『危険な宝箱』1
アルだぜ!
未踏のダンジョンを探して幾千里。
…いや、ワイバーンで飛んでってすぐだったけど。
とにかく、すっげー遠くまで来た。
冒険者ギルドの支部もないような辺境の小国だぜ!
ここに、知られざるダンジョンがあったんだ。
なんやかんやあったけど、王様の許可も無事にもらえたので。
いざ!
レッツ・ダンジョン攻略だぜー!
今回はその話だな!
あ。
あと、新しい仲間を紹介しとくぜ。
闘技場で俺と戦ったサーベルタイガー!
まあ戦ったっつーか、こいつが勝手に白旗上げて降伏してくれたんだけど。
こんな感じだったな。
〜回想〜
「おまえ……なんて荒んだ目をしてるんだ……」
『グルルルルルッ……』
「そうだよな、いくらモンスターつったって、こんな場所で人間の勝手な都合で戦わされたりして、面白いわけねーよな」
『グルルっ……』
「おまえだって本当は、無闇に人を襲ったりはしないだろうに。……痩せてるな。エサも碌にもらってねーのか。まだ人間を食ったりしちゃいねーんだな……」
『……フシャーーーッ……』
「ごめんな。でも、俺もこの戦いは譲れねーんだ。せめて、おまえの命は無駄にしたりはしねーから」
『フシャッ…!??』
「肉は……あんまうまそうじゃねーけど、頑張ればなんとか。……あ、毛皮はいけるな。なんかチャトランよりだいぶ薄くてボリュームないけど……」
『………!!!』
「そーいや父上がリビングに新しい敷物欲しいつってたっけ。よし、じゃあおまえのーーー」
『ふ……ふにゃ~んっ!ゴロゴロゴロゴロっ!!』
「え?……あれっ?」
『ゴロゴロゴロゴロスリスリスリスリ!!!』
「あれ、なんか……懐かれてる?……まいったな、これじゃ倒したりできねーや。まあおまえの戦意喪失ってことで俺の勝ちでいいかな?」
『(コクコクコクコクコクコクっ!!!!!)』
〜回想・完〜
てなわけで、俺に懐いてくれたんだ。
ちょっと荒みがちな雰囲気醸し出してるけど、可愛いやつだ。
「だからってなんで連れて来るのさ…!?」
エドが忌々しげに言った。
いや、だって。
あの国の人たちからすれば、闘技場の憎きモンスターじゃねーか。
あそこには置いておけない。
もちろん、ずっと俺たちの旅に同行させるのは無理があるけど。
サイモンさんのところに預ければいいかなって。
ほら、あそこにはチャトランもいるしさ。
「……まあ、今だけ一時的にってことだったら、僕もしばらくは我慢するけど」
よかった!
んじゃ改めて。
よろしくな、チルチル!
「ネーミング…!!!っていうか、またイチャイチャしてー!?」
えー。
だって、モフるだろ普通。
チルチルはこんなに可愛いんだし。
「どこがっ!?……大体、なんか薄汚れててばっちいよそいつ!ノミとか湧いてるんじゃ!?」
ええっ!?
…今までの環境が環境だっただけに、それは確かに心配だな。
エド、浄化魔法かけてやってくれよ。
「もう!なんで僕がっ……」
ありがとな!
チルチル、だいぶ綺麗になった!
あ、毛皮を剥いだりはしねーから。
仲間にそんなことしねーって。安心しろって。
だからそんな、怯えた目で俺を見るなって……
ん、ちょっと肋が浮いてて痩せすぎだよな。
なあエド、なんか食い物あるか?
「……まったく。肉食のモンスターなんだから、生肉でいいでしょ。はい、ロックバードの肉だよ」
おっ。
チルチル、すっごい夢中で食いついた!
結構でっかい塊だったのに、瞬く間にペロリだ!
いい食いっぷり。惚れ惚れするなぁ!
「……本当に飢えてたみたいだね。多少は同情しないでもないよ」
よし!
チルチルを仲間に加えて、改めてダンジョンへと入っていくぞっ!
で、ここのダンジョンだが。
迷宮型、かな?
