王城にて
国が揺れ動く一大事だった。
第一王位継承者であり、天才と名高かったエドワード・デ・ラ・ウル・サウザンド王太子。
彼が、忽然と姿を消したのだ。
数年来の親友であり婚約者でもあったアルバート・フォン・フュリューリンゲンとの、婚姻の誓いの儀を目前にして。
そのアルバートと共に、どこへともなく旅に出てしまったという。
混乱を極める臣下に、王は告げた。
「我が息子、エドワードはこの国には過ぎたる王子であった。もはやエドワードの才覚は一国の王の器などには収まらぬ。よって、余はエドワードを広い世界に送り出すこととしたのだ」
「し、しかし陛下!それではこの国はどうなるのです!?」
「サウザンド王国の次期国王は!?」
「エドワードはもはやいないのだ。王位継承権は、次の権利者に譲られる。自明のことであろう」
「では、まさか…!?」
「余はここに、我が第二子、ウィリアム・ド・ウル・サウザンドを次の王と定めることとする!」
僕はその茶番を、冷めた目で離れたところから眺めてた。
実は一番の当事者なんだけどね。
僕こそ、今の話にあった、ウィリアム・ド・ウル・サウザンド。
…たった今から、この国の第一王位継承者だ。
文武に秀でてみんなから期待を寄せられていた兄様と違って、取り立ててこれといった長所もない劣化品の。
今までは陰口を叩かれて散々バカにされてたこの僕が、次の王様なんだってさ!
とんだお笑い草だよね!
あはははっ!
………。
ごめん、嘘だよ。
こんなの、てんで笑えない。
酷いよ兄様…
昨夜のことだ。
兄様から僕たち家族にだけ内々に伝えられていた。
婚姻の儀を目前にして、肝心の婚約者が国を出奔しようとしてる。
だから兄様もついていくことに決めたって。
…いや、なんで?
唐突すぎてわけが分からなかった。
兄様の婚約者……アルのことは、僕もよく知ってる。
僕の、初恋の人。
ううん、今でも大好きなんだ。
だけど兄様には到底かなわないって分かってるから…
部屋でひとりの時にこっそり泣いて、明日の婚姻の儀は笑顔で二人を祝福しようって、覚悟を決めていた。
アルは優しいから、僕にもすごく良くしてくれたよ。
いつも頭を撫でて可愛がってくれた。
近寄っていって嫌な顔をされたことなんて一度もない。いつだって笑顔で迎え入れてくれて。
…本当の弟みたいに、大事にしてくれた。
兄様よりもアルの方が、よっぽど僕の兄様らしかったかも。…なんてね。
それでもアルが優先するのは、やっぱり兄様なんだよね。
対等に向かい合えるのも。
兄様とアル、二人して近くのダンジョンでドラゴンを討伐してきたこともあったっけ。
アルまでそんなに強いってそれまで知らなかったから、ビックリしちゃったよ。
でも、どこか納得だった。
兄様に相応しいのはアルで、アルに相応しいのは兄様なんだって。
ストンって腑に落ちたんだ。
ちょっと悔しかったけど。
僕は潔くアルへの想いを諦めることができた。
…それだけに、寝耳に水だよ。
なんで今さらアルが国を出奔するのさ?
兄様と幸せな結婚をして、二人でこの国を治めていくんじゃなかったの?
しかも兄様までついていくなんて言って、国を出てくとか。
本気で意味不明だよ。
僕も困惑したけど、父様はその比じゃなかった。
「何故だ!?どうしてそのようなことが…!」
いつもの冷静な国家元首の顔をかなぐり捨てて、兄様に詰め寄っていた。
顔色は蒼白だった。
まあ、そりゃそうだよ。
期待をかけてた大事な長男がいきなり家出宣言したら、まともな父親だったら取り乱すに決まってる。
まして兄様は第一王位継承者なんだ。
次期国王として不足なしと、周りにも認められてたのに。
このままじゃ次の王座は空白になっちゃう。
そこんとこ、どうするのさ?
