父上はつらいよ・レボリューション2
そんなこんなで、翌朝。
ウィリアム様はとてつもなく名残惜しそうに我が屋敷を後にした。
まだまだ二人と一緒にいたい、ってのが本音だろうな。
分かる。
私だって本当はそうしたい。
でも王城でやるべきことがあるんだから、我慢しなければいけない。
それに二人だって用事があるから出掛けるそうだ。
今日もまた近くのダンジョンだって?…何をしているのか、聞いていいものか分からないが。
「俺たち、しばらくはここにいるからさ。また遊びに来いよ、ウィル」
ウィリアム様があまりに寂しそうだったのを見かねたのだろう。
見送りに出たアルがそんなことを言った。
とたんに表情を輝かせるウィリアム様。
「ほんと!?じゃあ、今日もまた泊まりに来ていい!?」
いやそれはちょっと…!?
横から急いでストップを掛ける私。
いくらなんでも連日とか。宮廷雀どもに何を言われるか分かったもんじゃない。
王位継承者がその補佐と一緒に謀でもしているのかと邪推され、痛くもない腹を探られてはかなわん。
なによりも、うちの使用人たちのストレス値がヤバい。
そんなようなことをオブラートに包んでやんわりと伝えると、ウィリアム様はぷっくーと頬を膨らませて拗ねてしまったが、最後にはちゃんと分かってくれた。
アルとエドワード様に見送られ、出仕する私と一緒に馬車で王城へと向かう。
着いた。
ウィリアム様と一緒に執務室でお仕事スタンバイっ。
…しようとしたのだが、仕事を始める前に国王陛下に急襲された。
なに?表現が物騒だ?
いやだって急襲としか言いようがないよ。
足音も荒くズカズカと執務室に乗り込んできて、
「昨夜はフュリューリンゲン卿の屋敷に泊まったそうだな、ウィル」
実の息子に対してなのに、詰問口調。
息子でもなんでもない私に対する眼差しがどんなものだったかは、推して知るべし。
…怖ーッ!?
鷹の目で睨むのやめてくださいませんかね陛下!?
ウィリアム様が口をパクパクさせて咄嗟に答えあぐねていると、さらに畳み掛けて、
「エドが帰ってきているな?」
はいバレてるー!
「当然、アルバートくんも一緒なんだろうな?でなければフュリューリンゲン卿の屋敷に宿泊する理由がない」
完全にバレきってるー!
昨日のウィリアム様といい、もうやだこの親子…!
いちいち勘が鋭すぎる!
「………余には一言の断りもなく…!!!」
アッ。
出奔した二人のことは極力伏せておいた方がいい、と判断して黙っていたが。
この状況。
陛下からしたら、自分だけハブられた、ってことになる。
超ご立腹。
やべえ。
どーすべ!?どーなるのこれ!?
「フュリューリンゲン卿。本日は余が泊めてもらうぞ」
え”〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!??
…まあお察しだとは思うが。
私に拒否権なんてない。
それどころか、ウィリアム様まで便乗してまた泊まりにこようとしたぞ。
説得してお止めするのが大変だった。
現国王陛下と、次期国王である第一王位継承者が、同時に王城を離れてひとつところを訪れるとか。論外もいいところだ。
私は心の中で使用人たちに全力で詫びつつ、陛下をお招きする準備を手配した。
で、仕事が終わったので帰ってきた。
今日もちょっぱやで終わらせたぞ。仕事。
アルが滞在している間は極力早く帰るつもりなのだ。
…今日は陛下と一緒だが。
移動の馬車の中の空気が重〜い…!
陛下、眉間にシワを寄せて目を閉じ、むっつりと黙り込んで…
その胸中やいかばかりか。私には推し量るべくもない。
前々から陛下のツボって分かりにくかったしなぁ…
久しぶりに長男に会えるのだ。機嫌が悪いってことはない……とは思うが。
私がひとりで気を揉んでいるうちに、もう着いた。
出迎えに出てきた使用人たち、どの顔も緊張しきって強張っている。
そりゃそうだよ。
国王陛下だぞ。
普通だったら使用人の身分では一生ご尊顔を拝謁できないお方なのだ。
昨日のウィリアム様だってまぁ同様ではあったが、彼はまだ子供な分だけいくぶんかマシだった。
それに引き換え、陛下の圧倒的な存在感とプレッシャーよ…!
