特訓だーっ!
冒険者のアルだ。
いっぺんサウザンド王国にちょっとだけ戻って、またすぐレイクヒル共和国の町に引き返してきた。
使い切っちまった魔物寄せっていうアイテムの補充と、あとついでに目ぼしいクエストがないかチェックするため、まずは冒険者ギルドに立ち寄った。
入るなり他の冒険者パーティに絡まれちまったけど…
でも、結果としていい出会いになったな。
武闘家の……え?天才武闘家?……ともかく、リンって人。
成り行きで勝負することになったけど、かなりやる奴だった。
可愛い女の子だからって、最初挑戦を断ろうとした自分が恥ずかしいぜ。
見た目や性別で、相手を決めつけちゃいけない。
そんなの相手に対して失礼だもんな。
分かってたつもりだったけど、俺はちゃんとできてなかった。今後は気をつけないとなぁ。
で、戦いが終われば、互いにノーサイドだ。
ちょうど昼飯時になってたし、俺たちは出会いを祝して食事を共にすることにした。
何故かエドと、リンの仲間のキリコって人は、渋い顔をしてたけど。
俺とリンとでなんとか説き伏せて、ギルド併設の酒場へと。
酒場っつっても、普通の食事も取れるからな。
体が資本の冒険者向けの、ボリュームと栄養たっぷりのメニューが豊富。
他の食事処を探すのも面倒だったし、気安く利用しやすいので、ここにした。
まあ店員さんが俺たちのこと覚えてて「今回は大盤振る舞いとかしないですか?」って笑顔で聞いてきたのには、苦笑いだったけど。
まだ真っ昼間だぞ。こんな時間から飲まねーよ。
前の時は打ち上げだったから特別だ。
それに、今日初めて会ったばかりの女の子二人と食事をするのに、いきなり酒を入れるのはなんかダメだろ。
男女差別はいけないって怒られたばっかだけど。
これはやっぱ、礼儀だと思うからな。
「また今度な」って軽く流して、普通の注文だけしておいた。
「いや全然普通じゃない大量注文じゃないですか!?アルさん、どれだけ食べるんです!?」
「え?これくらい冒険者なら普通じゃねーのか?」
「そーよキリコちゃん、これくらいは食べるわよ」
「リンちゃんは健康的な健啖家だから特別なのよ!…で、でもアルさんも同じだった…!?」
「危ない…!?この二人やっぱり変に似通ってる……絶対成立しないように阻まないと…!!」
「そうですね、エドさん。私たちの手で断固阻止です!」
…??
エドとキリコがなにやら示し合わせたように頷き合ってる。
知らないうちに仲良くなったのか?
おまえらも魔法使い同士だもんな。
やっぱ気が合ったりするのかな。
俺は三本目の骨付き肉に齧りつきながら、二人の様子を見てなんとなしにそう思った。
にしても、この肉うまいなぁ。
ボアのアバラ肉なんだな。ジャイアントボアの方がうまかったけど、これもなかなかイケる。
リンが食ってるのは、ホーンラビットのソテーか。
そっちのもうまそうだな。俺も次に食おう。
おっと、肉ばっかじゃなくて野菜も食わねーとな。
エドがこーいう食事のバランスとかうるせーんだ。
山のサラダ、頼んでおいた。
こんな名前だけど別に山から採れる材料で作ったってわけじゃない。見た目が山みたいなんだ。
リーフレタスにパプリカに細切りキャロット、トマトにナスにズッキーニ、あとビーンズやスライスオニオンその他諸々を大皿にたっぷり敷き詰めて、最後にブロッコリーを上から盛ってある。
いろんな種類の野菜が入ってて賑やかだし、本当に山みたいにこんもりしてるから目に楽しいんだよな。
ギルド併設の酒場では大抵扱ってる定番メニューなんだそうな。
気に入ったので、ちょくちょく頼むことにしてる。
「いやそれ、本来は大勢で取り分けて食べるものですけど…!?アルさん一皿全部いった!?」
「あっ、いーわねそれ。私も一皿もらうわ!」
「り、リンちゃん……たくさん食べるリンちゃん素敵っ♡……ああでも、なんかモヤッとするー!?」
「僕の言ったこと気にしてくれてて嬉しいよ、アル♡……ああでも、なんか…!?」
それからスープ代わりのシチューと、パスタ。
パンには肉を挟んでもいい。
あ、これ挟もうっと。
焼鳥みたいな味だな。なんの鳥だろ?
