温泉!温泉!温泉ッ!1
やあ、エドだよ。
こんなところから失礼するね。
…うん。
今日チェックインした宿屋の廊下に正座させられてるんだ。
目の前には顔を真っ赤にして激怒したアル。
アルは怒った顔も可愛い♡
…でも、僕はこういうお仕置き的なシュチュエーションの特殊プレイは趣味じゃないんだけどなぁ。
そろそろ足が痺れてきたよ。
ねえ、足を崩しちゃ……
「ダメに決まってんだろ」
ううっ。
すかさず却下されちゃった。
アルは優しいからいつもは割とすぐ許してくれるのに。
今日の君は一味違うね…!?
「うぐぐぐっ………不覚っ…!!!」
「な、なんで私たちまで…!?」
ああ、ほら。
僕と連座してるリンさんとキリコさんも辛そうだよ。
女の子にまでこんな当たりが強いだなんて、やっぱり今日のアルはちょっとおかしい。
どうしちゃったの?
「あーのーなー!!!」
こてっと首を傾げてみせる僕に、アルが険しい形相で凄んできた。
仁王立ちから腰に手を当ててズイッと威圧してくる様は、本当に迫力がある。
怖い、……って、怖がるべきなんだろうけど。
で、でも、それよりも…!
近いっ…♡
僕にとってはご褒美だよっ♡ハァハァ♡
「おい分かってんのかおまえら!……特にエド!」
あっ。
興奮してたら、アルをますます怒らせちゃったみたい。
名指しで叱られちゃった。
「俺は本気で怒ってんだからな!?少しは真面目に反省しろ!!」
う、うん……
ゴメンね、アル?
さすがに僕も調子に乗りすぎたとは思ってるんだ。
リンさんとキリコさんも、気まずげに視線を逸らしつつ項垂れている。
アルがこんなに怒るのはもっともなんだよ。
さっき僕たち、揃ってやらかしちゃったから……
***
少し遡って、経緯を話そう。
高難易度ダンジョン『熱波の彼岸窟』を無事に攻略した僕とアル。
冒険者ギルドに報告した後、アルはすぐまた他のダンジョンへ向けて旅立とうとした。
でも、僕がそれに待ったをかけた。
ここはフィード大山脈の火山地帯。
火山といえば?
そう、温泉だよ!
このへんには温泉が湧いてるんじゃないかな!?
せっかく来たんだし、温泉に入っていこうよ!!
「ええ〜…?なんかあからさまに下心が透けて見えるから嫌なんだけど」
アルは最初乗り気じゃなかった。
顔をしかめて速攻で断ろうとしてきた。
しかし、僕だって簡単には引き下がれない!
だって!……!!!
つい数日前のことだ。
なんやかんやあって、僕は成り行きでアルと一緒にお風呂に入ることができたんだ。
分かるだろ?
絶好の機会だよ!
なんの?……とかって野暮な質問はナシだよ!
もう今世紀最大級の大チャンスだったんだ!!
なのに、嗚呼っ……なのにッ!!!
僕はそのチャンスをものにできなかった。
魔力枯渇寸前で疲れ果てていて、湯船の中で寝落ちしちゃったんだ。
な、なな、なーんてもったいないッ…!
寝てしまった僕のことはアルが面倒見てくれて、ベッドまで運んでくれたようだけど。
目が覚めて、愕然とした。
もう血涙を流さんばかりの大後悔だよ!
湯船でのアルの姿も十分に堪能できなかった!
僕はもう本当に、悔しくて、悔しくて…!
だからっ!!
リベンジだ!!
今度こそしっかりと意識を保ってアルと一緒にお風呂に入る!!
温泉はそのいい口実なんだ。
あ、もちろん普通に好きだけどね。温泉。
ねえ、いいだろアル。
アルだって好きだろ、温泉。
健康にもいいし、サッパリしたいだろ。
ねえ、ねえ、ねえ!!!
「あ、圧がすごい…!?」
必死の僕に、アルがドン引きしてた気もするけど、きっと気のせいだよ!
僕はさらに畳み掛けた。
ねえ、ねえ、ねえ!……
「わ、分かったよ。おまえ綺麗好きだもんな。そこまで言うなら……」
やった…!
