行き倒れ2
ロビンソンのダンジョンクッキング〜☆
イェーイ!パチパチパチパチー!
「なんか始まった!?」
「まずは食材の現地調達だ。ここならファイヤードードーとかサラマンダーがオススメだぜ」
「ツッコミは無視かよ!?」
「まあまあ、なんだか役立つことを教えてくれるみたいだし。大人しく聞いてみよう」
「いーけど……あの常に燃えてる鳥とかトカゲだろ?あんなのどーやって食うんだよ?」
「やり方を知ってりゃ簡単さ。もしどっちか持ってたら、実演してやるが……」
「今までのは倒してもそのままにしちゃってたよね?」
「うん。だって倒した後も燃えてたし……」
「えー!?せっかく次元収納があるのに拾ってこなかったのか!?もったいねえ!」
どっちも高級肉だぞ!?
というか、肉以外の素材も結構な値がつくはずだ。
高難易度のダンジョン『熱波の彼岸窟』は出現モンスターも高ランクで、それだけに希少素材になるからな。
「そーだったのか……なんかすっげー気になってきた。俺、ちょっと行って獲ってくる!」
「あっおい!?そんな、一人で…!?」
「アルなら大丈夫だよ。それより、何か準備しておくことは?」
「お、おおっ……んじゃあ大鍋に水を張っておいてだな……」
「湯を沸かすの?」
「いや、水のままでいい。ただしたっぷりと」
俺とエドで簡単な準備をしている間に、一人でセーフティーゾーンから飛び出して行ったアルが早くも戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、アル」
片手で無造作に、サラマンダーの尻尾を掴んでズルズルと引き摺ってきてる。
もう討伐してきたのかよ。早っ!
ってゆーか、そんな雑な運び方して…!?
皮に傷がついたら素材の価値が下がっちまうぞ?
「だってこいつ全身火に覆われて燃えてるじゃん。あんまガッツリ掴むと熱いんだよ」
「いやそれ僕からしたらちょっとでも直接触れるのが凄いし不思議なんだけど。よく火傷しないよね?」
「なんか気を張ってると我慢できる感じなんだ」
「どーいうことだろ…?」
「おまえら……そんなことも知らないで『熱波の彼岸窟』に挑んでたのか…!?」
呆れる俺。
二人揃ってこっちを見てきたので、ついでに教えてやった。
「剣士や武闘家といった戦闘職は、一定以上の強さに至ると闘気を練って繰り出すことができる」
「あ、それは知ってる」
「アルは得意だもんね」
「基本はそれと同じ理屈だ。闘気の練度がさらに高まると、平時でも無意識に微弱なオーラを全身にまとってオート防御してるような状態になるんだ」
「そっか、だから火傷しないのか」
「火だけじゃなくて、毒や麻痺といった状態異常にもある程度有効なはずだぜ」
「へえー。知らなかった」
「…普通は、火耐性が上がったと確信してからじゃねーと、この『熱波の彼岸窟』にゃ挑んだりしないもんだけどな。闘気によるオート防御がなけりゃ、ただ移動するのだって覚束ねえだろ?」
「じゃあエドは?」
「魔法使いも同様に、一定以上の強さになれば魔法耐性がついてくもんだ。地水風火のエレメンタルへの耐性もそこに含まれる」
「僕も剣の腕には多少覚えがあるんだけど……」
「剣士としてだけの評価だったら、エドはまだここに挑戦するのは時期尚早ってところだな」
魔法の才能が突出しすぎているせいかもしれないが、闘気のオーラをオートでまとえてる感じはしない。
そう告げると、エドはむうっと唇を尖らせて面白くなさそうな顔をした。
…魔法使いとしてこんだけ強けりゃ、別にいいんじゃって思うんだけどな。プライド高いな、王子様は……おっと。
「ま、とにかく。モンスターと対峙する時はどうしたって気を張るもんだろ?無意識のオート防御もその分強まるから、肉弾戦で攻撃もできるし、今のアルみたいに素手でサラマンダーを掴むこともできるってわけさ。今度からそのへんのところを意識してやってみな、より効果が高まるはずだぜ」
「分かった。すっげーためになること教えてくれて、ありがとな!」
「いいってことよ」
さて、寄り道の話がだいぶ長くなった。
サラマンダーの調理に戻るぞ。
「まずは解体だな。皮を剥いで素肉にするのが理想だが……本職の解体業者じゃねーし、ダンジョン内でまどろっこしいこともしてられねえ。ここは皮付きのまま、ぶつ切りでいいぞ」
「よっし、分かった任せろ!」
ぶっちー!!!
アルが素手でサラマンダーの尻尾をもいだ。
…って。
「おいいいいいいいッッ!?」
「え?なんかダメだった?ぶつ切りでいいってゆーから、これでいいのかと……」
「そりゃ言ったけどさ!?」
まさか力任せに引きちぎるとは思わねーじゃん!?
