初クエストに挑戦!1
引き続き、アルだ。
今日も冒険者家業、頑張るぜー!
レイクヒル共和国って、いいところみたいだ。
政治や情勢が安定していて、国中どこでも治安が良い。
辿り着いたこの町も、のどかでのんびりとした雰囲気で。道行く人々もなんとなくのほほんと幸せそうに見えた。
そんなお国柄だからか、冒険者ギルドの掲示板に張り出されてる依頼も、大したことないやつが多い。
俺とエドは冒険者登録したばっかで、まだDランク。
受注できる依頼は……なになに、薬草採取?
モンスター討伐依頼もあるけど、ホーンラビットとかドリューとか、ランクの低いモンスターばっか。
そんなの、つまんねぇ。
「しょうがないよ。モンスター討伐依頼は、冒険者ランクに応じて受注できる範囲が決まってるみたいだし」
ふてくされる俺に、エドが冷静な顔して言うが。
でもさぁ。
さっき、分かったばっかじゃん。
弱すぎるモンスターは俺たちを警戒して出てこないんだろ?
それじゃ、討伐も何もあったもんじゃねえ。
「うん、まあね。実質達成できそうなのは、この中だと薬草採取の依頼だけになるかな?」
選択の余地なし、ってか。
…まーいいや。
初心者向けの依頼としてよく聞くしな、薬草採取。
俺たちも冒険者の定石通りに、鉄板の依頼から順序よくこなしていこう。
「じゃ、これだね」
エドが掲示板からその依頼票を一枚だけ抜き取った。
薬草採取に関しては、同じ依頼票が何枚も重ねて鋲で貼り付けられてあったんだ。
薬草はいくらあっても困ることはないから、常時複数出されてる依頼ってことらしい。
受付カウンターに持っていって、クエスト受注の登録をする。
「初クエストなんですね。頑張ってください!」
「おっ、駆け出しの新人かぁ?」
「最初はコツコツやることが大事だぜ」
「地味な依頼でも、まぁ気長に辛抱強くな」
受付のギルド職員さんや、その場に居合わせた先輩冒険者たちが応援してくれた。
…なんか、初めてのおつかい、みたいでちょっと気恥ずかしいな。
でも応援は嬉しかったから、俺たちは笑顔で頷いた。
この国の人たち、本当にいい人が多いよなぁ。
ってことで、野生の薬草がそこそこ見つかるっていう近くの草原まで出向いていった俺たちだったが、
「たったたたた大変です!南西の草原にーーー」
「なんだって!?」
「そんな!あそこにはたった今、新人の冒険者パーティが…」
俺たちが出発してからしばらくして、冒険者ギルドでそんな騒ぎが起こっているとは、もちろんまったく知らなかった。
晴れ渡った空はどこまでも青く澄んでいて。
吹き抜ける風に揺れる草原は、ずっと遠くまで広がっている。
うーん。
爽快な景色だな。
空と、草原の緑とのコントラストがめっちゃ綺麗だ。
薬草採取なんて、地味な仕事だけど。
こんな場所でのんびり過ごすのも、たまにはいいよな。
「僕はアルと一緒ならどこだって楽しいし幸せだよ♡」
はいはい。
分かったから、ちゃんと薬草探せよー。
いちいちモーションかけようとしてくるエドを適当にいなしてから、俺も薬草探しに取り掛かった。
えーっと。サイモンさんのダンジョンで栽培してたやつ、見たことあるから。
分かった!これだな!
「それはただの雑草だよ、アル」
………。
ま、まあ間違いは誰にでもあるって。
今度こそ。
これだっ!
「それ、毒草だよ」
うげっ!?
「経口摂取しなければ大丈夫だけど。そんなの持っていったらクエスト失敗になっちゃうよ」
うううううっ!?
おっかしいなぁ!?
「アルは昔っからこういうの苦手だよね……ふふっ」
くっそー!
笑うなよ、エド!
そう言うおまえはどーなんだよ!?
「今のところこれだけ集めたよ」
エドの手には、早くもわさっと薬草の束が。
嘘だろ…
なんで俺とエドでこんなに差が!?
