温泉!温泉!温泉ッ!2
…別に、リンさんのことが嫌いってわけじゃない。
かなり個性的な人だけど、どっちかというとサッパリした好ましい性格をしていたとも思う。
ただ、妙にアルと似通ってて、気が合ってるところが。
僕としては無性にモヤモヤするっていうか…!
武闘家同士で通じ合うものがある?
そんなの知らないし、冗談じゃないよ!
『私たち、ここの常連なのよ。温泉は美容と健康にいいし、鍛錬で疲れた体を癒やすのに効果が高いから、時々足を運んでるの』
「そっか、ここってレイクヒル共和国だもんな。リンたちの地元ってことかー」
『この宿は冒険者への配慮も行き届いてて利用しやすいしね。私たち、ポイントカードも作ってるわ』
「そんなのあったのか!?いいなー!俺たちも後で作ろうぜ、エド!」
『チェックアウトの時にもらえると思うわよ。アルたちはいつまでここにいる予定?』
「んー。まだ来たばっかりなんだよ。特に決めてなかったけど……」
僕が内心でヤキモキして歯噛みしてる間も、二人の会話はポンポンと小気味よく弾んでいる。
アル、楽しそうだ……
声だけだけど、リンさんも。
垣根越しの会話のキャッチボールは途切れることなく延々と続いていた。
なんだか面白くない…!
『ねえリンちゃん、男湯にいる相手とおしゃべりとかって、はしたないしあんまり良くないと思う。もうやめよ?』
あっ。
キリコさんも僕と同じ気持ちだったようだ。
リンさんにストップをかけようとしてくれてる。
よかった、これで…!
『えー?そこまで気にすることないんじゃない?』
「だよなー。むしろこーゆーのも風情があってよくね?」
『ねー?』
「なー?」
あ”ああああああああああああああああああッッ!!!???
リンさんのことは決して嫌いじゃない。嫌いじゃないけどっ……
すっごいイラッとモヤッとするぅぅぅぅぅッ!!!
『あ”あああああああああああ私のリンちゃん♡がぁぁぁぁぁッッ!!?』
あっ、向こうでキリコさんも発狂してる!?
分かる、分かるよその気持ち!
不本意ながら今現在世界で一番キリコさんの気持ちが分かる人間だよ僕は!
くっ…!
ここは僕も協力して加勢せねば!
「いい加減にしなよ、アル。女湯に向かって話しかけるなんて、やらしいしセクハラだよ?」
アルってば彼女欲しいとかしょっちゅうボヤいてるくせに、実際は性的なこと全般苦手なトゥーシャイシャイボーイだからね!
大げさにこれくらい言っとけば、引いてくれるだろうという目論見!
「え”っ………せ、セクハラっ……そうなのか!?」
ほらね!
顔を引きつらせて狼狽えだしてる。
ちょっと申し訳ない気はするけれど、しょうがないんだ。ゴメンね、アル。
僕と、ついでにキリコさんの幸せのためには、断固阻止しないといけないことなんだよ…!
『私は全然気にしないけどなぁ〜?』
ああもうっ!?
リンさんがまたしても余計なことをー!
『混浴で一緒に入ろうとかってのならともかく。おしゃべりくらいいいじゃない?』
こっ……
混浴だとぉぉぉぉぉッッ!?
なんてこと言い出すんだふざけるな!?
アルの綺麗でセクシーなミラクルボディを女なんかに見られてたまるもんかーーーーーッッ!!!
「は!?いやそれ、普通女の子の側が言うことじゃね!?つーか俺の……は!?なに!??」
憤りのあまり、思っていたことがつい口をついて出てしまった僕。
…後から思えば、このへんから失敗したし、雲行きのおかしな流れになっていた。
『あ、やっぱアルってそうなんだ?極上の美肉をしてるわよねー』
「び……美肉!?おまえまでなに言い出してんだリン!?」
アルがますます狼狽えていた。
一方、思いがけずリンさんが乗ってきたことに気を良くして、さらにまくし立てる僕。
分かってるじゃないかリンさん!
さすがは武闘家の慧眼ってことかな?お目が高い!
そう、僕のアルは脱いでもすごいんだよ!
シュッとしてて一見細身だけど実は筋肉の密度が高くてめっちゃくちゃ強靭だし無駄なおニクが一切ついてないから腰なんかキュッとくびれててたまらないし!美肉って表現はいかがなものかと思うけど的確ではあるかもね!構成する全てにおいて卓越した美しさがあるんだよ!
