どこの国でも王城は鬼門1
作者のお遊びが入ってます
「結婚を前提に交際してくれ!!!」
俺の手をギュッと握り、んなことをのたまった金髪碧眼の王子様。
これ、誰だと思う?
…エド?
だよな、あいつだって思うよな。
俺、冒険者のアル。その正体はサウザンド王国貴族のアルバート・フォン・フュリューリンゲン。
サウザンド王国の第一王子、エドワード・デ・ラ・ウル・サウザンドにはず〜〜〜〜〜っと前から好きだ愛してる結婚してと言われ続けてきた。国を出奔するまでは、不本意ながら実際に婚約者の間柄だったしな。
だから、俺にガチ告白する腐れホモ……もとい王子様っつったら、もうエドで決まりだろって思うだろ?
金髪碧眼超絶美形の王子様で、俺に懸想するアホなんて他にいるわきゃないって…
………。
…ははは(乾いた笑い)
いたよ。
いちゃった。
ここ、レオンハート王国の第二王子。エミリオ・ジル・レオンハート殿下。
ただ今現在進行形で俺の手を握って目をハートマークにしてる、とんでもねー王子様が。
***
話は……もう畳んで終わらせてーけど、そんなワケにはいかねーよな…(遠い目)
話は数日前に遡る。
レオンハート王国の首都に、観光目的で訪れてた俺たち。
とはいえ、せっかく来たんだから、ここの冒険者ギルドの依頼もチェックしていこうってことになった。
なんか面白いクエストがあるかもだからな。
んで、一泊してから冒険者ギルドに足を運んで…
中に入るなり、いきなりその場の全員から注目を浴びせられた。
俺じゃない。
一緒にパーティ組んでる仲間のエドが。
「……なにかな?」
エド、どうってことないって平然とした顔で微笑んでたけど。
本心じゃ、ちょっと動揺してたよな?
あと理由も分からず注目されてることに不機嫌になってた。
こいつとは大概長い付き合いだから、俺には分かる。
奥の受付カウンターにいたギルド職員さんの一人がササッと駆け寄ってきて、俺たちに耳打ちした。
「す、すみません……唐突で申し訳ないのですが、ちょっとギルマスのところへ…!」
わけが分からなかったが、それを確かめるためにも行ってみるしかない。
俺とエドは案内されるままに、ギルマスの執務室へと向かった。
そして、説明された。
エドが注目された理由。
「ここ首都の冒険者ギルドには、時折王侯貴族から特殊依頼を出されることがあってな……今、少々厄介な依頼を抱えてるところだったんだ」
その依頼とは、王族の身辺警護。
偉い人のSPをやれってことだな。
…正直、この時点で違和感があった。
だって王族の警護なんて、近衛兵とか王城務めの騎士や兵士の仕事だろ?
わざわざ冒険者ギルドに外部委託するような仕事じゃない。
そう突っ込んで質問してみたら、壮年のダンディなギルマスは深々と溜息をついて、
「ご明察だ。身辺警護ってのはまぁ建前というか方便でな、嘘ってわけではないんだが……実際の依頼は、もう少し異なる性質のものだ」
それは何かと尋ねたら。
王族の影武者。
諸事情あって、第一王子ジルクリフト・ド・ラウル・レオンハート殿下が某所へ外交に赴く際に、囮になる替え玉が必要なんだって。
…諸事情の部分、かなり政治的なえげつない内容っぽい。
俺たちみたいな一介の冒険者には明かされないし、俺たちも知らないままの方がいいんだろう。
こんなヤバげな依頼だから、成功報酬は破格だった。
今まで、受注しようとした冒険者も複数いたそうだ。
しかし未だ受注されずに残ってる。
何故か?
…影武者の条件が難しすぎたんだ。
影武者なんだから、ある程度は本物に似ていなければ務まらない。
ところが、そのジルクリフト殿下ってのが……並外れた美男子らしくて。
金髪碧眼白磁の美肌、と絵に描いたよーな完璧王子様ルック!
んな奴どこにいるんだよー!?…って途方に暮れてたところにやって来たのが、俺たちだった。
正確には、俺じゃなくてエドが。
…まあこいつも実は正真正銘の王子様だもんな。あとムカつくくらいの美形だし。
にしても、王子様ってどこの国でも似たような容姿なのか…?
「いや、偶然なんかじゃないよ。今はそうでもないけど、一昔前までは婚姻外交なんてのが流行ってたから。各国の王族には血縁があるんだ。……ずっと遠い親戚筋に当たる」
エドが後でこそっと教えてくれた。
なるほど…
親戚だから、容姿も似通ってるってわけか。
俺はエドにどうするか、尋ねた。
ギルマスは受けて欲しそうにしてる。
俺も、遠い親戚が困ってるんなら、助けてやっても……とは思うが。
悩ましいのは、エドが本来の身分を捨てて冒険者やってるってことなんだよな。
他国の王族に関わって、もし正体がバレでもしたら…
…どうなるんだろ?
具体的には分からねーけど、なんか面倒でややこしいことになりそうだよな…
まあ俺は考えるのは苦手だ。頭もあんま良くねーし。
エド自身の決断に任せることにした。
「受けてもいいよ。…ただし」
エドはギルマスに向かって断固とした口調で、
「アルも一緒に、ね♡」
………。
なんでだよっ!?
