轟け!世紀の大発明ッ!?2
そんなこんなで、画期的にして便利な魔道具を活用しながら過ごすこと数日。
…そろそろ、私一人の秘密にしとくのが難しくなってきた。
「なんだかフュリューリンゲン卿、このところずっと機嫌がいいよね…!?」
ウィリアム様にも不審がられてきてるし。
定期的に行われる宮廷会議の席でも、陛下から胡乱な目を向けられてる気がするんだ。
おまえ何か隠して一人だけいい思いしてるんじゃないだろうな…!?って、その視線が口よりも雄弁に語っている。
やべー。
私、ほとんど針の筵。
他の宮廷貴族たちなんか、関わらんとこ……って、私からあからさまに距離を取りやがるし…!
ううっ…!
もうしばらく、アルとの水入らずを楽しみたかったが…!
私とて、分かっている。
元よりこんなこと、ずっと隠しておくわけにはいかないと。
エドワード様からも頼まれているのだ。
「フュリューリンゲン卿の判断で、父上……国王陛下にもこの魔道具のことをそれとなく伝えてください。政治的判断が必要になる、重大な発明ですから」
私は尋ねた。
何故、エドワード様自身で伝えようとしないのか、と。
おそらく、いや間違いなく、エドワード様自身の功績にもなるだろうに。
「……僕はもう、この国を出奔した身ですから」
なるほど。
陛下、もしくはウィリアム様に手柄を譲りたいのだな。
それが王位継承権を放棄した者としては最も理にかなった行動であると。
微笑みを浮かべるエドワード様には、一切の後悔はないようだった。
それにしても、私にこんな重大事を託すとは……
「僕はフュリューリンゲン卿には全幅の信頼を寄せています」
おぉう……
たぶんアルのオマケで父親の私も信頼されてるってことだろうが。
エドワード様程のお方にこうまで言われると、背筋が正される思いだ。
私は、しっかりと請けがった。
…だから、いつかは報告しなくてはいけない。
こんな画期的な大発明。必ずや大いなる国益に繋がるに違いないのだ。
お伝えしたら、私が持ってるのをすぐに差し出せー!ってなるだろうから、ずっと先延ばしにしていたが。
ここいらが潮時だろう。
私は覚悟を決めて、まずはウィリアム様にご報告申し上げた。
陛下との順番は迷うところだが、私の役職はあくまでウィリアム様の補佐だからな。直接の主に真っ先に申し上げるのが筋であろう。
「ええっ!?そんな魔道具があるの!?」
果たしてウィリアム様は素直に驚いていらっしゃったが、
「それで近頃のフュリューリンゲン卿は上機嫌だったんだね!?自分ばっかり、ズルい!」
すぐ、拗ねてしまわれた。
弁明を試みる私。
ご報告が遅くなったのは申し訳ありませんでしたが。なにぶん、かような新しい魔道具です。
私めがしばらく試し、問題がないことをしっかり確認した上でなければ、ウィリアム様にお伝えするわけにはいかなかったのです。平にご容赦を。
「……じゃあ今までのことはいいよ。でも、僕にもそれ使わせて!僕だって兄様とアルに会いたいよ!」
ハイ、やっぱりねー!
そうくるだろうと思った!
私は内心でトホホーと肩を落としつつ、件の魔道具を明日持ってくることを約束した。
翌日。
登城し、いつものウィリアム様の執務室へと足を運んだ私だが、
「父様と母様も使ってみたいって。フュリューリンゲン卿、一緒に来て」
速攻で王族の方々のプライベートスペースへ、連行……もとい、お招きいただいた。
リビングのような寛げる造りの一室だ。必要以上に広々として瀟洒な内装だがな。
あ”ー緊張するー。
陛下は相変わらず鷹のような目で睨んでくるしさぁ。
王妃様も。どことなく冷ややかな微笑みを美しい顔に貼り付けている。
私が今までこの魔道具を独り占めにしてたこと、面白くないと思ってんだろうなぁ……
でもこれ、アルからのプレゼントなんだぞ。
優しい我が子が父親である私を気遣って、渡してくれたのだ。
画期的な大発明だから報告しないわけにはいかないけど、少し遅くなったからってそこまで咎められるのもおかしくね!?
…って、思ってても口には出せない。
臣下の辛いところだよ……
気まずいし、さっさと済ませてしまおう。
「さあフュリューリンゲン卿、早く魔道具を!」
ウィリアム様にもせっつかれたことだし、私は手早くテーブルの上にミニクッションと水晶玉をセット。
使い方を簡単に説明してから、実際にやってみせた。
手をかざして、アルの持っているもう一個と繋がるよう念じる。
とたん輝き出す水晶玉。
陛下と王妃様、ウィリアム様がソファに座ったまま前のめりに。
御三方とも食い入るように水晶玉に注目している。
待つことしばし。
…輝いてはいるが、他の反応は特にない。
「どういうことだフュリューリンゲン卿!?」
「兄様は?アルは?」
「何も映らないようですわよ?」
…もー!
たった今、ご説明申し上げたではないですか!
相手側の都合というものがあるのです。
場合によっては通信が繋がらないかもしれないと。
特に、今の時間帯。冒険者の二人は移動してるか仕事をしてるかどちらかの可能性が高いでしょうし……
私、理路整然と事実を説明してるだけなのに。
めっちゃ不満そうな目で睨まれてる。しかも三人共に。
…王族の方々って、基本的に我儘だよなぁ!?
