レッドドラゴン討伐戦
エドだよ。
今回は僕が語ろう。
アルが予告した通り、レッドドラゴン討伐戦だ。
調子の良いギルマスに見送られ、僕たちはすぐにワイバーンに騎乗して上空へと。
やると決めたら、早い方が良い。
それに、一刻の猶予もない。
レッドドラゴンの影響で、いつ火山が噴くか分からないって危険極まる状況だ。
僕たちだって巻き添えなんて冗談じゃないからね。
早いとこ討伐しなくては。
で、こっちに向かって飛来してくるレッドドラゴンへと、僕たちの方からも向かって行ってるんだけど……
レッドドラゴンとワイバーン。双方とも、かなりの飛翔速度を誇るモンスターだ。
ぐんぐん距離は縮まっていった。
それに伴い、ワイバーンの制御が難しくなっていく。
「どうした、チカラ!?ワザも!?」
アルが戸惑って声を掛けてやってるけど。
「そりゃ、レッドドラゴンには極力近付きたくないんだよ。ワイバーンよりもずっと強い相手なんだから」
モンスターの本能だ。
このワイバーンたちは僕の魔法制御下にあるから、どうにか向かって飛んでくれてはいる。
だけど本心では、嫌々ってことなんだろうね。
元々、火山灰が舞うこのあたりの地域や、途中通ってきた標高の高い山脈越えの飛翔も、ワイバーンたちは嫌がっていた。ワイバーンが飛び回るのに適した環境ではないのだから、当然だ。
その上、今度はドラゴン種に接近しろ、とか。
無茶振りにも程がある。
魔法で無理やり言うことを聞かせていなければ、絶対に飛んでくれなかったろう。
僕は、少しだけ罪悪感を覚えた。
アルじゃないけど、このワイバーンたちには多少の情が湧いてきてるんだと思う。
…ごめんね。
でも、今はおまえらの翼が必要だから。
僕は魔法の強制力をさらに強めて、ワイバーンをレッドドラゴンと並走させようとした。
攻撃するには、とにかく近付かないと話にならない。
魔法で撃ち落とすのも……レッドドラゴンの飛翔速度が疾すぎるせいで、普通にやったんじゃ狙いが定まらないんだ。
僕の攻撃魔法って、なまじ威力が強いから、外したら流れ弾の被害がどこに行くかって懸念もあるし。
ワイバーンを真横につけて、外さないよう至近距離からぶっ放すしかない。
そう考えていたんだけど、
「分かった!チカラ、もっとうんと高く飛んでくれ。レッドドラゴンとは距離が開いてていいから」
えっ!?
アルが何を思ったか、いきなりそんなことを言い出した。
チカラは喜々としてさらに上空へと。風を掴んでぐんっと舞い上がっていく。
レッドドラゴンに近付かなくて済むんだから、そりゃそうするよね。
僕の乗ってるワザまで、便乗して後からついていった。
これじゃ、攻撃魔法の射程範囲外なんだけど…!?
「俺がやる!」
アル!?
って、アルの方が近接戦闘じゃないと難しいはずでしょ!?
闘気を放っての攻撃もできるって知ってるけど、あれの射程範囲って僕の攻撃魔法よりも短いはずだ。
どうするのかと、驚いて見ていたら……
レッドドラゴンはあっちから悠々と飛んでくる。
もう僕たちの存在にも気付いてるだろうに、気にも掛けていない様子だ。
ドラゴン種って、そういうところがある。最強種だけに傲慢で、その個体の性格にもよるけど、割と油断しがちってところが。
僕たちのワイバーンは高度を保ちつつ向かっていき。
やがて、上空と、低空で。すれ違う形で交錯した。
その刹那、
「アイ・キャン・フラーーーーーイっっ!!!」
あ、
アルぅぅぅぅぅっ!!!???
ワイバーンから飛び降りたー!!!
またノリで適当な掛け声を叫びながら!
アルは飛べないだろ!?
それ、ただ落っこちてるだけーっ!!!
で、でも狙いは分かった。
真上から、レッドドラゴンの背中に飛びつこうって腹だね。
一旦相手の背に乗っかっちゃえば、アルならどうとでも料理できるもんね。
だけど、相手だってそこまでボーッとしていない。
スイッ
「あっ!?」
ほら見たことかー!?
レッドドラゴンのやつ、ほんのちょっとだけ身を捩るようにして空中での位置をずらした!
飛びつこうとしていたアルを嘲笑うかのように!
くそっ、なんて性格の悪いモンスターなんだ!?
なんだか表情までフフンって感じで、すぐ横を無為に落っこちていくアルをバカにしたように眺めてる。
って、こうしちゃいられない!
僕が助けないと……
「でぇぇぇぇぇぇいっ!!!」
………えっ。
アルが。
空中で、ものすごく足をシャカシャカさせて!?
き、
軌道修正したーーーーーッ!!?
移動距離はほんの1メートルもなかったと思うけど!
