ふつーの冒険の旅のはじまりはじまりー
俺はアルバート。通称アル。
冒険者ギルドで登録済ませたばっかの駆け出し冒険者だぜ!
…こんな自己紹介するの、なんか新鮮だな。へへっ。
冒険者カードも手に入れて、いよいよ冒険の旅の始まりだっ!
張り切っていくぞ!オー!
俺は相棒のエドと一緒に、意気揚々と町を出た。
出発して早々に、ボア……じゃなかった。ジャイアントボアだっけ?上位種って割にはあんま強くなかったけど……そいつに出くわして、ぶっ倒したのをギルドに持ち込むために引き返したりとドタバタはあったけど。
しかも初めての冒険者カード、すぐにランク上げられて交換されちまったけど。
ま、まあ、初日からいろんなことが起こるなんて、賑やかでいいじゃん。
冒険の旅ってのはこうでなくっちゃな!
これから先にはどんな出来事が待ってるのか、ますます楽しみってもんだ。
「あんまり油断しちゃだめだよ、アル。今までとは勝手が違うんだから」
おっと。
エドからの注意が飛んできた。
こいつ、俺と違って頭もいいし、いろんなことに気が回る頼りになる奴なんだけど。
ちょっと気にし過ぎなんじゃ?って思う時もある。
せっかく冒険者になったからには、自由にのびのびとやっていこうぜ。
「アルのそーいうところ、僕は大好きだけど。少しは気をつけないと。さっきだってさ……」
う。
登録の時のこと言ってんのか?
「そうだよ。書類に本名そのまま書こうとするなんて。わざわざ隣国まで来た意味がなくなっちゃうだろ」
ううっ。
確かに、あれは俺が迂闊だった。
反省してるよ。
冒険者登録をした際のことだ。
登録に必要なのは手数料の銅貨五枚と、あと書類。
書類つっても名前と年齢、性別くらいを書いときゃいい簡単なものだ。登録した冒険者の名をギルドで管理しておくためなんだって。
ここで躓く奴なんてまずいない。
でも、俺はやらかした。
今までの習慣でつい、アルバート・フォン・フュリューリンゲンって書こうとしちまった…
焦った様子のエドに横から猛烈に突っつかれて、ハッとした。
こんな長ったらしい名前、平民ではありえない。
どっかの国の貴族だってモロバレしちまう。
身分を捨ててサウザンド王国から出奔してきたのに、超意味ねー!
俺は慌てて手が滑ったフリをして、名前のところにビーッと横線を入れて打ち消した。
ギルドの人、ちょっと変な顔して俺たちのこと見てたよな…
書き損じたからもう一枚くれって言って、書き直した書類の名前んとこが、明らかに文字数減ってたので不審に思われたのかもしれねえ。
あらかじめエドとは打ち合わせてたんだ。
アルバートって名前だけでも身バレの危険があるから、通称の「アル」だけで登録しようって。
エドも、本名は俺より長いんだけど、冒険者名は「エド」だけで登録。
なのに俺、最初の書類には「アルバート・フォン・フュリュー」くらいまで書いちゃってたよ。横線で読めなくなるまで潰したけど、二枚目と見比べたらおかしいことは一目瞭然だ。
…幸い、特にツッコまれたりせず冒険者登録してもらえた。
冒険者には過去も身分も関係ないっていう不文律があったからみたいだ。
冷静に対処してくれた、あそこの副ギルマスには感謝だな。
とはいえ、しょっぱなから大失敗するとこだった。
エドの言う通り、気をつけないとな。
このへんは、レイクヒル共和国の領土。
俺たちが元いたサウザンド王国の、地続きの隣国にあたる。
ここまではワイバーンに乗って飛んできたけど、この先は歩きで行くことにした。
だって、空をビューンって飛んで行くと、次の町まですぐなんだもん。
楽ちんだけどさ。全然冒険してるって感じがしない。
やっぱ駆け出しの冒険者ってのは自分の足で歩いてモンスターとエンカウントして倒してはレベルを上げていく。それが醍醐味だろ?
「この異世界、レベル設定はないみたいだけどね」
まあな、ステータスボードみたいなのもないし。
でも相手の強さなんて肌感覚で分かるんだから、取り立てて不都合はないぜ。
ってことで、俺たちは意気揚々と道なりに歩いていった。
あんまり整備されてなくて、田舎の砂利道とか、下手したら獣道みてーな感じだけどな。
左右には草木がわさっと生い茂ってるし。自然がいっぱい。
いかにもモンスターがそのへんにいそう!
どんなのが出てくるだろう?
今度はボア……ジャイアントボアだっけ?どっちでもいーや、あんな弱いのじゃなくて、もっと手応えのある奴だったらいいな。
進むことしばし。
体力には自信がある、俺。
まだ全然疲れちゃいない。
ただし、
「飽きた…」
だって、なんにも出てこねーんだよ!
スライム一匹飛び出してきやしない!
あたりの風景も代わり映えのない自然ばっかだし!
天気が良くて吹き抜ける風が爽やかで気持ちいいけどさ!
これじゃ田舎道の散歩と同じじゃねーか!
どーなってんだ!?
噂に聞いたところによると、モンスター除けの結界張ってある町や村以外のフィールドでは、ちょっと歩いたらすぐモンスターとエンカウントするって話だったのに!?
「快適だし平和でいいんじゃないかな?」
そりゃそーだけど。
期待してたのと違うっつーか…
「僕はアルと一緒にのんびり歩いてるだけで、幸せだよ♡」
…おまえのそれには、もういちいちツッコまねーぞ。
それより、本当にどうしてだ?
