どこの国でも王城は鬼門2
で、影武者の仕事だが。
割とあっさり終わった。
どっかに向けて密かに出発したジルクリフト殿下と同じタイミングで、扮装したエドと護衛役の俺を乗っけた馬車も王城を出発。俺たちの方はあえて目立つルートを堂々と進んでいく。
ほぼほぼ人通りの多い公道だったが、途中であえて一箇所、いかにも襲撃に向いてそうな手薄な場所を通過するようにして。
俺たちからすると、ただ馬車に揺られて移動してりゃいいだけの仕事だった。
何事もなけりゃ、本当にそれだけで終わったんだが、
「…来たみたいだね」
馬の不自然な嘶きと共に、馬車が急に止まった。
窓を覆うカーテンをそっと持ち上げて外の様子を見てみると、黒頭巾を被って手に剣を携えた輩が複数名。この馬車の行く手を阻み、取り囲もうとしている。
…こう言っちゃなんだが、まんまと釣られてるよな。
随分とマヌケな連中じゃね?
「いや、ジルクリフト殿下の根回しが綿密だったからだろう。僕たちに知らされていないところで、色々と仕込んでいたはずだ」
…エドがそう言うなら、そうなのかもな。
まあどっちでも同じことだ。
こうなったら俺たちのやるべきことはひとつ。
襲撃者をぶちのめす!
「できれば生け捕りにしないとね」
おっ、そうか。
後で尋問とかするためだな。
「……そういうこと」
んじゃあ、エド。
おまえはサポートだ。補助だけ頼む。
おまえの魔法でボカーン!ってやっちまったら、木っ端微塵だし。
…襲撃者とはいえ、できれば人間がボカーン!ってなるのは見たくねえ。
「アルが危なくなったら、躊躇はしないよ」
分かってる。
俺は素早く馬車を飛び出し、すぐ扉を閉めた。
護衛役だかんな、中にいる王子様には指一本触れさせないぜ!…ってな感じで、扉の前に立ち塞がる。
とたん、四方八方から襲撃者が寄ってきた。
バラバラの動きのようでいて、絶妙にタイミングをずらしての連携した斬り込みだ。
こいつら、手練れだな。集団で戦うのにも慣れてやがる。
でも、動き自体はそんなに速くない。
リンの方がずっと素早かったぜ。
俺は五月雨状に降り注ぐ斬撃を掻い潜り、まずは一番近くまで迫っていた黒頭巾の背後に回り込んだ。
後ろ首筋あたりを、手刀で……ていっ!
どさっ
よし!
意識刈り取りに成功っ!
やっぱこいつら、ひとりひとりはそこまで強くないな。
俺は同じ要領を繰り返して、ほどなく全員をその場に昏倒させた。
念の為、最後に馬車の屋根に飛び乗って、あたりを眺め回しながら気配を探ってみる。
…シーン、としてた。
もう誰もいない、な。
俺は屋根から飛び降りると、中にいるエドに声を掛けた。
終わったぞ。
「サポートする必要もなかったね」
エドが苦笑しながらひょっこり出てくる。
こうして、大したこともなく俺たちは依頼を終えたのだった。
どっちかっつーと、後始末の方が面倒だったな。
御者の人に応援を呼んできてもらって、その間に襲撃者をふん縛っておいて。
全員を王城までしょっぴいていった。
後のことは城の兵士とか取り調べ役人とかに引き継いだけど、連中の剣には致死毒が塗られてた上に、襲撃者全員の奥歯にはいざって時の自決用に毒薬が仕込まれていたんだそうな。
うっへぇ〜…!
聞くだけで気が滅入る話だ。
命をなんだと思ってやがんだよ。
「……僕たちの他には御者だけで、ダミーの護衛すら付けなかったのはそういうことだね……本当にやってくれるよ、ジル殿下は…!」
…エドがなんか怖かった。
余計な犠牲者が出ないよう、またエドの実力を見込んでではあるが、囮の馬車にはあんまり人数を配置しなかったことに憤ってるようだった。
で、でも、それはしょーがないんじゃねえかな?
