ゆすりたかり、ダメ、絶対!
アルは気前がいい。
同じ冒険者仲間とはその場のノリで酒を酌み交わすこともあるんだけど、「最初の一杯はおごる」とか勢いですぐ言っちゃうし。
討伐したモンスターから肉が取れた場合は、そこにいるみんなで分けて食べようなんて提案するのもしょっちゅうだ。
僕はアルのそんなところも、すっごく大好き♡
だけど実は、ちょっと困ったもんだなぁ…と思わないでもない。
あんまり気前よくそんなことばっかりやってたら、よからぬ連中も寄ってきちゃうんじゃないかなって心配してたんだ。
案の定。
心配は現実のものとなった。
今回は、その時の話をしよう。
あ、僕はエド。
アルと冒険者パーティを組んでいる仲間にして唯一無二の相棒。
いやいっそ人生のパートナーさ♡
前世からず〜〜〜〜〜っと続いてる縁だからねっ!
今世だって片時も離れずずっと一緒だよ♡
ねっアル♡
あれは、とある町の冒険者ギルドに立ち寄った時のことだった。
「よお〜。おまえらが最近噂になってる二人組だな?」
「んっ?」
なにか目ぼしい依頼でも出てないかな、って奥の掲示板を見に行こうとしたんだ。
そしたら、行く手を阻む形で複数の輩が僕たちの前に立ち塞がった。
どいつもニヤニヤと人を小バカにしたような顔つきをしていて、不快だった。
まあ実際に僕たちのこと見下してはいたんだろう。
「あっちこっちで大盤振る舞いしてるって聞いたぜぇ?」
「俺たちもそれにあやかろうと思ってな」
「なぁ〜、俺たちにもおごってくれるよな〜?」
「なんならサイフだけ渡してってくれてもいいぜ〜?」
とんだ理不尽。
悪質なカツアゲだよ。
常識で考えて、こんなの罷り通るはずがない。
でも、そこがナメられてるってことなんだよね。
強引に押し通せばどうとでもなると、僕たちは甘く見られてた。
僕とアルは、ランクだけは早々とCランクに上がったけど、まだ駆け出しの冒険者。
年齢も成人になったばかりの18歳で、若い。
たぶん外見上はそんなに強そうには見えないんだろう。
分かる人には、僕たちの力量がちゃんと分かるようだけど。
この連中は分からない部類ってことだね。
で、自分たちより格下で、金回りのいい世間知らずの若造どもだ。いいように食い物にできるって簡単に考えて、悪質に絡んできてるってところかな。
きちんとした労働の対価としてではなく、他人にたかって金銭を得ようとする。
下劣な奴らだ。
軽蔑に値する。
正直、僕はこんな連中がアルと同じ空気を吸ってるってだけでも虫酸が走るので、即息の根を止めてやりたいって思う。
だけどアルに止められてるから、仕方なしにしばらく静観することにした。
アルに言わせると、「おまえはいつもやりすぎなんだよ!トラブルには俺が先に対処するから、手出しすんなよな!」だって。
つまり…
僕の手を汚させまいと、僕のことを思って(ここ強調の二重線ね!)アルが矢面に立ってくれるってことさ♡
アルはやっぱり優しくて素敵なマイスウィートだよっ♡ハァハァ♡
「っ!?…なんか急にすっげー悪寒が…!?」
「おいこいつ震えてんぞ?」
「へへっ、ちいっとばっかしビビらせすぎちまったかぁ?」
「素直に有り金全部出すなら勘弁してやるぜぇ〜?」
「いや今のは別におまえらにじゃなくて………あーもう、説明すんの面倒だな。とりあえず、お断りだ」
「んだと!?」
「おまえらに金を渡す理由なんかない。だから断る。あと邪魔だから、どいてくれ」
「こいつ、ふざけやがって!?」
「痛い目みた後じゃねえと分からねえらしいな!?」
「やっちまえ!」
「……やっぱこーなるんだな。もうこの定番イベント飽きてきたなぁ」
口々に喚きながら、身の程知らずに突っ掛かってくる輩ども。
アルは小さく溜息をついて、軽く迎え撃った。
ゴン、ガン、ベキッ☆
ちーん。
はい、終了。
詳細に書く価値もないからはしょるけど、当然アルが勝ったよ。
圧勝。秒殺。
輩どもは床に積み重なって倒れ、ピクピク痙攣してる。
…結局通行の邪魔だ。
これ、僕の魔法でちょっと消去しちゃってもいいかな?