「だって僕、元は王族だったでしょ。暗殺対策として必要な知識だったんだよ。薬草も毒草も」
………。
そっか。
王族って、やっぱ大変なんだな。
「まあ実際にはそんなに危ない目には遭ってこなかったけどね。うちの国もいろいろあるけど、比較的穏健な方だとは思うよ」
で、でもよく考えたら暗殺者とか出たこともあったよな!?
「うん。そしてアルが倒してくれたよね。僕のために…♡」
おまえも、苦労したんだな。
全ッッッ然、そんなふうには見えねーけど。
「アルと再会するまでは灰色の地獄の日々だったけど、再会してからは世界はバラ色でハッピーだよ♡」
そうか。
よし!
一緒に冒険者、頑張ろーな!
いろんなところ行って、いろんなことやって。
もう暗殺とかの心配のない自由気ままなアウトロー暮らしを、思いっきり楽しもう!
「うん♡」
にしても、俺もちょっとは薬草とか見分けられるようにならねーとな。
冒険者ランクの低いうちはこーいう依頼はまたありそうだし。
「僕が教えてあげるよ♡」
ああ、頼む。
俺はエドに実地で教わりながら、なんとか自分でも数本の薬草をゲット。
エドが採取したのと併せて、依頼達成には十分な量が集まった。
んで、そろそろ腹も減ってきたし町に戻るかー…って時だった。
遠くからでっかい気配がこっちに向かって近付いてくるのに気付いたのは。
俺、割と気配には敏感な方なんだけど。
そいつはあまりにも巨大すぎて、逆に気配が茫洋とした感じになっちまってて、気付くのがいつもより遅くなったんだ。
視認できる距離まで詰め寄られてから気付くなんて、不覚。
ラージラージャナーガ、だっけ?
頭部だけでも山みたいに超でっけーヘビのモンスター!
尻尾までの全長だと、何キロあるんだろ、ってくらいの巨大さになる。
そいつが、ヘビ独特のあのうねうねとした地を這う動きで、こっちに向かってきていた。
特に獲物を定めてるって様子ではない。
ただ移動しがてら、そのへんのものを当てずっぽうに口に入れて食っているって感じだった。
「まずいよ……あいつは大食いにして悪食で有名なモンスターだ。なんでも丸呑みにして食い尽くしてしまう。奴が通った後は禿げた荒野しか残らない、って…」
顔をしかめたエドが言った通り。
あいつが、がばぁ!っと大口を開けてあたりのものを呑み込んだ後は、禿げっちょろげた剥き出しの大地しか残ってなかった。
いや地面もある程度持っていってねぇか?
マジで見境なしだな。
一面緑の絨毯のようだった見事な草原が、あいつの通った後だけ無惨な茶色になっていく。
毒草も含まれてるはずだが……あの巨体じゃ、大して効かなくて平気なんだろう。
「どうする、アル?」
エドが念の為、というように尋ねてきたが。
決まってる。
あんなの放置してたら、大変なことになるじゃねーか!
この草原の先には町もあるんだ。
町の防壁も、人も、お構いなしに呑み込んでいくだろうし…
単に通過されるだけでも、踏み躙られてメッチャクチャになっちまう。
ここで、俺たちが食い止めねーと!
「アルならそう言うと思ったよ」
よし。
いくぞ、エド!
「僕たちなら仕留めるのは問題ないだろうけど、巨大すぎるのが厄介だ。中途半端な攻撃で手負いにして暴れられたりしないように倒さないとね」
要は一撃必殺でやれってことだな!
任せろ!
俺は気合と共に地を蹴って駆け出した。
あっちからも向かってきてるので、みるみる肉薄していく。
あんまり接近しすぎると、迫りくる巨大な壁にしか見えねー。攻撃もしづらいが…
どんなに巨大だろうと、ベビはヘビ。
頭部を砕けば、生きちゃいまい!
俺はジャンプ一番そいつの鼻面(?)あたりに足を掛けて登り上がって、ツルツルした鱗に滑ったりしないよう気をつけながら、目算で眉間と思われる箇所まで辿り着いた。
ここを……砕けば!
「だりゃぁぁぁぁッッ!!!」
両手を組み合わせて振り上げて、全力で振り下ろす!
渾身のアームハンマーだぜッ!!!
