ランクアップ!
赤褐色のドアを通って、再び『熱波の彼岸窟』に戻ってきた俺たち。
この次元ゲートってやつ、本当に便利だよな。
サウザンド王国から、帝国内の火山地帯のダンジョンまで。
かなりの距離も障害もあるのに、まるっと無視して直通なんだから。
エドがダンジョンコアを操作して、次元ゲートを『熱波の彼岸窟』の出入り口付近へと持ってきたから、さらにショートカットできる。
最下層までは11日も掛かったが、帰り道はほぼ一瞬で、俺たちは地上への帰還を果たしたのだった。
戻ったら、兎にも角にも冒険者ギルドに帰還報告だ。
特例でかなり無理してダンジョンの入場許可をもらってたから、あのダンディ口髭のギルマス、気を揉んでいるだろうし。
俺たちの無事な姿を見せて、早く安心させてやろう。
と、最寄りの町に入り、冒険者ギルドのスイングドアを潜った。
そのとたん、
「申し訳ありませんっしたぁぁぁぁぁッッ!!!」
俺たちの前に、いきなりジャンビング土下座でズザザザーッッ!と飛び出してきた奴が!?
え”!?
何事!?
って、よく見たら最初に対応してくれたギルド職員さんじゃん。まだ採用されたばっかだったっていう、ド新米の。
俺たちの対応、途中からギルマスがバトンタッチしてたから。その後は見かけなかったけど。
…まあ、叱られてたんだろーな。
俺たちには見えないバックヤードの方で。
そんで、以前の非礼を今更ながらに詫び入れてきてるってところか。
ギルマスからも謝罪してもらったし、もう気にしてないのに。
苦笑して立たせてやろうとした俺だったが、
「いえいえいえいえっ!最短記録でBランクまで駆け上がったあなた方に対して本当に無礼千万ぶっこいてしまって…!……これくらいしないと俺の気が済みません!!」
…ん??
「つーかしっかり謝ってケジメつけとかないと安心できないってゆーか…!どうか、許すって言ってもらえませんか!?この通り!後生ですから!!」
ああ、うん。
それは別にいいけど。
許すけど。
「あざーーーーーっす!!!」
現金だな、このギルド職員さん。
もうガバっと頭を上げて、満面の笑顔だ。
って、そんなことより!
今、なんつった?
俺たちが、Bランク?
………。
またフカシこいてんじゃねーだろうな…?
今度はマジだった。
疑って悪かったなって思うけど、あのギルド職員さんには前科があるんだからしょーがないよな。
受付カウンターでダンジョンからの帰還手続きをしているところ、ギルマスがやってきてきちんと説明してくれた。また以前の奥の部屋へと通されてから、
「ああ、間違いなくあんたらはBランクに昇格だ。特例で」
また特例……
大丈夫なのか、それ?
ダンジョンへの入場許可だってかなり無理してもらったのに。
「あ、いや。そもそも、そのダンジョンへの入場許可の特例を出すための緊急措置でな」
ギルマスいわく。
本来、Bランクに上がるにはいくつか厳しい条件がある。
その中に、冒険者登録をしてから最低でも一年以上は経過していないといけない、って条項があった。
俺たちはこれに引っかかって、今まで昇格できなかったんだって。
その他の、実力とか貢献度なんかは、余裕でクリアしてたんだってさ。
「各地のギルドマスターのうち、少なくとも三名以上から認められる必要もあるが。これも、問題なかった。あんたらは本当にこの短期間で、大きくギルドや地域社会に貢献してくれている」
しかし、時間ばっかりはどうしょうもない。
どうして一年以上なんて期間が設定されてるのかと聞いてみると、ギルマスは渋い顔で、
「時間を掛けて人間性を見極めるためだが……ぶっちゃけ、冒険者の身分ってのは隠れ蓑に使われることもあるからな。登録してすぐの奴に高ランクの権限を付与するのは何かと危険なんだ」
諜報員とか、犯罪者が、正体を隠すために冒険者登録をすることがあるんだと。
出自を問わない冒険者って職業ならではの問題点なんだな……
「ただし、何事にも抜け道はある。五名以上のギルドマスターが推挙した場合、一年未満の駆け出しでもBランク以上に昇格できるって特例が」
おおっ!
じゃあ俺たちもそれで…?
