ドリュプシュ
冒険者のアルだ。
温泉街から旅立って、また次の冒険へ。
でも、ちょっとだけ寄り道していくことにした。
…また、とかゆーなよ。
モンスター討伐の依頼を受けて、ちょうど近くまで来てたから。
ずっと気になってはいたんだ。母上のお墓のある、あの地方領地のこと。
なんでか知らないけど、また父上が領主になって統治することになったって聞いたし。
父上自身は王城務めのままなのに、どーすんだろ?って思ったら、現地での細かいところは領主代行にお任せしてるんだって。
俺も会ったことある。
誠実できちんとした、いい人だった。
俺に、領主になってくれー、とかって懇願してきたのには参ったけど。
もう父上が領主に決まったんだから、その心配もない。
ってわけで、様子を見てくることにした。
レイクヒル共和国との国境沿いだから、本当に近い。
ワイバーンでひとっ飛びー!
到着っ!
以前来た時は、前任のとんでもねークソ領主の違法統治のおかげでみんなやつれた酷い有り様だったが。
今はもうそんなことないだろ。
と、安心していた俺。
畑で農作業をしている人影を見つけたので、早速手を振って声を掛けた。
おーい、元気だったかー?
そのおっちゃんは、もう前みたいにガリガリに痩せてたりはしなかった。
が、どよ〜んと見るからに暗い顔で……
…あれっ?
俺は手を振ったポーズのままタラっと冷や汗を流し、固まっちまった。
なんかまた様子がおかしい…?
「あああっ!アルバート様っ!!」
俺の姿を認めたとたん、おっちゃんが喜色満面になって駆け寄ってくる。
近くにいた他の領民たちも、続々と集まってきた。
「ようこそいらしてくださいましただ!」
「俺たちみんな、アルバート様が来てくださることをずっと待ってたんですよ!」
「今度はいつまでいらっしゃる予定で!?いやいっそここに永住されるご予定は!?」
「またギルバート様がご領主様になられたんだ、ご子息様のアルバート様がここで暮らすのは当然だぁ!」
「んだんだ!」
おおっ、大歓迎ムード!
いつもは俺よりエドの方が目立つしすぐ女の子に囲まれてキャーキャー言われるんだが、この領地では注目を集めるのは俺。エドの存在感は空気になる。
エドは少し離れたところで苦笑しながら、領民に揉みくちゃにされる俺のことを眺めていた。
ありがとな、みんな!
俺もまたみんなに会えて嬉しいぜ!
でも永住はちょっと無理かな…!?まだまだ冒険したいから勘弁してくれ。
あと……なにかあったか?
そうツッコんで尋ねると、みんなの笑顔に陰りが差した。
ちょっと俯きがちになり、互いに肘でつつき合って、暗い視線を交わしている。
「いや、その……」
「なにかって程のことでもねえんですが……」
「おい、せっかく来てくだすったアルバート様にこんな話は…!」
「で、でもよう……」
うん。
明らかに困り事があるんだな。
でも、みんな遠慮して俺には言いにくいみたいだ。
「……領主の館に行こうよ、アル。なんにせよ、領主代行から話を聞いた方がよさそうだ」
そうだな。
その方が話も早いか。
エドに促され、俺たちは領主の館へと移動。
手の空いてる領民たちもゾロゾロとくっついてきた。
「おかえりなさいませ、アルバート様っ!そしてようこそいらっしゃいましたエドワード様!」
領主代行の人。
サウロさんもまた、領民たちと同様に手放しで大歓迎してくれた。
ってゆーか、おかえりなさいませ、って……
「くっ、アルが既にここに定住してるかのように!?……ナチュラルな言動で絡め取ろうとしてくるとはっ…!」
エドが顔を引きつらせてた。
う、ううん…!?
確かに、相変わらず俺への傾倒っぷりがハンパない。
ま、まあ、今はそれはいいや。
そんなことより、なにかあったか?
領民たちがなんか暗い顔してたぞ。
「もうご存知でしたか。さすがはアルバート様…………ギルバート様に続いてここを統治してくださる予定の、未来のご領主様…!」
だから、それはいーから!?
