ダンジョン攻略に行くために!
「えーっ!?俺たち入っちゃダメなのか!?なんで!?」
「あったりまえでしょーが!駆け出しひよっこのCランク冒険者パーティが!」
冒険者ギルドのカウンターにて。
受付の人とめっちゃ揉めた。
俺は冒険者のアル。
しばらく故郷でのんびりしてたが、相棒のエドと一緒にまた冒険の旅に出た。
なのに、いきなり躓くことになっちまった……
ここは帝国の北西に位置する火山地帯。
ちょっと前まで滞在してたサウザンド王国からは北東部に位置するところだな。
サウザンド王国と帝国とは、地図上だと地続きの隣国に当たる。
だが、実際には直接の交流も移動手段もない。
二国の間に、ズガーン!と大山脈がそびえ立っているからだ。
フィード大山脈、だっけ?
遠い別の大陸にあるゼナ山脈と並んで、峻険さは世界最高峰。
しかもこっちは活火山のある火山地帯。危険度はより一層高い。
ってわけで、山脈が国境線の防壁代わりになって二国間の行き来は実質不可能とされていた。
俺たちには関係ないけどな。
ワイバーンでひとっ飛びだぜ!
で、なんでこんな場所に来てるかっつーと。
ここにダンジョンがあるからだ。
世界的にも有名な高難易度ダンジョン。『熱波の彼岸窟』。
火山の麓付近に、入口がポッカリと開いてる。
そこに隣接するように、たった一つだけ集落があった。
もう完全に『熱波の彼岸窟』のために作られた、冒険者御用達の町だ。
火山のせいで元々の環境が過酷だわ、火系の上級モンスターもあっちこっちを闊歩してるわで、とても普通の人が暮らせるところではないのだが。
ダンジョンに挑む冒険者目当ての商売をする店舗や宿屋なんかが集まって、ひとつの町を形作っていた。
町の中心にあるのは、もちろん冒険者ギルドだ。
『熱波の彼岸窟』への入場登録も、ここで行う。
俺たちは早速、その登録を行おうとした。
ところが、あっさり突っぱねられた。
何故か?
…ここの入場資格が、単独でSランク、パーティでAランク以上が必要だったからだ。
そんなの聞いてねーよ!?
「あのですね、これ有名な話ですよ?あなたたちいくら駆け出しったって、冒険者のイロハも知らないんですか?」
受付カウンターを担当してるギルド職員さん。
俺たちをけんもほろろにあしらって、呆れたような冷笑を浮かべてた。
「この『熱波の彼岸窟』は本当に高難易度のダンジョンなんです。単純な強さだけではなく、ダンジョン内のいかなる事態にも対処できる冷静な判断力ですとか、経験がものをいう総合的な力が求められます。腕っぷしばかりの未熟な冒険者が甘く見て、過去何人も命を落としてるって前例データもあるんですよ?」
うぐぐっ…!?
あっちの言ってることは正論だし、きちんと下調べして来なかった俺たちが悪いとはいえ……
なんか無性に腹の立つ言い方だな!?
俺がムッとして諦め悪く睨みつけていると、
「あのねー、これ、親切で忠告してるんです。実際にこのダンジョンで亡くなる冒険者が毎年後を絶たないんですから。あなたたちみたいな駆け出しが、あたら若い命を散らしに行くもんじゃありませんよ」
………。
そう、だな。
悔しいが、この人の言う通りだ。
俺は冷静になって諦めかけた。
エドも、しょうがないね、って顔で肩を竦めてる。
だけど、
「どうしてもって言うんなら、Sランクのモンスターでも討伐して実績を作ることですね。そうすれば特例として認められないことも……」
なにっ!?
俺は踵を返しかけていた足を止めて、再び受付カウンターに前のめりになった。
それを早く言えよ!
Sランクモンスターなら、何体か倒したことあるぜ!
「は?……そんな嘘、すぐバレますよ?冒険者ギルドではそれぞれの冒険者の功罪や貢献度が冒険者カードにきちんと記録される仕組みなんですから」
嘘じゃねーっての!
つーか、だったら話は早い!
俺たちの記録ってやつを確認してくれ!