ああでもこの眼福を堪能できるのは同性である僕だけさ!
残念だったねリンさん!
『エドってアルのことになるとすっごい早口でしゃべるわね…!?』
「そこじゃねーだろ!?つーか、やめろエド!おかしなことばっか言いやがって…!?」
まだまだ!
こんなもんじゃアルの魅力は到底語り足りないよ!
「だからやめろって!?」
『くっ…!?わ、私のリンちゃん♡だってすごいんですよ!?』
むむっ!?
垣根の向こう側から、キリコさんが!?
『とても均整の取れた綺麗な体をしてますし、いつも姿勢がいいからますますカッコよく素敵に見えるんです!当然、パッと見は細くても実は筋肉だってすごいんですから…!腹筋だってバッキバキですよ!?』
『き、キリコちゃん!?急にどうしたの!?』
『だって、負けてられないじゃない!私のリンちゃん♡が世界一なのに!』
『そ……そうね!天才武闘家としてはアルに負けてられないわ!』
「おおおおいッ!?おまえらまで張り合ってくんな!?収集つかなくなっちゃうだろ!?」
くっ!
負けられないのはこっちだって同じさ!
腹筋くらいアルだって!シックスパックなんていうけどそれよりもっとたくさん割れてるよ!バッキバキだよ!!
ほら、触ってもすっごい固いし…!
「ギャーッ!?ドサマギでおまえっ……どこ触ってんだやめろ!?」
おへその形だってこんなに綺麗だし!
「だからー!?」
背が高くて手足も長いし!まるで天才芸術家が魂を込めて創り上げた彫刻像のような理想的な肉体なんだから!
『そんなのリンちゃんだって!全体的に引き締まってますけど出るところは出てる理想的な体つきですよ!ボンキュッボンのダイナマイトバディですよ!ほら、胸だってこんな……』
『きゃッ!?……ちょ、キリコちゃんいきなりそれは……く、くすぐったいわよ…!?』
『いいじゃないちょっとくらい!リンちゃんってお肌すべすべで触り心地がいいんだもんっ!』
『えっ……しょ、しょうがないなぁ…!?』
そんなのアルだって!
「ヒェッ!?……や、やめっ……マジで…!!?」
あっちはあんなにイチャイチャしてるんだよ!
僕たちだって負けてられない!
『こっちのセリフですよ!』
『仲良しアピール対決…?ま、まあいいわ!受けて立つわよ!』
『それでこそ私のリンちゃん♡』
ほらっ、アルも!
安心して僕に身を任せて、楽にして…!
「安心できるかぁぁぁぁぁ!!???……………アッ」
あっ。
…♡♡♡
『えっ、なに?なにかあったの?……今の妙にアレな声って、まさかアル?』
『くぅッ!!?やりますね、エドさんッッ!!』
ふふふふふそうだろうふふふふふ♡
ちょっと手が滑っちゃったけど……結果オーライ!
アルってばここがいいんだぁ♡
じゃあもっと触ってあげなくちゃふふふふふふふふふふ♡
「い………」
ふふふふふふふふふふふふふ♡
「いーかげんにしろーーーーーッッ!!!!!」
ごぼんッッ
そこで僕の意識は一旦途切れた。
次に気付いた時には、頭にでっかいタンコブができてて、温泉の湯船にぷかぷか浮かんでた。
傍には、赤鬼みたいな形相のアル。
でもちょっと涙目になってたりする。
回復魔法でサッとダメージを癒すと同時に、僕は急速に冷静になった。
やりすぎた…!
ご、ごめんね、アル?
ちょっと調子に乗りすぎちゃった……
「〜〜〜〜〜温泉から上がれ!おまえらもだ、リン!キリコ!徹底的に説教してやる!!」
***
…というのが、ことの顛末さ。
うん。
全面的に僕たちが悪い。
男湯にも女湯にも他に人は来なかったけど、だからって公共の場所でやっていい範疇を越えちゃってた。反省。
騒ぐ声がうるさかったのか、宿の人にも注意されちゃったし。
「あんまり温泉ではしゃがないでくださいね…!?」
「すみません……」
アルが代表して頭を下げて謝ってくれた。
僕たちを廊下に正座させたままだったからだろうけど。本当はアル、止めようとしてた側なのにね。
重ね重ね、悪いことしちゃったよ。
「……本当に反省したんだろうな!?」
もちろんだよ!
