町は湧き立っていた2
そこからは、すっごく忙しかった。
でも、楽しい忙しさだった!
墓穴を掘って商機を逃したマルクスさんの旅館を去り、僕はもちろんお二人をうちの旅籠へとご案内!
外にいた他の冒険者たちもゾロゾロとくっついてきた。
すごい数だよ!
空き部屋の数は足りたかな!?って逆に心配になっちゃった。
うちに着くと、父さんと母さんが受付のところで暗い顔して深刻に話し合っていたけれど。
僕の連れてきたお客様たちに、慌てふためきつつ大喜びだった。
旅籠中が大回転でお出迎えの準備をしたよ。
まずはウェルカムドリンクってことで、ミルクを一杯。
「うまーいっ!もう一杯!」
アルさんは本当にミルク好きなんだなぁ。
おいしそうに一気飲みして、ニカーッと満面の笑顔になってた。
こんなに喜んでくれたら、僕たちも嬉しいや。
「…これは確かに品質のいいミルクだね。料理に使ってもよさそうだ」
おかわりの二杯目を飲んでるアルさんの横で、エドさんはゆっくり一杯目を味わっていた。
なんだか舌の肥えた食通っぽいコメントだったよ。
「ああ、実際こいつ味にはうるせーんだ。いいもん食って育ってるから」
「それはアルだって同じでしょ」
「俺はおまえほど細かくはねーよ」
「ねえトミーくん、後でちょっと厨房を貸してもらえないかな?作ってみたいものがあるんだ」
そう言ってエドさんが作ったのは、ヴァニラアイスっていうお菓子だった。
ミルクを使った冷たくて甘いお菓子で、僕たちもおすそ分けで食べさせてもらったけど、舌の上でとろけるあんな美味しさ初めて!
エドさんの氷魔法で冷やしたり、ヴァニラっていううちの料理人も知らなかった食材を使ったり、貴重な砂糖が大量に必要だったりで、レシピを真似してうちで出せるようなものじゃなかったのは残念だけど。
一緒に泊まってた他のお客様たちにも食後のデザートにって振る舞われて、大評判だった。
それに、夕食もすごかったんだよ!
アルさんが仕留めてきたっていうモンスターの肉を提供してくれたんだ。
なんと、キラーバイソン!
超高級肉!
美味しいことで有名だけど、だからこそお値段も超お高い!
うちの旅籠でも簡単に仕入れたりはできないやつだよ。
そもそも、凶暴な上に群れで行動するモンスターだから討伐するのが大変らしくて、食用の肉もあんまり出回らないし。
それを大きなブロック肉で、いくつも!
僕はつい、頭の中の算盤で通常の購入金額をはじき出して、そのとんでもない桁数の数値にクラっと目眩がしそうだった。
「こっ……こんな高級なものを、いいのですか!?」
申し出を受けた父さんも声が震えてた。
でもアルさんはあっけらかんと笑って、
「ああ。美味い肉だっていうから買い取りに出さないでキープしたけど、どうせ二人じゃ食べきれない量だし。美味いものはみんなで食った方が美味いじゃん」
ということで、旅籠の大食堂で大盤振る舞いになった。
超高級肉を、ありえないくらい分厚く切って、丁寧に焼き上げて。
「うめーっ!やっぱアル&エドにくっついてここに泊まってよかった!」
「あの二人、獲った肉とか気前よくみんなにも分けてくれるって噂、マジだったんだな!」
他の冒険者たちがそんなことをしゃべってるのが耳に飛び込んできた。
最初からこうなることを期待して二人にくっついてきたらしい。
冒険者もちゃっかりしてるなぁ……
苦笑することしきりの僕だけど。
僕たち旅籠の人間もまかないでキラーバイソンステーキをいただいちゃったから、あんまり人のこと言えないかな?
うちの料理人がエドさんと腕を競うようにして焼き上げたお肉は、今までの人生で一番美味しかったと言っても過言じゃなかった。
僕、この日の思い出と共に、この味を一生忘れない自信がある。
あと結局、地酒も提供することができたよ。
醸造所のおじさんが、マルクスさんに苦情を申し立ててくれたんだ。
「あんたのせいで有名冒険者に俺のところの酒を飲んでもらえねえなんて!あんたはうちを干上がらせるつもりかい!その分の損害賠償は当然してくれるんだろうなぁ!?」
有名冒険者が見向きもせず素通りした、なんて悪評が立ったら、醸造所のイメージに致命的なダメージだもんね。
醸造所のおじさんの剣幕に、マルクスさんも折れるしかなかったみたい。
第一、もう旅籠への仕入れを阻む理由もなくなっちゃってたし。
自分の失態のせいでアル&エドをうちに取られて、さしものマルクスさんも意気消沈して、抗弁する気力もなかったんだってさ。
一旦お酒が入ったら、冒険者たちは盛り上がること盛り上がること!
