王様と!
今日も今日とて王城通いの俺。アルバート・フォン・フュリューリンゲン。通称アル。
最近13歳になったばかり。
前世での幼馴染であるエドと再会して、おおよそ一年くらいの時が経過した。
だが、状況は変わっちゃいない。
俺は相変わらずエドから尻を狙われ続けている。
この王城通いのことも「通い婚だね♡」とかふざけたことをぬかしやがったから、その場で一発殴っといた。
王子様に呼び出されてるから、仕方なく来てやってるんだっつの!
まあ、ここで出てくるお茶菓子とかは旨いし、一流の先生について学びを得られるから、そう悪いことばかりではないが…
エドもなぁ…
いい加減、俺のこと諦めてくれねーかな…
前世で受けた仕打ちをそう簡単に許すことはできねーけど、もう変なことしないって約束すんなら、普通の友達くらいにはなってやってもいい。
…一応断っとくと、絆されたわけじゃねーぞ。
なんだかんだで、気安くて楽ちんなんだよ。あいつといるの。
ずっと一緒だった幼馴染は伊達じゃない。
俺だって別に、好き好んで仲違いしたいわけじゃねーんだ。
俺が何も知らずに気付かずに過ごしてた昔みたいに、普通に遊んだりしたいよ。
人を嫌うのって、しんどいしさ…
あいつが今だにドロッドロの執着と愛情を向けてくるから、そーいうわけにもいかねーけど。
…あいつ、前世でもモテてたし、今世でも王子様だからモテモテだろうに。なんで俺にばっかり拘るんだか。
人の気持ちはままならないって言うけど、本当だよな。ハァ。
さておき、今日も登城した。
けど、今日はいつもと違ってエドの私室に通されはしなかった。
あいつの父親。
つまり国王陛下の私室に招かれて、マンツーマンで向き合ってる。
…なんで?
エドからじゃなくて王様からのご招待だったから、うちの父上とか狂喜乱舞の大騒ぎだったぞ。
「決して粗相せず気に入られるよう上手くやってこい!」とかって鼻息荒く申し渡された。
相変わらず王族への忖度がハンパない。
まあ宮廷貴族なんてそんなもんだろーけど。
俺、父上の跡を継いでやっていける気が全然しねーな…
大人になったら国を出るつもりでいるから、どっちにしろそんな心配する必要はないけどな。
で、王様だよ。
息子であるエドの私室よりさらにゴージャス!…かと思いきや、案外王様の私室は質素だった。
プライベートな内輪の茶会用のミニテーブルも、飾り気がないシンプルな丸いデザインだし。
あ、でも出されたお茶とお菓子はめちゃ旨かった!
王様が率先して食べてたから、俺も遠慮せずペロッといただいたぜ。
おかわりできたら嬉しいなー…
とか考えて正面の王様をチラ見していたら、向こうの方でも俺に伺うような視線を寄越してきていた。
肘をついて両手を組んだ上に顎を乗せて、じっ…とこっちを見てる。
…なんだ?
なんか、妙な気迫っつーかプレッシャーが…?
「アルバートくん、だったね」
「あ、はい」
「いつも我が愚息が世話になっている」
「はい、そーですね」
「………正直だな」
「あいつに関しては遠慮してやる気は一切ないんで」
ついでに、この王様に関してもな。
あんな息子を野放しにしとくなよと力の限りツッコんでやりたい。
エドいわく、脳筋らしいが。
俺のこの態度が気に食わないなら、あいつの傍から引き離してくれってんだ。
むしろ俺としては、そっちのが好都合なくらいだ。
王様が更に尋ねてくる。
「仮定の話だが。もし、エドが何か間違ったことをしていたとしたら、そちならどうする?」
「ぶん殴って止めます。グーパンで」
つーか、あいつは現在進行系で間違いだらけなので、俺はしょっちゅう殴り飛ばしてる。
基本、あいつに呼び出された時は二人きりだから、誰にも見られてないと思ってたけど。
王様に気付かれていた…?
んで、文句を言われるのだろうか?
父親だもんな。息子をぶん殴られていい気持ちのはずはない、か。
相手は仮にもこの国の最高権力者。これはマズいか…?
正当防衛だったって言って、通じるかな…?
にわかに心配になった俺だが、まったくの杞憂だった。
王様は何故か急に機嫌が良くなってハッハハハと大きく笑い、
「そうか、そうか!拳で語り聞かせるというわけか!」
「俺、口でしゃべるよりも体動かす方が得意なんで」
「うむ、若年ながらになかなかの武辺者よな。その意気やよし!」
…なんか知らんが、お咎めなし!?
よ、よっしゃ!
許された理由が皆目分からねーから居心地が悪いけど、とにかく今後も遠慮なくあいつをぶっ飛ばしていいってことだな!
次にグーパンしたら死刑、とか言われてたら俺の貞操の危機だったから助かるぜ!
「そちになら、安心して愚息を任せられる」
そっすか。
「今後ともよしなに頼む」
「はあ」
まあ大人になって国を出奔するまでは、あいつと仲良しごっこ続けるっきゃねーけど。
王様が俺にんなこと頼むなんて、あいつ……もしかして友達いねーのか?
俺には下心がオープンすぎてアレだけど、それ以外の奴相手になら割と人当たりもいいし親しみやすいんじゃないかと思うんだけどな…?
王子様って身分だと色々あるってことかな?
うちの父上じゃないけど、王族だからって忖度して取り入ろうとする輩も多そうだもんな…
そういう意味じゃ、多少は同情しないでもない。
本当に、普通の友達になら……なってやってもいいのに。
…ええい!こんなこと考えてちゃダメだ!
