僕たちの初♡夜(表現に語弊あり)
やあ!
僕はエドワード。通称エド。
なんやかんや紆余曲折あって最愛のマイハニーと冒険者パーティを組むことになったよ!
これから冒険の旅に出て、世界中を巡る!
僕とハニーはずっと一緒さ!
それこそ冒険の旅の一分一秒一瞬たりともぴったりくっついて離れずに寝食も共にして…!
ぐふふふふっ…!
「おい、なんか変なこと考えてねーか?」
あっ、マイハニー♡
「おまえが何か企んでると背筋のあたりがゾワッとするから分かるんだよ」
えっそんな!?
僕の考えが簡単に分かっちゃうなんてさすがマイハニー♡
大好きなアル♡
僕たちの心と魂が固く固く固〜〜〜く結ばれてる証だねっ!
できることなら一刻も早く心身共に結ばれたくてたまらないっ!
「…さっきも言ったけど、変なことしたら即パーティ解散しておまえを置いていくからな。本当に本気だぞ」
うんうん、分かってる分かってる!
アルは照れ屋さんでツンデレだから、ついそんなツレナイことを言っちゃうんだよねっ!
それに僕も、以前のことは本当に反省してるんだよ?
無理やりなんてよくなかった。
ちゃんとアルの同意を得てからじゃないと、真に結ばれたことにはならないものね。
大丈夫。
僕はアルがその気になるまで、いつまでだって待ち続けるから…!
「どーも意思疎通できてる感じがしねーけど……まあいーや。とにかく、出発しようぜ」
うん、分かった!
僕は制御下に置いてあるワイバーンたちを呼び寄せた。
詳細は割愛するけど、僕は魔法の力で自在にこいつらに命令を下すことができるんだ。
テイマーとはまた違うんだけどね。
とにかく、使えるものは使うべし、ってことで。
僕とアルはそれぞれのワイバーンに騎乗して、大空へと舞い上がった。
時刻は夜。
だけど今夜は月明かりが綺麗だ。
まるで僕とアルの新たな門出を祝福してくれてるかのようだよ!
ねっアル!
「…まあ旅立ち日和ではあるよな」
だよねー!
「早いとこ国境線を越えちまおうぜ。そんで、一番近くの町で一泊してから冒険者ギルドに登録だ」
そうだね。
僕とアルは出身国……サウザンド王国では冒険者登録できない。
というのも、身バレが怖いからだ。
僕は王族、アルも上級貴族だったんだよね。
身バレしたら絶対に面倒なことになる。
でも、よその国ならたぶん大丈夫。
この世界の文明レベルだと、情報伝達技術はまだ未熟で。
他国の王族や貴族の事細かなデータなんて、出回ってたりはしないだろうから。
僕の父上……国王陛下くらいだと、まあバレちゃうかも?って程度だ。
だからそう心配することはないと思ってる。
そんなことより!
アルと二人旅!
なんて素敵なんだろう!
眼下に広がる世界すべてが宝石箱みたいにキラキラ輝いて見えるよ!
最愛のマイハニーが傍にいるだけで世界はバラ色!
ああっ!人生って素晴らしい!
とかやってる間に、国境線を越えて隣国の町に辿り着いた。
…早っ!
ワイバーンで移動するとこんなに早いのか。
予想してた以上だった。
これ、騎士団でも騎馬替わりに採用できたらかなり有効なのでは…
………。
…ハッ!?
いけないいけない!
僕はもう王族でもなければ次期国王でもないんだから。
国のことなんてもう考えなくてもいいんだ。
アルとのこれからのことだけに心血を注げばいいのさ!
ふふふ、考えただけで幸せだなぁ…!