…え?フロッガー?
あのカエルっぽいモンスターか!?
あれの肉も食えるんだ…
よく考えたらヘビの肉もうまかったもんな。爬虫類や両生類型のモンスターの肉って、結構いけるのかも。
フロッガーバーガー、うまかった。
俺たちは心ゆくまで食事を楽しんだ。
ここの酒場の料理メニューは大体制覇したなぁ。
串焼きや腸詰めなんかもうまかった。やっぱ酒場だけあって、酒のアテになりそうな料理は特に種類豊富でうまい。
で、食いながらいろんな話をしたんだけどさ。
めっちゃくちゃ重要な話が、リンの口から飛び出てきたんだ。
リンたちも最近冒険者登録して、数日かけてDランクに上がったばっかりだそうなんだけど。
「私たちは、たまたま!そう、たまたまっ!高ランクモンスターとエンカウントする運がなかったから、時間が掛かっちゃったけど!本当だったら私たちだって即日ランクアップできてたはずなのよッ!」
「EランクやDランクのモンスターを地道に狩っていって、ポイントを貯めたんだよね〜」
「くうっ…!辛く長い道のりだったわ…!」
「いやそれ、全然早い方なんじゃないの?僕たちほどではないにせよ、数日でランクアップしたんでしょ?」
「最短記録を樹立できなかったって時点で、ダメなのよ!」
「ええー、そこ?…そーいうのに拘るあたりは、アルと全然違うんだね。少し安心した」
「私のリンちゃん♡は向上心が高くて意欲旺盛で立派なんですよっ」
「僕のアル♡は細かいことには拘らない大きな度量の持ち主だよ」
「……なんです?」
「……なんだい?」
エドとキリコがまた二人だけで話してる。
なんかメンチ切り合ってるよーにも見えるけど、気のせいだよな?
おまえらやっぱ仲良いな。
それはともかく、俺はもっと別のことが気になった。
めっちゃくちゃ!気になった!
「Eランクモンスターとも……エンカウントしたのか…!?」
「え?そりゃそうよ。Eランクなんてそのへんに掃いて捨てるほどいるんだから」
現時点で俺ほどではないにせよ、リンもかなりの猛者だ。
なのに、低ランクのモンスターに避けられたりしてない。普通にエンカウントできてる。
ど、どーしてだ…!?
野生のモンスターは気配に敏感だから、弱いモンスターはなかなか出てきてくれないだろ!?
「そんなの、ちょっと気配を消しちゃえばいいのよ。簡単なことだわ」
マジか…
俺、できねーんだけど…
「え?ほんとに?あんた、強いけど不器用なのね?」
ううっ…!?
た、頼む、リン!
気配を消す方法を教えてくれーッ!!!
「ふっ…ふふんっ!いいわよ!私は天才武闘家だからね!それくらいチョチョイと教えてあげるわっ!!」
必死に拝み倒す俺に、リンは快く請け負ってくれた。
やった…!
これで俺もいろんなモンスターとエンカウントできるっ!
そしてスラポン三世を仲間にすることだって…!
「じゃあ外に移動しないとね。モンスターの出てくるフィールドで、特訓よ!」
おうっ!!!
俺たちは意気揚々と町を出た。
エドとキリコももちろん一緒だ。
それぞれ、パーティ組んでるからな。
つーか、エド。俺だけじゃなくおまえも教わっとけよ。
すっごく大事なことなんだからなっ!