どーせあいつは俺に執着することやめる気配もないんだから、考えるだけ無駄だし!
俺は努めて気にしないようにして、その後の王様との会話も適当に相槌を打つだけで終わらせた。
「何か欲しいものはないか?」と聞かれたから、お菓子のおかわりは要求したけど。
王様はそれにも何故か上機嫌で、おかわりの他にお土産も持たせてくれた。
やったー!
美味いものをたらふく食って満腹になるって幸せなことだ。
俺はニコニコで王様の私室から退室した。
すると、出てすぐのところの廊下で、エドがなんか焦燥した様子でウロウロしてた。
俺に気付くと、真っ直ぐにこっちに駆け寄ってくる。
「よかった!アル、大丈夫だった!?」
とかマジで心配そうに言うけど、一体何のことだよ?
「父上のところに呼び出されるなんて……何か無茶なこと言われなかった?もっとフィジカル鍛えろとか腹筋割れるまで筋トレしろとか」
「いや別に?」
あと筋トレと走り込みは俺の日常ルーチンなので言われるまでもない。
俺はまだ子供の体だから、成長に影響が出ないように鍛えるのには気を遣うけど。
そーいや王様も話題には出してたな。
男の価値は腹筋の割れた数で決まるし筋肉は裏切らない、っつっといたら、めっちゃくちゃ喜んで食いついてきた。
「そ…そう………アルとは元々相性がよかったみたいだね、僕の父上…」
エドは微妙に引きつり笑った顔だった。
しかし、すぐにいつもの調子に戻ってキラキラ王子様スマイルになると、
「ともかく君が父上に気に入れたみたいで本当によかった!これで二人の仲もきっと認めてくれるよ!」
ん?
なんのことだ?
…なーんか、あからさまに嫌な予感が…
「昨日ね、父上にそろそろ婚約者を決めるようにって言われたんだ」
オイ。
まさか…!?
「僕はもちろん、アルがいいって答えたよ!」
やっぱりかこの野郎!?
この異世界は同性婚も認められてるとはいえ……跡継ぎ作りも必須の王族がそれはヤベーだろ!?
よりによって王様に、よく言えたな!?
「あ、跡継ぎ作りに関してはどうとでもできるよ?」
「マジかよ!?」
「魔法の秘薬で…」
「クソファンタジー異世界ッ!!!」
余計なアイテム存在しやがってー!?
「今は僕たち王族とか、上流貴族とかの特権階級だけが密かに使ってるけど、そのうち民間レベルにまで広がっていくかもね。やっぱりさ、ほら、どんなカップルにも子宝に恵まれた幸せな家庭を築いて欲しいし」
「その志だけ聞けば立派に聞こえるなぁチクショウ!?」
「だからアルは何も心配しないで僕のところに嫁いできてね♡」
「むしろ心配しかねーってんだよ!!」
こんな戯言、もうたくさんだ!
俺はエドを振り切って、王城を後にした。
せっかくいい気分だったのが台無しだ。
早く家に帰って王様がお土産にくれたお菓子を食べて、気分を変えよう。
ところが、帰宅した後も俺には安らぎなどなかった。
父上が宮廷官吏だから、フュリューリンゲン家は王城近くの一等地に大きな屋敷を構えてる。
王城との行き来は馬車で。
馬車を降りて、使用人たちに出迎えられながら屋敷に入ると、待ち受けていたらしい父上がすぐさま俺に近付いてきて両肩にガッシと手を置いた。
「よくやったぞ、アル!」
「は?」
なんのことだよ?
心当たりはない。
が…
なんだろ、既に嫌な予感が…
「先程、王城から使いが来て知らせがあった。おまえはエドワード王子殿下の配偶者候補と認定された!」
「はーーーーーーーー!?」
「すなわち将来的には王配ということだ!おまえは駆け引きなんぞまったくダメで期待できないかと思っていたが、それが逆に功を奏したのだな!あの気難しくてどこにツボがあるのか読み辛い国王陛下にここまで気に入られるとは!でかしたぞ!!」
いやあの王様俺からすりゃかなりチョロいと思うけど…
って、んなこと言ってる場合じゃない!
「じ、冗談じゃ…」
そんな話は速攻で断る!
当然だ!
「案ずるな、おまえが不在だったので私が代わりに返事を出しておいた!無論、快諾したぞ!」
「おいコラ父上ぇぇぇぇぇッ!!???」
なんつー勝手なことを!?
いくら父親だからってやっていいことと悪いことがあるだろ!?
子供の人生を勝手に決めてんじゃねえ!
と、盛大に文句を言ってやりたかったのだが、両肩に置かれた父上の手の力がギリギリと押さえ付けるように強く…!?
痛たたたたたたッ!?
「そうか、アル!おまえも嬉しいか!そうに決まってるよな!!」
…あっ、これ反論を許さねーって顔だ。
俺は瞬時に悟り、父上の説得は諦めた。
そんなわけで、俺は公式にエドの婚約者に祭り上げられちまった。
親に扶養されてる子供の身の悲しさで、表面上は反抗することもままならず…
だからって受け入れたりはしねーけどな!
このままじゃまた脱☆童貞できねーまま俺の人生詰むじゃねーか!
今度こそ、前世の二の舞いにはならないって固く誓ったんだ!
見てろ…!
大人になった時!
こんなふざけた国からは速攻で出ていってやるんだからな!
おまえとの縁もそれまでだ、エド!
「アルの行くところには常に僕もついていくよ…?」
妙なフラグを立ててんじゃねえッ!?




