とある冒険者ギルドの片隅で2
「ううううううううそだろううそだろうかみさまうそだろう…」
タイラントが魂の抜けた顔でテーブルに突っ伏して嘆いています。
それはいいですが。
ここの会計、きちんと支払っていただけるんでしょうね?
ギルドも併設の酒場もツケ払いは認めませんよ。
「うおおおおい副ギルマス!あんたに人の心はないのか!?」
「タイラントの兄貴のこの有り様を見てみろよ!?」
取り巻き連中がなにやら喚きますが。
聞く耳持ちませんよ。
そもそも、以前から腹に据えかねていたんですよ。あなたたちのテストと称した新人イビリ及びカツアゲ。
冒険者は何があっても自己責任だから、今まで口を挟めずにいましたが。
自分の番になったとたん文句を言うなんて醜態を晒すなら、金輪際あんなことはやめるんですね。
ピシャリと言ってやると、全員が黙り込みました。
うーん、爽快感…!
まぁ私の手柄とかでは全然ないんですけれど。
私は悠然と、暗い顔で俯く男どもを見回しました。
全員、パンイチでした。
…身ぐるみ剥がされたと言っても、最終防衛ラインは残してもらえたんですね。
よかったじゃないですか。
「よくねーよ!?」
「町の広場でギャラリーもたくさんいたってのに!」
「公衆の面前で剥かれた俺たちの気持ちがあんたに分かるか!?」
「お、おお、俺っ……憧れのシャーリーちゃんに笑われっ……」
「ああっ気をしっかり持て!?希望を捨てるな!」
「パンイチ見られてもまだフラれたわけじゃないだろ!?」
「ううううううっ…!」
とんだ愁嘆場のようですが。
自業自得ですよ。
第一、あの二人の力量をあなたたちの誰一人見極められなかったなんて情けない。
初登録だからEランクのカードを渡すしかなかったですが、私の見立てでは本来Aランク相当は余裕の実力者たちですよ。
許されるなら、彼らには最初から相応しい冒険者カードを渡したかったくらいです。
「え”」
「うっそだろ、あんなガキどもが…!?」
年齢や外見だけで判断するなど愚の骨頂。
この世界、いくらでも規格外の存在はいるものです。
まぁ私もあれほどの二人を目にしたのは初めてですが。
「じゃあ俺がグーパンの一撃であっさりやられちまったのも…」
私からしたら、当然の結末でしたね。
そっけなく告げると、タイラントはさらにテーブルと仲良くなってしまいました。
パンイチのムキムキ男のこんな姿、二度と見たいものではありません。
あとどよ〜んと淀んだ空気をあたりに撒き散らすのも止めてくれませんかね。
幸い、今は他に人がいませんが、ギルド内の雰囲気を悪くしないで欲しいものです。
愚か者どもを前に、どうしたものかと思案に暮れていると。
ギルドのスイングドアが開いて誰かがやってきました。
例の二人でした。
先に入ってきた精悍な青年がまたキョロキョロしていましたが、タイラントたちの姿を見つけると足早に近付いていきます。
あからさまにビクーっ!と怯えるパンイチ集団。
しかし青年は困ったような苦笑を浮かべて、
「よかった、見つかって。さっき剥ぎ取ったあんたたちの装備を返すよ」
「えっ…」
「い、いいのか?」
「本当に剥ぎ取るつもりはなかったんだよ。なのにまさか、エドの奴が…」
「アルにふざけた真似をしようとした連中だよ?このくらい当然じゃないか」
「あのなー!?やりすぎなんだよ!普通は身ぐるみ剥ぐっつってもサイフを取るくらいだろ!?」
