飛竜騎士団爆誕っ!…か?2
……マジでヤバい。ギリギリだった。
騎士たちはどうにか無事だけど、心身共にダメージがでかい。
特にオーガに頭を鷲掴みにされてブラーンと宙ぶらりんにされてた奴。
俺がオーガの腕を斬り飛ばして、横抱きに救助したんだが、
「あっ…アルバート様っ!ありがとぅヒィィィィィィィィっ!!???」
…デジャブ?
なんか前にも聞いたことのあるよーな悲鳴を上げて、ガクッと気絶しちまった。
顔色も、最初は火照ったみたいに赤かったのに、急に一瞬で真っ青になっちまって…
これは回復魔法を掛けないとマズい感じだ!?
って思ってエドの姿を探そうとしたら、俺のすぐ後ろにいた。
こっちがピンチだったから気にして来てくれてたんだな。
「なあエド、こいつに回復魔法を頼む。なんかヤバそうなんだ」
「うん、いいよ?」
エドは俺が横抱きにしてる騎士をそのまま受け取ると、あっちの地面にそっと横たえて、回復魔法を掛けてくれた。
仄かな光が騎士の全身を包む。
「ハッ…!?俺は……」
「気絶しちゃったんだよ。アルの腕の中で、ね……」
「ヒッ………!?」
「不可抗力だから仕方ないとはいえ、僕だってそんなことされたいのに。君ってつくづくいい度胸してるよね…!?」
「………はぅッ」
ああっ!?
騎士がまたガクッと気絶を!?
背中側をこっちに向けてたからよく分からなかったけど、エドは普通に話し掛けてただけみたいだったのに!?
なんで!?
「あ、いえ。アルバート様……」
「あいつのことはもう、そっとしといてやってください……」
同じ部隊の騎士たちが、何故かそんなことを言ってきた。
いや、でも…
あんな信号機みたいな顔色されたら、心配でしゃーないんだが…!?
「いえ、本当に大丈夫ですから」
「ある意味でダメかもしれませんけど、それはもう手遅れってやつなので……」
な、なんなんだ…
釈然としなかったが、ひとまず気絶した騎士も命に別状はないらしい。
犠牲者が出なくてよかったぜ。
しかし、俺は反省しなきゃだな。
軽い気持ちでモンスターに突っ込ませたら、とんだことになっちまった。
正直、騎士たちがここまで……言っちゃ悪いが、弱いとは思ってなかったんだ。
オーガって確かCランクだったよな?
複数匹いたからって、あんなに手こずるものか?
「誠に面目次第もございません、アルバート様。練兵不足でお恥ずかしい限りです……」
団長さんが本当に恥じ入った様子で頭を下げてくる。
う〜ん……
それをなんとかするために俺たちに依頼を出したんだろうから、仕方ない気もするけど……
さっきの様子を見た感じだと、基本的なパワーが足りてないよな。
太刀筋はみんな綺麗だった。
つーか、綺麗すぎって気もした。
人間同士の試合じゃなくてモンスター相手の実戦なんだから、型なんて気にせずにもっと臨機応変に動いた方がいいだろう。
ま、そのへんは経験を重ねていけば自然と身につくだろうが。
基礎体力のなさは、いかんともしがたい。
パワーが足りないから、スピードも出てなかった。
みんな、振り下ろした剣をオーガに鷲掴みで止められてたもん。
素早く動かなけりゃ敵だって対処してくる。パワーがあれば止められてもそのまま押し込んで斬ることもできただろうが、肝心のそのパワーがない。
堂々巡りだ。
直接見てはいなかったが、エドの方の部隊でも似たりよったりの状況だったそうな。
俺とエドと団長さんとで話し合った結果。
実戦形式の特訓は時期尚早って結論に至った。
まずはひたすらに筋トレと走り込みをさせて、基礎体力の向上に努めることに。
「ほら!足を止めるな!キリキリ走れーッ!!」
「ヒィィっ……団長の鬼ーッ!?」
「オーガよりもよっぽど鬼だよ鬼畜団長っ!!」
「私を罵れる余裕があるなら、まだまだいけるな。よし、あと10周追加だ!」
「「「ひぇぇぇぇぇぇぇッッ!!?」」」
ダンジョン内を走り込み。
フィールド型で森っぽかったりして路面が程々に荒れているので、城の練兵所を走るよりもいい鍛錬になる。
モンスターが時々飛び出してくるのは、俺とエドが先頭になって露払いだ。エンカウントしたそばから片っ端から倒していく。
…普通に考えたら、戦ってる間に後続の騎士たちに追い越されていきそうなもんだが。
あいつら、全然追いついて来れないでやんの。
俺たちにとっちゃここのモンスターはそんなに強くもないから、時間を掛けずにサクッと討伐してるけど。それでも確実にタイムロスはある。
なのに、ただ走ってるだけの騎士団の方が遅いなんて…
これは相当酷いなぁ…
最後尾から大声で発破をかけてる団長さんも、きっと苦々しい顔をしていることだろう。
っと!
