ピンチです!2
町の広場が急遽宴会場みたいになった。
もう時刻は夕暮れ時だ。
冒険者たちは昼過ぎには討伐を終えて戻ってきてたんだけど、大量のお肉を調理する準備で、こんな時間になっちゃってた。
普段だったら、僕たち子供はおうちに帰されちゃう時間。
だけど今日は特別だって、許してもらえた。
僕はお父さんとお母さんと一緒に、野外設置された鉄板焼きや網焼きのお肉にありついた。
柔らかくて香ばしくてすっごい肉汁たっぷりで、ほっぺが落っこちちゃいそうだった!
おっかないオークだけど、食べるとこんなにおいしいんだ。
仕留めてくれたアルお兄さんたちに重ねて大感謝だ!
そのアルお兄さんはというと、あっちで冒険者仲間や町の大人たちに囲まれて引っ張りだこになっている。
討伐の功労者はみんなの人気者なんだ。
本当は僕も、もう一度アルお兄さんと話したかった。
でも、とても僕みたいな小さな子供が割って入っていける感じじゃない。
残念。
エドお兄さんも似たような感じだったけど、あっちは女性率が高いなぁ…
この町の未婚の女性ほぼ全員が周囲を取り巻いてるんじゃないかな?
ゴージャス美男子の吸引力ってすごいや。
…などと感心してる場合じゃなかった。
お肉を食べ終えたお皿を片手に、ぽけーっとアルお兄さんとエドお兄さんの方を眺めてた僕。
急に後ろから肩をグイッと引っ張られた。
誰っ!?
と思ったら、お姉ちゃんだった。
見ないと思ったら、家で着替えてたの?
一番いい一張羅のワンピースを着て、しっかりばっちりメイクまで決めてる。
それは別にいいけど…
なんか、やたらと気合の入った血走った目をしてた。
え、やだ怖…
「ヨハン。今こそ勝負の時よ!」
え、なに?
なんの勝負?
お姉ちゃんは何と戦おうとしているの?
「私、エドさんに告白してくるっ!」
え、
「えええええええっ!?」
「シッ!声が大きいわよっ!」
僕は慌てて手で口元を押さえた。
幸い、宴会場は大勢の人でガヤガヤしてて、誰も僕たちのやり取りを気にも留めてなかったけれど。
僕はどういうこと?と目でお姉ちゃんに問い返した。
お姉ちゃんは鼻息も荒く捲し立てて、
「エドさん、あんなに素敵な人でしょう?」
うん。そうだね。
ゴージャス美男子で人当たりも良くてしかもあんなに強いって、なかなかいないよね。
「この町一番の美少女である私には相応しいと思うでしょ?」
えっ…
僕はたらっと冷や汗を流した。
それはどーだろう…
僕のお姉ちゃんは確かに美人だ。
町で五本の指には入ると思う。
だけど、所詮こんな小さな町の中でのトップ5だよ?
それに対してエドお兄さんは世界レベルのゴージャス美男子だ。
正直、格が違いすぎるっていうか…
エドお兄さんの隣に立たせると、お姉ちゃん全然美人に見えない。まあせいぜい普通の子だよね、って印象になっちゃう。
それだったらまだしもアルお兄さんの方が釣り合いが取れそうだよ。
アルお兄さんだってすっごくカッコいいけどさ。なにしろエドお兄さんと一緒にいて見劣りしないくらいなんだから。
でも、カッコよさのタイプが違うからかな?
アルお兄さんはもうちょっと僕たちに近くて、親しみやすい感じがするんだ。
もちろん強いし。なによりも優しいし!
弟としては、アルお兄さんを義理の兄候補として推したいけどなぁ…!?
「なーに言ってるのよ!さっき森で助けてもらって戻って来るまでの私とエドさんの親密っぷりをあんたも見てたでしょ!?」
ええ〜…
お姉ちゃんが一方的にベッタリくっついてただけだったような…
「まだおこちゃまのヨハンには分からなかったかもしれないけど、私ははっきりと感じたのよ!彼からの好意を!!」
危ない目に遭ったばかりの僕たちに、気を遣ってくれてただけなんじゃ…!?
「いける!私は確信したの!!」
盲信の間違いじゃないかな!?
「とゆーわけで、あんたも協力なさい。ヨハン」
えっ!?
そこで、僕が出てくるの!?
どういうこと!?
「エドさん、あんなに取り囲まれちゃってるでしょ?ジョアンヌやマリー、レイチェルにロッテといったこの町きっての女豹どもに!」
あ、うん。
お姉ちゃん以外のトップ5美人だね?
…どうでもいいけど、この町のトップ5美人って互いに張り合ってあんまり仲良くないんだよね。
だからって女豹呼ばわりはいかがなものか。
「あれじゃあとても告白なんてできやしない!」
そうだね。
ここは騒がしくて人目がありすぎる上に、確実に他のトップ5美人が邪魔してくるだろうしね。
「そこであんたの出番よ、ヨハン。エドさんをなんとかあの女豹どもの包囲網から連れ出してきて!」
「えええええ〜〜〜ッッ!!?」
僕は再び大声で叫んでしまった。
そんなの無茶だし、嫌すぎる!