「アルがそうやって甘いこと言うから、全裸は勘弁してあげたんじゃないか」
「パンツはモラルだろ!?最後の尊厳まで剥ごうとすんな!」
「まあどうせこいつらのなんて汚くて粗末なものだろうから見ないで済んでよかったけどね」
「うおおおおいっ!?本当にヒデーな!?」
二人の会話から色々と察せられました。
アルと呼ばれた精悍な青年は、いかにもガサツそうですし目つきもキツめですが人柄はいいみたいです。
一方、エドと呼ばれた王子様然とした美青年。外見の美しさとは裏腹に、かなりえげつない性格をしている模様。
特にパートナーにちょっかいを出す輩は絶対許さないマンですね。タイラント一派へと向ける視線の冷ややかさに、無関係の私までゾクッと背筋が凍ります。
二人は言い争っていましたが、最終的にはアルの意見を入れて剥いだ装備品を返却することにしたようです。
手ぶらに見えましたが……あ、エドは魔法使いなんですね。次元収納に収めていたと。さらっと超高等魔法ですね。
そこからドシャドシャーっと雑に放り出されるタイラント一派の装備品。
…パンイチのムキムキ男たちが慌てて拾って身に着けていく有り様は、シュールの一言でした。
全員が着衣を終えて、元通りです。
しかしEランク二人に対するタイラント一派の態度は激変していました。
あれだけ痛い目に遭わされたらまぁ当然でしょうが、
「さっきはすまなかった……おあにいさん方の力量も見極められず喧嘩を売った自分が恥ずかしい…」
ショボショボと詫びるタイラント。完全に心を折られています。
取り巻き連中も一緒になって平身低頭、平謝りです。
エドの視線は冷ややかなままでしたが、アルは快活に笑って手を打ち振りました。
「もう済んだことじゃねーか。気にすんな!そんなことより、あんたたち冒険者やって長いんだよな?」
「あ、ああ……この町を拠点に、もう十年以上は続けてるベテランだ」
物は言いようですね。
いつまでも地元にしがみついて粋がってるだけのくせして。
ついエドだけでなく私まで冷ややかな視線になってしまいましたが、アルは純粋なたちのようです。素直に感心の声を上げていました。
「すっげーな、大先輩じゃん!知ってるだろうけど、俺たちさっき冒険者登録したばっかでさ。分からないことだらけだから、色々と教えてくれよ!」
「そりゃ構わないが」
「やった!ありがとな!」
…なんというか。
アルは、無自覚に人誑しですね。
圧倒的強者から頼りにされて、タイラントは嬉しそうでした。
複雑骨折レベルだった自尊心も復活してきたようで、またいつもの調子に戻ってエラソーに説明をぶち始めます。
「よっし、よく聞けよ!まずはギルドでの依頼の受注についてだがな…」
その程度の説明。
ギルド職員の私たちに聞いてくだされば、いくらでもして差し上げましたのに…
まぁタイラントからしたら潰された面目を少しは施されたってところですか。
こんなのでも一応はCランク冒険者。
早々に立ち直ってくれてよかったですけどね。
…チッ、面白くねぇな。
などと思う私は、副ギルマス失格ですかねぇ?
アルのおおらかな人柄によって、なんとなく丸く収まりました。
タイラント一派とも仲直り。どころか、アルとタイラントは最後はやけに意気投合してフレンドリーになっていました。
エドは終始しかめっ面。
彼、相方が自分以外の誰かと親しくなることを快く思わないみたいです。
…心狭っ!
