しかし回り込まれてしまった!?
考えるよりも先に、体が動いた。
ワイバーンに改めて飛び乗って、めいっぱい手綱を引く。
はいよーシルバーブレイズ!あの国境線を越えて!!
…とか叫んでみたが、ワイバーンは迷惑そうに嘶くだけで飛び立とうとしない。
なんで!?
こんな事態に備えてしっかり飼い慣らしてたはずなのに!?
「無駄だよ、アル」
地上から余裕綽々のエドの声が。
「忘れてるみたいだけど、サイモンの生み出したダンジョンモンスターは全てコアを通して僕の制御下にあるんだよ?存在を隠したりできるはずがないし、僕の許可なく命じることも不可能さ」
!?
………!!!
あ、あああああっ!?
そーだった!
サイモンさんに内緒にしてもらっても、どのみちエドにはバレちまうんだ!
くっそー!頑張って飛行訓練もしたのに!
おい俺のワイバーン!
なんかこう……友情パワー的な奇跡とか起こせねーのか!?
俺との訓練の日々を思い出してエドの制御を振り切るとか…!
「そんな無茶振りしちゃいくらモンスターでもかわいそうだよ?」
そうこうしてるうちにエドが苦笑しながら近付いてくる!
ワイバーンは一向に動かない!
っ…こうなったら!
俺は言うことを聞かないワイバーンから飛び降りると、一目散に駆け出した。
当然、エドがいるのとは反対方向にな!
エドもかなり鍛えてるが、身体能力だけなら俺のが上だ!
俺の足の速さと持久力なら確実に振り切れる!
自力でトンズラしてやるぜ!うおおおおおっ!!
「あはは、追い駆けっこかいアル?」
ああっ!?
エドの奴、ワイバーンに乗って追ってきやがった!?
地上すれすれの低空飛行で俺のすぐ後ろにピッタリと張り付くようにして!?
ず、ズルいぞ!
こっちは自前の足で走ってるってのに!
モンスターの力を借りるとか卑怯じゃねーか!
「酷いなぁ。先にワイバーンを利用しようとしたのはアルじゃないか」
うううううるせー!
形振り構ってなんかいられねーんだよ!
おまえから逃げ切るためなら何でもしてやらぁ!
「逃さないよ…!」
エドの声が真上から降ってきた。
だけじゃなく、エド自身が!
ワイバーンで上空から追い越しざまに、俺目掛けて飛び降りてきやがった!
ぐえっ!?
ズシンとした重量と衝撃が全身に走り抜ける。
俺はエドに背中に乗っかられた格好で、前のめりにつんのめった。
コケる寸前だった。
…だがっ!
気合と根性で踏み止まるっ!
ここでコケたりしたら文字通りエドの餌食だ!冗談じゃねーっての!!
強く踏み込んだ片足の靴底が草地に擦れてザシュッと音を立てた。
続く二歩目で、どうにかバランスを保ちつつ…
ついでに、背中に乗っかってやがるエドの片腕を取って、思いっきり引っ張った!
前方に向かって全力でぶん投げる!
背負投げ!いっぽーんッッ!!
…決まったァ!
ここまでほぼ脊椎反射で考えずに動いてた俺。
どうにか安全圏を確保して、放り投げられて地に伏しているエドを油断なく見据えて身構えた。
「ったた……やっぱりアルは手強いね」
おまえもな!?
予想してたけど復活早すぎるぜチクショウ!?
エドは服についた土埃なんかをパッパッと払いながらすぐに身を起こしてきた。
ダメージがあるようには見受けられない。
また回復魔法を使いやがったか…?
「うん。それもだけど、身体強化と防御魔法を併用して常時発動してたんだよ。アルを捕まえるにはそれくらいはしないとだからね」
くっそー!?
魔法チートの王族め!?
「それは違うよ。僕はもう王族じゃない」
…は?
「出奔してきちゃった♡」
…は??
「あ、ちゃんと父上には断りを入れて出てきたよ?アルと一緒に広い世界を見てきます、ってね♡」
…は、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」
「わあ、アルってば面白い顔ー♡」
「じゃねーだろ!?なにやってんだよおまえ!?第一王位継承者が国を出てくとか…!?」
「王位継承権ならウィルに譲ったよ」
「はー!???」
「あいつ、僕の立場とか欲しがってたからさ。僕としてもアルについていくには身分なんて邪魔なだけだし、渡りに船でちょうどよかったから」
「ばっ…バカやろー!?あんな小さな弟までおまえの勝手に巻き込んでんじゃねーよ!?」
「僕のアルにちょっかいばっかりかけようとする厄介な弟だったけど、最後には僕の役に立ってくれて嬉しいよ」
「マジでヒデー兄貴だなおまえ!?」
「うん、それは否定しない」
「開き直りやがって!?」
「と、いうわけだからさ」
エドは調子を改めてニコッとした。
両腕を広げて迎え入れるようなポーズで、こっちにゆっくり近付いてくる。
「僕もアルと一緒にいくよ♡世界の果ての果てまでも、どこにだって離れずついていくから…」
俺はじりっと後退した。
向こうから接近された分だけ、距離を取る。
油断はしない。
絶対に。
少しでもチャンスがあれば。
一目散に、逃げてやる…!
「ねえ、アル…」
エドがまた二三歩近付こうとする。
「僕も連れてってよ…」
俺はその分、後ろに退がる。
「二人でずっと一緒にいよう?」
一定の安全圏を必ずキープするよう心掛けた。
結果、いつまでも距離が縮まらないまま、対峙し続けることになった。
お互いに隙を伺っていた。
俺は逃げるため。
エドは、俺を捕まえるために。
否が応にも緊迫感は増していった。
俺はいつしか額にじっとりと汗をかいていた。
気持ち悪いが、今は拭う余裕もない。
我慢してエドの動向を油断なく見据え続けた。
そうして膠着状態に陥って、どれくらい経った頃だろう?
このままじゃ埒が明かない…と俺が内心でジリジリし始めた時。
唐突に、状況が打破された。
エドの涙腺の決壊と共に。