父様も僕と同じ疑問を抱いて口にしていた。
すると兄様はあっさりと、
「ウィルがいるではないですか。私に代わる立派な王位継承者が」
えっ…
そこで僕に振るの!?
酷くない!?
ってゆーか、無理だよ無茶だよ!
兄様と僕とじゃ能力も名声も人望もなにもかも雲泥の差じゃないか!
「言いたい奴には言わせておけばいい。おまえなら十分にやれるさ、ウィル。私はそう確信している」
…そんなこと言って。
う、嬉しくないなんて言ったら嘘になる、けど。
絶対に大混乱になるよ!
考え直してよ、兄様!
「すまない、ウィル。そして父上。私はもう決めているのです」
天才と謳われた兄様の本気の決意。
一体、誰に覆せるというのか。
…それこそアルくらいだと思うけど、今回の決意はそのアルが原因だしなぁ!?
ってゆーか、本当にアルはなんで出奔なんて!?
「分かりました、エド」
オロオロするばかりの僕と父様に代わって、母様が初めて口を開いた。
母様は控えめな人だ。
普段なら国王である父様を立てて、決して出しゃばったりはしない。
でも、家族として、母親としてなら、別ってことなのかな。
息子の僕でさえ見たこともないような決然とした表情で、
「昔からあなたは、わたくしたちの理解の範疇にはいない子でした。あまりに優秀すぎたせい、と解釈していましたが……その認識でもまだ不足していたようですね。あなたの器は、もはやこの一国に収まるものではない。だからこそ出ていくのでしょう?」
えっ!?
そうなの兄様!?
「………まあそんな感じです」
本当!?
なんか微妙に目が泳いで冷や汗が流れてるように見えるけど気のせい!?
実は国とか関係なくアルについていきたいだけってのが本音じゃないかなぁって不肖の弟としては思っちゃうなぁ!?
母様はひとつ大きく頷いた。
「いいでしょう。正直なところ、可愛い息子をかっさらっていく嫁を姑としていびり倒したかったという気持ちもあるのですが…」
なんかドサマギにすごいこと言ってない母様!?
「あなたの愛する人と、この広い世界を見てくるといいでしょう。お行きなさい、エド。わたくしたちの自慢の息子…!」
「ありがとうございます、母上!」
「あなたもそれでよろしいですわよね、陛下?」
「う?うむっ…しかし…」
「こうなったエドの心はビクともしませんわ。ならば、せめて気持ちよく送り出して、定期的に帰ってきてもらえるようにするのが最善策と心得ますわ」
「…ぬぅ…」
父様も最後には折れた。
僕、思っちゃった。
母様って実は最強じゃないかな、って。
まあそんなわけで。
僕たち、家族の内輪ではかたのついてた話だったんだけど。
今が初耳の臣下たちは、そう簡単に飲み込めるわけないよね…
特に、兄様が玉座についてからの政治的な動きを予測して立ち回ろうとしてた連中とか。
目論みを外されたんだから、そりゃ騒然となるに決まってるよ。
その筆頭は、フュリューリンゲン卿……アルの父上だと思うんだけど。
フュリューリンゲン卿って本当にアルと血が繋がってるの?って疑いたくなるくらい腹黒くて狡猾で計算高い宮廷貴族だから。
アルが王配になった暁には、外戚として権勢を振るうだろうって誰もが当然の如く予想してたんだ。
しかし今、そのフュリューリンゲン卿に動揺は見られない。
喧々囂々と言葉を飛び交わせる宮廷貴族たちの群れの中にあって、ただ一人無言を貫いている。
静かすぎて、不気味なくらいだ。
「一体どういうことですかな、フュリューリンゲン卿!?」
やがて、他の宮廷貴族たちが疑惑と追求の声を上げ始めた。
「貴殿の子息であるアルバート殿と共に王太子殿下も旅に出てしまうとは!これは貴殿が裏で糸を引く謀か!?」
「そっ、そうですぞ!そもそも本来であれば本日が二人の婚姻の儀だったはず!それを目前に行方をくらませるとは…」
「何も知らぬでは、通りませぬぞ!どうなのですかフュリューリンゲン卿!?」
この騒ぎをずっと冷めた目で傍観していた僕だけど。
…それは僕も気になるな。
アルが何を考えてこんなタイミングで出奔したのか。
父親ならば、知っているのではないか?