その腰に下げてる剣は飾りか!?
素手でいくとか、おまえは文明を知らない蛮族かっつの!
「だって……なんか俺、素手の方が力が出るっぽいし……」
「あー、剣士より武闘家の適正のが高いんだよおまえ。でもな、だからって……」
「それにロビンソンさんに言われた通り、意識してやってみるとガッツリ触っても平気になったから。別にいっかなって……」
「教えたことすぐ実行に移してくれたんだなありがとう!?」
良くも悪くも素直な奴だなぁ!?
「あと別に力任せにもいだわけじゃねーぞ」
「どゆこと!?」
「トカゲの尻尾は簡単に取れるようになってるだろ?」
「普通のトカゲならそうだけど…!?」
サラマンダーもそうだっけ!?
いかん、あまりのことに混乱してわけ分からなくなってきた!
「尻尾だけ切り離してもまだ燃えてるね」
「この後はどーすんだ?」
「あ、ああ……まだ大きすぎる。鍋に収まるサイズにするんだ」
「分かった!」
スッパー!
「ってまたかよぉぉぉぉッ!?」
言ったそばから、まーた素手で!?
びろーんと長い尻尾を地面に置いて、闘気をまとった手刀でスパスパスパッて…
まあっ素敵な切れ味ですねー♡
…とかゆーわけねーだろっ!
だから剣を下げてる意味は!?
「だってさ……よくよく考えたら武器を調理に使うのって衛生的にどーなかって……」
「だったら包丁とか!大鍋持ってきてるくらいなんだから持ってるだろ!?」
「普通の包丁でこんなモンスター切れるかぁ?」
「そこは闘気をまとわせて……」
「んじゃ手刀でやっても同じじゃん」
「アルがいれば包丁いらずだね♡」
物事に囚われない若者らしい柔軟な発想!?
お、俺が気にしすぎなだけなのか……
結局アルが尻尾だけじゃなく本体まで全部手刀でぶつ切りにした。
切り口がかなり大雑把だったのは御愛嬌、だな。
「よし、そしたら水を張った大鍋に肉の塊を……そーだな、これくらいの大きさが適量だ。こいつをそのまま、ドボンとぶち込む」
ドボンっ
「するとサラマンダーの肉に含まれる火のエレメンタルの効果で、水が煮立って熱湯になる」
「おおっ……本当だ、グツグツしてきた」
「あとはしばらく待つ」
「どれくらい待つんだ?」
「水が全部蒸発してなくなるくらいが目安だ。相克関係にある水と火のエレメンタルが打ち消し合って、サラマンダーとか火系モンスターの肉も普通に処理できる状態になる」
「すごい湯気なんだけど……」
「蒸し暑いな!」
「まあそこは我慢だな」
「ええ〜…」
「あ、でももうほとんど水がなくなったね」
「属性モンスターの含有するエレメンタルってのは、それくらい強力ってこった。ん、よし。これで普通の肉と同じ状態になったぜ。あとは適当に切って煮てよし焼いてよしだ」
「既に煮えてるんじゃ…?」
「いや、今の状態でほぼ生肉と同程度だ。そのまま食ったら腹を下すぞ」
「じゃあしっかり熱を通さないと!アルがお腹壊したりしたら大変だよ!」
「なんだ、エドはアルのかーちゃんみてーだな」
笑う俺に、エドが真顔で言い返してきた。
「違うよ。運命の恋人さっ!」
ごんっ!
…即アルにぶん殴られて、たんこぶのできた頭を抱えて呻いてた。
「冒険者パーティの仲間だ。それ以上でもそれ以外でもない!」
俺に向かって、アルが断言。
いや別に、そんな必死こいて訂正せんでも。
「俺ぁそーいうのに偏見ねえから安心しな」
「だから違うんだって…!」
「ふふっ、アルは照れ屋さんなんだから♡」
「おまえはちょっと黙ってろ!?」
「若いってなぁ、いーよなぁ……」
「だから違うんだってロビンソンさん!マジで!なあ聞いてるか俺のこの血を吐くよーな魂の叫び!?」
「ま、ともかく肉をどうするかだが。とりあえず鱗のついた皮の部分は食えねーから剥がす」
「ううっ……分かってくれてんのかなぁ…!?」
「火のエレメンタルが抜けきった状態なら、手でも簡単に剥げるぜ。代わりに素材としての価値はなくなるから、買い取りに出したい時は注意しな」
「なるほど」
ここまで来たら、後は簡単だ。
『熱波の彼岸窟』はそのへんに焼けた石ころがゴロゴロ転がってるから、それを集めて熱源にして、ちょうどいいサイズに切った肉を煮るか焼くか。
アルが焼き肉を所望したので、今回はフライパンで焼くことになった。
…大鍋の他にそんなものまで。
いくら次元収納があるとはいえ、エドは随分と調理にこだわりがあるみたいだ。各種調理器具を取り揃えて持ってきてやがる。
普通の冒険者が携帯するのはせいぜい鍋一個と包丁もしくはナイフ一本くらいなのにな。調理には鍋をひっくり返して鍋底を俎板代わりにしたりする。荷物をできる限りコンパクトに収めるためだ。
エドはちゃんとした肉包丁と俎板を使い、手慣れた動作でスイスイっとサラマンダーの肉をぶ厚めに切って、油を敷いたフライパンで一気にジューッと焼いていった。途中でひっくり返して両面こんがりとさせ、塩胡椒をパラパラっとやって……
手際のよさに、ほほう、と感心する俺。
「エドは料理上手なんだなー」
「だよな。料理に関しては俺もエドには感謝してる」
「嬉しい♡アル♡」
「…そーいうのやめろって!?」
「奥さんが美人で料理上手とか、アルは果報者だよなぁ」
冷やかす俺に、二人がそれぞれ言い返してきた。
「だーっ!?やっぱ分かってなかったロビンソンさん!だから違うんだって……」
「そうだよ、料理が上手だから奥さんなんて考え方はもう古い。アルがどうしてもって言うなら考えなくもないけど、あくまで僕がタチ側で旦那さんなんだから…!」
ごごごんっ!!!