ありがとうアル!
やっぱりアルは優しいなぁ♡
「ま、おまえの言う通り俺も好きだし。温泉」
そうと決まったら、膳は急げだ!
あてもなく探したりするのは効率が悪い。
僕は冒険者ギルドの受付カウンターで、このへんに温泉がないかって尋ねてみた。
こういう情報はなんといっても地元民に確認するのが一番だからね!
ところが、
「え、温泉ですか?このへんに人間の入れる温泉はないですよ?」
なーんーだーとー!!???
「ヒッ!?……いやそんなおっかない顔されたって、ないもんはないですよ!しょうがないじゃないですかぁ!?」
本当だろうな!?
受付カウンターで対応に出たのは、以前適当なこと言って僕たちに迷惑をかけた新米ギルド職員だった。
またいい加減なこと言ってるなら、承知しないぞ!?
「ほ、本当ですってば……正確には、温泉自体はポツポツあるんですけどね?火山からの有毒ガスまで一緒に湧いてたり、高ランクのモンスターがしょっちゅう入り浸ってたりで、人間の利用は無理なんですよ」
むむっ…!
具体例まで出してくるとは、今度はきちんとした情報のようだな。
でも、有毒ガスは無理だけど、高ランクモンスターくらいだったら。
僕とアルなら、たぶん討伐できるし。大丈夫じゃないかな?
「いやいやいや……ここ、火系のモンスターが多いでしょ?出没する種類の一例を挙げるとですね……」
・マグマロイド
溶岩モンスター。温泉に飛び込まれると一瞬で湯が沸騰する。
・フレアエイプ
炎をまとった猿っぽいモンスター。熱めの風呂好きで温泉をすぐ沸騰させたがる。
・バンバンウルフ
火属性の狼型モンスター。体を煮沸消毒する習性があり、温泉をすぐ(以下略)
…な、なんてこったー!?
どいつもこいつも、温泉沸騰させすぎィー!?
「ね、無理でしょ?うっかり一匹でも侵入されたら、茹で上がってお陀仏ですよ。そんなんじゃのんびり温泉を楽しめないでしょー?」
うぐぐぐっ!?
悔しいが、その通りだ…!
「あーあ、んじゃあやっぱナシだな。残念だけど」
アルがどこかホッとしたように言った。
そんなっ…!
僕とアルの、嬉し恥ずかし一緒に温泉でほんわかぱっぱ♡なドリームがっ…!?
「ほら、もう行こうぜエド。ギルドの人をあんまり困らせるなって」
ううっ……
僕はしょんぼりと項垂れて、受付カウンターから離れようとした。
そしたら、
「あ、そんなに温泉がお好きでしたら……」
あの新米ギルド職員。
僕たちに散々迷惑をかけたけど、最後の最後ですっごくいいことを教えてくれた!
「ちょっと距離はありますけど、有名な温泉街があるんですよ。よかったら行ってみたらどうです?」
大ファインプレーだよ!新米くん!
僕の彼に対する評価が一瞬でうなぎ登りに上がった。
これからもお仕事頑張ってね!
というわけで、教えられた町に来てみたよ!
地図上の位置からすると、もう帝国ではなくレイクヒル共和国に入っているね。
火山地帯からは結構離れてるから、火山とは関係ない深層地下水型の温泉なのかな?
あ、移動はもちろんワイバーンで。
空からだとすぐの距離だった。
僕たちのワイバーンだけど、レッドドラゴン戦の時に冒険者ギルドにも存在を知られちゃったから、テイムモンスターってことにして正式に従魔登録を済ませておいたんだ。
「まさかAランクモンスターを従魔にだなんて……絶対に人を襲ったりしないようにしっかり躾けてくださいね!?」
って心配もされちゃったけど。
大丈夫。
チカラとワザは、本当はダンジョンコアを通して僕が制御してるモンスターだから。勝手に暴れる心配はないよ。
ってことで、人里近くまで堂々とワイバーンで乗り付けられるようになった。
「隠す必要がないって楽ちんだし気持ちも軽くなるよな。もっと早くギルドに登録しとけばよかったぜ!」
確かにね。
ダンジョンコアのことが明るみになることを危惧して今まで隠してきたけれど、幸いなことに普通のテイムモンスターと見分けはつかないみたいだし。
実はサイモンの研究成果だってバレずに済むなら、アルの言う通り早めに登録しとけばよかったかも。
とはいえ、ワイバーンは町中までは連れていけない。大きくて邪魔だし、こんなのが低空飛行で道路の上をバサバサ飛んでたら一般の住民を怯えさせてしまう。
検問所のところでワイバーンたちとは一旦別れて、僕とアルだけで温泉街に入った。
全体に独特の匂いが漂っている町だ。
硫黄とかの匂いかな?
