ダンジョン攻略記3
引き続き。レオナルド記す。
鬱蒼とした森のさらに奥。
小高い丘みたいに隆起した場所に、その館は建っていた。
…ダンジョン内なのに!
迷宮とか建造物の形態を取るダンジョンもあるが、ここのようなフィールド型ダンジョン内部にポツンと一軒だけ邸宅があるなんて、聞いたこともない。
存在からして違和感だった。
それは、このダンジョンが自然発生的にできたものではなく、人為的に生み出されたものなのではないかという疑惑にも繋がった。
もし犯人がいるとしたら、この館に住んでいる確率が非常に高い。
ダンジョンマスターの館、か…!
森の木々が視界を遮ってたし、結構遠くだったから、最初アルバート様以外は誰も気付かなかったが。
「アル、こんなのよく見つけたね」
「まあな。視力には自信があるぜ!」
彼はただ強いだけではなく、基礎身体能力が飛び抜けて高いようだ。
ともかく、騎士団全員でやってきた。
総撤退?
…状況が変わったのだ。
アルバート様がこの館を発見しただろ?
行ってみようって提案しただろ?
そしたら、エドワード様が即断した。「よし、行ってみよう!」と。
私に準ずる指揮権を持つ王族の鶴の一声である。
私も了承した。
このお二方がいれば、まあなんとかなるだろう、と最終的には判断して。
副団長あたりは渋い顔で帰りたがっていたがな。
仮にも本職の我々が、助っ人参戦枠の少年たちにドラゴンの肉を食べさせてもらっただけで帰還できるか!
騎士団魂を見せろ、副団長!
よし、進むぞ!
近付いてみて分かったが、割と年季の入った館だった。
要するに、ちょっと傷んでてボロい。外壁の全体を覆うように蔦が蔓延っているし。
…扉に鍵は掛かってなかった。
ギィィ…
軋んだ音を立てて、正面大扉を開けていく。
内部は薄暗くて視界が悪い。
明かりが灯されていないせいだ。窓から差し込む外の光でなんとか薄ぼんやりと見えるという程度だった。
「中は思ってたより綺麗だなー」
アルバート様にはハッキリと見えているらしかった。
夜目まで利くのか。本当に彼の五感は素晴らしい。
エドワード様が魔法の光を放ち、あたりを照らしてくださったおかげで、我々にもよく見えるようになった。
この規模の館にしては、廊下は広々としている。
外観の屋根の高さから二階建てかと思ったが、一階建ての平屋だ。一階二階と吹き抜けで、天井の高い造りになっていた。
どうも、妙だな…
まるで巨人の家のようなサイズ感。
しかし、廊下に点在する各部屋のドアは、通常の人間サイズだ。
注意を払いながら慎重に廊下を進んでいくと、隅の方でモゾモゾと蠢く気配があった。
「なんかちっちゃい気配がいっぱいあるぜ」
アルバート様のおっしゃった通り。
館内には、モンスターがいた!
とはいっても、脅威ではなかった。
スライムだのコボルトだのゴブリンだのと、小柄で弱い種のモンスターしか出てこなかったからだ。
外で遭遇したアースドラゴンとの落差に拍子抜け。
これならばお二人のお手を煩わせるまでもない。
私はエドワード様とアルバート様に断りを入れて、騎士団だけで露払いをしていくことにした。
「うりゃ!脅かしやがってこいつ!」
「おまえら程度なら俺たちでもラクショーだぜ!」
「アルバート様にいいとこ見せたるぁぁぁッ!」
若手騎士たちが張り切って、率先して前に出て薙ぎ払ってくれた。
…最後の奴、余計なこと言ったな。
エドワード様が……ちょっとここに書き記すのがはばかられる形相で、睨みつけている。
肝心のアルバート様はというと、隅っこの方で一匹のスライムと戯れてらした。
「スラリン……いや、スラポンがいいかな…?」
名前をつけようとしていらっしゃる?
まさか、飼うの!?
アルバート様がしょげている。
構っていたスライムが、べシャア…って潰れてしまったのだ。
アルバート様が撫でようとして手を伸ばしたとたん、ブルブルブルブルっと激しく震えたかと思ったら、唐突に自壊した。
おそらく強者の圧に耐えきれなかったのだろう。
「お…俺のスラポンが…!」
「元気だしてよアル。僕がいるじゃないか!」
「やだーっ!スラポンがいいっ!」
「あんな奴のことなんてもう忘れてよ!」
なんだか痴情のもつれじみた会話だなぁ。
ドロっとした三角関係っぽく聞こえてヒヤヒヤする。
実際はただのスライム相手の話なのにな。
慰めようとしているエドワード様をすげなく突っぱねるアルバート様、凄いな。
なかなか言えんぞ、王族相手に「やだ」とかって。
…あ?