とは思うものの、アルのように無防備かつ人懐っこい性格の相方では、気を揉むことも多いのでしょう。
精悍で整った顔立ちの青年ですから女性にもモテそうですが、どちらかというと同性に人気の出そうなタイプですしね。
タイラント一派の中にも…
なんとなく、こう…
アルを見る目つきがピンクハートになりかけてる奴がいますし…
私も気付きましたが、エドもですね。えらいこっちゃな形相になってます。
なまじ超絶美形なだけに、そんな顔されるとどえらい迫力です。
当事者なのに全然気付く気配もないアルが逆にすごいです。彼、あらゆる意味で大物ですねぇ。
「そっか、タイラントさんたちはずっとこの町で依頼をこなしてくスタンスなんだな」
「おうともよ!もう慣れたもんだぜ!」
「町の平和を守るためには、そーゆー人も必要だよな。俺はあっちこっち冒険に行きたいから無理だけど」
「俺たちゃずっとこの町にいるからよ。もしまた近くに来ることがあったら、立ち寄ってくれな!」
「ああ、もちろんだ!ありがとな!」
アルと、タイラント。
年齢も実力も全然違う二人がジョッキをガツンとぶつけ合って笑い、そしてそこで別れました。
アルとエドは、冒険を求めてすぐに次の町に向かうそうです。
…タイラント一派にも少しは見習って欲しいものです。
若者二人に触発されるとか、そーいう展開はないんですかねぇ…
はぁ…
余談になりますが。
一旦旅立ったアルとエドですが、すぐに引き返してきました。
町を出たとたんエンカウントした大型モンスターを仕留めたので、ギルドで査定して欲しいと。
冒険者ランクを上げるための功績は、ギルドの依頼を達成する他、こうしたモンスター討伐も査定対象として考慮されますからね。
さっきタイラントがエラソーに説明していたことを、早速実践したってことのようです。
「たぶん近くの山からエサを探して下りてきたんじゃねーかな。この………えっと、ボア、だっけ?イノシシっぽいやつ」
「これは上位種のジャイアントボアだよ、アル」
「そう、それ!」
エドの次元収納から取り出された、その巨体。
紛れもなくジャイアントボアでした。
Cランクモンスターです。
ちなみに、モンスターのランクと冒険者ランクはほぼイコールです。
ジャイアントボアはCランク冒険者がギリギリで単独討伐できるかどうか、といった難敵ですよ。
タイラントだったら仕留められたとしても半死半生でズタボロになってたことでしょう。
…山の実りの少ない年は、普段は町の近くに出没しないこんなモンスターも出てくるんですよね。
これ、アルとエドがたまたま来てなかったら、危ないところだったんじゃ?
まだギルドでたむろってたタイラントたち、青ざめて引きつってました。
私はギルド職員として、査定をば。
ジャイアントボアは丸ごと素材として買い取りに出すというので、その代金と。
あと、Dランクの冒険者カードを二人に渡しました。
さっき渡したばかりのEランクの冒険者カードは、回収です。
「えっ……もう?」
アルがビックリしていましたが。
Cランクモンスターを無傷で討伐できる冒険者を、Eランクのままにはしておけません。
形式上はパーティの二人がかりで仕留めたってことになりますが、おそらくアルとエド両名とも余裕で単独討伐できたでしょうし。
「ウッソだろ、俺なんてDランクに上がるまでに何ヶ月も掛かったのに…!?」
「こつこつギルドの依頼をこなして……なのに、アルとエドのおあにいさんたちはこんな一瞬で…!?」
タイラント一派がうるさいです。
言っておきますが、正当な評価ですよ。
いえ、より正確には、これでも評価が足りないくらいですが。
さすがに登録初日で二段階ランクアップはできません。
無念。
「初めての冒険者カード、もーちょっと長く持ってたかったんだけどな…!?」
「ちょっと残念だよね、アル」
…規格外の強者は言うことが違いますねぇ。
最低Eランクのカードなんて、普通はなるべく早く手放したがるものですが。
思い入れを抱いてくださったのは、ギルドとしては光栄ですね。
二人のEランクカードは記念に保管しておきましょうかね?
即日ランクの上がった冒険者のカード、縁起良さそうですし。
タイラントたちも、ドリューなんかをちまちま倒して粋がってる場合じゃないですよ。
今回はこの二人のおかげで助けられた形ですが、また突発的に強いモンスターが出現した時のために、もっと精進して欲しいものです。
この町を拠点に活躍する冒険者、なんて大口叩いていたからには、ね。
シャーリーちゃんには無事フラれたそうです




