ワイバーン事変1
ある朝、タマゴが見つかった。
俺、アルバート。通称アル。
腐れ縁のエドとパーティ組んで、冒険者をやっている。
旅の移動手段は、ワイバーン。
とあるダンジョンマスターから融通してもらった二匹で、そこらの野生モンスターと違って完全制御して騎乗することができるんだ。
…まあ、俺じゃなくってエドが、だけど。
ずっこいんだよ魔法使いって。俺だって頑張って飼い慣らしてたのに、魔法であっさりそれを上書きしやがって……ブツブツ。
ともかく、すっげー便利なんだぜ。
冒険者って基本、旅から旅のアウトローだから。
モンスターが跋扈するこの世界では、街道整備はそんなに進んでいない。
一旦は整った道を作っても、突発的に高ランクのモンスターが発生して通り過ぎていったらそれだけでグッシャグシャの元の木阿弥になったりするし。
だからよっぽどの主要都市間でもなければ、基本的に道はあってなきが如しの獣道みたいなもんばっかり。
国と国の間だと、あんまり大きな街道を作っちまうと武力行為の進軍に悪用される可能性もあって、なお迂闊に道を作れないらしいし。
町から町への移動も、地上を歩いていくんじゃ結構大変なんだ。
だけど、ワイバーンに乗って空から行けば、時間も掛からないし快適そのものさ!
風を切って飛んでいくの、気持ちいいし!
ワイバーンのおかげであっちこちを自由気ままに大きく移動することができて、俺たちは大いに助けられている。
今やこいつらはただのモンスターなんかじゃない。冒険の旅の大事な仲間たちだ。
名前もつけたぜ!
俺のワイバーンはチカラ。エドのワイバーンはワザ。
力の一号・技の二号ってゆーだろ!
「…とってもアルらしいくていいと思うよ?」
エドもそう言って賛成してくれた。
なんかあいつ、やけに生ぬるい笑顔だったけど。
まっ、そんなわけで。
これからもよろしくな!チカラ!ワザ!
…とか思ってた矢先だった。
その日も、冒険の旅に出発するためワイバーンに騎乗しようとして。
チカラが後ろ足の間にでっけえ何かを抱えてるのに気付いたんだ。
ちなみに俺たちは町の宿屋に泊まったけど、チカラとワザは町から少し離れたところで待機させてあった。
他の人たちから見ればAランクのおっかないモンスターだもんな。
乗ったまま町に近付いたらそれだけで騒ぎになっちまうし、その度にいちいち説明するのも面倒だから。
んで、一泊して冒険者ギルドでめぼしいクエストがないかチェックしてから、二匹のところに戻ってきたんだけど。
おいチカラ、なに抱え込んでるんだよ。
白くて丸くてでっかくて?
…えっ?
もしかしてこれ。
タマゴじゃね?
まず真っ先に思ったのは、これで目玉焼き作ったらどんだけ大きなやつになるんだろーな、だった。
…とたん、チカラがビクーッ!として身を屈めてタマゴを俺の視界から隠すようにした。
すぐ横でワザも、俺に向かってめっちゃ威嚇の咆哮を上げ始めたし。
やべっ、心を読まれた…!?
「アルは分かりやすすぎるんだよ」
エドのやつが笑いながら言った。
く、くそっ!?
ほっとけっての!
ってか、二匹のこの反応。
これってやっぱ、こいつらのタマゴってことだよな?
…えっ?
こいつら番になってたの?
いつの間に!?
「僕とアルのワイバーンだから、僕たちと同じように親密な仲になったってことだよね♡」
………。
今はおまえの戯言を聞く気分じゃねーんだけど、俺。
ううっ…
俺はまだ彼女も作れてねーってのに…
ワイバーンたちに先を越された…
「やだなぁ、僕がいるじゃないかアル♡」
………。
だから戯言ほざくなってんだ!
っとに!
「それで、どうする?」
ん?
「アルが本当に食べたいなら、強制的にこいつらにタマゴを引き渡させて僕が料理してあげるけど…?」
………。
お、
おいおいおいおいいいいッッ!?
鬼かおまえは!?
「僕はアルのためだったら何でもするよ♡」
やめろ!?
俺がそんなヒデーこと望んでるみたいな言い方はよせ!
そりゃさっきはついチラッと考えちまったけど…
大事な仲間のタマゴだぞ!
食ったりなんかできるもんか!
ほら、チカラもワザもすっかり怯えきった不審な目を俺たちに向けてきてる!
二匹でタマゴをガッチリホールドして全力で守る構えだし!
だっ、大丈夫だからなおまえら!?
食ったりしないし、ちゃんと孵すのに協力してやるから!
「アルがそう言うなら僕もそれでいいけど。じゃあどうしよっか?」
ん?
「だって、こんな大きなタマゴを抱えて長距離を飛んだりとかできないんじゃないかな?いつ孵るのかも定かじゃないし…」
うっ!?
そりゃそうか。
野生のワイバーンって確か鳥みたいに巣を作って暮らしてるんだよな。
タマゴもきっと巣で孵すんだろう。
しかし、俺たちは目下冒険の旅の真っ最中。
どうすりゃいいだろ?
こういうモンスターの生態とかに詳しくて、頼れる人はいないかな…?
「………」
あ。
サイモンさんがいるじゃん!
「………やっぱりあいつを頼るのか」
そうだよ、それがいい!
元々チカラとワザだってサイモンさんからもらったんだし!
事情を話して助けてもらおう!