アルさんが追加でロックバードのお肉(これも高級!)を提供してくれて、それをエドさんが唐揚げって料理にして、みんなで食って飲んでの大騒ぎ!
「あ、この酒けっこー美味いな。樽で買うぜ。みんなで飲もう!」
「マジかー!」
「アルの兄貴マジかっけー!」
「その気風のいいとこに心底痺れる憧れるゥ!」
「す、好きだ…!」
「ねえちょっと最後に何か言ったやつ誰!?僕のアルに手を出したら処すよ!?」
「??……エドも飲んでみろよ。これ、おまえも気に入るんじゃね?」
「あのねアル、僕は今それどころじゃ…!」
「???……俺と飲むの、嫌か?」
「とんでもない喜んでいただくよっ!!!……あ、確かにまあまあだね。冷やしたらもっとよさそう」
エドさんの氷魔法で冷やした地酒はより美味しいと評判になった。
醸造所のおじさん、氷室を使っての販売ができないものかと真剣に検討し始めてたよ。
アルさんが大量買いしてくれたし、他の冒険者もまだまだ足りないってんで追加注文をポンポンしてくれたから、その夜の大食堂は記録的な売り上げとなった。
宿泊用の部屋も満室で。
夜中、経理担当の母さんが帳簿をつけながらにんまりとしてたよ……
僕も嬉しかったけど、母さん。
そのテカテカした笑顔はやめて欲しいなって思っちゃった。
冒険者ギルドからの依頼を片付けてたりして、数日後。
アル&エドは次の目的地に向かって出立していった。
できればもっと長期滞在して欲しかったけど、旅から旅の冒険者にそんな無理は言えないもんね。
アルさんは最後にまた特産品のミルクを飲んで、ご満悦で旅立っていったよ。
後日談になるけれど。
仕入れの契約をしている牧畜農家に、ニッコニコ笑顔でお礼を言われた。
なんでも、町を出ていく前にアル&エドが立ち寄って、ミルクとチーズ、それにバターを大量買いしていってくれたんだって。
それを真似て、他の冒険者や商人たちもたくさん買っていってくれて。
有名冒険者による特需利益がすっごいことになったんだってさ。
「それもこれもおたくが宣伝してくれたおかげですよ!いやー、まったくありがたい!」
「なに、同じ町の者同士。お互い持ちつ持たれつじゃないですか」
「ええまったく、その通りですなぁ。今後ともよろしくお取り引きの程を!」
父さんとそんなことしゃべりながら、終始笑顔だった牧畜農家さん。
分かるよ。
うちの旅籠も、あれから商売繁盛でウハウハなんだ。
有名冒険者が出立した後も、宿泊客が引きも切らない。
「これもおまえのおかげだ、トミー」
父さんが改まった口調で言った。
「あの日、おまえは諦めずにマルクスさんに談判しに向かった。私は無駄なことをするなと止めようとしたが……おまえの行動がなかったら、今頃うちの旅籠はどうなっていたか分からん。この旅籠の経営者として、礼を言う。本当にありがとう」
そう言って丁寧に頭を下げてきた父さんに、僕は慌ててしまった。
「そんな、父さん。僕はただ必死で、考えなしに動いちゃっただけで……」
偶然アルさんと行き合ってなければ、マルクスさんに恥をかかされるだけで終わってたんだ。
僕はあの日の行いを反省することしきりだったのに。
父さんはゆっくりと頭を振った。
「汗水を垂らして努力しない者に、商売の神様は微笑まない。最後まで諦めないおまえの姿勢が商機を掴み取ったんだ。私は教えられたよ。商人はどんな時にも粘り腰でいかないとな」
うん。
確かにね。
だけど、父さん。
どんなお客様にも誠心誠意おもてなしの心で接するっていう、父さんの教えがあったればこそ、僕はアルさんを招待できたんだよ。
やっぱり父さんはすごくて、尊敬すべき先輩商人だなって思う。
僕も大きくなったら父さんみたいな、立派な商人になりたいや。
あ、ついでに、マルクスさんだけど。
アル&エドをうちに取られたことと、悪どい手口を弄しようとしたことで、すっかり評判を落として一時期は旅館の経営が傾きかけてた。
でも割とすぐに盛り返してきたんだ。
手広くやってる流通や卸売業の方面で業績を伸ばして、それをもって宿泊業の赤字を補填して、立て直してきた。
町の特産品の乳製品や地酒の評価が上がっていたことが功を奏したみたい。
僕、マルクスさんのことやっぱり好きにはなれないけど。
あのしぶとさは純粋にすごいな、って思うよ。
彼も立派な商人ではあるんだよね。
僕も負けないよう、これからも頑張ろうっと!