信じてよ、アル!
「私も……アルに対抗しようとしてちょっと暴走してたわ。反省してる」
「リンちゃんが謝ることなんてないよ!?私が始めたことだったんだから…!」
「おまえらの場合……なんつーか、本当に気をつけろよな。男女差別はダメっつーけど、きちんとした区別やケジメは必要なんだから」
アルはやっぱり人がいい。
リンさんやキリコさんのことは心配して、真摯に忠告してあげている。
確かに、妙齢の女性としてはあるまじき振る舞いだったもんね。垣根の向こうの様子はもちろん見えなかったけど、声だけでも男湯側に伝えていい情報ではなかった。
項垂れる僕たちを腰に手を当てたポーズで眺め下ろして、アルが大きく溜息をついた。
「もう二度とあんなことすんなって約束しろよ。そしたら、水に流してやるから」
僕たちはコクコクと何度も頷いた。
あっ、じゃあもう立っても…?
「いいよ」
やった!
アルからのお許しが出たので、僕は早速立ち上がろうとし……
…即座に撃沈した。
あ、足がっ!?
足が痺れてっ…!
横を見るとリンさんとキリコさんも僕と似たような格好で突っ伏して呻いてる。
「うひぃんっ……なにこれー!?」
「聞いたことがあるわ。長時間こーいう座り方をすると神経や血管が圧迫されて痛痒感を伴う痺れが……ああああほんとに痛痒いッ!?」
よく考えたら、回復魔法を使えばよかったんだけどね。
咄嗟に僕もキリコさんもそこには考えが至らず、痺れが取れるまでしばらく悶絶するハメになった。
それを見て、アルがやっと機嫌を直したように笑ってた。
「天罰覿面」だってさ。
ほんと、悪いことはするもんじゃないよ……
反省した僕たちは、改めて温泉に入り直した。
いいお湯だった。
温泉宿も正しく楽しんで、ひとしきり堪能したよ。
売店にあった冷えたミルクを買い求めて湯上がりに飲んだり。
卓球と似たような室内ゲームがあったから、ダブルスで対戦して遊んだり。
…まあ最終的にはアルとリンさんの一騎打ちみたいになってたけどね。
僕だって結構運動できる方のはずなのに。
あの二人は規格外すぎるよ……
意外だったのは、卓球モドキではリンさんに軍配が上がったこと。
パワータイプのアルよりも、手数が多くて狙いがより正確なリンさんの方がこういうゲームは得意みたい。
「ふふんっ!どーよ、アル!!」
「さっすが私のリンちゃん♡カッコいいっ♡」
「くっそー!もっかいだ!もっかい勝負だ、リン!」
「いいわよ!何度でも返り討ちにしてあげるわ!」
「次こそ勝つ!」
「頑張って、アル!!」
なんだかんだで盛り上がってはしゃいじゃった。
動いたら汗を掻いたから、また温泉に。
上がったらもう遅い時刻になってたので、旅籠の食事処でみんなでご飯を食べて乾杯して……
うん。
楽しかったな。
リンさんとキリコさんは次の日に先にチェックアウトしていったけど。
僕とアルはもうしばらく逗留して、十二分に温泉を満喫した。
ねえ、アル。
また来ようね♡
「えー?……温泉は好きだけど、おまえと一緒に入るとなんかゾワゾワするしなぁ……」
あ、宿の人がなにかくれたよ。
ポイントカードだって。
10ポイント集めると特別な湯殿にご招待、だってさ。
「マジで!?じゃあまた来なくっちゃな!!」
やったね♡
この宿のサービスは本当に行き届いていて良かったよ。
リンさんやキリコさんと一緒なのも楽しかったけど。
次は完全にアルと二人っきりがいいな…♡
そんなことを思いつつ、僕たちは温泉街を後にした。
さあ、冒険の旅の続きだ。
今度はどこに行こうかな?
女武闘家のみ、ここに存在するのが純粋な友情だけだって信じてる。
たぶん前世のたろーちゃんもこんな感じで激ニブかった。
個人的に、戦う系女子はどんなに可愛くてもきっちり腹筋割れてて欲しいと思う派です。