すごい、本当にすごいよアル!
物理法則とか一般常識とかかなり無視して動いたよね今!
そのおかげで、レッドドラゴンの後ろ足にギリギリ手を伸ばしてしがみつくことに成功。
そこからよじ登って背中の上、両翼のど真ん中くらいの位置に辿り着いていた。
レッドドラゴン、何が起こったのか分からない、って呆然とした顔してる。
うん。
気持ちは分からないでもないよ。
見ていた僕も、わけが分からなかった。
アルを見てると、人間って頑張れば大抵のことはできるんだなぁ……なんて気分にもなってくる。
まあアルは特別だとも思うけど。
ともあれ、この一連の流れ。
言うまでもなく全部、高速で飛翔している空中での出来事だ。
レッドドラゴンの背中に取り付くことができたはいいものの、向かい風の空気抵抗だってあるし、安定した足場ではないだろう。
アルの長身がグラついていた。
レッドドラゴンが我に返ったら、すぐにも振り落とされてしまいそうで危うかった。
が、アルの行動は素早い。
もう頭で考えてなくて脊椎反射だけで動いてるんじゃ、ってレベルの素早さだよ。
足場が安定しないから、片手でレッドドラゴンの背中の鱗を鷲掴みにして無理やり体勢をキープして、もう一方の手で拳を固めて振り上げる。
そして。
ーーー振り下ろす!
ボギッ!!!
痛々しい音が響き渡った。
抉りこむような鋭い正拳突きにより、レッドドラゴンの脊椎がへし折られた音だった。
ドラゴン種って、胴体部分は爬虫類のそれと酷似している。
つまり、脊椎動物の一種だ。
体を支えるその部分をへし折られれば、ただでは済まない。
ーーーァァァァァい
大気を震わせる、絶叫。
断末魔だったかどうかまでは、分からない。
背骨を折られても、まだ生きてはいたようなんだ。そこはさすがのドラゴン種の強靭な生命力だよね。
だけど、この高度から手負いの状態で墜落してしまえば、いずれにしろ……
って、
「やべーっ!!!エド、へるぷみー!!!」
わーーーーーッ!?
アルまで一緒に落っこちてる!!!
いや、そりゃそうだよね!?
アルは自力じゃ飛べないんだから!
僕は今度こそ大急ぎで、アルの救助に向かった。
ワイバーンじゃ小回りが効かないしまだレッドドラゴンに近付くのを嫌がってるから、僕自身の飛翔魔法で。
無事、空中キャッチ!
墜落するレッドドラゴンの背から救い上げることに成功した。
思わずどっと溜息をついてしまう。
「もう……ヒヤヒヤしたよ。もっと後先考えて行動してよね」
「悪い悪い。でもさ、エドが一緒ならどーにかなるって思ったから」
「ま、またそんなこと言って……」
「実際こうして助けてくれたじゃん。ありがとな!」
まったく、調子がいいんだから。
僕は本気で心配したんだよ!?
そう、文句を言いたいんだけど……
ああっ…!
アルの笑顔が、こんな至近距離にぃぃぃぃぃッ!!!
ハァハァハァハァ!!!
そんなに僕のことを求めてくれるなんて!
嬉しいよ、アルぅぅぅぅぅッ♡
「あ”………や、やべっ!?…ちょ、離せ!」
またまたそんな、照れちゃってぇ♡
今僕が手を離したら落っこちちゃうじゃない。
そんなことできるはずないって分かってるく・せ・に♡
大丈夫、絶対に離したりしないから。
僕もアルが大好きだよっ♡
「ひぃぃっ!?頬ずりすんな!?ち……チカラーっ!早く来てくれ!ワザでもいい!俺をここから連れ出して!?」
好き好き大好き♡アルぅ♡
僕はたっぷりとアルとの空中ランデブーを堪能した。
ワイバーンたちが周辺をホバリングでバッサバッサ飛んでるのも、まるで僕たちを祝福する愛の天使みたいだよね♡
『……なに言ってやがんだこのニンゲン……』って白けきった目で見られてる気がしたけど、きっと気のせいさ!
あ、レッドドラゴン?
派手な音を立てて地面に墜落してたから、たぶん今頃お陀仏じゃないかな?
後で確認して素材は回収しよう。
そんなこんなで、僕たちはレッドドラゴン討伐のクエストを完遂した。
「おおっ!やり遂げてくれたか!本当にありがとう!そんな……見るからにボロボロの有り様になってまで…!!」
「あ、いやこれは精神的なアレで………いやなんでもない。そっとしといてくれ……」
「……すまない。ダンジョンへの入場許可の特例は、約束通りなんとかするから……」
「うん。頼む……」
戻ってきたアルの様子を見て、ギルマスはいたく申し訳なさがっていた。
アルってば無茶したもんね。
でも、おかげでダンジョン『熱波の彼岸窟』に挑むことができそうだよ。
やったね、アル♡




