そろそろアップを始めようか?2
「そもそも疑問なのだがなー。チミたち二人の方がうーんと強いだろ?護衛を連れて来る意味なんてあるのか?」
ダンジョンに問題がないかコアを通してチェックするため、まずはサイモンのところへと。
彼の住む館の応接室で、おもてなしのお茶をいただきながら、そんな話が出された。
…壁際に控えている近衛兵たちが顔を引き攣らせてる。
サイモンは自分の研究以外には無頓着で、歯に衣を着せないものな。
失礼な発言とも気付かずに、思ったことはそのまま口にしちゃうし…
いたずらに舌禍を呼び込むタイプだよ。
こいつが故郷の国を追われることになったのって、危険な研究のせいだけじゃなく、こういう社会性のなさも一因だったんじゃないだろうか。
「俺は護衛の人がいてくれて心強いぜ?…エドと本当に二人きりとか、なんかヤダし」
アルの言葉に、近衛兵たちの機嫌が持ち直した。
思ったままを口にするのでも、アルの場合はサイモンとは全然違う。人を不快にするようなことはまず言わないし、素で誰に対しても肯定的だから、みんなに好かれるんだよね。
僕もアルのそいういうところが大好きさ♡
セリフの後半部分はツンデレだからってのも分かってるし!
アルは本当に照れ屋さんなんだからっ!
「まー別にいいけどなー。どーでも」
ってサイモンのやつがまた余計な一言を!
だったら聞くなよ!?
そういうところだぞ!?
「それより気になるのは、チミたち二人の規格外の強さだ。王族や貴族は血統的に優れた才能や資質に恵まれている場合が多いというが、にしたってチミたちほど顕著な例は他に見たことがない。僕の研究とは異なる分野だが……いち天才魔導士としてはひっじょーに探究心をそそられる!」
あ。
そこに言及するか…
人格に問題があるとはいえ、さすがは魔導士ってところだな。天才かどうかまでは知らないけど。
実は、僕とアルは異世界転生者だ。
こことは違う世界で生きて、死んで、その記憶を持ったままこの世界に生まれ変わった。
どうしてこんなことが起こったのかは、分からない。
僕は、僕とアルの運命だから♡って信じてるけどね!
ともかく、異世界転生した僕たちは、生まれながらに特別なアドバンテージを有していた。
いわゆる転生チートってやつだ。
アルはチートなんて使ったことないって言ってたし、その言葉は本心からに違いない。
でも自覚してないだけで、やっぱりチートしてた部分はあるはずなんだよ。
例えば、体を鍛えるトレーニング。
前世ではスポーツ科学なんてのが発達しており、効率的な体の作り方・鍛え方が学術的に研究され、トレーニングにも活用されていた。
アルの前世だったたろーちゃんは勉強は苦手でも体を動かすことは得意だったから、体育の授業や放課後のクラブ活動できちんとしたコーチを受けて、それらを感覚的に身につけていた。
同じ時間を使って鍛えるのでも、効率的なトレーニングを無意識に継続したアルと、非効率なやり方しか知らないその他大勢と。
差が生じるのは当然の帰結だ。
また今いるこの世界ってのが、僕たちからすると前時代的な精神論がいまだもてはやされててさ…!
血反吐を吐くまで頑張れば頑張った分だけ強くなれる?
…無駄に体を痛めつけるだけで逆効果だよ。
適度な鍛錬と、十分な休息による回復。その繰り返しで、段階を踏んで少しずつ鍛えていくのが正解さ。
あと、これは僕も確証はないんだけれど…
この世界には魔素というものがある。
すべての力の素であり、魔法を使うために必要なのはもちろん、魔法を使えない人にしても内在魔素が多いほど身体強化しやすくなる。
僕やアルは、どうも他の人たちに比べてこの魔素の保有量がかなり多いようなんだ。
異世界転生してきた際に、何らかの影響があったのかもしれない。
元から豊富に有していた魔素を、効率的なトレーニングでさらに倍化させて、相乗効果でとんでもないパワーアップを果たすことができた。
だから僕は成人前のこの歳で、実は既に父上よりも強い魔法を使えるし。
アルに関しても、素手でドラゴン族を倒せる程の猛者だしね。
…っていう事情を。
サイモンに打ち明けたりは、もちろんしないけど。
こいつ、なかなか鋭いな…!
「俺は強くなりたいから頑張ってんだ。頑張った分だけ強くなるのは当然だろ?」
余計なことを知られるのは面倒だ。
どう言って誤魔化そうかと悩んでいた僕の横で、アルがあっさりと答えを返した。
またそんな脳筋な回答を…
アルらしくて僕は好きだけど、そんなのでサイモンが納得するだろうか?