俺とエドはつい足を止めて立ち止まった。
ダンジョン内をぐるーっと大回りに走り込んでいたら、森林地帯を抜けて、渓谷地帯に出ちまった。
最近できたばかりなんだ、ここ。
俺たちのワイバーンが巣作りしてタマゴを孵すため、サイモンさんがダンジョン内の環境を変えて用意してくれた場所だ。
木々の緑がなくなり、武骨な岩肌の切り立った崖が左右にでーんとそびえ立っている。
俺たちが今いる地点は、谷底の入口ってあたりだな。
谷間に沿って、強い風が吹き抜けていく。風の通り道になってるんだ。
俺は目の上に手をかざして風圧から庇うようにしながら、あたりをキョロキョロ見回してみた。
あいつら、どこに………いたっ!
谷間に沿って少し進んでいった、崖の上の方!
小さな洞穴みたいに窪んでるところに、巣を作ってるのが見える。
チカラも、ワザも、二匹ともいるな!
卵を無事に孵すまでは、あいつらのことは自由にさせてるんだ。
元気そうでよかった。
離れていても、大事な仲間だ。俺がホッとした気分で見上げていると、
「ゼーッ!ゼーッ!……やっと追いついたぁ!!」
「アルバート様もエドワード様も、なんでそんなに速いんですかぁ!?」
「立ち止まってるってことは、ここで休憩?…ですよね!?ねっ!?」
騎士団がやっと追いついてきた。
みんな、かなりへばってんな。
汗だくだし足元もフラフラしてるし。
…まだダンジョン1周もしてないんだが。
でも、無理させすぎても逆効果だしな。俺は、さっき無茶な突撃させちまった反省もあるし。
少しだけ休んでいくことにした。
みんな思い思いにそのへんの地面に腰を下ろして、息をつく。
とはいえ、俺やエドはまだそんなに疲れていない。
手持ち無沙汰なので、なんとはなしに、ボーッとワイバーンたちの様子を見てた。
巣のあたりから動こうとしない。…まあ、卵を温めてるんだろうから、当然か。
「何を見ていらっしゃるので?」
話し掛けてきたのは、団長さんだった。
団長さんも俺たちと同じでまだ疲れてなさそうだな。流石だ。
俺たちは、ワイバーンのことを一通り話した。別に隠すようなことでもないからな。
そしたら、団長さんが思いのほか食いついてきた。
「なんと!ワイバーンに騎乗して旅を!……それは、騎士団の行軍などにも使えるのではありませんか!?」
「ああ、やはりレオナルド団長もそう思うか?私も以前、同じことを考えた。上空からだと、移動速度はもちろん、地上を俯瞰で見下ろせるので利点が多い」
エドまでそんなことを言っていた。
「もっとも、私はもうこの国のことに口を出せるような立場ではないがな」
「何をおっしゃいます!エドワード様のアイディアは素晴らしいです!是非とも採用させていただきたく!」
「私ではない。ワイバーンを移動手段に用いることを最初に思いついたのは、アルだ」
「そうでしたか!アルバート様のひらめきも相変わらず斬新ですな!」
あ、うん……
唐突に褒められて、俺は顔を引きつらせちまった。
だって、元々はワイバーンに乗って逸早く国境線を越えてトンズラしよう……って、出奔を企てる過程で思いついたことだったんだ。
今となっては、ちょっと気まずい。
曖昧な反応の俺をよそに、団長さんはエドと話し込んですっかり盛り上がっていた。
騎士団でもワイバーンを使えないかって?
そしたら飛竜騎士団ってことか。
…カッケーじゃん!!!