石畳で作られた四角い通路がずーっと奥まで続いてる。
床だけじゃなく、天井も壁も。全部石でできてるな。
イメージとしてはピラミッド内部みたいな雰囲気だぜ。
通路は途中で分岐してる。何箇所も。
気をつけてマッピングしていかないと、すぐに迷子になりそうだ。
「あんまりスタスタ進んだりしない方がいいね。道順を覚えながら、慎重に行こう」
エドの言葉に、俺はしっかりと頷いた。
チルチルも大人しく俺たちについてきてくれている。
マッピングはエドが担当。
もうこれは完全に向き不向きだよな。
俺、方向音痴ってわけじゃねーけど、地図を描いたり記録取ったりするのは……ちょっと。
その点、エドは本当に頼もしい。
次元収納から筆記用具を取り出して、サラサラっと素早く分かりやすく書きつけていっている。
『熱波の彼岸窟』でもそうだったけど。エドがいれば迷路型のダンジョンも怖くないな!
「あんまり過信されても困るけどね。順路がいきなり変わったりする意地悪な仕様のダンジョンもあるみたいだし」
ああ、先輩冒険者のロビンソンさんもいつだったか言ってたな。
なんにせよ、何が起こるか分からないのがダンジョン。
気を抜いたりはできねーってことか。
「そういうこと。……あ、なにか…!?」
エドも察知したか。
俺も感じた。
通路のあっち側から、気配が近付いてくる。
ここのダンジョン、今は他に挑戦してる奴はいないはずだから。
ダンジョンモンスター、だな!
身構えて待ち受ける俺たちの前に姿を現したのは、一体のストーンゴーレムだった。
闘技場にもいたな、こいつ。
もしかしてダンジョンから連れてきたやつだったのか。
しかし……
ストーンゴーレムって、それなりに巨体だろ?
ここの通路もそんな狭いわけじゃないんだが……
通路いっぱいに、ストーンゴーレムがみっちり……
まともに立って歩けるスペースがなくて、匍匐前進みたいにしてにじり寄ってきてるぅぅぅぅぅッ!?
なにこれ!?
「こ、これは……予想外の方向性から意表を突かれたね!?」
まったくだぜ!?
匍匐前進ストーンゴーレム。
シュール過ぎて、ある種異様な迫力はあったが。
無防備ったらない。
俺はなんだか申し訳ない気持ちになりつつ、無造作に歩み寄ってグーパン一撃。
倒さないと通路の先に進めないからな。しょうがねえ。
ストーンゴーレムはすぐさま砂と化して消え、後には魔石だけが残された。
ドロップ品は回収して、と。
んじゃ、進むか……
「うん……」
俺たちはなんとなく呆然とした心持ちで、さらに奥へと歩みを進めた。
途中、同じように通路みっちりのストーンゴーレムとエンカウントしては、倒すこと数回。
少し広い、小部屋みたいな場所に出た。
でも、見た限りなーんもない。
ただの小部屋だ。
セーフティゾーンってわけでもなさそうだし……
と、油断してたら。
どっこい、驚きの事態が!
小部屋の四方の壁と天井が、モゴモゴっと不気味に蠢き出して!
あ、
ああああああっ!?
ストーンゴーレムだッ!?
この部屋……つーか空間?ストーンゴーレムが組み合わさってできてたんだ!
じゃあこの小部屋のスペースは、今まで討伐してきたストーンゴーレムが抜け出た跡ってことか。
なるほど、他に行き場がなくて仕方なしにサイズの合わない通路を移動してたんだなー。
とか、呑気に構えてる場合じゃねえ!
「来るよ!」
分かってる!
ストーンゴーレムの団体さんのお出迎えだ!
相変わらずみっちり詰まってる感があって、身動きも取りづらそうだったが。
俺たちが一体、また一体と倒していくごとに、余剰スペースが広がっていき。
最後の数体は、十分に暴れられるだけの空間を確保することができていた。
「なるほど、風変わりな趣向だね。こっちが倒せば倒すほど、相手は巨体を活かして戦いやすくなるって寸法だ」
そうだな。
一方で、こっちはたくさん倒した分だけ最後の方では疲弊してるはず……って計算づくか。
性格悪い造りだな、このダンジョン。
ダンジョンに性格なんてものがあるのかは知らねーけどな。
だが、見くびってもらっちゃ困る。
もう何十体というストーンゴーレムを倒したが。
俺はまだまだ疲れちゃいない!