「サイモンさんだって一生懸命研究に打ち込んでるから、こーゆー成果が出せてるんだ。同じことだろ?」
「なるほど!単純明快にして至極道理であるっ!」
…あ、思ってたより簡単に納得した。
サイモンは脳筋じゃないけど、どことなく思考回路というかノリがアルと似てるのかもしれない。
そういやこの二人、全然タイプは違うのに、初対面から妙に馬が合ってたっけ。
なんか…面白くないな。
まあサイモンの場合は恋愛感情的要素は皆無だって分かってるから、かろうじて見逃してあげられるけど。
「あ、そーだそーだ。その研究についてだがな、ちょっとチミたちに頼みたいことがあったのだー」
「ん?エドだけじゃなくて、俺も?」
「そう!」
「俺は魔法は使えねーぞ?」
「だいじょーぶなのだー!頼みってのは、ここのモンスター討伐だから!強けりゃノープロブレムっ!」
「いいけど…なんで?」
僕もアルと同じ疑問を抱いた。
ここのモンスターは既にダンジョンコアを通して僕の制御下にある。
もう特に危険はないはずなんだ。
なのに今更それを討伐なんて、一体何のために?
「ちょっと全体的にダンジョン内の魔素が不足してきたのでなー。不要なモンスターを倒して魔素に還元して欲しいのだー」
サイモンいわく。
ダンジョンマスターはコアを通じてダンジョンモンスターを好きに生み出せる。
だけど、無制限にできるわけじゃない。
そのモンスターのランクに必要なだけの量の魔素がなければいけないという。
「元々、ダンジョンの発生するような場所は自然の魔素溜まりで、魔素が集まりやすいのだが……高ランクのモンスターを作りすぎたせいで、おっつかなくなってきたのだ。これでは次の研究に必要なだけの魔素が確保できん!…ってことでな」
サイモン、計画性のなさを堂々と暴露。
「こないだアースドラゴンを倒したけど、それじゃ足りなかったのか?」
「うむ。あれでかなりの魔素を取り戻せたのだが、念の為あともーちょっと欲しい!」
「そんなに大量の魔素を使って、今度は一体何をするつもりだい?」
疑わしげに口を挟む僕。
だって、サイモンの研究って一歩間違えばとんでもない被害を巻き起こしかねないんだ。
研究欲ばっかり先行して倫理観に欠けるから、サイモン自身は少しも自重しないし…
こいつに研究を続ける許可を出してしまった責任が、僕にはある。
おかしなことをしないよう、ちゃんと目を光らせてないと。
「うむっ!よくぞ聞いてくれた!」
不信の目を向けられてもなんのその、サイモンは自信たっぷりに、
「ダンジョンの環境を変動させて、貴重な薬草などの栽培ができないか試そうと思うのだ!」
…なるほど?
それは確かにいいアイディアかもしれない。
この『マッドの館』は基本的にフィールドダンジョン。森でも山でも野原でも、ダンジョンマスターの意向次第で作り出せる。
そこに生える植物の種類も自在にできるなら、貴重な薬草も作り放題というわけか。
モンスターよりも圧倒的に安全だし、有効なダンジョン活用法だといえる。
うん、いいじゃないか!
「それにまだまだ作ってみたいモンスターもいっぱいいるしなー。有名どころは一通りやっときたい!もちろん研究のためにな!」
って、感心したそばからこれだ!
モンスターなんて、倒して素材にした後じゃないと何の役にも立たないだろ!?
まあ僕とアルなら倒せるだろうけど、サイモンはそんなの考えなしにただ作りたいものを作ってるだけだ!
やっぱり根本的にダメだこいつ…!
しっかり監視下に置いておかないと…!
「サイモンさんって、いろんなモンスターに詳しいよな。どうしてだ?」
「フッフッフ。実はな、この研究に必要なデータを冒険者ギルドから入手してあるのだっ!夜中にこっそり忍び込んで……苦労したけどその甲斐はあったな!」
おい!?
不法入手じゃないか!?
「仕方がなかったのだ。モンスターの詳細データがなければ、いかなダンジョンマスターでも再現できんからなー」
悪びれもせずぬけぬけと…!
「ふーん………まあとにかく、モンスター倒してくればいいんだな?」
「うむっ!頼んだぞっ!」
「よし、行こうぜエド」
「えっ!?だけど…」
あんまりサイモンの勝手な都合通りに動いてやるのも業腹だ。
躊躇する僕だったが、
「モンスター倒し放題なら、俺たちの鍛錬にもなるし。別にいいじゃねーか」
…くっ!
アルがそう言うなら、しょうがない。
サイモンにはどうせ何を言っても無駄だろうし。
僕はそれ以上議論することを諦めて、アルと一緒にモンスター討伐に乗り出した。