ギルマスは大きく頷いた。
「無論、簡単なことじゃない。条件は輪をかけて厳しくなる。ギルドマスターの推挙ってのも、俺たちの自己判断だけじゃダメなんだ。確かな実績に基づくきちんとした根拠が必要になってくる」
きちんとした根拠。
冒険者として、飛び抜けた功績を挙げた、っていう客観的な事実とセットじゃないと推挙できないという。
俺たちの場合、四名まではすぐ集まった。
一人はラージラージャナーガ討伐を報告したあのじっちゃんギルマス。
それから、レオンハート王国とサウザンド王国それぞれの王都のギルマス。王城からの難しい依頼をこなしてくれたってのが根拠とできるそうな。
「そしてもちろん、この俺だ。第一級厄災指定モンスターのレッドドラゴンを討伐してくれたんだから、当然だ」
じっちゃんギルマスと同じ理由ってことだな。
ここまでは問題なかった。
だが、あと一人がなかなか見つからない。
「個人的には認めてるって奴はそれこそいくらでもいたんだが……飛び抜けた功績って条件が、なかなかな」
普通のクエスト達成くらいじゃ認められないんだって。
なるほど、厳しいな。
でも、結局俺たちBランクに昇格できたってことは…?
「最後に推挙したのは、ロビンソンのやつだ。あんたら、ダンジョンの中で会ったそうだな。あいつはしばらく前に戻ってきてとっくに旅立っていっちまったが、わけを話したら秒で推挙してくれたぜ」
おおっ!
ロビンソンさんか!
ほんの少し関わっただけの俺たちのために便宜を図ってくれたとは。
やっぱめっちゃいい人だなぁ!
「いや、あんたら命の恩人だろ。しかも高難易度ダンジョンの中層階で貴重な食料を惜しげもなく分けてくれたそうじゃないか。あいつじゃなくても、誰だって推挙するさ」
そうか?
あーいう時はお互い様なんだから、普通のことだと思うけどな。
「素でそう思えるあんたらだからこそ、俺たちも安心して推挙できるってもんだ。ロビンソンのやつもな……ほれ、なんだ、性格的にちょっとアレなところはあるが、人を見る目は確かだからな」
ロビンソンさんは現役ギルマスにして元Sランク冒険者。
冒険者ギルドにとって貴重な人材の窮地を救ったってことで、飛び抜けた功績にも当てはまる。
俺たちは晴れてBランクに昇格ってわけだ。
「で、冒険者のパーティランクってのは、構成メンバーの個人ランクと同等かひとつ上くらいと見做すんだ。つまり、あんたらは個人ではBランクだが、パーティではAランク相当ってことで、『熱波の彼岸窟』の入場条件をクリアしたってことにできるのさ」
なるほど、それで……
………。
いや、ちょっとおかしくね?
俺たちがダンジョンに潜った後で、Aランクパーティに昇格したってことだろ?
順番的に、つじつまが合わないんじゃ……
「まあ厳密に言えばそうなんだがな。その程度の誤差だったら、なんとか許容範囲内だ」
そ、そーなのか…!?
厳しいのか緩いのか、よく分からねーな。冒険者ギルド。
「まぁそう言うな。あんたらみたいな規格外の冒険者は滅多にいないんだからな。こっちもイレギュラーケースとして柔軟な対応が必要になるんだよ」
一通りの説明を終えて、ギルマスはにかっと笑って言った。
「これからも一層の活躍を期待してるぜ、アル&エド!」
というわけで、ダンジョン攻略のオマケに冒険者ランクアップもついてきたぜ。
これで受注できるクエストの範囲も広がるし、ギルドが管理している他のダンジョンにも入りやすくなる。
通信用魔道具は完成したんだから、もうダンジョン攻略に拘る必要もないが。
「せっかくだ。世界中のダンジョンコンプリート目指そうぜ!」
「………そうだね。ダンジョンコアの制御や出現する次元ゲートの謎……僕にとっても気になることが多いから。いいよ、やろう」
「よっしゃ!」
ランクアップにはしゃぎ、張り切る俺は、この時は気付かなかった。
エドが随分と深刻そうに考え込んでいたってことに。
相棒なのに。
ずっと一緒にいる友達なのに。
不覚にも、気付かなかったんだ……
「ところで各地のギルマスの推挙って、どうやって確認したんだろうな?」
「冒険者ギルドでも役所と同じように一般的な通信用魔道具を扱っているはずだから、それでやり取りしたんだろうね」
「あの異世界版FAXでかよ。……うへぇ。めっちゃ大変そうだし不便じゃん」
サイモンさんが作ってくれた映像や音声も通信できる魔道具。
早く普及するといいよな。




