コロッセオ2
ゴワーーーーーンッッ!
銅鑼が高らかに打ち鳴らされる。
と同時に、アルが入場してきたのとは反対側にある闘技場のゲートから、のっそりと巨大なモンスターの姿が。
あれは……ストーンゴーレム!
無機物属性のモンスターだ。
巨石が組み合わさってできた人型をしており、動作こそ鈍重だが、とにかく防御力が高くて厄介な奴だ。
…並の人間だったら、だけどね。
ズシーン、ズシーン、と重量級の足音を響かせて突き進むストーンゴーレム。
アルの方からも向かっていった。
段違いの猛スピードで!
地面をダンっと蹴りつけて一瞬で肉薄するや、ストーンゴーレムの巨大な懐に潜り込み、
「セイヤッ!」
バッカーーーーーンッ!
アッパー気味のグーパン一発。
それで決まった。
ストーンゴーレムはバラバラになって崩壊し、ただの瓦礫に。
さらに、地面に積み重なったそばから、サラサラ……と砂になって風に流されていく。
後には、そこそこ大きな魔石いっこだけが残された。
…無機物属性のモンスターって素材とかの収穫が少ないって聞いてたけど。本当だね。
「なっーーー」
クソ王が愕然として座席から立ち上がりかけた。
が、すぐに腰を下ろして、
「そ、そうか……たまたま弱点であるエメスの頭文字を砕いたのだな。運のいい奴」
そんなふうに都合よく自己完結して納得してた。
まだアルの実力を分かってないらしい。
ま、別にいいけど。
どのみちすぐに思い知ることになるんだから。
ゴワーーーーーンッッ!
銅鑼が鳴らされ、次の対戦相手が。
今度のやつは……あっ。
ネンドロイドだ!
鉱物型の岩石系モンスターに分類されるけど、こいつはちょっと特殊で、体全部が粘土状になっている。
ゆえに、物理攻撃は効果が薄い。
柔軟な粘土ボディが衝撃を吸収してしまう上、仮にバラバラに飛び散っても再び元通りに集まってきてしまうんだ。
…武闘家のアルに対して、嫌がらせじみた対戦相手が続くな。
実際、こいつ相手にはグーパンだけでは厳しかっただろう。
グーパンしかないなら、ね。
「ーーー波ァっ!!!」
ちゅどーん☆
アルの奥の手!
闘気による波動砲攻撃!
構えた手の平から青白いビームを放出して、ネンドロイドを一瞬で跡形もなく消し飛ばした。
「なっ……なんだとぉぉぉぉぉぉッ!!???」
クソ王が今度こそガタッと音を立てて座席から腰を上げた。
観客席の他の連中も総立ちだ!
アルの予想外の強さに、闘技場は興奮の坩堝。
盛り上がりは最高潮に達しようとしている!
「は、はははっ………なんというつわものよ!ますます、欲しい!」
クソ王〜〜〜!!!
諦めが悪いなこいつ!?
欲しい、じゃないんだよ!
誰がやるか!
アルは今も昔もこれからも!
未来永劫僕だけのものだッ!!
「……!???」
ブルブルッ。
あっ、何故かアルが急に震えて!?
そんな手強い相手じゃなかったはずなのに!
どうしちゃったの!?
「クククッ……やはり、消耗は激しいとみえる…!」
ああー!?
クソ王が調子を取り戻してきやがった!
「次で、最後だ。とっておきの相手をくれてやろう。俺の闘技場最強のモンスター!」
その言い方中二くさいよクソ王!?
ゴワーーーーーンッッ!
現れたのは。Aランクモンスター。
サーベルタイガーだ。
うん。
サイモンの研究室にも一匹いるから、見慣れてる。特に驚きはない。
でも……
これ、逆にマズいなぁ……
アルってば優しいのはいいけどモンスターにまですぐ感情移入しちゃうんだから。
可愛がってるチャトランと同種のモンスターじゃ、戦いにくいんじゃないかな…?
ああ、ほらやっぱり!
今までは速攻でかたをつけてたってのに、向かい合ったまま動こうとしない!
サーベルタイガーも、アルの強さを感じ取ってか襲い掛かろうとせず。
互いに膠着状態だ。
「ええい、どうした!?とっとと戦え!血しぶきを上げろ!もっと俺を楽しませろ!!」
クソ王が最低なことをがなり立てている。
が、闘技場の観客の総意でもあった。
…観客席の連中、みんな貴族とか国軍とか、いわゆる特権階級ばかりなんだ。
この国は王だけじゃない。根幹が全部腐り切ってる。
下劣なヤジとブーイングを飛ばして、アルに戦え、殺し合えと強要する。
僕の、アルに……
なんてこと……
いざとなったら、極大暗黒魔法でここの連中一網打尽にしようかなって考えが頭を過ぎった。
ぶっちゃけ、民衆にとってもその方がいいだろうし。
でも、僕がその決断に踏み切る寸前で、
ーーーころんっ
「………」
…あ。
サーベルタイガーが、アルのすぐ前で寝転がって腹天した。
ゴロゴロと懐いてすり寄って、全力で媚を売ってる。
さすがは野生のモンスター。
強者には従順だし、勘も鋭いよね。
アルだったら優しいから、服従のポーズを取れば討伐されずに済むと逸早く察して、生存戦略的に媚びる方向に切り替えたようだ。
アル、身を屈めて嬉しそうにサーベルタイガーの腹毛をモフモフと……
って。
またそんなやつとイチャイチャしてー!?