ってことで。
国を出奔して他国でしばらく冒険者活動を続けてた俺たちは、久しぶりに故郷のサウザンド王国に戻ってきた。
いや実は国境沿いあたりは時々ちょこちょこ行き来してたんだけど。
こんな王都に近い場所まで直接戻ってきたのは初めてだ。
サイモンさんは王都近くにあるダンジョン『マッドの館』のダンジョンマスター。
ダンジョン内に自分の館をこさえて暮らしてるんだ。
会うのは久しぶりだなー。
俺はちょっとワクワクしながらそこに向かった。
もちろんワイバーンに騎乗してな。
タマゴは俺かエドが一旦預かろうとしたんだけど、チカラが頑として渡してくれなかった。
これくらいの移動距離なら、後ろ足で抱えて運べるって?
なら、無理にとは言わねーけど。
…俺たち、めっちゃ信用ねー。
「アルが食べたいなんて言うから…」
ううっ、悪かったよ…
………。
いや待て、俺は口に出して言ってはいないぞ!
それに完全に警戒されたのはおまえがいらんこと言いやがったせいじゃねーか、エド!
「あはは、そうだっけ?」
おまえって奴はー!?
「ごめんごめん。それより、そろそろ着きそうだよ」
誤魔化しやがって!?
でもまあ、確かにもう雑木林が見えてきたな。
あの雑木林の中に、ダンジョンへの入口があるんだ。
ん?
でもなんか…
様子が変だな?
雑木林の中が、やけに騒がしいような…
「…戦闘音が聞こえるね」
誰か戦ってるのか!
俺は目を凝らして地上をじーっと見下ろした。
木々に遮られてハッキリとは分からなかったが…
モンスターの大群と、人間が、戦っている!?
「くそっ、囲まれた!?」
「もうダメだ…」
「あ、諦めんなよ!?諦めたらそこで人生終了だぞ!?」
「マリアンヌちゃんにも振られたし……パッとしない人生だったなぁ。ははは…」
「だから心折れるなってー!?」
「お、俺は諦めねーぞ!もう一度あの人に逢うまではっ…!!」
「言ってることはなんか不穏だが、よしその意気だ!?」
聞き覚えのある、複数の声。
かなり切羽詰まってる。
雑木林の外でワイバーンから降りた俺たちは、大急ぎで彼らのところに向かい、合流した。
行きがけの駄賃に周囲のモンスターを蹴散らしながら。
…マジでいろんな種類がいるな。
いつだったかと同じようなスタンピードでも起こっているかのようだ。
「…あっ!?」
「あ、ああ、あああああアルバート様っ!!!」
「エドワード様も!?どうしてここに!?」
声に聞き覚えがあると思ったら、やっぱり。
かつて騎士団の行軍に同行した際、俺の部下っぽく配属されてた連中だった。
ってことは、今この雑木林で戦ってるのはサウザンド王国の騎士団なのか。
一体どういうことだ?
「とにかくこれで助かっ…」
「アルバート様ぁぁぁぁぁッ!お逢いしとうございましたぁぁぁぁぁッ!!」
「ははははは君、久しぶりに会ったけどまだ懲りないんだね?……そろそろ本気で処すよ?」
「ギャー!エドワード様ッ!?違うんですこいつ助けに来てもらって感激してるだけで!」
「おいやめろよ、せっかく助かりそうなのに無駄死にするつもりか!?」
「俺っ……アルバート様のためなら……死ねるッ!」
「バカやろう!?」
「ははははは……じゃあ試してみよっか?」
「やめてー!?どうかお慈悲を!?」
騎士たちは錯乱状態みたいだな。
なんかよく分からねーこと口走って、エドと揉めてる。
あわや命の瀬戸際だったんだ、無理もない。
まずはこのモンスターの大群をどうにかして、話はそれから、だな。
本当に以前のスタンピードと似たりよったりの状況だった。
ってことは、俺とエドにとってはそこまで手強い相手じゃない。せいぜいがAランク程度のモンスターたちだ。
数は多いから多少時間は掛かったが、ほどなく完全に駆逐することができた。
で、雑木林の中に散って戦っていた騎士団が集合して、改めて俺たちとご対面。
代表して騎士団長が進み出て、エドに向かって頭を垂れていた。
「お久しゅうございます、エドワード様。そしてアルバート様。このような不手際を晒してしまったこと、誠に申し訳なく…」
「そう畏まるな、レオナルド団長。私はとうに王家を出奔した身だ」
「いいえ。たとえどのような身分になられたとしても、あなた様は我が忠誠を捧げるべき主です」
「……新たな王位継承者に対して不敬と取られるぞ」
「我が心を偽ることこそ、真に不敬となりましょう」
「実直だが不器用な男だな……相変わらず」
うん。
なんか久しぶりにちゃんと王子様してるエドを見た気がする。
ともあれ、今はそんな場合じゃない。
エドは頭を振ると、改めて聞いた。
一体何が起こっているのか?
そして、団長の説明を一通り聞き終えて、
「サイモンのやつッ…!!!」
エドの額にビシッと怒りの四つ角が浮かんだ。
………。
正直、俺もちょっと予想してたけど。
サイモンさん、やっちまったらしい。
誤:力の一号、技の二号
正:技の一号、力の二号
たろーちゃんは間違って覚えてた
こうちゃんは正しく知ってるけれど、たろーちゃんらしい勘違いだなって微笑ましく思ってあえて訂正しなかった