エドがどんどん不機嫌顔になってってるから。少し自重してくれ。
「申し訳ありません。私めの力が至らず……」
俺たちを応接室へと通し、サウロさんはまずきっちり折り目正しい角度で頭を下げてから、事情を話してくれた。
前領主の悪政から抜け出し、立て直しに入っていた領地経営。
滑り出しは好調だった。
父上を介して、中央からの支援もあったし。
今まで搾取されてた分も、運営費としてきっちり還元してもらえたおかげで、資金もまずまず潤沢だった。
父上がかつて行っていた農地改革なんかも一旦無茶苦茶にされてたから、一からやり直して。次の収穫高はかなりの期待が持てそうだったという。
ところが、そこに予想外の破綻が。
一番でっかいメインの耕作地帯に、またドリューが出やがったんだと。
それも、俺が以前ちまちま駆除して回ったザコドリューじゃない。
進化した上位モンスター。キングドリューンが出没したそうな。
「ひでえな、こりゃ……」
領民たちに案内してもらい、俺はすぐさま現場へと赴いた。
そして、愕然とした。
丁寧に耕された畑の畝……のど真ん中に、巨大な穴がポッカリと空けられていた。
直径で10メートルはありそうだ。
穴の周りには、掘った分の土が山になって積み上げられている。
状況は一目瞭然だった。
畑は無茶苦茶。
穴を埋めて修復するのにも、かなりの時間が掛かるだろう。
その前に、もちろんこの穴のヌシを退治しとかなくちゃ話にならない。
「ある日のことですだ。地面の下から、なんか地鳴りみてーな音がしたと思ったら、いきなりこの大穴がバーンっ!と空けられて」
「信じられねーくらいでっけえドリューの頭が、にょっきりと!」
「おら、ビビって腰を抜かしちまった……」
「俺もだよ。しかもあいつ、ちっちぇえドリューと違って人間を襲おうとしてくるし……」
どうやらキングドリューンが現れたのは、ドリューの仇討ちのためだったらしい。
もしかしたら俺が討伐したドリューたちの親なのかもしれない。
そりゃ怒って襲い掛かってくるよな……
幸い、領民たちは急いで遠くまで逃げ出して、大きな怪我人とかは出なかったそうだが。
「腰を抜かしてたおらはみんなに引きずっていかれてよお……助かったのはいいが、尻に擦り傷ができちまった」
ボヤくおっちゃん。
でも、その程度で済んだなら御の字だ。
無論、キングドリューンをこのままにはしておけない。
ほっとけばいずれ被害者が出ちまうだろうし、畑だって直せないからな。
子供の仇を取ろうとしてるなら、少しだけ可哀想な気はするが……
元々は、領民たちが必死で作った畑の作物をドリューが食い荒らしていたのが悪いんだ。
情けは無用。
俺は即座にキングドリューン退治に乗り出した。
今となっては、モンスターに警戒されないよう気配を消せる俺だが。
キングドリューンは人間に恨みを持ってて襲い掛かってくる。
あえて気配は消さず、堂々と穴のふちに立った。
すると、奥の方からゴゴゴゴゴゴゴッ……という地鳴りめいた音と、振動が。
来るか!
バーーーーーンッッ!!!
来たーっ!
ほんとにでっけえーーーッッ!
こんな近くからだと、茶色い壁にしか見えねーぞ!?
もう少し距離を空けないと逆に戦いづらい。
俺はバックステップで飛び退り、巨大すぎるそいつを見上げた。
と、上の方でギラリと光るなにかが!
キングドリューンの目か!?
憎々しげに輝いて、俺を射抜くように睨みつけている!
俺はハッとして、もう一回後ろに飛び退った。
とたん、俺がさっきまで立ってた場所に、ブォンっ!と空を裂いて薙ぎ払っていくなにかが過ぎる。
キングドリューンの手だ。
地面を掘るための爪が、凶悪に俺を狙ってくる。
あんなの、掠めただけでも大ダメージ必至だ。
なら、掠めすらしなけりゃいい!
俺は太陽の位置を意識して、その場でビョーーーン!と大ジャンプ。
巨大すぎる相手は腕とか胴体とかを攻撃しても効果は薄い。
脳天に一撃!
これで決める!食らえっ!!
ジャンピング・ニードロップだっ!!!
ベコッ!!!
太陽の光の中に入って、逆光でキングドリューンからは俺の姿は見えづらくなっていたはずだ。
地下での暮らしがデフォルトのこいつにとって、地上戦は不慣れだったのもあるだろう。
俺を見失って狼狽えているところに、会心の一撃!ってくらいに見事に決まった。
キングドリューンの頭頂部が大きく陥没する。
だが、
ーーーガァァァァァァッ!!!
まだ暴れるか!?