絶対にトップ5美人をはじめあそこの女性たちに睨まれるじゃないか!
「確かに難しいミッションだとは思うわ。だけど、あんたならきっとやり遂げられる!」
お姉ちゃんからの無駄に篤い信頼が!?
「お願いよ!女は女に容赦なんかしない!私が突撃していっても多勢に無勢で返り討ちだわ!まだ子供でエドさんとも直接面識のあるあんただからこそ、可能性があるの!私の幸せのために!ねっヨハン!!」
ううっ…
お姉ちゃんからそこまで頼まれちゃ、しょうがない。
そもそも告白してうまくいくビジョンがまったく見えてこない、虚しさしかないミッションだけど…
性格がこのとおりちょっとアレでも、僕の大事なお姉ちゃんのためだ。
僕は決死兵となる覚悟を決めた。
………。
しばらく後。
僕はどうにかエドお兄さんを人気のない場所へと一人だけ連れ出すことに成功した。
…詳しくは語りたくない。
僕が世にも恐ろしい目に遭ったということだけは、言っておく。
オークに追いかけられるのとどっちが怖かっただろ…(遠い目)
と、ともかく。
広場から離れた、裏路地で。
気合を入れたお姉ちゃんが僕たちを待っていた。
いや、正確にはエドお兄さんだけを。
…役目が終わったら弟はクールに去れよ、ってことなんだね。そんな目で睨まなくても分かってるよ。
僕はエドお兄さんをお姉ちゃんと引き合わせると、ササッと物陰に引っ込んだ。
聞き耳を立てる。
…出歯亀じゃないよ。これは弟としての責務だよ。
たぶん速攻でフラれるだろうお姉ちゃんのアフターケアをするためには、状況を把握しておかなくちゃ…!
「こんなところまで来てもらって、すみません…」
わあ、お姉ちゃん聞いたこともない殊勝な声。
「いや、僕もあそこから抜け出したいと思っていたから、構わないよ」
エドお兄さんが詮索もせず僕についてきてくれたのは、そういうわけか。
モテすぎるゴージャス美男子も大変だね。
「実は、どうしてもお話したいことが…!」
「うん、なんだい?」
「好きです!私と付き合ってくださいっ!!」
お姉ちゃんいったーっ!!!
「ごめんね」
そして速攻でフラれたー!!!
やっぱり僕の予想通りだよ!
なんの驚きも感慨もない!
「そんなっ!?どうして!?」
お姉ちゃん食い下がってる!
もうやめなよ!?
お姉ちゃんのライフはもうゼロなんだよ!?
最初から無謀な戦いだったんだって…
「僕が愛しているのは今も昔もこれからもアルだけだから。他の誰かを好きになることなんてありえないんだ。だから、ごめん」
ほら、エドお兄さんだってこう言ってる!
………。
えっ…!?
戦いすんで日が暮れて。
って元々もう遅い時間だったけど。
お姉ちゃんが裏路地に崩れ落ちてヘコんでた。
「どっ……どーしてよぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
しょうがないじゃない、お姉ちゃん。
フラれた理由は僕にも予想外で、ビックリだったけどさ。
性的趣向はどうにもならない。
エドお兄さんの好みがアルお兄さんみたいなカッコいい男の人だっていうなら、お姉ちゃんは最初から対象外だったんだよ。
ある意味、よかったんじゃないかな。
『女性が好きだけど、君みたいなのはちょっと…(失笑)』って感じにはならなかったんだから。
かろうじてお姉ちゃんの女性としての面目は保たれたと思うよ?
「どこがよ!?…くっ、こうなったら!」
あれっ?
お姉ちゃんが急にすっくと立ち上がって?
背後にメラメラと炎をしょって燃え上がっている!?
「思えばあんたの忠告通りだったってわけよね、ヨハン。いいわ、分かった」
えっ僕?
僕なにか言ったっけ?
「あんたのお勧め通り、アルさんに告白するわっ!彼だって十分カッコいいし!いける!!」
ええええええ〜〜〜ッッ!?
僕は仰け反ってドン引きした。
お姉ちゃん、いくらなんでもそりゃないよ…
エドお兄さんにフラれたからって、すぐアルお兄さんに乗り換えるなんて。
「いくらなんでも節操がなさすぎだよ…!?」
「そうだね、僕もそう思うよ」
僕に同意する冷ややかな声が、すぐそこから飛んできた。
って、エドお兄さん!?
もう広場の方に戻ったと思ってたのに!?
裏路地に引き返してきて、僕たちを……というか、お姉ちゃんをじっとりとした目で睨んでる。
え、なんか…
異様な迫力があって、怖わわわわわ…!?
「アルに告白なんて許さないよ?」
「そっ、そんなの……エドさんに口出しする権利なんてないじゃない…!」
お姉ちゃんもビビってる!
でもビビりながらでも反論できるんだねすごいや!?
今のエドお兄さんには逆らわない方がよさそうな気配がビンビンにするけれど…!?
