俺と奴との攻防の日々
ああ、茶が旨いなァ…(現実逃避の遠い目)
俺はアルバート。とある王国の貴族。
前世で俺の純潔を散らしたクソ幼馴染と異世界転生先でも出会ってしまい、今、そいつの私室に招かれて茶ぁしばいてます。
…何を言ってるか分からない?
ハハッ、だろうなぁ…
俺にも全然分からねーよ…
なーんでこんなことになっちゃったんだろ…?
虚ろな笑みを零しても、この厳しすぎる現実は変わらない。
人の気も知らず、クソ幼馴染はさっきから俺のことじーっと見詰めてニッコニコ上機嫌だけどさぁ…!
めっちゃ腹立つ!
こいつを思いっきりぶっ飛ばして解決できたらどんなにかいいだろう!?
…それができねーから、こんな狂った状況になってんだけど。
俺たち二人は異世界転生者だ。
俺は前世の幼馴染に尻を狙われてまとわりつかれている。
わけが分からねーかもしれねーが、まずはそれを前提にしないと話が進まないから飲み込んでくれ。
で、俺は貴族に転生したけど、クソ幼馴染は王子様に転生してた。
それをいいことに王族の強権を発動しやがって…!
今世では初対面だったっつーのに、俺、出会ったその日に親友認定だよ!
そんで次の日には御学友ときたもんだ!
なにこの…じわじわと確実に外側から包囲されていってる感!?
シンプルに怖い!
いつか絶対に逃げ出してやるぞ…!と固く胸に誓いつつ、今はどうすることもできないから、仕方なく招きにも応じてる。
俺、まだ12歳だからな。
貴族って言っても親の庇護がなければなーんの権限もありゃしない。
家を出ようにも、子供の身じゃ自活もできねーし。
でも、大人になったらこっちのもんだ。
クソ幼馴染の存在もそうだが、この国自体にもひっじょーに不信感を抱いた俺。
この際、貴族としての身分も家も国も何もかも放り捨てて、冒険者にでもなって国外までトンズラぶっここうと思ってる。
クソ幼馴染は今度は逆に王族っていう身分が災いして、よその国までは追ってきたりもできねーだろうし。
俺のプランは完璧だ…!
なので、今はただひたすらに耐え忍ぶ!
将来のために力を蓄える雌伏の時さ!
それを考えたら、この御学友って立場はそう悪いもんじゃない。
うん…
クソ幼馴染からのドロッドロの執着と愛情のこもった眼差しがウゼーしこえーけど…
それにさえ目を瞑れば、なんとか…
王子様と一緒に、この国で最高の教育を受けられるんだ。
座学だけじゃなくて剣術とかも、一流の先生から教えを受けられる。
うちの父上が雇ってくれてた剣術の先生も強かったけど、王城の指南役の方がさすがに一枚上手だし。
いずれ冒険者として身を立てるには、なにはともあれ強くなくちゃ話にならねーからな!
第一、強い奴はモテる!!!(重要なので超力説)
冒険者として活躍してブイブイいわせてりゃ、彼女だってできるだろー!
前世からの悲願!脱☆童貞!!!
俺は絶対に諦めないぜ!
もちろん処女は死守だ!今世こそ必ず守り通す!
…なんか言ってて虚しくなってきた。
普通はこんな心配なんかしねーよな、男がさ…
ははっ…(虚ろな笑い)
「ああ…嬉しいなぁ。こうしてまたたろーちゃん…じゃなかった、アルと一緒に過ごせるなんて」
うっとり、という擬音がつきそうな表情で、クソ幼馴染がなんか言った。
俺はケッとやさぐれる。
誰かに見られたら王族へのこんな態度はアウトだが、今はこいつの私室で二人きりだ。
遠慮する必要も筋合いもない。
「俺はいい迷惑だぜ。週6で王城まで通わせやがって」
そう、御学友は勉学を共にするもの…って建前で呼び出されて、俺はほぼ毎日こいつの顔を見るハメになっていた。
剣術の訓練とかだったらそれなりに有意義だが、今日みたいにただ茶ぁしばくだけなんて苦痛だし時間の浪費でしかない。
こいつは俺に会えるだけで嬉しいらしいけど。
…ずっと塩対応なんだけどな。何がそんなに嬉しいんだか。
「そっか、やっぱり通ってくるの大変だよね」
「当たり前だろ」
「ならいっそ王城に住み込んじゃえばいいんじゃないかな!ほら、僕の隣の部屋が都合よく空いてるし!」
「ぜってーヤダ!!!」
なんつー提案をしやがる!?