僕は他の連中と一緒になって、フュリューリンゲン卿の返答を待った。
フュリューリンゲン卿はじっと目を瞑ってなかなか口を開こうとはしなかったけど、やがてゆっくりと息を吐き出すようにして、
「我が愚息、アルバートのしでかしたことに関しては不明の至り。弁明の余地もありません」
まさかの全面肯定!?
非を認めることをそんなあっさり口にするなんて。
言質を取られたら命取りで、言動には常に気を配らなければならない宮廷貴族にはあるまじきことだ。
というか、常のフュリューリンゲン卿ではありえないことだ。
僕たちが唖然としていると、
「しかしながら、エドワード王子殿下が出奔されたことに関しては、私も預かり知らぬこと。何故愚息と同じタイミングでいなくなってしまわれたのかは……はて、とんと見当もつきませぬなぁ」
本心か、それとも思惑でもあるのか。
フュリューリンゲン卿の続けての発言に、一旦は言葉を飲んで静まり返っていた連中が再び騒然となった。
「なにを無責任なことを…!」
「詭弁を弄して我々を煙に巻こうという腹積もりか!?」
「それで済むとお思いか!?」
誰も納得なんてしやしない。
そりゃそうだよ。
僕も。
アルの真意を聞けると思ったのに、結局何も分からないままだ。
はぐらかされてイラッとした。
フュリューリンゲン卿の落ち着き払った態度が、ますます苛立ちに拍車をかける。
だけどーーー
「無論、アルバートの父親として、またフュリューリンゲン家当主として、責任は取るつもりです。私は宮廷官吏を辞しましょう」
予想外のセリフ。
誰もが咄嗟に反応できなかった。
権勢欲が人一倍強いことでも有名だったフュリューリンゲン卿が、自らそれを放棄するなんて!?
この事態では失脚は免れないと見て取って、先んじて動くことで被害を最小限度に留めようとしてのことか。はたまた、別の意図でもあるのか。
凪いだ湖面のようなフュリューリンゲン卿の表情からは、彼の本心がどこにあるのか、まったく読むことができない。
「待て、フュリューリンゲン卿」
声を上げたのは、父様。
国王陛下その人が、辞職を表明するフュリューリンゲン卿に待ったをかけた。
「そなたに話がある。ついて参れ」
「………仰せのままに」
父様も、何を考えているのだろう。
フュリューリンゲン卿を引き連れて、奥の執務室へと引っ込んでしまった。
………。
って、本当にちょっと待ってよ酷いよ。
渦中にあった二人がいなくなって、この場に残された当事者は僕だけ!
当然の如く矛先がこっちに向かってくるよ!
これを機に少しでも利権を得ようと、みんなして取ってつけたように。
「心中お察し致しますぞ、ウィリアム王太子殿下」
「突然このようなことになって、さぞ心細いことでしょう」
「どうか我々を頼ってくださいませ!」
「なぁに、私などは前々からエドワード様よりウィリアム様の方が秀でているとーーー」
見え見えのおべっか。
ご機嫌取り。
今までずっと、僕のこと兄様の劣化品だって影でバカにしてきたくせに…!