ドゴンッ!!!
轟音。
と共に、足場にもなってるヘビの頭部が広範囲に大きく陥没した。
頭蓋が砕けて、中身もきっと潰れただろう。
これで大人しくなるかと思いきや…
「うわっ!?」
「アル、こっちだ!」
震度7オーバーの地震かよってくらいの酷い縦揺れが俺を襲った。
ヘビのやつ、めっちゃくちゃ暴れてやがる!?
踏ん張りが効かず転げ落ちそうになってた俺を、ヒラリと飛んできたエドの手が掴んで救助してくれた。そのまま空に舞い上がってエスケープだ。
って、ワイバーンなしで飛んでる!?
「飛翔魔法だよ」
おまえ自力でも飛べたのかよ!?
くっそー、魔法チートめ!
「でもこれ、使ってる間中ずっと魔力を消耗し続けるから、そんなに長時間は飛んでられないんだ。せいぜい数十分ってところかな」
そんだけ飛べれば十分じゃねーか。
「飛翔魔法に集中してると他の魔法は使いにくいし。大魔法は使えない。やっぱりワイバーンを呼んで……………」
ん?
エドが急に静かになった。
だ、大丈夫か?
こうしてる間もずっと魔力を消耗しっぱなしっつってたし、無理してるんじゃ…?
などと心配してやった俺がバカだった。
「アルをこんなにギュッとできるなんてぇ…♡……ハァハァ幸せぇ…♡♡」
………。
うん。
暴れるラージラージャナーガの上から助け出してもらったので。
俺、エドにしっかり抱きかかえられてたわけだけど。
こんな時になに考えてんだおまえってやつはァァァァ!!!
ああっ!けどエドの魔法で飛んでる最中だからぶちのめすわけにもいかないッ!?
「ハァッハァッ♡アルがこんな近くにぃ…♡♡♡」
だああああ至近距離で興奮すんなさすがにキモい!
正気に返れ!
あのヘビをどーにかしねーと!
「アルぅ……好きぃ♡」
うぐぐっ…
わ、分かった!
後でハグくらいはさせてやっから!
頼むから討伐に集中してくれ!
「ハッ!?……そうだねアル!すぐワイバーンを呼ぶよ!」
どうにか正気に戻ったエドが呼び寄せたワイバーンに騎乗して。
仕切り直しだ。
ラージラージャナーガは巨大すぎて上空から俯瞰しないとどうなってるのか様子が分からない。
巨大ヘビの全体を眺め下ろして、初めて状況が確認できた。
頭部は見事に砕かれていて、やはり俺のさっきの一撃で間違いなく絶命してる。
なのに、全身がのたうって暴れまくっている状態だった。
もう死んでるのにどうして…?とも思うが。
「超生反応だね。脳の機能が停止していても、まだ生きている筋肉や神経だけで一時的に動いてしまうんだよ。こんなに激しいのは聞いたこともなかったけど…」
とエドが解説。
俺もちょっと分かる。
あれだろ。トカゲのしっぽが切り離された後もしばらく動いてるのと同じ理屈だろ。
「うん、まあ……おーむねそれでいいと思うよ?」
理屈は分かった。
しかし困ったな。
あんなに暴れられたんじゃ、この草原全部がダメになっちまいそうだ。
薬草採取できる、町にとって大事な採取場って言ってたのに。
なんとかできねーかな?
「頭部だけじゃなく胴体も潰して動きを止めるしかないだろうね」
よし、それだ!
俺はエドと二手に分かれて、胴体をぶつ切りにしていくことにした。
ワイバーンからいちいち飛び降りてたんじゃ、時間が掛かる。
久しぶりに腰の剣を抜いて。
闘気を込めて、上空から一閃!
スッパー!
飛翔する斬撃で、ヘビの胴体は景気よく輪切りになった。
短い側は、もう動かない。
長く残ってる方はまだウネウネ動いてるので、同じ要領を繰り返して、次々に輪切りを作っていく。
エドも、反対側から同じようにしてぶつ切りにしてた。
あいつは剣技じゃなくて魔法でやってるな。
風の刃、か?
あれもスッパーっていい切れ味だなぁ。