向こうからすりゃ、自分とこの兵士に犠牲は出したくないだろうし。
俺たちは危険も承知でこの依頼を受けたんだし。
それに、結局おまえは出番すらなかったし、俺だってあれくらい掠りもせずに倒せたわけだしさ。
結果オーライで別にいいんじゃ…
「成功報酬は交渉して上乗せしてもらうよ。危険手当として当然だ」
…うん。
そのへんは、もうおまえに全部任せるよ…
一方で、ジルクリフト殿下の外交もつつがなく完了したという。
王城に戻ってきて俺たちと合流し、ジルクリフト殿下はご満悦の笑顔だった。
エドは苦々しい表情。
「やあ、さすがはエドワード殿下だねー。あの人数を全員生け捕りにして、かつ自身は無傷なんだから。やっぱり君に頼んでよかったよー」
「それについては少々お話したいことがあるよ、ジル殿下?」
「えー?私には別にないかなー?」
最初対面した時に使った、王城内の秘密の小部屋で。
王子様二人の間で見えない火花がバチバチッと飛び散った。
俺、正直ドン引きしてた。
二人と同じテーブルにはついてたけど、心情的には明後日の方を向いて、早くこの話終わらねーかな…と気も漫ろだった。
と、そこに妙な物音が。
剣戟?
遠くから、俺の耳に飛び込んできた。
エドとジルクリフト殿下はまだ気付いてない。値段交渉に白熱してるからか。
どうしても気になったので、俺はそっと席を立ち、扉をちょっとだけ開けてみた。
「…アル?」
「えっ、どしたのー?ここ秘密の場所なんだから、あんまり不用意に扉を開けないでよー?」
二人が怪訝そうにしていたが。
…そんな場合じゃない!
俺は返事するのももどかしく、小部屋から飛び出した。
耳を頼りに、駆けていく。
幸い、途中で誰かに引き留められたりすることはなかった。
そして辿り着いた。
ここは……王族のプライベートスペースになってる区画か。
俺も故郷じゃずっと王城通いしてたから、こういった城の構造にはちょっとは詳しい。
限られた人間しか入れない場所だ。
ところが、あろうことかそこに黒頭巾の姿が!
…襲撃者どもの、頭領格だった奴だろう。ひとりだけ隙をついて逃げ出してきたのか!
しかも、いたのは黒頭巾だけじゃなかった。
金髪碧眼の……ここ数日ですっかりお馴染みになったビジュアルの青年が、黒頭巾の剣に追い詰められているところだった。
青年も剣で応戦しているが、どう見ても劣勢だ。鍔迫り合いの押し合いで、明らかに押されてる。
足場も悪く、よりによって階段の踊り場だった。あと一歩でも下がったら転げ落ちちまう。かといって不用意に前に出れば黒頭巾の剣の餌食っていう、進退窮まった状態で。
ここの王子様は三兄弟。きっとあの人、ジルクリフト殿下の…
考えるよりも先に、俺は動いてた。
と、同じタイミングで、黒頭巾と青年の攻防にも決着がつき、
「ーーーうっ!?」
「帝国の礎となるがいい!」
青年がついに押し切られ、後ろ向きにバランスを崩す。
そのまま階段から転落しそうになってるが、落ちる前に黒頭巾が剣を振り下ろしてトドメを刺そうと!?
っさせるか!
俺は上の階側から走り込んできていた。
その勢いのまま踊り場目掛けて、飛び降りキーック!!!
めこっ☆
決まった!
黒頭巾の頭部に俺の靴底がクリーンヒット!
勢い余って、黒頭巾を壁にめり込ませちまった。
だが、それはどーでもいい。
黒頭巾を無力化すると、俺は三角飛びの要領で壁を蹴り、踊り場からさらに下方へと。
転落中の青年がどっかに体をぶつける前に空中キャッチし、体勢を整える。
んで、下の階に着地っ!
これまた決まった!10点満点っ!
なーんてなっ。
俺は腕の中に抱きかかえてた青年の様子を覗き込んでみた。
なんか……唖然とした顔してる。
こんなことがあったばかりだ、無理もない。
改めて見てみると、やっぱジルクリフト殿下に激似の美青年だ。間違いなく弟二人のどっちかだろう。
見たところ怪我はなさそうだが……大丈夫か?
