今世こそは貞操を守り通しホモスパイラルから逃れるべく行動を起こすッ!
夜。
この世界の夜は、本当に昏い。
技術があんまり発達しておらず、王都ですら街灯の類がほとんどなくて、自然の月星の明かり頼りのためだ。
今夜は満月だから、まだマシな方だけど。
夜闇が濃い方が、今の俺には好都合。
俺はかねてからの計画通りに、住み慣れた屋敷をそっと抜け出した。
俺。
アルバート・フォン・フュリューリンゲン。
この国の貴族……だった。
もう過去の話だ。
俺は身分も何もかもを捨てて、この国を出奔する。
18歳の成人となった、この夜に。
ずっと前から決めていた。
理由は単純。
この国の第一王子の婚約者に祭り上げられちまってるからだ。
明日には正式に婚姻の誓いを。
そして一週間後には、国を挙げての盛大な結婚式が執り行われる予定。
…冗談じゃねーっつーの!
エドとは、なんだかんだで腐れ縁の付き合いも長い。
普通の友達としてなら、まあ今後も仲良くしてやってもよかった。
でも配偶者なんて、論外だ!
俺はホモじゃねーんだよ!
女の子が好きだ!
つーか彼女欲しい!切実に欲しい!
エドにずっと付きまとわれてたせいで、またしても年齢=彼女いない歴の有り様だけどなチクショウ!
だから出奔してやるんだ!こんな国!
成人になる前に婚約を撤回してもらえていれば考え直さないでもなかったが、ついに撤回されることもなく今日という日を迎えちまったし!
今日は、家族水入らずで過ごした。
家族っつっても、母上は俺を産んですぐに亡くなっちまってて、父上だけだけど。
一人息子である俺の成人を祝って、夕食は豪華だった。
初めて酒も出された。
俺にはまだ味はよく分からなかったけど、特別感があって嬉しかったなやっぱ。
「おまえとこうして酌み交わせるのは、次はいつになるだろうなぁ…」
感慨深くそう呟いていた父上。
…父上的には、俺が結婚して王族の仲間入りをしちまうから、もう一緒に食事をするのも簡単じゃなくなる…って意味で言ってたんだろう。
寂しそうだった。
目元に光るものが滲んでたのは、たぶん見間違えじゃない。
宮廷貴族として割とあこぎなこともしてるっぽい父上だけど、俺のことは一応ちゃんと可愛がってくれてたと思う。
たった一人の家族を残して出ていくのは、俺もちょっとは気が咎める。
…でもなぁ!
そもそも、父上だって悪いんだ!
俺の意見も聞かずに勝手にエドとの婚約を承諾しやがって!
いくら親子でも、許せることと許せねーことがある。
父上の出世や栄達のために、俺の人生を差し出せるわけねーだろ!
あと貞操もな!
愛情と執着心でドロッドロのエドの眼差しを思い出すだけで、ゾッとする!
男に抱かれるなんてまっぴらゴメンだ!
…ま、そんなわけで。
俺は足音を忍ばせて、夜道を進んでいった。
王都はぐるっと城壁に囲まれている。
普通に外に出るには、城壁の検問所を通過しなければならない。
が、こっそり出奔する俺は、もちろん検問所は使えない。
そこで人気のない町外れから、城壁をひょいっと飛び越えた。
10メートル程度の高さはあったが、今の俺にはどうってことない。
剣と魔法ありきのこの世界では、鍛え方次第で人はどこまでも強くなれる。
鍛えに鍛え抜いた今の俺の身体能力だったら、この程度は跳躍一つでひとっ飛びだ。
もう貴族じゃなくなるし、父上の庇護もなくなるんだ。
外の世界で一人で身を立てていくには、これくらいの強さがないとだからな。
まずはどっかの国の冒険者ギルドで冒険者登録をして、腕っぷしを頼りに生きていくんだ!
さて、と。
このへんまで来ればいいかな。
城壁から十分に離れたところまで歩き、俺は指笛を吹いた。
夜空に甲高い音が鳴り響く。
とたん、月星の明かりを遮り、飛来してくる影がひとつ。
ワイバーンだ。
とある協力者から融通してもらい、この日のためにずっと飼い慣らしてきた。
こんなでっかいモンスターを隠れて飼育するのは多少骨だったが…
その甲斐あって、速やかに移動できる。
あらかじめ取り付けてあった手綱を取って、俺はいそいそとワイバーンに騎乗しようとした。
その時だ。
上空に、フッと大きな影が差した。
さっき俺のワイバーンが飛んできた時みたいな…
って、実際にワイバーンじゃねーか。
こんなタイミングで野生のが出現したのか?すごい偶然だな?
…とか思ってポカーンと見上げていた俺は、呑気すぎた。
そんな悠長な場合じゃなかったんだ。
二体目のワイバーンは、俺のワイバーンのすぐ近くに降り立った。
その背から、ひらりと飛び降りてくる姿がひとつ。
…めっちゃくちゃ見覚えのある顔だった!
いつもと違って冒険者然としたラフな旅装束の格好だったが、見間違えるはずがない!
「な……なんでエドがここに!?」
「酷いよアル。僕を置いていこうとするなんて…♡」
愕然とする俺に、この国の第一王子にして婚約者だった男が、うっそりと微笑んだ。
あの、愛情と執着でドロッドロの目を向けてきて…
俺はたまらず盛大に悲鳴を上げた。
一体どーゆーことだよっ!?