いくらなんでも一匹も出てこないなんて、不自然すぎるだろ。
「これ、僕の勝手な推測なんだけど。もしかして僕たちを怖がって出てこないんじゃないかな?」
えっ…
なにそれ…
「野生のモンスターは気配に敏感だっていうよ。生き残るため、相手の強さには特に敏感じゃないかと思うんだ」
んじゃ、なにか?
俺たちより弱いモンスターは、俺たちを怖がって出てこない。
出てくるとしたら俺たちより強いモンスターだけど…
「そんなモンスター、そのへんにゴロゴロいたら近隣の町や村が全滅してるよ。まずこんなのどかな場所には現れないだろうね」
だぁぁっ!?
じゃあ俺たち、こうやって歩いててもエンカウントなしか!?
あ、でも、さっきボアは出てきたじゃん!
「ジャイアントボアね。あいつは食料を求めて山から下ってきたところだったみたいだし、イレギュラーってことじゃないかな」
うぐぐっ!?
でもサイモンさんとこのダンジョンモンスターは、結構俺たちにも向かってきたのに!?
「それこそ例外中の例外だよ。ダンジョンモンスターは侵入者に対して好戦的になる上に、サイモンの生み出したモンスターは野生とは異なる性質だったようだし」
それって!?
「強者にも平気で襲い掛かる。生存本能なんてものは皆無に等しかったと思うよ」
野生動物とペットの違い、みたいなもんか?
「それもまた語弊がありそうだけど…」
大体分かった。
…じゃあ、歩いててもつまんねーな。
ただ移動するだけなら、ワイバーンに乗って飛んでく方が早いし楽ちんだ。
「それじゃ、今からでもあいつらを呼ぶ?」
エドの提案に、俺はちょっと迷った。
二匹のワイバーンは、人間を襲ったりしないよう命じた上で、しばらく自由にしてていいぞって放し飼い状態にしてある。
どこにいてもエドの魔法の制御下にあるから、呼べばいつでも飛んできてくれるんだ。
だけどなぁ…
旅立ち初日で、早くも方針を変えるなんて情けねえ。
少なくとも次の町までは予定通り徒歩で行くべきか……と悩んでいた時だった。
前方の草むらが、ゴソゴソと!
なんか…ちっちゃい気配!
モンスターだっ!
俺は喜び勇んでそっちに向かって駆け出した。
エドもちょっと遅れてついてくる。
草むらからピョコっと飛び出してきたのは、一匹のスライムだった。
「いやこれ、生まれたてのベビースライムじゃない?ちっちゃすぎるし……生まれたばかりで警戒心も薄いから、僕たちの前に現れたんだよ」
そっかぁ!
ちっちゃくてプルプルしてて、可愛いなぁ〜。
よし、決めた!
「……なにを?」
こいつはスラポン二世だ!
「まだあいつのこと忘れてなかったの!?しかもこいつに二世って……まさか、飼うつもり!?」
いーじゃん!
スライムって最弱モンスターって言われるけど、その分伸びしろがでっかくて育てたら強くなる……よーな気がするだろ?
「あのね、アル。前世のRPGじゃないんだから…」
よろしくなー、スラポン二世っ!
渋面になってるエドを無視して、俺はスライムを撫でてやろうと手を差し伸べた。
とたん、
ベシャァァ………
「あ。自壊した」
………。
お、おお、
「俺のスラポン二世〜〜〜〜〜ッ!!???」
「もう!そんなやつなんかのために泣かないでよ、アル!」
うるせえっ!
スラポン二世まで失った俺のこの悲しみがおまえに分かるもんかー!
「僕が一緒にいるんだから!いいじゃない!」
やだーっ!
スラポン二世がいいっ!
俺たちは散々揉めた。
揉めながら、次の町まで辿り着いた。
俺が泣きはらした顔をしてて、エドがむくれた不機嫌顔だったから、何事かと思われたんだろう。
検問所のところで少々事情を尋ねられたので、
「……悲しい出来事があったんだ」
とだけ答えた。
検問所のおじさんは、何か察してくれたようだった。
それ以上は問うことはせず、俺の肩をポンと叩いて励ますようにしてくれた。
いい人だった。
その後、エドと色々話し合った結果。
これからは基本ワイバーンに騎乗して移動することにした。
指定モンスター討伐の依頼を受ける時なんかは別だけど。
歩いてても碌にエンカウントしない上に、たまにうっかり出てくるスライムとかの弱すぎるモンスターは、あんまり強い相手に接するとそのプレッシャーだけでお亡くなりになってしまうことが分かったので…
俺、頑張って強くなったのに。
そのせいでスライムテイマーにはなれなくなっちまった。
「ならなくていいよ、そんなもの!アルの相棒は僕だけで十分だよ!」
………。
いいやっ!
俺はまだ、諦めない!
世界はこんなに広いんだ!
きっとどこかに、俺と触れ合っても大丈夫なスラポン三世がいるはずだ!
「どこかの大泥棒みたいな名前になった!?」
待っててくれよ、スラポン三世!
いつかきっと、俺と出会うその日まで…!
「くっ、なんてことだ!そんなスライムがもし本当にいたらとんだお邪魔虫じゃないか!泥棒は泥棒でも恋泥棒ってわけだね、さすがは三世侮りがたし…!」
そうと決まったら、気持ちを切り替えて。
元気に冒険の旅を続けるぞっ!
「阻止!断固阻止だ!……アルと出会うその前にスライムどもは悉く殲滅しなくては…」
頑張ろう!オー!
「うん、頑張ろう!オー!」
俺たちはなんとなく息を合わせて張り切っているように見せかけて、やっぱり致命的にズレていた。
そんなこんなで、旅は続く。
着々とスライムキラーへの道のりを歩みだしてしまったパーティ




