刺客が現れた!
『嫌だっ!離してよ!?』
『ふへへへへへへ……いいからこっちに来なさい、さああ…!!!』
あれは、まだ小学生の頃。
僕は変態被害に遭いかけたことがある。
いつも一緒に登下校しているたろーちゃんが宿題忘れのバツ当番で居残り掃除させられていて、珍しく一人で下校していた時だった。
なんか汚らしくて怪しいおじさんにいきなり腕を引っ張られて、裏路地の暗がりに連れ込まれそうになっていた。
必死で抵抗したけど、大人と子供の力の差は歴然だ。
踏ん張って踏み止まろうとする靴底がズルズルと地面を擦り、少しずつ引っ張られていってしまい…
ああ、もうダメだ…!って涙目で絶望しかけてたら、
『どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
威勢のいい掛け声と共に、たろーちゃんが突っ込んできた!
バツ当番が終わったみたいだ。
僕のピンチに気付いて、道のずっと向こうの方から勢いよく助走つけて、変なおじさんにジャンピングキック!
おじさんが怯んで僕の手を離した隙に、ぐいっと引っ張って…僕を自分の背中に庇ってくれた。
『こうちゃんに何しやがんだ、この変態!』
蹴っ飛ばされたおじさんは、割とすぐ復活してきた。
たろーちゃんは小さな頃から運動神経がよかったけれど、この頃は所詮子供の力で、そこまでは強くなかったから。
『このクソガキが…!いいところで邪魔しやがって!』
なんて恐ろしい怒りの形相と声!
変態の異常者だったのだろう、血走った目がゾッとするほど常軌を逸していて怖かった。
僕はガタガタ震えてしまった。
だけど、たろーちゃんはそんな恐ろしい相手にも一歩も怯まずに、
『俺の友達に手を出すな!!!』
って毅然として叫んで。
ずっと僕を背中に庇ってくれてた。
見捨てて逃げたりする素振りもない。きっとたろーちゃんはそんなこと考えもしなかったんだ。
幸い、騒ぎの声を聞きつけて、近くにいた大人たちが変なおじさんを取り押さえて警察にしょっぴいてってくれて、事なきを得たけど。
そうじゃなかったら、たろーちゃんも巻き添えで危ないところだった。
なのに、助かってすぐ、たろーちゃんは僕を振り返ってニカッと笑って、
『こうちゃんが無事で本当によかった!』
ただただ、僕のことだけ気遣ってくれてた。
元から大好きだった幼馴染の友達が、僕の中でヒーローになった瞬間だった。
僕の胸はトゥンク…と音を立てて高鳴り。
同時に、下半身の中心がバッキュゥゥゥゥゥゥン!!!とおっきした。
…大事な思い出。
僕がたろーちゃんに本気で恋をした、始まりのメモリアルさ。
「…デジャブを感じるせいかな?今、そんなことを思い出したよ」
「色々と台無しだ!!!」
うっとりと語る僕に、アルが何故か頭を抱えてた。
僕たちに足元には、意識を失った暗殺者が転がっている。
この国の王子である僕の命を狙って、襲いかかってきたんだ。
一緒にいたアルが逸早く気付いて、倒してくれた。
…この国も一枚岩じゃないからなぁ。どの派閥の手の者だったのか、後でキッチリ調べなくちゃ。
だけど、今はそれよりアルだ!
色々とあったせいでずっと僕のこと怒ってたし許さないって警戒してたアルだけど。
いざ僕が危険な目に遭ったら、迷うことなく助けてくれた。
一瞬の躊躇もなかった。
暗殺者に選ばれるくらいだから、床で伸びてるこいつだって相当の手練れのはずだ。
まだ子供のアルが横から攻撃してくるとは予想してなかったようで、不意を突かれて結果としてあっさり倒されてるけど。
下手したらアルだって巻き添えで危ないところだったはず。
それなのに…!
あの、前世で僕を助けてくれた時と同じように…!
「これぞ愛の為せる業だよね!僕は嬉しいよ、アルっ!!!」
「ドサマギで抱きつこうとすんなっ!」
ベシっ!と。
アルにはたかれて、ハグしようとしたのを阻まれた。
でも、この暗殺者と違ってちゃんと手加減してくれてるのが分かる。
だって意識飛んでないもんね!やったあ!
「…いや、さすがにこの状況でおまえに気絶されても困るし。仕方なしにだ」
もう、またまた〜!
照れちゃって、ツンデレさん!
僕の愛するヒーローはちょっと素直じゃない。
だけど、そこもいい!好き!!
事後処理も一通り終わって、落ち着いてから。
アルに改まって問い質された。
「なあ、さっきの話…」
「ん?僕とたろーちゃんの恋の始まりのエピソードのこと?」
「俺を入れるなおまえだけだろ!…いやもうあれがきっかけで恋したとかはいーけどさ、それでなんで下半身がおっきするんだよおかしいだろ」
「ええー?好きになったら(バッキューン)とか(ピーッ)とか(ワンワンニャオーン)とかしたくなるのは当然だし自然な流れじゃないかなぁ?」
「放送禁止用語を連発するな!俺たちまだ小学生だったはずだろ!?なのにおまえ、そんな…」
「そういえば前世ではあの時が初めての勃起だったかな?」
「ウッソだろ…!?」
「僕、たろーちゃんのせいで大人の階段登っちゃったんだ♡」
「ギャーッ!?それが事実だとしても断固として認めたくねーし信じたくねー!?」
「あ、ちなみに転生して僕たちまた子供の体になってるけど…」
「…!?…お、おい、まさか…!?」
「………さっきのアルに、初めておっきしちゃった♡」
「ギャァァァァァァァァッッ!!???」
「また僕の初めてを奪っちゃうなんて……アルってば罪作りだなぁ♡これは責任取ってもらわないとね♡」
「理不尽すぎる冤罪だ!?大体、前世で俺の初めて…奪ったのは…おまえだ……………ウッ」
ああ、アル!?
アルが急に男泣きに泣き崩れて!?
一体どうしたというんだい!?
よく分からないけど可哀想に!
僕が包み込むように抱き締めて慰めてあげるっ!
「さ、触んな………バカぁっ!!!」
バッキャァァァアッ!!!
今度は手加減無しで殴られた。
ああ…アルってば本当にいい拳を持ってるよね!
素敵…!
「もう次からは助けねえ!絶対にだ!」
口ではそんなこと言うけどさ。
アルは、絶対にまた助けてくれるよ。
だって優しいしお人好しなんだから…
僕はそんなアルがずっと大好きだよ…
がくっ。
僕はとても幸せな気持ちで、意識を手放した。