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
あわよくばさらに距離を詰めようと企てやがって!
「大体、週6ってのがもうおかしいだろ!?どんなブラック企業だよふざけんな!」
普通はフルタイムで働いてもせいぜい週5勤だろ!?
「やだなぁ、これは仕事じゃなくて友愛の情からの交流じゃないか!」
「友情は前世で死滅したし愛情なんてものは端からねえ!」
「ふふっ、またそんなこと言って…」
「んだよ!?」
苛立ちのあまりにメンチ切る俺。
なのにこいつは全然堪えたふうもない。
本当、ふてぶてしいっつーか、どーいう神経してるのか疑うぜ…!
「たろーちゃんでも、アルでもさ。結局君は今も昔も変わらずに優しくて人がいいんだもん。僕のこと本気で嫌ったり憎んだりはしてないでしょ?」
「何言ってやがる!?俺は…」
「頼めばこうして逢いに来てくれるし」
「おまえが俺の父上にまで手を回したからだろ!?王族とは懇意にしておけって、俺は父上に無理やり…」
「本気で嫌なら、逃げるだろ。君は優しいけど意志の強い人でもあるから」
「………」
あーそうだよ!
だから、大人になったら速攻で逃げてやるんだ!
気取られたら邪魔されるに決まってるから、今はおくびにも出せねーけどな!
今度の計画諸々のために口を噤んだ俺を、こいつは自分に都合のいいように解釈したらしい。
ニコニコと一層上機嫌になって俺の手を取ってきた。
…ってオイ!?
「君とまた出会えて、本当に嬉しい」
「もう何度も言ってるけどな、俺は会いたくなんかなかった!」
「前世ではたろーちゃんとずっと一緒だったんだもん。会えなくて寂しくてたまらなかったよ」
前世では家が隣同士の幼馴染。
毎日のように一緒に遊んでたし、ずっと仲良かったし、俺も親友だと思ってた。
…あんなことさえなきゃーなあ!
「あっ、いたたたた!?」
「離せよ触んな!」
「ハグは我慢してるんだから、手を握るくらいいいじゃない?」
「おまえとの接触は一切合切アウトだ!」
空いてる方の手でこいつの手の甲を思いっきり抓ってやった。
俺の手を解放して、わざとらしく抓られた跡にフーフー息を吹きかけてるけど。
その気になれば回復魔法ですぐ治せるくせに。当てつけがましい!
俺は絶対に油断しないし絆されもしないからな!
「…前世のたろーちゃんの時は普通にハグもさせてくれたのに」
「おまえの本性知らなかったからだよ!知ってたらさせるもんか!」
「ううっ…ガード固いなぁ…」
泣き真似を始めたクソ幼馴染を睨みつけて舌打ちをしながら、話に出たので俺は前世のこいつのことを思い出していた。
そういや、普通の友達にしてはやらたとボディタッチの多い奴だったな…って。
男同士なのに腕組んで歩きたがるし、しょっちゅうハグしてくるし。
『欧米かよ』
『えー?ダメ?』
『別にいーけど。甘えただなーこうちゃんは』
俺、家庭ごとの習慣の違いかな、くらいに思って笑って流してたけど。
そうじゃなかった…!
違ってたのは習慣じゃねえ!性的嗜好だった!
まさかちっちゃな頃から妙な目で見られていたとは思いたくもないが…!?