「権利なら、あるよ。さっき伝えた通り僕はずっとアルが好きなんだ。ずっとずっとずっとずっとずっとず………っと。それをぽっと出の君みたいなビッチに横からちょっかい出されるなんて、不愉快千万極まりないよ」
「な、なななっ…ビッ…!?」
エドお兄さん、綺麗な顔して、とっても汚い罵り言葉を使うよ!?
お姉ちゃんは真っ青になって絶句。
エドお兄さんはさらに畳み掛けてきた。
「僕に告白した舌の根も乾かないうちにアルにまで手を出そうとするんだから。とんだアバズレのビッチじゃないか。君みたいなのはアルに相応しくないのはもちろん、告白する資格だってないんだよ。上辺だけで判断して僕を最初に選択したって時点で、ね」
あっ…!
僕は急激に唐突に悟った。
さっき大勢の女性に囲まれてたエドお兄さん。
ゴージャス美男子の吸引力は、確かにあったと思う。
でも、エドお兄さんが拒まずにニコニコ愛想よく応じてたから、あんなにまでなってたんだ。
女性たちはみんな、エドお兄さんのハートを射止めようと必死だった。その望みがあるように見せかけられていたから。
本当はエドお兄さん、アルお兄さん以外には目もくれないってのに。
「わ…罠…!?」
女性たちの関心がアルお兄さんに向かわないよう、自分自身に引き付けておいて!?
いざ引っかかったら、今のお姉ちゃんみたいに完膚なきまでに叩きのめすっていう、二段構えの罠だ!?
僕の零した呟きに、エドお兄さんはうっそりと笑んだ。
陰性の食虫花を思わせるような妖艶な笑みだった。
「もしアルに近付こうとしたら……覚悟するんだね。君がビッチなことを大々的に公表して社会的に破滅させてあげるから」
ヒェッ…!
これは、ヤバい!
エドお兄さん完全にマジだ!
本気の上にどこかイッちゃってるアレな目をしてる!
僕は急いでお姉ちゃんを振り返った。
「お姉ちゃん、もう諦めよう!?」
しかしお姉ちゃんからの返事はなかった。
何故なら、
「お、お姉ちゃん………息してないっ!?」
「あれ?ちょっと脅しが利きすぎた?」
お、
お姉ちゃーーーーーんッッ!!?
…なんとかお姉ちゃんは息を吹き返した。
ショックで一時的に呼吸が止まってただけだった。
よかっ……いやよくはないけど。
とりあえず最悪の事態は避けられた。
今は魂の抜けたよーな顔で虚空を見詰めてボーゼンとしてる。
僕は最後に、エドお兄さんに聞いてみた。
「あの、最初からアルお兄さんにだけ好意を寄せてたら、告白を許してもらえたんですか?」
「もし仮にそうだったとしたら、しっかりした人を見る目のある子だよね。もしそんな子がいたら、僕も敬意を払って………ビッチ呼ばわりはしないよ」
「結局どっちにしろ告白は許さないってこと!?」
「当たり前だよ!僕からアルを奪おうとする泥棒ネコをみすみす見逃したりするはずないだろ!」
わあ。
これ、最初からクリア不可能の無理ゲーだったってことだね。
お姉ちゃん、どんまい!
オークの問題が片付いたので、町に集まっていた冒険者たちは翌日にはそれぞれ旅立っていった。
アルお兄さんとエドお兄さんも。
彼らは遠いどこかで、これからも冒険を続けていくんだろうね。
もう二度と会うこともないかもしれないけど、二人と知り合えたことは、僕にとって強烈に印象的な思い出となった。
いい意味でも、悪い意味でも。
………。
う、うん。
全体的には、良かったと思うんだ。
オークから助けてもらったし、おいしいお肉もごちそうになったし。
うん!
素敵な出会いでしたっ!!
そーいうことにしておこうと思う。
そうして、僕たちも町でのいつもの暮らしに戻っていった。
あ、お姉ちゃん?
この3年後に、町でまぁまぁ好青年の部類に入るジョージって男と平凡な結婚をしたよ。
ちょっとアレだった性格も少しは鳴りを潜めるようになった。
「私、悟ったのよ。身の丈に合わない相手を望んでも碌なことにならないって」
憑き物の落ちたような顔で、お姉ちゃんは言った。
「世の中には、理想的王子様の姿形をした地雷もあるって!もう知ってるの!もう二度と引っかからないっ!!」
そうだね。
お姉ちゃん盛大に踏み抜いて、あわや爆死するところだったもんね。
いいことだと思う。
余談だけど、他のトップ5美女たちもことごとくエドお兄さんという名の地雷を踏んで派手に爆発してた。
なんか彼女たち……せっかく美人なのに「もう男なんて信用できない…」とかって同性愛に走ったり、そーいうこと自体に意欲を失ってオールドミスになりそうな気配だ。
彼女たちにはご愁傷さまだけど。
僕のお姉ちゃんは、ああならなくてよかった…!
平凡だけど幸せな結婚をして幸せな家庭を築いたお姉ちゃんは、そろそろジョージを尻に敷いて主婦の貫禄が出てきている今日この頃さ。
兄弟姉妹のうち片方がちょっとアレだともう一方がしっかり者になるという典型的な例