部屋が広くなって戦いやすくなったのはこっちだって同じだぜ!
おりゃあああああッ!!!
ベキッ!
ドゴッ!
めきょっ☆
多対一の乱戦上等ッ!
こちとら、前世じゃ時代劇の殺陣に憧れてまねっこして遊んでたこともあるんだぜ!
「それ、あんまり自慢にも参考にもならないけど…!?」
いーんだよ!
ようは、あの殺陣とおんなじ要領で動けばいいんだ!
流れるような動作で次々と相手を斬りつけていき。
って、俺はグーパンだけど。
長剣も持ってるけど、こいつら相手にしたら刃こぼれしちまいそうだからな。
でも拳なら頑丈だから、大丈夫!
「普通は逆だけど、うん、まあ、アルだからね…!」
そんなわけで。
討伐完了ッ!
いい仕事したぜ。
小部屋だった場所は、今ではすっかり何十倍のも大広間のサイズになっていた。
その、部屋の最奥に。
燦然と輝くゴージャスな光。
た、
宝箱だぁぁぁぁぁッッ!!!
いやっふぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!
めっちゃテンション上がる!
なにげに初めてだぞ!
宝箱!
ダンジョン!
ダンジョンの宝箱ッ!!
噂には聞いてたけど、これが…!
「待って、アル!ここは慎重に!」
すぐさま駆け寄って開けようとした俺を、エドが制した。
「このダンジョンの性質上、最悪の事態も想定しておくべきだ。その宝箱、罠の可能性もあると思う」
ええっ!?
「じゃなくても、実はミミックだったりとか……」
う……
そう言われると、確かに。
無機物のはずの宝箱から、得も言われぬ不審な気配を感じるような……
チルチルも宝箱に向かって『フーッ!』と威嚇音を上げている。
こ、
これはっ……
「残念だけど、限りなくクロ、だよね」
ガガーンっ……
なんだよ、ぬか喜びさせやがって!
あんなストーンゴーレムみっちりの跡地に出てきた宝箱なんだから、いいもの入ってるんじゃって期待するだろ!?
…その油断に付け込む仕様か。
くそっ、マジで性格最悪だぜこのダンジョン!
「ミミックなら、討伐すれば本当にいいものをドロップする確率が高いらしいよ。……どうする、アル?」
そりゃ。
んなもん、討伐する一択だろ!
「じゃあ警戒しながら慎重に、開けよう……」
ん?
ちょっと待て。
なにも開けることないんじゃね?
「え?どういうこと?」
前世のさ、ゲームとかでも思ってたんだよ。
魔法とかでミミックと判別できた宝箱を、どうしてわざわざ開けるのかって。
開けないままぶった斬っちまえばいーじゃん。
「そ、そんな身も蓋もない……ゲームはそのへん融通が利かないのはしょうがないよ」
うん、ゲームはな。
だけど今のこれは現実だ。
なにも律儀に、相手に合わせて開けてやることねーじゃん。
蓋をしたまま、俺がグーパンで粉砕!
それでいいんじゃないか?
「……言われてみれば、確かに。その方が合理的だね」
『………!!!』
だよな。
よっし、じゃあいっちょかましてやっか!
と、エドとの話もまとまって、俺は拳を振り上げた。
その時だ。
パカッ!
ーーーササササササッ!
宝箱の蓋が、勝手に開いて。
中から、なんか……素早く飛び出していったものが。
あまりに素早すぎて、俺の動体視力をもってしても影のようにしか見えなかった。
…えっ?
宝箱の中には、金銀財宝の類がたんまりと。
マジモンのお宝だ。
でも、今の…!?
「どうやら、僕たちの会話を聞いてミミックが逃げ出していったみたいだね……」
え”ーーーーーッ!?
ミミックって、宝箱と分離できるの!?
「むしろ宝箱に寄生するタイプのモンスターなのかも……」
その正体がさっきの影か!
くっそ、もっとちゃんとよく見ればよかった!
捕まえることもできたかもしれないのにー!
「モンスターの生態って、まだまだよく分からない部分が多いもんね……」
あー!悔しー!
次の機会があったら、絶対にミミックの正体を確かめてやる!
戦利品は潤沢だったが、無念の思いが強く残る出来事だった。