兄様のことを持ち上げていた派閥の連中まで、掌を返して兄様をこき下ろすようなことを口にしだした。僕に……第一位王位継承者におもねりたい一心で。
この時、なんて受け応えていたか、僕はあまり覚えていない。
適当にあしらうようにしていたとは思う。
まとわりつこうとする連中を振り切って、なんとか自室に逃げ戻ってから。
鏡を見て、自分でも驚いた。
僕、すごく疲れ果てて擦り切れたような顔で…
すっかり死んだ目をしていた。
ねえ、兄様。
僕はずっと兄様のこと羨んで、僻んでた。
なんでもできる兄様。なんでも持ってる兄様。
兄様はずるい、って。
だけど、それでも僕。
兄様のこと、好きだったよ。
誰よりも素敵な自慢の兄様だもん。
大事な家族だもん。
なのに、いなくなっちゃって。
兄様だけじゃなく、アルまで。
大好きな二人にはもう会えなくなって。
僕のまわりに残されたのは、あんな連中ばっかりだよ。
あんな奴らにまとわりつかれて、僕、次の王様にならなくちゃならないの?
…酷いよ。
こんなのって、あんまりだ。
宮廷ではまだ騒ぎが続いているようだった。
政権の取り合いの綱引きで、しばらくは落ち着きそうにない。
僕はずっと自室に引っ込んでいた。
下手に表に出ていったら、あっという間に餌食にされそうで恐ろしかった。
第一王位継承者って、こういうことなんだ。
僕に付随する権力を利用しようという輩が群がってくる。
あるいは、傀儡にして実権を掌握しようってことかな。
優秀だった兄様ならともかく、劣化品の弟ならうまいこと言いくるめて操り人形にできるって考えてるんだ。
僕は相変わらず軽んじられ、ナメられてる。
肩書きだけ変わっても、人が変わるわけじゃないものね。
結局、僕の扱いなんてそんなものなんだ…
鬱々としているところ、父様が訪ねてきた。
フュリューリンゲン卿を伴って。
父様は言った。
「ウィルよ。第一王位継承者であるそなたの補佐に、フュリューリンゲン卿をつけることにした」
…また唐突な。
どういうつもりかと視線で問い返しても、父様はそれ以上詳しくは語らなかった。
フュリューリンゲン卿も。涼しい顔で一礼だけして、後はノーコメント。
面白くない。
僕はふくれっ面をしていたと思う。
「おまえがどうしても嫌だと言うのであれば、再考するが」
父様が心配そうに確認してきた。
僕は少しだけ考えたけど、すぐ首を横に振った。
「いいえ。構いません」
二人の間でどういったやり取りがあったのかは、分からない。
だけど、少なくとも父様は僕のためを思ってこの人事を決めたはずだ。
フュリューリンゲン卿は……他の宮廷貴族と同じように、僕を利用したいだけかもしれないけど。
どうせ、誰を傍に置いても似たようなもんなんだ。
だったら他の貴族連中よりは、大好きなアルの父親であるフュリューリンゲン卿の方がいくらかマシって気がした。
全然似てない親子だけどさ。
「よろしく。フュリューリンゲン卿」
「臣はウィリアム様のために全力を尽くすことを誓います」
その忠誠の誓いの言葉。
どこまで信じていいものやら。
僕は半信半疑だった。
分かったことがある。
フュリューリンゲン卿は確かに有能な男だった。
僕の日常は激変していた。
第一王位継承者として学ばなくてはならないことも、やらなければならない仕事も、うんと増えた。
それをすべて的確に効率的にサポートしてくれる。
僕にまとわりつこうとする連中のことも、ある程度は牽制して抑えてくれた。
とても助かった。
代わりに、フュリューリンゲン卿の風評はより一層酷いものになった。
兄がダメになったから今度は弟にうまいこと取り入って権勢を維持した政治的怪物、権力欲のバケモノ、なんて悪しざまに陰口を叩かれている。
まあ僕も正直なところ、多少はそう思わないでもないけど…
フュリューリンゲン卿は実際に大いに役に立ってくれている。
ただ僕に取り入って利用しようとするだけじゃなく、きちんと対価を支払っていると思うんだ。
そういう意味では、やっぱりアルの父様なんだな…とも思った。
芯は真っ直ぐで筋を通そうとする男だ。
僕は、なんだかアルが懐かしくなってしまった。
ある時、僕はどうしても我慢しきれなくなってストレートに聞いてみた。
「ねえフュリューリンゲン卿。アルはどうしてこの国を出ていってしまったの?」
それまで黙々と僕の補佐として書類仕事を片付けていたフュリューリンゲン卿の手の動きが、ピタッと止まった。
書類に目を落とし、僕の方は見ないままに、言う。
「私が育て方を失敗したために、愚息は勢いだけで生きているようなアホの子になってしまいましたので……」
ごふっ。
僕は思わず吹いた。
また誤魔化されちゃうかなって、あんまり期待してなかったんだけど。
これ、素の答えじゃないかな!?