「あっ、宿屋ってあそこじゃねーか?」
アルが町の一角を指さした。
…街灯もない夜の町は暗くて、あたりも碌に見えやしない。
夜目の利くアルだからこそすぐに発見できたんだ。
頼りになるなぁ。
そんなところも好き♡
こんな時間だったけど、商売柄なのかな。宿の受付はまだ開いていた。
僕とアルとはここで一泊することにした。
相・部・屋・で・♡
「…まさか空きが一室しかねーなんて」
ベッドに腰掛けて両手で顔を覆って項垂れてるアル。
本当は一人一部屋ずつ取りたかったんだって。
だけどこの町、国境沿いの交通の要所だから、商人たちの行き来が激しいんだね。
ちょうど大商人のキャラバンがこの町に宿泊してて、もう他の部屋は全部埋まっちゃってたんだ。
いやあ…!
運命を感じるなあ…!
僕とアルに、早く結ばれちゃえヨー!って叫びまくってるイケイケな運命を…!!!
「言っとくけど、俺が寝てる隙に手出ししようなんて考えるなよ!?変なことしやがったら…」
うん、分かってる分かってる♡
即パーティ解散だっていうんでしょ?
大丈夫、僕はアルとの約束は必ず守るよ!
「なら、いいが…」
そんなことより、ちょっと一旦どいて。
ベッドに浄化魔法を掛けるから。
「え?なんで?」
アルはキョトンとしてるけど。
僕は嫌だよ。
こんな衛生かどうかも分からないベッドをそのまま使うなんて。
王城や貴族屋敷じゃないんだ。
下手したらノミとか湧いてるかもしれないよ。
アルにもそんなところで休んで欲しくない。
「ええ〜……気にし過ぎだと思うけど。おまえってそんな潔癖症だったっけ?」
あのね、アル。
ここは前世の日本とは違う。
まだ文明レベルが未熟な異世界なんだよ。
寝具や衣類を洗うための石鹸だって、あんまり質の良いものは出回ってないし。
それに、衛生面に気を遣うのは単に潔癖だからってだけじゃない。
伝染病が怖いからだよ。
こういった寝具や、害虫なんかを媒介にして、怖ろしい病気に罹患する可能性だってある。
僕たちはもうこの身ひとつが資本の冒険者なんだ。
何事も用心するに越したことはないよ。
「…そっか。分かった。やっぱスゲーなエドは。俺じゃ思いつかないいろんなことまで考えてて」
そう?
「成り行きだったけど、おまえが一緒に来てくれて助かったかも。これからもよろしくな!」
えっ♡
アルってば、もう早速僕を受け入れてくれるの!?
嬉しいっ…♡
「いやいやいや友達として!仲間としてだからなあくまでも!?勘違いすんなよっ!?」
またぁ、そんなツンデレのテンプレセリフを言っちゃって♡
僕はウキウキと上機嫌でベッドといわず部屋中に浄化魔法を掛けておいた。
何が起こるかなんて分からないんだし!
念の為…ね♡
そして、深夜。
僕はムクッと身を起こす。
…目が冴えて全ッ然眠れない!
だって!しょうがなくない!?
最愛の人が一緒の部屋にいるんだよ!?
しかもあんなに散々警戒してるようなこと言っといて、今は無防備にスヨスヨ眠ってる!
これ据え膳だよね!?食べちゃっていいやつだよね!?
僕はハァハァと荒くなりそうな息をどうにか整えながら、そっとベッドから降りた。
足音も気配も潜めて……すぐ近く、ほんの一歩の距離にあるもうひとつのベッドへとにじり寄る。
窓から差し込む月明かりに照らされて。
アルの、健やかな寝顔が…!
あああああああ可愛い可愛いすっごく可愛い食べちゃいたい!!!
正直、アルの寝顔を眺めてるだけでも至福だった。
約束も忘れたわけじゃない。
だけどさ、こんな誘惑に抗い切れるやつなんている!?
いいや、いないね!(反語)
というわけで、僕は決して悪くないんじゃないかなぁと思うわけで…!
僕はそぉ…っと寝息を立てるアルの顔に、自分の顔を近付けた。
だ、大丈夫。最後まではしないから…!
せめて、ちょっとだけ…
チューくらい…!