異世界の温泉成分がどうなってるのかも少し気になる。
そして、町に入ってすぐの大通りに立ち並ぶ、数々の温泉宿!
どこがいいかな……と目移りするけど、どっちにしろお一見さんの僕たちには良し悪しは分からないからね。
こういう時は、アルが直感で選ぶ宿にするって決めている。大体外れないんだ。
「あ!ここにしようぜ!」
そう言ってアルが指差したのは、大通りの中程にある割と古めかしい旅籠だった。
なかなか雰囲気があって、よさそうだ。
年季の入った建物でも手入れが行き届いていて清潔な印象だし。
フロントでチェックインを済ませ、部屋に手荷物を置いてから、僕たちは早速温泉へと向かった。
この宿、内湯と外湯の両方がある。
天気もいいことだし、外湯を利用することにした。
チェックインの時間が早かったおかげか、他の利用客の姿はない。
僕とアルだけ。貸し切り状態だった。
ああっ…♡
念願の、アルとの温泉っ…♡
「……一応言っとくけど。変な気は起こすなよ」
もちろんだよ、アル!
僕はニッコニコの笑顔で頷きつつ、アルの姿を凝視。
こう言っちゃなんだけど、アルの体って贔屓目抜きにしてすごく綺麗で見応えがあるんだよね…♡
非常に均整の取れた美しい体つきをしている。
日々鍛えてるためだろう。
無駄なおニクの一切ついてない引き締まった腰のあたりとか、もう、もうっ…♡
それが、惜しげもなく僕の目の前に…!
な、なんという眼福っ…!!
「うあー!温泉、やっぱ気持ちいーなー」
体を流してから湯に浸かり、ふにゃっと表情を緩めてるアル。
ほのかに色づいた素肌がセクシー。
これで本人に自覚がないんだから、ある種罪作りだよ!
この世界にえっち警察があったらセクシー罪で逮捕待ったなしさ!
一緒の湯船に浸かりながら、僕はうっかり鼻血を出したりしないよう気をつけなくちゃいけなかった。
温泉の湯加減はちょうど良かったけど。
アルの魅力には早々とのぼせちゃいそうだよぉ…♡
「……………おいエド。そんなにガン見してくんなよ」
えー!?別にいいじゃないか!
男同士で隠すことなんてなにもないだろ!?
「そりゃ普通ならそーだけど!なんつーか……さっきから背筋がゾワゾワってすんだよ!落ち着いて湯に浸かれないだろ!?」
えっそんな。
まだ記憶にしっかり焼き付けてるだけの段階で、視姦まではしてないのに…!?
「だぁぁぁッ!?そんなやべーワードが飛び出してくる時点でアウトなんだよ!おまえってやつは本当にーーー」
アルが、大声でそんなことを喚いている時だった。
『…えっ?……その声、もしかしてアル?』
外湯の露天風呂は、竹垣みたいなもので男湯と女湯に分けられていたんだけれど。
その竹垣の向こう側から、聞き覚えのある声がした。
アルが思わずといった様子で口を閉ざし、僕と顔を見合わせてくる。
僕は、……正直、ちょっと渋面になってたと思う。
あの、声。
「なあ、そっちにいるの、リンか?」
『そーよ!って、やっぱりアルなのね!』
「ああ!エドも一緒だぜ!」
『私ももちろんキリコちゃんと一緒よ!なんだ、奇遇ねーあんたたち!』
「本当だな!」
アルが嬉しそうに受け応えてることにも、苦々しい気持ちになってしまう。
垣根の向こう側。
女湯には、いつだったか会ったことのある二人。女武闘家リンと、魔法使いのキリコが来ていたのだった。