ってゆーか、素の答えで父親からアホの子呼ばわりされるアルって…
「勢いに任せて、広い世界に飛び出したくなってしまったのでしょう」
「そ、そーなんだ…」
「あの子は昔から活発で、外を駆け回っているのが大好きな子でしたから。王城での暮らしは窮屈に過ぎたのかもしれません」
うん。
滅茶苦茶だけど、アルらしいや。
「アルは、ここに来るのが嫌だったのかな…?」
「エドワード様やウィリアム様と共に過ごすことは楽しみにしていたと思います」
久しぶりに家族以外の口から聞いた。兄様の名前。
以前はみんなちやほや褒めそやしてたくせに、今ではまるで罪人の名みたいに禁句扱いにして、誰もその名を口にしようとはしない。
フュリューリンゲン卿は普通に呼ぶんだね。今でも、兄様にも敬称をつけて。
「愚息はウィリアム様のことを弟のようで可愛いなどと申しておりました。私は、あれに弟妹を作ってやることができませんでしたので、その分の思いもあったのやもしれません」
「そっか…」
僕もアルのこと、本当の兄様よりも兄様みたいって思ってた。
兄様とあのまま結婚してたら、実際に義理の兄弟になってたわけだし。
あ。
僕は唐突に、目の前にいるこの男が、もしかしたら親戚になっていたはずだったのだと気付いた。
フュリューリンゲン卿はずっと書類にだけ視線を向けている。
主と話しているのに臣下がこっちを見ないなんて不敬だけど、僕はあえて咎めなかった。
仕事の手は止まったまま。
なのにフュリューリンゲン卿は疲れて目がしょぼついたという感じで、しきりと瞬きを繰り返していた。
目の端に僅かに滲む光るものにも、僕は気付かないふりをしてあげることにした。
「今頃どこにいるのかな、兄様とアル。元気でいるかな。フュリューリンゲン卿は心配じゃない?」
「…幼い頃、愚息がドラゴンを倒したなどと言ってきたことがありましてな」
「え?」
「よくよく話を聞いてみれば、なんのことはない。ただのトカゲを捕まえただけでした」
呆れて笑う父親にアルは、外で遊んできて泥だらけの笑顔で、言ったのだという。
『そのうち本物のドラゴンぶっ倒して、父上にも見せてやるぜ!』
…有言実行しちゃったんだから、アルはすごいよね。
「子供はいつの間にか成長するものです。トカゲと戯れて遊んでいたあの子も、本当にドラゴンを倒せるまでに強くなりました。何を心配することがありましょう」
「そうだね」
「残された私は、寂しい限りですが」
「…そうだね」
僕は思う。
フュリューリンゲン卿がこんなふうに胸襟を開けて打ち明け話をしてくれたのは、アルが僕のこと弟みたいだって言ってたからなんだろうなって。
腹黒く狡猾な宮廷貴族。悪辣なギルティ・ギル。
だけど今目の前にいるこの男は、我が子を思うただの父親だった。
僕はもう少しフュリューリンゲン卿のことを信用してもいいのかもしれない。
少なくとも、僕と同じ寂しさを抱えた人だ。
なんだか親近感が湧く。親戚のおじさんになるはずだった、この男に。
「いつかそのうち、また会えるよね。会いたいなぁ……兄様と、アルに」
ねえ、兄様。
ねえ、アル。
今どこにいるの?
僕はここで頑張ってるよ。
だから、いつか。
元気な姿で帰ってきてね。
僕は。
僕たちは。
いつでも、いつまでも待ってるよ…