ああ、それに!
前世でもこいつは文武両道の美少年で、女子にもめっちゃモテてたっけ。
告白も何十回とされていた。
その全部をあっさり断ってたから、俺は非モテのやっかみも込めて一度聞いてみたことがある。
『なんで断っちまうんだよ、もったいねー。彼女欲しいとか思わねーの?』
『ううん、僕……たろーちゃんと一緒の方がいいんだ』
…あ”ああああああ!!!
言ってた、そーいや!!!
俺はてっきり、女子と付き合うよりも男同士の友情が大事ってことか可愛い奴めー!…なーんて思ってたけど!
あれも違ったってことか!?
なんか改めて友情が裏切られた気分だぞ!?
いやあれは俺が勝手に勘違いしただけだから、こいつを責めるのは筋違いかもしれねーが…!?
くっそー、こうして振り返ってみると色々と思い当たるフシがある!
なんで18になって押し倒されるまで全然気付かなかったんだろ、俺…!
「ねえ、アル…」
「んだよ!?」
俺は不機嫌に言い返した。
色々と思い出していたら、今更ながらにむかっ腹が立って仕方なかった。
こいつだけじゃなく、ずっと気付かずにいた自分自身にも腹が立つ!
「もっと普通に接して欲しいな。成人するまでは変なことしないって約束するから…」
「それ、成人したらまた手出しするってことだろ!?」
完全に前世と同じじゃねーか!
冗談じゃねー!
まあ今度は速攻で逃げるけどな!
「警戒するのも分かるけど、僕はたろーちゃんと…ううん、アルとまた友達になりたいんだ。一緒に遊んで、一緒に学んで、一緒に成長していきたい」
何を都合のいいことを…!
「まだ一度も僕の名前も呼んでくれてないよね?」
「………」
「ね、お願いだよ………アル」
くそっ…
こんなやつ、もう知らねーって思うのに…
なんで泣きそうなんだよ、おまえ!?
付き合いが長いせいで、今度のは嘘泣きじゃないって分かっちまう!
俺は全然悪くないだろ!?
なのにこっちが悪いみたいな気分にさせやがって!本当にムカつく!
「…しょうがねーな、こうちゃんは」
「アル!!!」
「こっちの世界じゃなんだっけ?エドワード?」
「うん!エドって呼んで!」
「わーったよ。正直よろしくしたくはねーが……よろしくな、エド」
…勘違いすんなよ。
別に、許したわけでも絆されたわけでも油断したわけでもない。
ただ、当分はまだこいつと顔を合わせ続けなきゃいけねーんだろうし。
こいつは王子様で、俺は臣下の身分だし。
いつまでも名前も呼ばないんじゃ不自然だし、不便すぎるからな。
それだけだ。
それ以上の理由なんて、ないんだからな!
「うん、よろしくねアル!僕、本当に嬉しい!!!」
…とか譲歩してやったら、早速これだ!
茶ぁしばいてたミニテーブルを跳ね除けて突進し、エドが俺に抱きつこうとしてきやがった!
椅子やテーブルが倒れ、滑り落ちたティーカップやソーサーが床で砕ける音をBGMに。
バッキャァァァァァッッ!!!
俺の渾身の左ストレートが炸裂!
エドは「へぶんっ!」とか無様な悲鳴を上げながら吹っ飛び、砕け散った茶器と運命を共にして床に伸びた。
っとに、油断も隙もあったもんじゃない。
ずっと警戒はしてるからな!
しょうがないから名前くらいは呼んでやるけど、金輪際指一本触られてたまるもんか!
大人になって逃げ切るまで。
絶対に、今度こそ、我が身を守りきってみせる!
ぶっ倒れて気絶してるっぽいのに気色悪いニヤけ顔のエドを前に、俺は改めて固く誓うのだった。
「手強い…!これはアルからの愛の試練ってことだね!僕は絶対に乗り越えてみせるよ!」
おまえはやる気になるんじゃねえッ!!?