さっき失言した若手騎士?
ああ…
あいつはいい奴だったよ…
「まだ死んでませんよ団長!?」
「エドワード様にガチ睨みされて後ろの方でブルってますけど!まだ無事です!」
うん。
それは私も知ってる分かってる。
しかしエドワード様に目をつけられて、あいつがこの先もずっと無事でいられるのかどうか…
おまえたちだって「まだ」なんて言い方してるじゃないか。
「いやだって…!?」
「団長、なんとか執り成してやってくださいよ。上官として部下の身の安全を守ってください!」
ええ〜…
そりゃなんとかしてやりたいけど、私にできるかな?
…まあいい。
アルバート様がスライムのショックから立ち直ったら、お願いしてみよう。
アルバート様から言ってもらえば、エドワード様は大抵のことは聞いてくれる。
私も段々分かってきたのだ。
さて。
たいしたモンスターもいなかったので、我々は館の一番奥の部屋まで辿り着いた。
この部屋のドアだけ縦にも横にもやたらと大きい。
いかにも何かあると言わんばかりだ。
ここまでの部屋の中も逐一チェックしながら進んできたが、どれも普通の部屋だった。
リビング、書斎、寝室、キッチン…居心地の良さそうな、ごく普通の雰囲気で、どこか生活臭が漂っている。
確実に誰かが住んでいるな、ってのが容易に察せられた。
その、誰がが。
この最奥の部屋にいるのではないか…?
「中に人の気配がするぜ」
アルバート様がおっしゃるのでもう間違いない。
どんな危険人物かも分からぬ。
私は最大限の注意を払って静かにゆっくりそのドアを開けようとした。
が、
「失礼しまーす」
あ”あああああああッ!?
アルバート様が横から!
ものすっごい無造作に手を伸ばして、ドアをバーン!って。
開け放ったぁぁぁぁッ!!?
あんたなんばしょっとですか!?
こんな物音立てたら中の輩に即気付かれるでしょーがッ!?
罠とかあったらどーすんです!?
…と気を揉む私たち騎士団一同をよそに、アルバート様は迷いない足取りでスタスタと中に入っていってしまった。エドワード様もすぐ後に続く。
わ、罠とかは…なかったみたいだが…
また貴族や王族が前に突出してぇ〜!?
これで何かあったら責任問題になってしまう!?
戦闘力が飛び抜けて高いからって、お二人にはもう少し身分をわきまえて自重して欲しいなぁ!?
私たちも急いで彼らの後を追っていった。
室内はかなり広かった。
そして異様な光景だった。
ドア付近にはゴチャッとした研究資料や実験器具みたいなものが山と積まれていたが、少し奥に進むと、大きく開けられた床のスペースいっぱいに魔法陣が描かれていた。
その魔法陣の真ん前で、むにゃむにゃと呟きながら何かに集中している人影がひとつ。
…集中しすぎて、我々の侵入にも気付いてすらいないようだった。
一体何をしているのか?
というのは、見ていてすぐ分かった。
ボンッ!!!
破裂音と、煙と共に。
魔法陣の中央から、いきなりモンスターが湧き出してきた!
四足の巨大な獣。
あ、あれはっ…!?
「サーベルタイガーだぁぁぁぁッ!?」
「またAランクモンスター!?」
「もーいやぁー!!!」
そう。
鋭い牙を持ち敏捷性に秀でた、厄介なモンスターだ!
肉食獣なので当然人を襲う。凶暴性は極めて高い。
サーベルタイガーは魔法陣を飛び出すと、最も近くにいた謎の人物は素通りして、次に近い位置にいたアルバート様に躍り掛った。
あっ危なーーー
「っせい!」
と思ったら、そんなことなかった。
アルバート様の素早く繰り出した拳が、サーベルタイガーの鼻面にヒット!
鼻の下は大抵の生き物の急所だ。
サーベルタイガーも例外ではなく、たった一撃で「ギャンっ!?」と叫びを上げて昏倒した。
ここまできて、やっと謎の人物が我々の存在に気付き、振り返る。
「なっ……なんだねチミたちはっ!?」
ボサボサ頭に分厚いメガネ。
見た目、ひ弱そう。
研究に没頭するあまりに引きこもりがちなタイプの魔法使いとか研究者っぽい雰囲気の人物だった。
いや、実際にそうなのか?
「挨拶もナシに人様のおうちに上がり込むなんて!どういう了見だ!?」
「えー?さっきちゃんと失礼しますって言って入ったぞ?」
「…そーなの!?」
「うん。そう」
「ならしょーがないなっ!無視しちゃった無礼を詫びて歓迎しちゃおうではないかっ!」
え。
マジで!?