…エドの頭のたんこぶが増えた。
すごいな、それ。五段重ねくらいになってねーか?
「〜〜〜ったぁ!?」
「いーかげんにしろ!ロビンソンさんが信じちゃったらどーするんだよ!?」
「って、おいフライパン!」
わちゃわちゃ痴話喧嘩を始めた二人に代わって、俺がフライパンを確保。
危うく中身を落っことすところだぜ。もったいねえ。
きれいな焼き色のついた肉からは、得も言われぬ香ばしい匂いが漂っていた。
…さっきたらふくサンドイッチを食った俺だが。
こんな匂い嗅いじまったら、早くも腹の虫が騒ぎ出してきやがった。
グゴゴン♪ゴゴンッ♪ってリズミカルに……なんか段々表現力豊かになってきたな、俺の腹の虫!?
「おーい、喧嘩はやめろ。せっかく美味そうに焼けたんだから、冷めないうちに食ってみな」
嬉し楽しい実食ターイム!
もちろん俺も食うぜ。
まあサラマンダーは以前もこうして食ったことあるが……
うんまぁ〜〜〜〜〜!!!
以前食った時より、確実に美味い!
餓死しかけて味覚にブースト掛かってるせいなのか、エドの調理の腕のおかげか、それは分からないが。
あんだけギャーギャー騒いでた二人も、もうニコニコして肉を頬張ってる。
「見た目はトンテキみたいだけど、味は鶏肉っぽい!サラマンダーもこんなに美味かったんだな!」
「これなら他にもいろんな料理にできそうだよ。レパートリーを増やせそうだ」
「マジで!楽しみー!」
「うん。期待しててね、アル♡」
なんだかなぁ……
こいつら見てると、俺もソロじゃなく誰かとパーティ組みたくなってくるな。
なんだかんだ仲良いし、楽しそうでなによりだ。
それから俺は、二人と別れた。
俺は出口に向かって。二人は下層階を目指してそれぞれに進んでいく。
別れ際、色々教えてくれたお礼だって言って、またサンドイッチを分けてもらっちまった。
…え?フルーツサンド?
なんか知らねーけど、絶対美味いやつだろ。
ありがとな。
一旦腹も膨れたし、あとは上層階を突破するだけだから食料がなくてもなんとかなりそうだったが。食料があればなお心強いぜ。
出口に向かって順調に歩きながら、俺はついさっき別れた二人のことを思い出していた。
いいパーティだったな。
久しぶりに骨のある若者を見たって感じだ。
…地元でドリュー倒してイキってるタイラントみたいなのばっか見慣れてたから、新鮮だったし嬉しかった。
ああいう連中がいるなら、冒険者ギルドの未来も明るい……
いやいや!
俺もうかうかしちゃいられねーなッ!
なんたって俺は戦うギルマス・ロビンソン!
生涯現役を貫いてやるぜッ!
にしても。
駆け落ちした恋人同士でパーティ結成するとか、なかなかドラマティックじゃねーの。
おっさん、柄にもなくときめいちゃったぜ。
…え?
だってそうだろ?
第一王位継承者の王子様が国を捨てて出奔する理由なんて、それしかねーよな?
「だから、ちっがーーーーーうッッ!!!」
「わっ、どうしたのアル?いきなり叫んだりして」
「今とてつもなく不名誉な誤解を受けた気がした!!!」
「ふーん?アルは勘が鋭いから……誰のどんな誤解だろうね?」
最下層に到達しつつあるとあるパーティが、そんなやり取りをしてたなど。
当然、俺にゃ知る由もないことだった。