「ダメだっつの!だからおまえはなんでそう過激なんだよ!?」
アルに怒られちゃった。
ほんのちょっとゴミ掃除しようとしただけなんだけどな。
あんな輩でも生かしておくなんて、アルはやっぱり優しいなぁ。
「俺が自分で言うのもなんだけど、優しいとかじゃないからな。これが普通なんだよ!」
そう?
あんな連中がまだ息をしてるなんて、空気がもったいなくない?
「だーもー!?……いいから!行くぞ!」
アルが僕の体の向きを180度くるっと反転させた。
そのまま僕の背中を押すようにして、Uターン。一緒にギルドから出ていこうとする。
奥の受付カウンターの方から、焦った様子のギルド職員の声が追いすがってきた。
「あっ、ちょっ……あの、依頼の受注とかは!?」
「悪い、また今度!とにかく今はこいつを連れ出さなきゃだから!」
アルが律儀に振り向いて返事してあげてた。
無視したってよかったと思うけどね。
冒険者は何があっても自己責任。
冒険者ギルドも、冒険者同士のトラブルには介入しない。
とはいえ、ギルド内での出来事だったんだ。
輩どもを取り締まらずに放置して、無法を許してたんだから、僕に言わせれば職務怠慢で同罪さ。
こんな治安の悪いギルドのために、僕たちが貢献してやることはない。
本当は、アル。ここに来る前にBランクモンスターのバイバイソンの群れを仕留めてたから、素材をこのギルドの買い取りに出して、肉は居合わせたみんなで食べよう!って思ってたはずだけど。
もうとっくにそんな気分じゃなくなってるよね。
モンスターの素材は、高ランクであればあるほど、高値で取り引きされる傾向がある。
買い取りできていれば、このギルドはかなり潤っただろうけど。
おあいにく。
僕たちからすれば、わざわざこんなケチのついたところで買い取りに出す必要はない。
他の、もっとちゃんとしたギルドに持ち込むことにするよ。
僕は最後に、肩越しに振り返って様子を見てみた。
奥の受付カウンターで、ギルド職員たちが総立ちになって愕然とした顔をしていた。
出ていこうとするアルにわざわざ声を掛けたくらいだ。彼らは僕たちの実力を正しく知っていたんだろう。素材の買い取りにしろ、依頼の受注にしろ、期待を寄せていたに違いない。
残念だったね。
チャンスを棒に振ったのはひとえに、君たち自身の責任だよ。
僕はフッと冷笑を浮かべて、前に向き直った。
そして、もう一顧だにすることもなく、アルと一緒にそのギルドを後にした。
僕たちの旅は、ワイバーンを移動手段にしてる。
次の町までの移動も簡単だし、すぐだった。
そこの冒険者ギルドはいい雰囲気だったよ。
他の冒険者たちがやっぱり僕たちに気付いて声を掛けてきたけど、
「おーっ、噂の新人パーティか?」
「ここんとこおまえらの評判でもちきりだぜー?」
「またなんかモンスター倒してきたのか?」
って、みんな気さくでフレンドリーな感じだった。
まあ、ご相伴に預かれるかも、って下心が滲み出てなくもなかったけど…
「うん。バイバイソンの群れが爆走してるの見つけたから、倒してきたぜ」
アルは基本的に人懐っこい。
友好的に話し掛けられて、嬉しそうに笑顔で受け答えてた。
アルが嬉しそうだと、僕も嬉しい♡
あんまり僕以外のやつと親しくなって欲しくはないけど。まあ多少はね。
バイバイソンは僕の次元収納に入れてある。
受付カウンターのところで全部出そうとしたら、「ここじゃ全部は無理ですよ!?」ってバックヤードに連れて行かれたのは、御愛嬌。
数が多かったし、Bランクモンスターも結構な買い取り金額になった。
また金貨の袋が増えた。
だけどギルドから一般への卸売価格は、これよりさらに高額になるはずだ。
ギルド職員の人、ホックホクのいい笑顔だったよ。
数頭分の肉は買い取りには出さず、こっちに返してもらった。
バックヤードから戻ってくると、そこにいる他の冒険者たちの数が増えていた。
…明らかに、なにかを期待してこっちを見てる。
「アル…これって…」
「みんな、肉、食いたいかー!」
「「「食いたーいッ!!!」」」
冒険者たち、一斉に唱和。
「コールアンドレスポンス!?」
なんなのこのノリ!?