「……はぁ。ま、いいですけど……」
俺たちの冒険者カードを預かって、ギルド職員さんが奥へと引っ込んでいった。
きっとバックヤードでその記録ってのを照会してるんだろうな。どんなシステムかはよく分からねーけど。
待つことしばし。
いや、かなり。
「……バッカもーーーーーんッッ!!!」
いきなり、すっげー大声の叱責がバックヤードの方から轟いて聞こえた。
俺たちの冒険者カードを手に、受付カウンターに戻ってきたのはさっきの職員さんではなかった。
何故かギルマス。
ダンディな口髭を生やした男で、ギルマスにしてはまだ若い。
元冒険者かな……かなり鍛えていることが見て取れる。ちょっと手合わせしてみてーなってつい思っちまった。
そんな場合と雰囲気じゃなかったけど。
ギルマスはやたらと恐縮した様子で、俺たちを奥の部屋へと案内した。
その部屋の応接用ソファに対面する形で腰を落ち着けるや、いきなりガバっと頭を下げてきて、
「うちの職員が大変失礼をした。あいつは先月採用されたばかりで、まだ物を知らなけりゃ礼儀も知らない奴で……そんなことは言い訳にもならないんだが、どうか勘弁して欲しい」
俺は呆気に取られてしまった。
つーか、あの職員さん。自分だって駆け出しのくせに俺たちのこと駆け出しひよっこってバカにしてたのか……
…まぁしょーがない奴はどこにでもいるもんだ。
俺は軽く手を打ち振って、気にしてないと意思表示した。
エドは、無言だ。
ただ冷ややかにギルマスの下がった頭を見てる。
俺はちょっと横をつついて、余計なことゆーなよ、とサインを送った。
なんか話の流れから、ダンジョンの入場許可がもらえそうじゃん?
だから、下手に文句を言ってこじらせない方がいいと思ったんだ。
…ところが。
頭を上げたギルマスの説明いわく、ダンジョンへの入場許可はやはり出せないという。
「えーっ!?なんでだよ!?さっきの職員さんはSランクモンスター倒した実績があるならいいって……」
「そこはもう、謝るしかない。この通りだ!」
なんと、Sランクモンスター倒したら特例で許されるって話、あの職員さんの口から出任せだったそうな。
俺たちみたいな駆け出しひよっこパーティが、まさか本当にSランクを討伐したことがあるとは思わず、適当を言ったんだと。
…なんだよそれー!?
ギルマスにまた頭を下げて謝られたけど、さすがにこれは簡単には納得できない。
ぬか喜びさせやがって!
エドもついに口を開き、
「出任せだろうとなんだろうと、正式なギルド職員が一度は口にしたことだ。その責任を取って、今回は特例を出すのが筋ってものじゃないのかな?」
おっ!
そうだそうだ!
いいこと言うぜ、エド!
俺は期待を込めてギルマスの返事を待った。
しかしギルマスは冷や汗を流して苦しそうに、
「ほ、本当にすまないが……そればかりはできない。他のことならともかく、ダンジョンへの入場可否は冒険者の命に関わる重大事だ。こんな成り行きで軽々に特例を出して、将来有望な冒険者にもしものことがあったら……本当に取り返しがつかない」
「へえ?……つまり、僕たちでは攻略できない、って思ってるんだ?」
「実力は、認めている。記録も確認したぜ、あれだけSランクを討伐してきた実績があるんだ、強さだけなら十分だ。ただ……」
圧倒的に経験値が足りない。
ギルマスはそう言って頑なに突っぱねる。
「あんたらなら、今挑んでも攻略できるかもしれない。だが、できない可能性もある。俺には確証が持てん」
「冒険やダンジョン攻略には必ずリスクがあるし、絶対はない。危険は僕たちだって承知の上だし、何があっても自己責任だと分かってるよ。それでも?」
「あんたらが、Sランクモンスターを討伐できる実力者たちだからこそ。迂闊な特例を認めてもしものことがあったら、この業界全体の重大な損失なんだ。どうか、飲み込んで欲しい」
「さっきはだいぶ軽んじられていたと思うけど。今度は僕たち、随分と高く見積もられてるってわけだね」
「……部下の教育が行き届いていなかったことに関しては、重ねて謝る。誠に申し訳なかった」
エドは顔をしかめて、まだ言い募ろうとしていた。
俺は、それを手で制してストップを掛けた。
ギルマスは誠心誠意、俺たちの身を案じた上で、許可を出せないって言ってるんだ。
これ以上食い下がってもしょうがない。
「本当にそれでいいの?アルだって、ここのダンジョンに挑戦したかったでしょ?」
うん。それは確かに残念だ。
さっきの職員さんの態度にはむかっ腹も立った。
だけどさ、板挟みになったギルマスにこんなに頭を下げてこられて。
これでいつまでもゴネるのは仁義にもとる。
…なんだか俺、見てて気の毒になってきちまった。
俺たちに冒険者としての経験値が足りないのも事実だし。このへんで引き下がろうぜ。
もっと他のところで経験を積んで、冒険者ランクも上げて。
改めて挑戦しに来よう。
「アルが、そう言うなら……」
「すまない。以後、こんなことがないよう部下たちはしっかり教育し直すぜ」
というわけで。
一旦、この話はしまいになった。
よっぽど気を遣ってくれてるんだろう。ギルマスはわざわざ表まで俺たちを見送りに出てくれた。
冒険者ギルドのスイングドアを開けて……
外に出る。
そこで、俺は妙なものを発見した。
このへんの空は火山灰が舞ってる影響か、全体的に烟って見えるんだが。
その中に、ポツンと小さく、真っ赤な輝きが。
なんだろあれ、火に包まれた鳥みてー。
俺が指さしてそう言うと、エドとギルマスも遅れて気付いたみたいだ。
二人の顔色が一瞬で変わった。
「レッドドラゴンだーーーーーッッ!!!」
…マジで?