「あ、ああ、おかげで助かった……」
おっ。
ちゃんと受け答えできるなら、もう大丈夫そうだな。
よかった!
俺は安心させるためにニカッと笑って、青年をそっと立たせてやった。
そこに、遅れてエドとジルクリフト殿下が。
いきなり飛び出してった俺の後を追ってきたらしい。
「え……エミリオ!?これは…」
「どうやら危ういところをアルが助けたみたいですね。ねえ、ジル殿下…?」
「ううっ………わ、分かった。成功報酬は追加で、これくらいで…」
「殿下にとって弟君の命はそんなに安いと?」
「………じ、じゃあ、これくらいまでならなんとかっ…」
ジルクリフト殿下。
大急ぎで人を呼んで、弟さんの安全を確保してやってから、エドとそんな交渉をしてた。
………。
呆れる俺。
エドも、いい加減にしてやれよ…
そうやって二人に気を取られてたから、気付かなかったんだ。
近衛兵に守られながら自室へと戻っていくエミリオ殿下が、肩越しに振り返って、俺のことどんな目で見てたのかって。
***
…こんな目だったのな。
キレーなハートマークの浮かんだ美しい碧い双眸。
ぶっちゃけ、気付かないままでいたかった。
エドの値段交渉も済んで、さて依頼が片付いたことだし王城からお暇しよう……ってところだったんだ。
俺がエミリオ殿下からの呼び出しを受けたのは。
「あの子はプライドも高いけど義理堅いからねー。直接きちんとお礼を言っておきたいんだと思うよ?」
とジルクリフト殿下。
あっち側の不手際で黒頭巾を逃がして騒動になっちまったから、俺とエドの存在はもう城内には知れ渡っていた。
だから呼び出し自体は別に不自然じゃない。
ただ、俺にひとりだけで来てくれって指定だったのが、ちょっと変だなって思った。
なんでエドをハブって、俺だけ?
首を傾げることしきりだったが、まあそんな大したことじゃねーだろ。って高を括ってた。
直接助けたのは俺の方だから、それでかな、くらいに考えてたんだ。
…まさかだった。
まさか、俺に愛の告白をするための呼び出しだったとは。
花咲き乱れる王宮の中庭で。
俺、王子様から告白ナウ。
…なんでだよっ!!???
あまりのことに咄嗟に返事もできず、俺が引きつったまま固まってると、
「絶・許!!!!!」
うわぁっ!?
怨念じみたエドの声が!?
あああっ!
あいつ、中庭の出入り口あたりの茂みのところに!
隠れて聞いてやがったなー!?
気付かなかったのは俺も不覚だが、そういやあいつも気配を消す方法を身に付けてたんだった。
こんなことに悪用しやがって!?
「なっ……なんだ君は!?俺たちの邪魔をするな!」
エミリオ殿下が狼狽えてる。
けど、俺の手はギュッと握ったままだ。この人もしぶとい!?
「はーーーーー!?お邪魔虫はそっちなんだけど!?アルは僕のスウィートハニーだよ!?前世から将来を誓い合った仲だ!運命の恋人である僕を差し置いて、おこがましいにも程があるよっ!!」
茂みから飛び出してツカツカとこっちに歩み寄ってきながら、エドのやつ。
…とんでもねー大嘘つくな!?
誰が恋人!?誰が将来を誓い合ったって!?
しかも前世のくだりを持ち出すなよ!他の奴にはわけ分かんねーだろ!?
「ちょっ……待っ……エミリオ、おまえっ……失恋で傷心中だったんじゃ…!?」
ああああっ!?
ジルクリフト殿下まで!
茂みの影からガサッと出てきて、腹を抱えて……笑ってる!?
「確かに俺は酷く傷付き落ち込んでいた……しかし、それはもはや過去の話です!失恋の痛手は、新たな恋によって癒やされました!」
「ぶふぉっ………立ち直り早っ!……私の弟がっ……面白すぎるぅっ…!!!」
おおおおおおいっ!?
めっちゃ爆笑してやがる!
やっぱヒデェぞこの兄貴!?
「僕のアルに触るなっ!」
わっ!?
エドがエミリオ殿下の手を力づくでベリっと引っ剥がして!?
俺のこと抱き寄せ……
てんじゃねえよっ!離せっ!!