私は使用人たちに特別臨時ボーナスを出してあげようと心に誓った。
いやほんとマジですまん。
…えっ?
今日はアルとエドワード様、もう帰ってきてるのか?
家令からの報告を受けて、私と陛下はすぐさまリビングへと赴いた。
「あ、父上おかえりー………あれっ?王様だ?」
「どうして父上までご一緒なんです?」
唐突に現れた陛下を前にしても、二人は呑気なものだった。
ご子息であらせられるエドワード様はともかく、アルよ…!
おまえは本当にマイペースな子だなぁ!?
物怖じしないにも程がある。
見ている私の方がハラハラするぞ!?
果たして、陛下の反応は…
「うむ。久しいな、エド。そしてアルバートくん。二人とも健勝そうでなによりだ」
に…
ニッコニコだー!?
さっきまでの張り詰めた空気はなんだったんだってツッコみたいレベル!
大寒波の真冬から一気に雪解けしてポカポカ陽気の春になったっつーくらいの変わりようだぞ!?
温度差が酷すぎて風邪ひきそう!
「本日は余がここに泊まることとなった」
「父上ェ……」
「え?ウィルは一緒じゃないのか?どうせなら一緒に来ればよかったのに」
そしてうちの子、またアホなことを…!
いいか、アル。
国家元首とその跡取りが、本拠である王城以外で、ひとつところに訪れて留まるなんてことはできないのだ。
不測の事態が起こり、二人同時に何かあっては国家の一大事。
リスク分散のためにも、一方が出掛けるのであれば、もう一方は王城に残る必要がある。
「そーいうものなんだ?」
そういうものだ。
…アルにははっきりとは言わなかったが、要は暗殺等を警戒しての対策だ。
私はもちろんそのような謀はしていないが、他の輩がこの機会を利用しないとも限らないからな。
私を信用するしないの問題ではない。当然の、最低限の配慮といえよう。
「そっか……ちょっと残念だよな。エドだってどうせなら家族全員で会いたいだろ?」
「気にしてくれてありがとう、アル♡僕なら大丈夫だよ♡」
エドワード様はあんまり気にしてなさそうだなぁ。
陛下がちょっぴり落胆してる。
「なんならエド、やっぱり一度王城に帰ったらどうだ?あそこでだったら家族みんなで一緒に過ごせるんだろ?」
あっ。
アルの提案に、陛下が期待して前のめりに!
「僕は片時もアルと離れたくないから、アルも一緒ならいいよ♡」
「うっ!?………それはちょっと」
「じゃあ僕も無理だよ」
提案はあっさり却下された。
陛下……あからさまにショボーンと肩を落としてる。
「うーん、でも残念だな。せっかくだからウィルにも食べさせてやりたかったぜ。ドラゴンの肉」
えっ?
なんて?
聞き間違いかと思ったが、そうじゃなかった。
アルとエドワード様、ダンジョンでまたドラゴンを討伐したからと、その肉をおみやげに持ってきてくれていた。
「サイモンさんがさ、ボルケーノドラゴンと比較したいからって。またアースドラゴンを生み出したんだ」
「また僕たちに断りなくね……あいつ、本当に勝手なんだから」
「そう怒るなよ、エド。おかげでこうして肉だって獲れたんだし」
「まあ……父上にお出しできるのは、ちょうどよかったけど」
まったくだよ!
陛下をもてなすのにしょぼい食事なんて出せるはずがない。そのご身分に相応しく、昨日のウィリアム様に饗したのよりもゴージャスなものを用意しなくてはならず、頭の痛いことだったのだ。
その点、ドラゴンの肉なら花丸満点大合格。
最高級の食材だからな。
正直、すっごく助かった。
夕餉の準備が整ったので、食堂に移動して…
私も楽しみだ。ドラゴンの肉。
以前もアルが狩ったやつを持ってきてくれたことがあったのだが、本当に極上の美味なんだよな…!
