
えーと、前世の恐竜映画とかで見たことがあるプテラノドンみたいなビジュアルの。
「ワイバーンまで…!?」
「このダンジョンどうなってんだよ!?」
「超強力なモンスターばっかり!しかもこんなに多種多様ってことあるかぁ!?」
俺がほへーっと空を見上げてる横で、ヒラの騎士たちが騒いでた。
そいつは雑木林の木を蹴って俺めがけて滑空してきて…
来るかっ!?
俺は素早く反応し、鞘に収めていた剣の柄に手をかけて、身構えた。
すると、何故か空中でビクッとおかしな動きをして、いきなり方向転換しやがった。
俺とはちょっと離れたところに立っていた、ヒラの騎士へと。
ターゲットを変えて、襲い掛かる!
「んギニャァァァァァァァァァァァッッ!!!」
「「「わーっ!?拐われた!!」」」
プテラノドンもどきは後ろ足で騎士の肩を掴むと、そのまま空へと舞い上がっていった。
咄嗟のことにその若い騎士はパニクっちまってて、手足をバタバタさせるだけで為すすべもないみたいだ。
お持ち帰り…?
って、させるかよっ!
とはいえ敵は遥か上空。
木登りなんかじゃ到底追いつけねーだろうし…
なんとかできないかとササッと周囲に視線を走らせると、あっちにいるエドと目が合った。
…よし!
エド、おまえの腕を貸せ!
「分かった、アル!」
話が早くて助かるぜ!
意を汲んでレシーブのポーズを取ったエドに、俺はまっしぐらに駆け寄った。
助走をつけて、ホップ!
エドの伸ばした腕のところに、ステップ!
そしてジャンプ!
と同時にエドが渾身の力で腕を跳ね上げ、俺を真上へと跳ね飛ばす!
エドの力を借りたカタパルトジャンプで高く舞い上がった俺は、いとも容易くプテラノドンもどきと同じ高度の上空まで到達した。
肉薄さえできりゃ、あとはこっちのもんだ。
腹部の中心に、グーパン一撃っ!
ギャッ!
短い悲鳴みたいな音を上げて、墜落していくプテラノドンもどき。
捕まっていた騎士は空中で放り出されてた。
そいつを助けて、受け身を取りつつ地上へとフリーフォールで落下。
かなりの衝撃が走ったが、無事に着地成功!
俺は両腕で抱きかかえていた騎士の様子を伺った。
おーい、大丈夫かぁ?
「は…はい!ありがとゥヒィッっ!!!??」
騎士は俺を見て一瞬だけ頬をポッと赤らめていたが、急に顔面蒼白になってガタガタと震えだした。
俺じゃなく、俺の肩越しにもっと後ろへと視線を向けているような…?
なんかあるのか?と思って振り返ってみたが、そこにはエドが穏やかな表情で佇んでいるだけだった。
…??
「無事みたいだね。君がワイバーンに拐われなくてよかったよ」
「ひ…ヒィッ…」
「もう平気だよね?ひとりで立てるよね?アルから離れてもいいはずだよね?」
「ヒッ…はははははいィッ!!もちろんでありますッ!!」
抱えてる俺の腕にもはっきりと伝わってくるほど酷く震えてたその騎士だったが、エドに促されるとすぐさま俺から離れて直立不動の姿勢で敬礼のポーズを取った。酷い顔色のまま。
めっちゃくちゃ無理してる感じがするんだが…?
でも、これが騎士としての矜持ってことかもしれない。
すんでで空中に連れ去られかけてショックだったろうに、立派だなぁ。
とゆーわけで、最後にちょっと危ないところだったが、一人の犠牲も出すことなく、モンスターの駆除はつつがなく終了した。
その、帰り道。
今度はダンジョン内も探索してみる行軍予定を立てるんだと聞いた。
俺も行きたい!
と熱烈に同行を申し出たのだが、
「ダメ」
エドににべもなく突っぱねられた。
なんで!?
「今回の件でつくづく分かった。やっぱりアルをこんな集団に加えるのは危険だって」
うぐっ…
調子こいて放った真空斬のことを言ってんのか?
確かにあれは迂闊だったし、俺もまだ集団戦には慣れてないかもだけど、戦力になる自信はあるぞ!?
「私としては是非ともアルバート様にも加わっていただきたいものです。主戦力として重宝しますし」
出発前と比べたら雲泥の差ってくらいに態度を軟化させた騎士団長も、そう言い添えてくれた。
なのに、エドの奴、
「絶対に、ダメっ!」
だから、なんでー!?
「…エドワード様は本当にアルバート様が大事なのですね」
騎士団長が諦めたように苦笑してる。
くっそー!
エドの分からず屋!
なんとかこいつの目を盗んで、絶対にダンジョンに行ってやる!
騎士団長に相談したらなんとかしてくれそうな気配があるし!
俺は諦めないからなッ!!
「…うううっ…怖かった、怖かったよう…!」
「ワイバーンに拐われかけるなんて、おまえ本当に災難だったなぁ」
「それもだけど……あの時のエドワード様…!!!」
「ああ…」
「俺も見た」
「マジビビった」
「今夜の悪夢の主人公として登場してきそうな顔だった…!!!」
「それな」
「分かる」
「アルバート様が振り返った途端、普通の顔に戻った変わり身の早さも、ガチで怖かったよな…」
「俺、もっとアルバート様と仲良くなりたかったんだけど。噂と違って強くてカッコよくてすっげーいい人だったし」
「やめとけよ。エドワード様に何されるか分からねーぞ」
「あの二人って、エドワード様の方がアルバート様にベッタリだったんだな…」
「噂とは真逆だったな…」
「おまえを助けるためにエドワード様を踏み台にするとか、アルバート様マジ半端ねえよなぁ」
「や、やめろよ!?そんなこと言われるとますます怖くなってくるだろ!?」
「おまえが今夜魘されないことを祈るよ…」
俺の部隊だった若い騎士を中心に、そんな話をされていた。
…なんてことは、俺には知る由もなかった。