「だって!そんな依頼なんかのためにアルとちょっとでも離れなくちゃいけないなんて絶対に嫌だ!!」
アホみたいにゴネるエド。
つーか、マジでアホか!?
んなことよりも気にしなけりゃいけないこと、もっと他にあるだろ!?
「よし、承知した。それではその条件で」
あっれー!?
ギルマス承知した!?
なんでどーして!?
「いやもう本当に他に候補なんかいなくて困ってたんだ。期日も迫ってるし……相棒のおまえさんも、王子殿下(影武者)の護衛役ってことにすりゃどうとでもねじ込めるから!頼むっ!」
パンッ!と手を合わせて拝むギルマス。
ほ、本当に切羽詰まってたんだな…!?
俺たちみたいな、駆け出しの冒険者に拝み倒すなんて。
と、ゆーわけで。
正式に依頼を受注した俺たちは、王城へ。
本物のジルクリフト殿下とやらにも秘密裏に面通しされた。
影武者を演じるためには本物の雰囲気を知っておかなけりゃ、って理屈みたいだが。
「やーやー。君が私の影武者をしてくれるんだねー。まあよろしくー」
ゆ…
ゆるい…!?
本物の王子様、めっちゃゆるいな!?
口調もフワフワした感じだし、表情もどこかぼんやりした微笑みを浮かべるばかりで!
容姿の特徴だけは確かに、金髪碧眼美男子と、エドと似通ってるが。ゆるいせいで二人の印象はかなり大きく異なっている。
なんつーかな。
エドが、キリッ!としてるのに対し、ジルクリフト殿下は、ふわわ〜、って感じで。
一口に王子様っつっても、いろんなのがいるもんだなぁ…
とか思ってた俺は、呑気だった。
ゆるい口調のまま、ジルクリフト殿下が唐突に言い出したんだ。
「って、茶番はこのくらいでいいよねー。サウザンド王国のエドワード王子殿下?」
………。
…ウッソ。
ば、バレてるー!?
速攻でバレてるじゃん!?
「うちの国の情報収集能力もまぁそれなりだからねー。でも本当に冒険者やってるなんて驚いちゃったー」
「さあ?一体なんのことやら?」
えっ!?
もう完全にバレてるのに、エドのやつすっとぼけて!?
「あ、そーいうスタンスでいくんだ?……ふふふ、まぁいーけどねー」
後でエドから聞いたところによると、このジルクリフト殿下。
ゆるい雰囲気とは裏腹に、かなりの切れ者でしたたかな奴なんだとか。
同じ第一王位継承者って立場で、外交上の交流があったらしいんだけど、エドでさえ油断ならないと感じた相手だったそうな。
そんな奴の影武者をよく引き受けたな、とも思ったが「どうせジル殿下にはバレてるか、いずれバレるだろうし。こっちからさっさと存在を明かしておいた方がこの国ではなにかとやりやすいよ」だって。
…王族同士の駆け引き、怖い。
でも、確かに。
エドの正体がしょっぱなからバレてたので、その後の話はトントン拍子にスムーズに進んだ。
「音に聞こえた俊英エドワード殿下であれば、なんの憂いもなく影武者を任せられるよー」
他国の王族から見ても、エドの才覚は突出しているらしい。
武術もそうだが、特に魔法。
実力は折り紙付きだし、同じ王族ゆえにこういった場合の対処も心得てくれてるから、安心して任せられるんだって。
ある程度の気安さもあるのか、ジルクリフト殿下はこんな打ち明け話もしてくれた。
「…今まではね、私の影武者。上の弟が務めてくれてたんだけどねー」
現在のレオンハート王家は男ばっかの三兄弟。
長男が、このジルクリフト殿下。
で、次男のエミリオ殿下って人が有事の際には兄の影武者をしていたんだと。
…弟にそんな役割させるなんて、酷いな。
「いや酷いとかそーいう次元の話じゃないからねー。王族とは公人だ。私を含めて、必要とあらば国家のためにこの身を危険に晒すこともやむなしさー」
う。
俺、心の声が顔に出ちゃってたらしい。
ごめんなさい…
王族って、やっぱ色々と大変なんだな…
「では、どうして今回はギルドに依頼を?」
「いやエミリオの調子が……ちょっと、ね……」
エドの問いに、初めてジルクリフト殿下の歯切れが悪くなった。
顔を見合わせる俺とエドだったが、
「一目惚れで初恋して即座にフラれて失恋しちゃって傷心中なんだ…」
………。
しょーもなー!!!
なにか不幸でもあったのかって、一瞬でも深刻に受け止めて損した!
「そう言わないでよー……弟にとっては超深刻な大問題だったんだよー」
そりゃまぁ、そーかもだけど…
「あんな状態で影武者の任に就かせたら、万が一がないとも限らない。…さっきはああ言ったけど、私にだって人並みの情はあるからさー。弟を危ない目に遭わせたくはないんだよー」
なるほどな。
それで、ギルドの依頼を経て、エドにお鉢が回ってきたってことか。
ついでに言うと、下の弟さんはまだ未成年の学生だから、最初から選択肢には入れてないんだって。
この人。
なんか掴みどころがないけど、ちゃんと弟思いのいいにーちゃんみたいだ。
なあ、エド。
この依頼、しっかり果たそうな!