陛下も殊の外ご機嫌麗しく。
会話も弾んで、食事の席は終始賑やかで楽しかった。
私、とっておきのワインを開けちゃった。
アルが帰ってきたらまた一緒に飲もうと思って取っておいたビンテージものだ。陛下にお出ししても差し支えない高級品。
テーブルを囲む皆で乾杯して。
実に愉快なひとときとなった。
…問題になったのは、翌日。
今度はウィリアム様がふくれっ面で怒ってた。
「父上ばっかりズルい!兄様とアルが獲ってきてくれたドラゴンのお肉、僕だって食べたかったのに…!」
ドラゴンの肉は最高級の食材なだけに、王族でも滅多に口にする機会はない。
ウィリアム様が文句をつけたくなるのも、ごもっともだ。
でも、ですね…!
「今度は僕の番だよ!今日は僕が泊まりに行くから!」
そんな軽率にうちに来ようとしないでくれません!?
ウィリアム様に続いて陛下も来訪したことで、宮廷雀どもがピーチクうるさくなってきたんですよ!
これでまたウィリアム様だなんてことになったら、本当に何を噂されるか分かったもんじゃない。
第一、これ昨日も言いましたが、うちの使用人たちのストレスがマッハだから!
ってゆーか私だってストレスフルだよこんな毎日毎日!
寛げるはずの自宅で、全然ゆったりできない。緊張感を強いられっぱなしだ。
もう勘弁してくださいよ!?
「そうですよ、ウィル。そして陛下」
…えっ。
ええええええーーーーーッ!?
王妃様!?
なんでこんな執務室なんかに!?
決して出しゃばったりしない慎ましやかな女性だと専らの評判だったのに。
陛下とウィリアム様、そして私を睨めつけるようにしながら、
「順番ですわ。今度はわたくしがエドに会いに行きます」
ちょっ…!?
また輪をかけて無茶振りをー!?
陛下やウィリアム様だってかなりの無茶だったのに、王妃様がいきなり臣下の屋敷を訪れるだなんて、不自然だし無理がありすぎる!
下手したら……口にするのも誠に畏れ多いことですが、私と何かあるのではと下種な勘繰りをされますぞ!?
私、妻に先立たれて独り身だし。妙齢の女性ひとりをお招きするのは問題がありまくりだ。
「それでは、わたくしひとりでなければ問題はありませんわね」
えっ?
「陛下か、ウィル。どちらかと共に参ることにいたしますわ」
え”〜〜〜〜〜〜〜ッ!!???
結局一周して元の話に戻った!
いや王妃様までくっついてくるなら悪化してる!?
だから勘弁してくださいって…!
あああっ!?
陛下とウィリアム様、天下分け目の決戦みたいな超真剣な顔でジャンケンを!?
完全にどっちが行くか決めようとしてる!
私は了承していないっつーに!?
…でも。
臣下の分際では、最終的には拒否れないんだよなぁ…!!!
エドワード様に会いたいというお気持ちは分かるだけに、あんまり強く物申せないってのもあるし。
私だって。
私だって、アルともっとゆっくりのんびり過ごしたいのにー!?
***
アルとエドワード様が滞在した、約1ヶ月間。
私の屋敷は連日、王族の方々の来訪を受け。
しまいにはロイヤルファミリーの別荘みたいな扱いになっていた。
宮廷雀どものさえずりのピーチクパーチクうるさいことといったら…!!!
根も葉もない噂の数々を、どうやって収めたものか。
考えるだに頭が痛い。
それでも。
アルが戻ってきてくれて、本当に心から嬉しかった。
ずっとここにいて欲しいと願わずにはいられなかったが、そんなわけにもいかない。
1ヶ月と少しの逗留の後、エドワード様と共に再び冒険者として旅立っていった。
…またいつでも帰ってきなさい。
それだけ言って、見送った私。
本音では、いくらでも頻繁に戻ってきてくれていいんだからなっ!と強めに主張してみたかったが。
息子を困らせてはいけないものな。
全てを堪えて飲み込んで、なんとか笑顔で手を振ることができたと思う。
次は、いつ会えるかなぁ…
なるべく近いうちだといいなぁ…
アル。
私は、いつでも待ってるぞ。