身を捩り、両腕を振り回して、もう手当たり次第に滅茶苦茶にする勢いだ。
巨大な穴の周辺にさらに亀裂が……地割れ規模で走っていき、畑をさらに台無しにしていった。
くそっ、これ以上させてたまるかよ!
俺は暴れるキングドリューンの頭部を蹴りつけ、その場で再び大ジャンプ!
もう一回、同じ場所にダメージを重ねる!
食らえっ!!
ドゴンッ!!!
キングドリューンの頭頂部のヘコみが大きくなった。
と同時に、暴れていた動作が鈍くなっていく。
あともう一押し!
これで……最後だっ!!
ドガンッ!!!
ジャンピング・ニードロップ三連発っ!
キングドリューンの巨体がついに沈みゆく。
自ら掘った、穴の奥底へと……
ーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
…ん?
また地鳴りと、振動が?
ま、まさか二匹目がいるのか!?
俺は大慌てで一匹目のキングドリューンの頭から飛び降りて、二匹目の登場に備えて身構えた。
ところが、出てきたのはキングドリューンではなかった。
ーーープシューーーーーッ!!!
沈みかけてたキングドリューンの巨体を逆に押し上げて、押し流し。
大量の水が噴き出してきた。
大噴水だ!
…と思ったが、降り注いできた飛沫が、温かい。
こ、これは!?
「温泉を掘り当てたみたいだね!?」
エド!?
なにかあった時のために少し離れて待機してもらってた相棒が駆け寄ってきて、やや興奮した面持ちで教えてくれた。
俺、温泉掘り当てたナウ。
…マジでー!?
禍福は糾える縄の如しっつーけど。
キングドリューンの被害を被ったおかげで、領地に大きな資源となる温泉が湧き出てきた。
世の中、なにが幸いするか分からねーもんだよな……
「おそらくは断層型の温泉だよ。戦いでできた地割れが、地下で熱されていた水脈のところまで繋がったんだ」
畑のある地表も裂けていたが、キングドリューンの下側にある地下方面にも大きな亀裂が走っていたらしい。
俺が何度もキングドリューンを踏みつけにして衝撃を与えたからか。
棚からぼた餅。棚ぼたってよく言うけど。
ドリューの穴からプシューッと温泉。
ドリュプシュだな。
「……だいぶ語呂が悪いよ、それ。無理して言葉を造らなくても」
まあ、いーじゃん。
このへんの畑は使い物にならなくなっちゃったけど、代わりに温泉ができた。
これからどう活用するか、王都の父上とも相談しながら決めていくんだってさ。どうやっても絶対に大きな利益を生むことは確実だという。
「ああっ、アルバート様は本当に素晴らしいっ!またしてもこのような富を私たちに!」
サウロさんも領民たちも大喜び。
俺に感謝することしきりだ。
喜ばれて、悪い気はしない。
でも、さすがに大げさだよなぁ。
温泉が湧いたのはあくまで偶然の産物なんだし……
「いいえっ!アルバート様の日頃の行いが正しいからこそ、このような幸運に恵まれるのです!さすがはアルバート様っ!!」
「んだんだ!」
「ほんに立派なご領主様のご子息様だべ!」
「アルバート様ばんざーいっ!!」
「「「ばんざーいっ!!!」」」
お、おお…!
みんなめっちゃ盛り上がってるな…!?
「アルバート様が正式に次の領主になられる日が待ち遠しいですともっ!」
あんたも諦めねーなぁ、サウロさん!?
というわけで、問題は解決した。
みんな元気だってことも分かったし。
後のことはサウロさんに任せ、俺たちはまた冒険の旅へ。
その前に、もちろん母上のお墓参りにも行ったぞ。
父上がまたここの領主になったよって、報告しといた。
こないだ温泉に入りたがってたから、そのうち来るんじゃないかな?
父上が来てくれれば、母上もきっと嬉しいよな。
母上のお墓はとても綺麗な状態だった。
ばあやが一日も欠かさず手入れしてくれてるんだそう。
俺は、ばあやに感謝を伝えた。
エドは無事だった畑から、野菜とかを分けてもらってたな。
「採れたてで新鮮だしすごくいい出来だから、料理するのが楽しみだよ」
そっか!
俺も食うのが楽しみだ。
ここはみんなが親切で、居心地のいい場所だけど。
そろそろ、出発しよう。
次の冒険が俺たちを待っている。
今度はちょっと遠くまで足を伸ばしてみようか。
自由気ままに、どこへでも。
それが冒険の醍醐味だもんな!