『相手の同意なしに、そーゆーことしちゃダメだよ。普通に人としてどーかと思う』
…!!???
う、
うわぁぁぁぁぁッ!!???
唐突に脳内でフラッシュバックが!?
いつだったかサイモンに言われたセリフだ!
…あんな常識破綻したマッド野郎に普通がどーのと指摘された屈辱のせいで、記憶の奥底にこびり付いて離れなかったみたいだ!
くそっ!あんな黒歴史さっさと忘れちゃいたいのに!?
………。
で、でも…
記憶に残ってたのは、なにも屈辱のせいばかりじゃない。
心のどこかで、本当は分かってたからだ。
アルの許可なくこんなことしちゃいけないって。
僕は一度、アルを……前世でたろーちゃんだった時に、裏切って傷付けてる。
そのせいで二人揃って18歳の若さで夭折しちゃったようなものだ。
あの過ちを繰り返しちゃいけないんだ。
まして、寝る前にあんなに何度も念押しされてたんだし…!
ああ…!
僕はどうしてもアルに関することだとバカになっちゃう。
理性を欲望が凌駕して、自分でも歯止めが効かなくなるんだ。
ダメだダメだ!
約束は必ず守るって言った、舌の根も乾かないうちに…!
こんなことしちゃ、いくら優しいアルでももう僕を許してくれないよ。
少なくとも信用は確実になくす。
今だってあるかないか微妙なくらいの限りなくゼロに等しい信用度なのに。
底辺突き破ってマイナスになるわけにはいかない!
僕はギュッと目を瞑って、キュッと唇を噛み締めて、しばし葛藤した。
湧き上がる衝動にも似た煩悩と戦ったんだ。
そして、やっとで勝利を収めた…!
や、やった…!
僕にだってこれくらい我慢できるんだ…!
なんてったって、前世と合わせればかれこれもう30年以上生きてることになる。
体は若くても精神的にはアラサーだよ。
前世の最後でたった一度きり、経験値だってあるわけだし…!
経験者のおじさんは、チェリーボーイみたいにがっついたりはしない。愛しい人の無防備な姿を前にしても、落ち着き払っていられるものさ…!
………。
本当はめっっっちゃくちゃ後ろ髪引かれるけど〜〜〜〜!!!
僕はにじり寄った時と同じように、静かに自分のベッドへと戻っていった。
アルには指一本触れないまま。
ねえ、アル。
本当の本当に大好きなんだ…
だから僕は、我慢する。いつまでだって辛抱強く待つよ。
その日が来るまで、ずっと一緒にいてね…
おやすみ、アル。
また明日…
まんじりともしなかった僕が、なんとか眠りに落ちた頃。
「………」
すぐ近くで、ムクッと起き上がる気配があった。
「…結局手を出さなかったな。なんかすっげーハァハァしててヤバい感じだったけど……ちゃんと、約束守ったんだ」
僕はその時、夢を見ていた。
懐かしい、前世の夢。
ちっちゃな頃は泣き虫だった僕。
転んで膝を擦りむいては泣いて、意地悪な同級生にいじめられては泣いて、夏祭りの金魚すくいで取った金魚が死んじゃって泣いたこともあったっけ。
僕が泣いてると、たろーちゃんが必ず頭を撫でて慰めてくれた。
意地悪な同級生はやっつけてくれたりもしたよね、ふふっ…
僕、撫でてくれるたろーちゃんの優しい手が大好きでさ…
そのせいでますます泣き虫になってったら、しまいには「すぐ泣くやつは嫌いだ!」なんて怒られちゃったんだけど。
ねえ、たろーちゃん。
アル…
僕はあの頃からずっと変わらず、君が大好きだよ…
寝てる僕の頭をよしよしと撫でてくれる、優しい手があった。
僕はもちろん気付かなかったけど。
寝ても覚めても大好きな人が一緒だって幸せを、起きてからしみじみと噛み締めたんだ。
狂気と純愛の狭間を行き来する厄介なやつ。