かといって、こればっかりはどうすることもできない。相手がこっちの通信に気付かなければそれまでだ。
と、
『ごめん父上、気付くの遅くなった!こんな時間に、珍しいな!?』
やっとで水晶玉に反応が。
アルの顔の虚像が浮かび、ほとんど肉声と変わらない音声も聞こえてくる。
…なんか妙に息を切らせてるみたいなのが気になるな。
が、王族の方々は初めての通信に興奮することしきりで、アルの様子にまでは気が回らないようだ。
「アルっ!」
「久しいな、アルバートくん!」
「エドは?わたくしのエドは一緒ではないのですか?」
『えっ?ウィルに王様に王妃様まで?……なんで?』
「いろいろあったのだよ、アル……」
間に入って説明しようとした私の声、自分でもビックリするくらい疲れてた。
い、いかんいかん。
こんなことではアルにまた心配を掛けてしまう!
私は気を取り直して、改まって尋ねた。
「こほんっ!……それよりも、大丈夫だったのか?通信に出るまでに随分と時間が掛かっていたが。なにか忙しいところだったのではないか?」
『あー、うん。実はちょっとだけ取り込み中でさ……』
こうしてしゃべってる間も、アルはしきりと背後を気にしているようだった。
つい眉をひそめる私。
「どうしたのだ?立て込んでいるなら、また通信し直すが……」
「えーっ!?まだちょっとしかお話してないのに!」
「そこまで急がなくても良いではないか!?」
「わたくしのエドは!?」
だぁーっ!?
王族の方々、うっせえ!
うちの子が困った顔してるだろ!?空気読めや!?
…なーんて一喝できりゃーなぁ!?
かといってアルには無理して欲しくないし、どうしたものかと私が思案に暮れていると、
『あ、うん。まあまだしばらくは大丈夫だけど……エドが出るのはちょっと無理かなぁ?』
「どうしてですの!?」
『実はさ、繁殖したビッグタスクの大群の討伐依頼を受けてて……戦闘の真っ最中だったんだよな』
…え”!?
『この通信に出るために俺が一旦戦線離脱しちゃったから、今はエドが一人だけで奮闘してる』
「「「「え”ーーーーーッッ!!?」」」」
『悪いけど後でかけ直すから、俺も戦線復帰していいかな?さすがにあれだけでっかくて数が多いとエドでも多勢に無勢……』
「「「「戦いに戻って!早くっ!!!」」」」
『よかった。じゃあ、またなー』
アルがひらひらっと手を振って、そこで通信がプツンと切れた。
ゼーゼーと肩で息をする私たち。
大声を張りすぎた。
ドサマギで私、王族の方々と一緒になって叫んじゃったぞ。
状況的に不敬とは取られないだろうが、こんな一体感味わいたくなかった。
めっちゃ心臓に悪いっ…!
「つ……通信する際には、相手側の都合をきちんと考慮せねばならんな!?」
「そ、そうですね父様…!」
「あああっ、わたくしのエドは…!?」
我儘ばっか言ってた御三方が、反省してくれたのはよかったが。
…もー、勘弁してくれ。アルよ…!
あくまで呑気だった我が子の顔を思い浮かべ、溜息してしまう私だった。
その後、しばらくの間を置いて向こうから通信してきた。
水晶玉がピカピカっと明滅してサインを送ってくる。
今度はアルとエドワード様揃っての登場だ。
二人とも無事で元気な様子だったので、私たちは大きく胸を撫で下ろした。
『たくさん討伐できたぜ、ビッグタスク!獲れた素材は今度おみやげに持っていくな!』
『フュリューリンゲン卿から父上に魔道具のことを伝えていただけたのですね。……え?父上たちも欲しい?……これはアルがフュリューリンゲン卿のために用意したものですから、増産されるのを待ってくださいよ』
エドワード様の一言のおかげで、私は通信用魔道具を献上せずに済んだし。
なにはともあれ、無事報告を終えられてよかった。
一安心の私である。
さて、この魔道具。
すぐに増産の勅令が下されることとなった。
非常に有用にして画期的な発明なのだから、当然だ。
陛下をはじめ、尊き方々のたっての希望だったことも大きい。
「エドワードくんとアルバートくんからの頼みだからやるけどなー!?しがない天才魔導士使いが荒いのだーッ!!?」
発明者のなんとかって魔導士は悲鳴を上げていたようだが。
おかげで、新・通信用魔道具はあっという間にサウザンド王国の津々浦々に至るまで広まっていった。
これで中央からは距離のある地方領地とも、連携をより密にすることができる。
…一般への技術公開はどうすべきか、上層部では散々議論になったが。
「公開すべし」
それが陛下の最終決定だった。
「かようなものは隠匿しようとしてもいずれ必ず情報が洩れてしまうであろう。下手に隠さば他国の疑心を招くことにもなろうしな。いっそ大々的にこちらから広め、我が国の魔導技術力を世に知らしめてやろうではないか」
多額の技術提供料と、国家としての評判と。
実利も名誉も一挙両得というわけだ。
最も食いついてきたのが、商業ギルドや冒険者ギルドといった国を跨いだ大組織だった。
各支部とのやり取りが随分楽になったと喜ばれた。
私もな。
地方領主を兼任してるから、領主代行と直接話せるのは便利だしありがたい。
一度この便利さを知ってしまうと、以前の書類を送るだけのやり取りにはもう戻れんよ。
あ。
とか言ってるそばから、通信がきた。
アルからではないな。地方の領地からだ。
普及していくに伴って、この通信用魔道具は短期間のうちにどんどん改良されてゆき、今では通信コード表示機能によって出る前に相手が誰か分かる仕様になっている。
…どうした、領主代行?
なにか問題が?
えっ。
アルが……
温泉を掘り当てた!?
ちょ、どゆこと!?