僕は戸惑うばかりだったけど、アルはすっごく楽しそうで、
「よーし、んじゃあみんなで食おうぜ!たくさんあるんだ、バイバイソンの肉!」
「やったー!」
「今日ここにいて、俺たちラッキー!」
「腹がはち切れるまで食うぞー!」
そこからはどんちゃん騒ぎだ。
全員でギルド併設の酒場へと移動して、肉は店員に渡して料理してもらう。
まあいつもの展開だった。
僕、あんまりこういうバカ騒ぎは好きじゃない。
だけどアルは大好きなんだよね…
毎回楽しそうだし。
それに、ある程度お酒が回ると、箍が緩むみたいでさ。
「おーい、エドー!おまえもちゃんと飲んでるかー!?」
「いただいてるよ。程々にね」
「楽しいよなー!わははっ!」
アルコールで赤らんだ笑顔で、僕と肩を組んで……
ぜ、ゼロ距離ッ…!!!
「アルぅ♡」
がばっ!
「なんだーエド?甘えたかー?」
あああああ抱きついても怒られない拒まれないむしろアルからも抱き返してくれるううううう!!!
好き好き大好き♡アルぅ♡
「おまえらほんと仲良いなー」
「そこも噂通りなんだなー」
「お熱いね!ヒューヒュー!」
「うんっ!俺たちずっと仲良しだぜー!なあエドっ!」
「し、幸せっ…♡♡♡」
これだから止められないんだよ!
アルの大盤振る舞いグセ!
提供した肉の他に、みんなの酒代料理代も勢いで奢ることになったけど。
悔いはない。
まったく!ない!!
僕はとっても楽しいひとときを過ごすことができた。
大満足♡
で、僕の預かり知らぬことだけど。
僕たちが立ち去った後の、某冒険者ギルドにて。
「ーーあなたたち全員、ランク降格です」
「なっ、なんで!?」
「ちょっと揉め事起こしただけだろ!?」
「しかも最終的には俺たちが被害者だぜ!?」
「お黙りなさい!普段から碌なクエストもこなさず貢献度が低い上に、当ギルドに大損害を与える行為をしておきながら!この程度、当然の措置ですっ!!」
「「「そ、そんなぁ…!?」」」
「ああっ……ギルマスである私の留守中に……本当になんてこと…!?」
さらに後日。
隣町の冒険者ギルドで上がった莫大な利益と、大盤振る舞いのどんちゃん騒ぎの噂が流れてきて。
「あーあ、ったく。本当だったら、このギルドにいた俺たちがいい目を見れたはずなのになぁ〜!」
「どっかのバカどもが、余計なことしたせいでよぉ!」
「「「………」」」
「バイバイソン十数頭分の毛皮、ツノ、その他素材……もし買い取りできていたら今季の利潤は……くぅぅっ!返す返すも、あのろくでなしどもっ…!!」
「「「………」」」
アルに無礼を働いた輩ども。
ギルド職員からも、他の冒険者からも、冷ややかな目で睨まれて、針の筵だったってさ。
アルは気前がいい。
でも、だからって、誰でも彼でも構わずにお金を振りまいたりはしない。
理不尽には毅然と対処する性格だしね。
実力は言わずもがな。
たかろうとしても返り討ちだし、逆に大損するって噂も少しずつ広まってくれたみたいだ。
僕たちに手出ししようって愚か者は、次第にいなくなっていった。
その代わり、ご相伴に預かることを期待するコバンザメみたいな連中が増えてきて、僕としては頭の痛いところだけど。
アルが、楽しそうだから。
まあいいか…
そう思うことにしている。
ところで、アルがまた通りすがりにモンスターを倒したよ。
ワイバーンで上空から俯瞰すると、結構大物も見つけやすいから。
Sランクモンスターのデラックスデイノスクス。
これ、冒険者ギルドに持ち込んだら、また騒ぎになっちゃうのかな?