「やめろ!彼は嫌がっているじゃないか!!」
ギャーッ!?
反対側から、エミリオ殿下まで!?
「うるさい黙れ!アルが嫌がってるのは君の存在だ!」
「なんだとっ…!?」
「うひぃッ……ド修羅場っ……!ヤバすぎるぅっ…!」
笑ってねーでどうにかしろよジルクリフト殿下!?
片方はあんたの弟だろ!?
「無、理っ…!!!ぶふっ…!」
役に立たねーなクソ王子!?
っつーかここ、俺以外全員王子じゃねーか!
しかもうち二人は腐れホモ!
どんだけ狂った空間だよっ!?
「これは一体何の騒ぎです!?」
あああああっ!?
また増えたー!?
そりゃこんだけ騒いでたら集まってこられてもしゃーないけど!
また金髪碧眼だよもうお腹いっぱいだよ!
もしかしなくても第三王子だろ!?
「エミリオ兄様!?…ジル兄様まで!本当にどうしたというんですか!?」
「ぶふふっ、聞いてよヒューゴ!エミリオがさぁ…!」
「いいところに、ヒューゴ!俺は彼と交際することにしたぞ!」
「だからそんなの許さないって言ってるだろ!?大概にしないと、本気で処すよ!?」
も…
もう嫌だーっ!!!
………。
王子様サンドに揉みくちゃにされた、俺。
なんとか無事に脱出することができた。
最終的には、あのヒューゴって呼ばれてた第三王子がなんとかしてくれた。
友達なのかな?第三王子と同い年くらいの奴がもうひとりやって来て、
「ヒューゴ様、これを!」
「あっ……この前のカンペ!?」
「こんなこともあろうかと、念の為取っておいたのです!」
「ナイスだよシーザー!」
二人でゴソゴソとやってたかと思いきや。
「わー。エミリオ兄様、横恋慕を拗らせた挙げ句にそんな無体をするんですかー。そんな人だとは思わなかった見損ないましたー。弟としてとっても恥ずかしいですー」
いきなりすっごい棒読みで!?
手にしたカンペが読み上げられた瞬間、俺にひっついていたエミリオ殿下がその場に崩れ落ちてorzのポーズになった。
当分立ち直ってきそうにない。
その隙にエドが俺の身柄を確保。
…って、だからおまえもドサマギにひっつくな!
ジルクリフト殿下はどーしょーもなく爆笑し続けていた。
で、ヒューゴ殿下とその友達が、俺とエドをそこから離脱させてくれたんだ。
王城の外まで見送ってくれて、
「あの……兄様たちがご迷惑をお掛けしたようで、すみません…」
「まったくだよ!」
コラッ!エド!!
俺は噛みつこうとするエドを窘めて、申し訳無さそうな顔のヒューゴ殿下に頭を振った。
気にすんな、と。
…どうしても頬のあたりが引き攣っちまったが。
こうして俺たちは、王城を後にした。
エドのやつはまだプリプリ怒ってやがる。
「まったく!僕のアルに手を出そうとするなんて!次男ってのはどいつも碌なもんじゃないよ!」
…オイ。
まさかと思うが、それ。ウィルのことまで言ってないよな?
エミリオ殿下は困ったもんだったけど。
あ。
しまった…
あんな騒動になったせいで俺、ちゃんと告白断ってこなかったよ。
かといって今更引き返したりはできねーし、したくねーし…
………。
うん。
決めた。
当分、この国には来ないっ!
「大賛成だよアル!こんなとこ、早く出立しよう!!」
俺たちは次の冒険を求めて、レオンハート王国から旅立った。
だから、知らなかった。
「ああ……愛しい君。次はいつ逢えるだろうか…?」
「エミリオ兄様、なんかキャラ変わってません!?」
「しょうがないよ、恋は人を狂わせるのさ。……ぶふぉっ!」
「ジル兄様は笑いすぎです!?」
王城の窓から遠くの空を見つめながら。
エミリオ殿下がしぶとく俺に恋い焦がれてたなんてこと。
第二王子の好み=ちょっとアホっぽくて明るくて裏表のない笑顔の可愛い人
毎回成就しそうにないけど人を見る目はある