レッドドラゴン。
あのラージラージャナーガと同様に、第一級厄災指定モンスターなんだって。
数多いるドラゴン種の中でも翼を持ち、自由に空を飛び回るので、いつどこに現れるか分からない厄介さもさることながら。上空から火の大災害をもたらすから、ってのがその理由だと。
もちろんSランク。
ドラゴン種としての強靭さも併せ持っているので、そういう意味ではラージラージャナーガよりもヤバいかもしれないそうな。
しかし、ドラゴン…?
見た目はどっちかっつーと火の鳥みたいに見える。
「レッドドラゴンに関しては国や地域によっていろんな呼び方をされることがあるんだ。レッドドラゴン、ファイヤードラゴン、火吹き竜、火の鳥、って呼び方も間違いじゃないよ。昔はフェニックスと混同されることもあったんだってさ」
エドが教えてくれた。
地上から遥か上空を見上げただけでは、レッドドラゴンとフェニックスは見分けがつかないことがあるらしい。
遠目にはどっちも、めっちゃ燃えてる鳥っぽいやつ、だもんな。
ある程度近付いてくると、やっぱり鳥じゃなくてドラゴンだなって分かるけど。
さっきは赤い点みたいだったレッドドラゴン、こっちに向かって飛んできてるようだ。もうだいぶ大きく見える。
俺の目には、鱗に覆われた流線型フォルムの胴体と、火をまとった大きな翼まで、クッキリはっきり見えるようになっていた。
ギルマスがものすごい勢いでギルドの中に取って返し、大騒ぎしていた。
レッドドラゴンは早急に討伐しなければ、このあたり一帯の被害が甚大だという。
こっちに向かって飛んできてるだけで、まだ襲い掛かってくると決まったわけでもないのに。
なんでだろ?……って首を傾げてるのは、俺くらいのものだった。
「レッドドラゴンは火属性が強いから、近くに来られるだけで火山の活動を活性化させる……って聞いたことがある」
え。
それって。
「放っておいたら、フィード大山脈の火山群が一斉に大噴火、ってことになるかも」
ゲゲッ!?
そんなことになったら、どれだけの被害が出るんだ…!?
「くそっ……こんな時に限って上位ランクの冒険者がみんな出払っちまってるだと!?レッドドラゴンを食い止められそうな奴らはダンジョンに潜ったばかりで、当分は出てこねえ…!あいつも……」
ギルマスの様子が尋常ではなかったから、俺たちも気になってギルドの中に引き返していたんだが。
あっちで大騒ぎしていたギルマスが、俺たちのところに足早に駆け寄ってきた。
いきなり、ガバッ!と頭を下げてこられる。
面食らう俺。
このギルマス、頭下げてばっかだな…?
「すまない、おまえらの実力を見込んで頼みが……」
「僕たちにレッドドラゴンを討伐して欲しいってことだよね?」
エドが先回りして言った。
口元には、冷笑を浮かべて。
…あー。
こいつ、こーいうの許せないたちだよな……
「さすがに虫が良すぎるんじゃないかな?さっきは僕たちでは経験値が足りなくて危険だからと、ダンジョンへの入場を断っておきながら。舌の根も乾かないうちに危険な第一級厄災指定モンスターの討伐を依頼するって?」
「百も承知だ。だが、現状あれと戦えそうな奴はあんたらくらいしかいない!……頼む!」
そうか。
レッドドラゴンは上空を飛んでいる。
地上からそれを攻撃できるか、または空中戦も可能な奴じゃないと、戦いの土俵にも上がれないってことだな。
そう考えると、改めて討伐が難しくて厄介なモンスターだよな。
…俺たちなら、対応可能だ。
「エド、引き受けようぜ」
エドの気持ちも分かる。
だけど、俺たちがつまらない意地を張って、危険なモンスターを野放しにってのは、違うだろ。
俺の説得に、エドは困ったように頭を振ったが、
「……アルは本当に人がいいよね」
最後には、折れてくれた。
「すまない、本当に恩に着る。討伐の暁には、ダンジョンへの入場許可も再考するぜ。……これはギルドマスターとして、責任を持って約束する」
そうか!
じゃあ、ますます張り切って討伐しなきゃだな!
ってわけで。
次回!
レッドドラゴン討伐戦だ!
「あ、ここで引くんだね……」
またなー!




