とある冒険者ギルドの片隅で1
ここはレイクヒル共和国辺境の町。
国境沿いにある、こぢんまりとした集落です。
国境沿いという立地条件のおかげで、流通は盛ん。商業ギルドは大繁盛しているようです。
が、我が冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いています。
交通の要所というだけで、取り立ててこれといったものがない町ですからね…
ダンジョンとかも近くにありませんし。
おかげで名のある冒険者はせいぜい宿場町として利用するくらいで、ギルドはほぼ素通り状態。
ここの冒険者ギルドに常駐している連中なんて、せいぜいがCランクといったところですよ。
畑を荒らすドリューなんかの討伐依頼をこなしては、ギルド併設の酒場で粋がって夜ごと管を巻いていて。
どうも昨今の冒険者には、向上心というものがなくていけません。
カウンターの奥から観察し、つい溜息を零してしまいます。
あ。
申し遅れました。
私、この冒険者ギルドの副ギルドマスターでございます。
脳筋で仕事と称してはモンスター討伐のために遠征してばっかりのギルマスの留守を預かり、ここの冒険者ギルドの運営を実質一手に担っております。
名前?
…そんなものは不要でしょう。
私はあくまで日陰の存在。
縁の下の力持ち。
しがない中間管理職ですよ、副ギルマスなんてのは。
それでも現役の冒険者諸君が華々しく活躍してくれる一助になれるなら、やりがいもあるってものなんですけどねぇ…
はぁ…
今日も今日とて。
代わり映えのない日常の繰り返し…になると思っていました。
冒険者ギルドには、いつものメンツ。いわゆるイツメンが集まってたむろしています。
暇なら依頼をこなせよ。と思うのですが。
冒険者は基本的に自由業。
よほどの有事でもなければ、いかなギルド職員といえど冒険者を強制的に働かせる権限などありません。
併設された酒場の一角を占拠してふんぞり返っているのは、タイラントの一派。
奴らは、たいして難しくもない依頼をこなして無難に小銭を稼ぎ、その資金が尽きるまでは働かずにああして飲んだくれているのです。
この町では最強の冒険者…って、確かに事実ですけどね。
広い世界レベールで見たら、お粗末を通り越して恥ずかしい限りです。
いっぺん痛い目見てくれないかな、などと副ギルマスにあるまじき思いをつい抱いていると、
「へえ、ここが冒険者ギルドかぁ〜」
なんだか脳天気なセリフと共に。
入口のスイングドアを開いて、二人の若者がやってきました。
…本当に若いです。
成人してるかしてないか、くらいのギリギリの年齢じゃないでしょうか。
しかも目を引く二人連れでした。
先にギルドに入ってきた方は、健康的に日焼けした目つきの鋭い精悍な男。ただしあどけなく無邪気な雰囲気で、そのせいかちょっと可愛い感じがします。
その彼のすぐ後から続いて現れたのは、絵に描いたような美青年。金髪碧眼の甘いマスクで、どこぞの王子様かと見紛うばかりでした。
二人は興味深そうにキョロキョロしながら、カウンターまでやってきて、
「ここで冒険者登録できるんだろ?俺たち二人、登録を頼む」
と言いました。
…まぁ、私どもからしたらよくある用件ですが。
この二人は見るからに特殊でした。
際立った容姿もそうですが、どことなく物腰に品があるのです。
そのへんの普通の若者ではなく…
尊い身分の方が、その身分を隠しているような…
冒険者は基本的にアウトロー。生まれ育ちや身分など関係ナッシン。
私は、冒険者ギルド職員の名に賭けて、ごく一般的な対応をしました。
この二人に相応しいかは疑問ですが。
初登録の冒険者は等しく最低のEランク。登録手数料と引き換えに、その文字を刻んだ冒険者カードを渡します。
成人さえしていれば、銅貨5枚で誰でも登録できるんですけどね。
二人がやけにはしゃいだ様子だったのが印象的でした。
「うおおおおおっ!これが冒険者カードかぁ!」
「やっぱりテンション上がるよね!」
まぁ喜んでいただけて悪い気はしません。
初々しい反応に、私たち職員一同はほっこりした気分になりましたとも。
が、そうは思わない輩もいるわけです。
折悪しく、この同じギルド内に。
タイラント一派の頭目…タイラントその人が、意気揚々とギルドから出ていこうとする二人の進路に立ち塞がり、
「よぉ、どこの世間知らずのおぼっちゃんどもだぁ?お遊び気分で冒険者登録なんかされちゃ、こっちの沽券に関わるんだがなぁ?」
「そーだそーだ!」
「タイラントの兄貴の言う通りっ!」
「どうせおまえらなんざ、そのへんのゴブリンにでもタコ殴りにされてくたばっちまうだろうよ。そうならねぇように、俺がいっちょテストしてやるぜ!」
「ひゅーっ!タイラントの兄貴の地獄のテストだぁーっ!」
「俺たちゃこれを待ってたぜぇ!」
「おまえら、感謝しろよぉ!これはおまえらが外でモンスターにやられる前に食い止めてやろうっていう、タイラントの兄貴の親切心なんだからなっ!」
「ひゅーひゅーっ!タイラントの兄貴は優しいぜーっ!」
…あああ。
私は顔から火が噴きそうでした。
恥ずかしい!
いわゆる、いちゃもんです。
地元の古株冒険者が行う、たちの悪い新人イビリです。
それにしたって、これは…!
「なあ、もしかして…」
二人連れのうち、精悍な顔立ちの方が言いました。
「これって、喧嘩売られてるってことか?」
何故かちょっとワクワクしたように表情を輝かせてます。
キラキラした瞳がまるで少年のようでした。
「そーだよな!酒場とかギルドの定番イベント!なんか理不尽に絡まれてステゴロタイマン勝負になるっつー、アレだろ!」
アレがどれだか知りませんが。
「勝った奴が全取り!俺が勝ったらあんたの身ぐるみ剥いでいいってことだよな!」
意外とアグレッシブなことを言います、この若者。
タイラント一派のいきり立つまいことか。
「なっ……ふざけんなよ、てめー!?」
「この人を誰だと思ってやがる!?」
「ん?誰だ?」
「泣く子も黙るCランクの大冒険者!タイラントの兄貴たぁ、このお方だぁ〜ッッ!!!」
「ふーん……泣く子が黙るなら子守りにはよさそうだよな」
「てめぇ!?」
「んなことより、どこでやる?ここか?」
ギルド内での乱闘はご法度ですよ。
速やかに言葉を挟む私。
「んじゃあ外だな。よーしおまえら、表に出ろ!」
「てっめえ…!」
「なんてふざけたガキなんだ…!」
「タイラントの兄貴、もう優しくする必要なんてないですぜ!こいつらの身ぐるみ一枚残らず剥いじまいましょう!」
「……そのつもりだ」
額に青筋を浮き上がらせたタイラント。と、その取り巻き一派。
連中と一緒に、Eランク登録したばかりの二人が外に出ていきました。
いちゃもんつけられてのことなのに、連れ出された、って感じではないです。むしろ最終的には二人の方が率先していましたね。
で。
しばらく後。
身ぐるみ剥がされたタイラントが逃げるよーにギルド内に飛び込んできました。