で、思い立ったが吉日だ。
早速試してみることになった。
幸いというか、ワイバーンはすぐ近くにいる。
ダンジョンコアを通して制御下に置いているエドが命じて、ワザにだけ降りてきてもらった。
たとえモンスター相手でも、付き合いがそれなりになると、雰囲気や様子からある程度は感情が察せられるようになるものだ。
…めっちゃくちゃ迷惑そうな顔してる!!!
そりゃそうだよなー!?
卵が気になるだろうし、チカラと一緒にいたいよな!?
ごめんな!
でも、少しの間だけだから……と謝りつつ、騎士団に試乗させてみた。
みんな、おっかなびっくり手綱を取って、
「う、ううっ……これ本当に大丈夫ですか!?」
「振り落としたり、襲ってきたりは……」
順番に試し乗りに挑んでいったが、どうも微妙にへっぴり腰だ……
うわ……
ワザの表情がますます不快の色に染まってく!?
背に乗るのを躊躇している騎士団へと向ける目つきも、なんか……こう、冷ややかっつーか、侮蔑的なような……
「これ、ちょっと無理かな…?」
エドが唸るように言った。
「コアを通じて命令を下しているから、ワザも大人しくしてるけど。本来はモンスターって自分より弱い奴には絶対に従わないからね……」
ワイバーンはAランクのモンスター。
…Cランクのオーガにも壊滅しかけてたこいつらじゃ、確かに無理がある、か。
エドが命じておけば簡単な命令には従うだろうけど、一旦上空へと飛び立ったら、細かい操作は手綱を握った奴がしなくちゃいけない。
現状の騎士団では、ほとんどの者が制御不能に陥ってしまい危険だろう。ってことで、この案はお蔵入りになってしまった。
「やはりまずは徹底的に鍛えて、こいつらの地力を底上げせねば…!!」
団長さん。
忸怩たる様子で、より厳しく練兵にあたる決意を固めていた。
それを見てヒラ団員たち、めっちゃ青ざめて震え上がってたけど。
…頑張れ。
俺には、それしか言えなかった。
なお、団長さんだけは大丈夫じゃね?と試してもらったら。
できた。
ワザに騎乗して、渓谷の上空をぐるっとひと回り。
戻ってきた団長さんは、とても興奮した面持ちだった。
「これは思っていたよりずっといいですな!上空からの眺めも、速度も!是非とも将来的にはワイバーン部隊を編成したいものです!」
本当にそうなるといいよな。
飛竜騎士団、もう字面がカッケーし。
俺も楽しみだ。
後日。
つーか、1か月くらい経って。
卵が孵って、ワイバーンの雛が誕生した。
おめでとう!チカラ!ワザ!
なんつーか……色々と複雑なものはあるけど、可愛い雛の誕生はもうただただめでたいよ!
で、この子どうしよ?って問題が持ち上がったんだが。
騎士団が……正確には、団長さんが引き取ってくれた。
ちっちゃい雛の頃から面倒を見ていれば、成体まで育った時に、より騎乗しやすくなるだろうから、って。
意外だったんだけど、一旦生まれて数日くらい経ったら、チカラもワザももうほとんど雛を放置するようになったんだよな。だからこそ団長さんにスムーズに引き渡せたんだけど……
卵はあんなに大事にしてたのに、雛には冷たい気がする。
どゆこと?
「んー?モンスターの生態っておーむねそんなものだぞ?親離れ子離れがめっちゃ早いのだ。生まれてすぐだろうと自力で生きていけないなら死ぬだけっていう、過酷な生存競争の中に身を置いているのだからなー」
サイモンさんが教えてくれた。
ワイバーンの場合、雛が風を掴んで飛べるようになったら、もう一人前扱い。親は面倒を見なくなるという。
…確かに、あのちっちゃい翼で、たった数日で飛べるようになってたけど。
モンスターの世界って、厳しいな…!
実家に帰って父上に甘えてるところだった俺には、ちょっと耳の痛い話でもある。
ちっちゃな雛が、渓谷の空を飛び回っているのを見上げながら。
俺も、そろそろ旅立つかな……
そんなことをふと、思った。
あ、雛にもちゃんと名前をつけたぞ。
ブイスリー。
団長さんにも了承してもらった。
「一体どういうコンセプトの名付けで…?」
って首を傾げられたけど。
いいんだよ。
チカラとワザの正統後継者は、ブイスリー。
それがお約束ってやつだ!
だろっ?