「うん、もちろんそのつもりだよ。……アルとリンさんだけで仲良く特訓なんて、させてなるものか…!」
「当然私もいますからねっ!必要以上にリンちゃんに近付こうとしたら、ただじゃおかないんですからっ!」
エドもキリコもやる気十分って感じだな。
いいことだ。
さて、このへんで特訓に使えそうなとこっていうと、あのラージラージャナーガを討伐した草原あたりだ。
俺たちはそこに赴いた。
事後処理に当たってくれた人たちの頑張りで、討伐後の血溜まりなんかは綺麗さっぱりなくなっている。
ただ、ところどころ草原の緑がハゲて土が剥き出しになってる箇所があった。
…さすがに草原の完全回復はまだ先だな。
でも、特訓するにはちょうどいいスペースだ。
俺たちは草の生い茂っているあたりは避けて、ポッカリと空いた剥き出しの地面のところでやることにした。
真っ平らになってて、そういう意味でもやりやすい。
「私の通ってた格闘道場の先生が言ってたわ。気配を消すとはそれすなわち自然体。林の如く静かに佇むことこそ極意。気を外界に向けていたずらに放出しない、だが完全に抑えるのではなく、まわりと溶け込ませるように自然体でいることが寛容なのだ、って」
まずはリンが説明してくれた。
エドは「なるほど」って、すぐ何か掴んだみたいだけど。
…やべえ。
俺、全ッ然どーすればいいか分かんなかった。
このままじゃ俺だけ置いてきぼりに…!?
「でもこんな説明はよく分かんないでしょ?」
「えっ?」
「先生は立派な人だったけど、言うことが小難しくて理屈っぽくていけないわ。だから私、テキトーにやって身に付けたのよ」
「ええっ!?…だいぶ分かりやすいと思うけど、その先生の説明…!?」
「なんつーかね……こう、闘気をキュッと抑えて、それからスンって感じで普通にすればいいのよ」
「そっちの方がだいぶわけ分からないよ!?」
エドは文句を言ってるが。
そうか。
キュッと抑えて、スンって感じだな。
俺、分かった気がする!
「え”っ!?ほんとなの、アル!?」
「キリコちゃんの感覚を掴めるなんて……この二人、やっぱり波長が似てる…!?」
よし、ちょっとやってみる!
できた!
いっぺんできてみると、今までの自分がいかに気配垂れ流しだったかも分かる。
これじゃモンスターも寄ってこないはずだぜ。
なんか恥ずかしい。
「なんだ、ちゃんとできるんじゃない」
いや、おまえに教えてもらったおかげだ。
ありがとな、リン。
「ふっ、ふふんっ!まあ私は天才武闘家だからね!教えるのも天才的だったってことかしら!?」
本当にそうだぜ!
おまえは最高のライバルで、友達だ!
「そうね。私たち、いいライバル関係ね!」
俺たちは笑顔で握手を交わしあった。
べりっ
…と思ったら、速攻で引き剥がされた。
俺はエドに、リンはキリコに後ろから引っ張られて。
「だからあんまりベタベタしないでってば!」
「必要以上に近付いたらただじゃおかないって、言いましたよね私!」
えー!?
互いを認め合う友情のシェークハンドなんだけど。
「女性の手を軽々しく握ったりするのはアウトだよ!」
変な下心なんかないのに…!?
それでもダメなのか?
リンも俺と同様に怪訝そうにしてる。
「私は別に気にしてないけど…?」
「ダメよリンちゃん!男はみんなハイエナウルフなのよ!」
「それ男女差別の偏見なんじゃ…!?」
「ダメったらダメーっ!!」
………。
男はみんなオオカミ、って。
異世界だと、そんな言い回しになるんだな。
酷い言われようだぜ。
トホホ…
ともかく気配を消す方法を身につけることができた。
エドもできるようになってたな。さすがだ。
「……格闘道場の先生の教えがあってよかったよ。リンさんの説明だけじゃ絶対無理だった」
えー?
俺は逆だと思うけどなぁ。
まあ、どっちにしろできたんだから、いいか。
俺たちはそこで、リンとキリコと別れた。
どうせなら一緒にパーティ組まね?ってリンとは意気投合しかけたんだけどな。他二人にめっちゃくちゃ大反対されて、実現しなかった。
エドはまあ最初から分かってたけど、キリコにまであんな猛反発されるとは。
まあ、あっちは女の子二人パーティだもんな。
男二人とパーティ合体するなんて判断、軽々しくはできねーか。
ちょっと残念。
俺はリンとはまた手合わせするって約束をして二人と別れ、エドと次の町に向かうことにした。
せっかく気配を消せるようになったんだ。
そろそろモンスター討伐依頼も受注してみようかな?