僕というものがありながら!
「な、なな、……なんじゃーそりゃーーーーーッ!??」
クソ王も顎をガックーンと落として愕然としてる。
闘技場最強のモンスターとやらが、この体たらくだったんだ。不本意だけどまぁ気持ちは分かる。
ゴワンゴワンゴワーーーーーンッッ!
試合終了の合図の銅鑼が鳴らされた。
アルが、サーベルタイガーをモフるのをやめて、貴賓席のクソ王を真っ直ぐに見上げ、
「さあ、勝ったぜ!約束は守ってもらおうか!」
「ぐっ………こんなもの、認められるか!?」
あっ!?
クソ王のやつ!
指パッチンして、何かの合図を!
碌なもんじゃないに決まっていると思っていたら、案の定。
もう試合は終わったはずなのに、闘技場のゲートがまた開いた。
そこから現れたのは……
…な、
「な、に…!?」
ゲートから現れたのは。
人間だった。
見るからに貧しい身なりをした、この国の哀れな無辜の民。
それが、何人も、何十人も、ゾロゾロと……
明らかに無理やり闘技場に連れてこられたようで、頬の痩けた顔に怯えきった表情を浮かべている。
「さあああ!新しい相手を用意してやったぞ!そいつらを全員仕留めてもらおうか!さすれば、ダンジョンの件も考えてやらんでもない!」
この、クソ王…!
条件だなんだと言っておきながら、最初から許可するつもりなんてないな!?
こんな奴の言うことなんて聞く必要はないよ、アル!
…と、僕が叫ぶまでもなかった。
「いい加減にしろ」
アルの身体能力だったら、この高い位置にある貴賓席までだってひとっ飛びだ。
その気になれば、いつだってクソ王をぶちのめすことができた。
今までそうしなかったのは、一応は交渉の余地のある相手だと見なしていたから。きちんと約束を交わしていたからだ。
ところが、そうじゃなかった。
約束は一方的にあっさりと反故にされた。
こいつには交渉する価値なんてない。本当のクズだ。
判断したら、アルの行動は素早い。
大ジャンプで貴賓席まで飛び上がってきて、驚愕に目を見開くクソ王の顔面めがけて、
バキャッ!
痛烈なグーパン!
決まった!
クソ王が座席ごと後方へと吹っ飛んでいく。
それでも一応、アルは手加減していたようだ。片頬を真っ赤に腫れ上がらせながらも、クソ王はまだ生きてて意識もあった。無様にコケた格好で、殴られた箇所を手で押さえながら、
「き……貴様っ!?この俺を殴ったな!?」
「だからどーした!」
「父王にも殴られたことのないこの俺をっ……」
「おまえみたいな奴は、いっぺん人の痛みを知るべきなんだよ!命を弄ぶようなことばっかしやがって!」
「貴様っ………」
アルは険しい形相で、クソ王を一喝。
クソ王はブルブルと全身を戦慄かせて俯いていたが、やがて顔を上げると、
「……素敵じゃないかぁ♡」
恍惚とした表情がそこにあった。
…あ”!!!?
***
あ”ー…
あまり直視したくもないけど、結論から言おう。
クソ王は心を入れ替えた。
これからは民衆に寄り添った統治をすると、アルに約束していた。
ダンジョンへの入場許可もくれたよ。
今後は、もっと広く開放してみんなの利益になるようにするんだってさ。
アルの手を両手で握って熱っぽい目で見詰めながら、
「貴様のような男は、初めてだった♡俺に新しい世界の扉を開かせてくれたな♡」
「あ、ああ……分かってくれたんなら、よかったよ」
アル。
たぶん状況を正しく理解してなさそうだったけど。
本能的に、なにかヤバいものを感じ取っていたんだろう。
引きつって冷や汗を流してた。
そして、僕たちは速攻で王都を後にし、ダンジョンへと向かった。
この小国が今後本当にマシになるといい……とは思うけど。
…正直、知ったことじゃない。
二度と来ないぞ!
絶対にだ!
ダンジョンさえ攻略できれば、もうこんなところには用なんてないんだから!
ねえ、アル!
「え、ああ……うん、まあ……」
冒険者ギルドがないのはもっけの幸いだよ。
帰還報告の必要もないから、ダンジョンコアをゲットして次元ゲートを開いて、そのままサウザンド王国へ戻ろう。
ねえ、アル!
「なんかエド、さっきから怖くね?……あの王様も心を入れ替えてくれたんだから、もういいんじゃ……」
ちっともよくない!
アルってば、まぁたあんな重度のファンを生み出しちゃってー!
魅力的すぎるのも考えものだよ本当に!
「えー?……今回モテてたのはおまえだろ?」
最初だけはね!
でもっ……
「俺もつい笑っちゃったけどさ。……あんな奴にエドのことどうこうって言われるのは、やっぱ嫌だったな」
………。
…アル。
「エドは、俺の相棒だもんな」
うんっ♡
「あ!あくまで友達!仲間としての友情だからな!?」
分かってるよ、アル♡
僕との愛♡のために闘技場の戦いに挑んだアルの勇姿は一生忘れない♡
「……なんか分かってなさそーな気もするけど。まーいいや。それじゃ、行こうぜ」
そうだね、アル♡
こうして、僕とアルは未踏のダンジョンへと足を踏み入れた。
このダンジョンの名前は……
えっ、まだないの?




