ダンジョン攻略記2
はい。
前回に引き続き、レオナルド、記す。
アースドラゴンがアルバート様に投げ飛ばされて伸びた。
…何を言っているのか分からないかもしれないが、私の目の前でたった今起こったことをありのまま記録している。
錯覚とか幻覚とかそんなチャチなもんじゃない。
それよりも遥かに恐ろしいリアルを味わってしまった…!
だって、ドラゴン族相手だぞ!?
ただでさえ最強種。
それもアースドラゴンは地上でのフィジカルは随一のはずだ。
なのにアルバート様、ほんの一瞬だけのしかかられて地面に背中を付けて押し倒されたと思ったら、次の瞬間にはポーンって…!
アースドラゴンの巨体をゴムボールか何かみたいに、いとも容易く跳ね上げて放り投げたんだ…!
「ヒィィィっ!?アルバート様マジすげぇぇぇぇぇッ!!!」
「今のなんですか!?必殺技!?魔法!?」
前回の行軍で彼の部隊に配属されていた若手騎士たちが、騒然となって質問を浴びせていた。
アルバート様はとんでもないことをしたというのに、ケロッとした顔で、
「巴投げだよ」
と、私ですら聞いたことのない技名を教えてくださった。
「相手の力や勢いを利用して投げ飛ばせるから、便利だぞ。いざって時も巴投げがあれば多少は安心だ」
そうなの!?
だとしたら、相手が強いほど威力を発揮するわけか。
ならドラゴン族を倒せるのも道理…
…いやいやいや!?
そうじゃない冷静になれ私!?
相手の力を利用するといったって、体格差というか…彼我のサイズ差がシャレになってないじゃないか!?
普通ならプチッと潰されて即終わる。
人族がアースドラゴンを投げ飛ばすなんて、やはり無理よりの無理だ。
アルバート様の力量あってのことだろう。
本当に、ちょっと前までは王子殿下の腰巾着なんて噂されてたとは信じられないくらいに、屈強なお方だ…!
そのエドワード様だが、アルバート様が投げ飛ばしたアースドラゴンの頭部あたりまで無造作に歩いていっていた。
またぁ…!
さっきのアルバート様といい、高貴なお方があまり勝手に単独行動しないで欲しいなぁ!?
こっちの寿命が縮む!
とか思ってた私はまだ悠長だった。
伸されたとはいえ、ドラゴン族の生命力は強い。ピクピクと痙攣して気絶してるだけで、絶命まではしていなかった。
そこに、エドワード様がトドメを刺した。
気だるげな動作で片腕をアースドラゴンの頭部へと突き出して、
「…フリジットコフィン」
ピキッ…カシャーンッッ!!!
いきなり大魔法を放たれたぁぁぁぁぁッ!!?
アースドラゴンの頭部が一瞬で巨大な氷に覆われ、次の瞬間には粉々に砕け散っていく。
氷の粒が光を反射してキラキラと美しくさえある光景だったが…
なんつー凶悪な攻撃魔法をタメなしで使うのか!?
やはりエドワード様も恐ろしいまでにお強いお方だ!?
「おいエド!?なんで粉々にしちまうんだよ!?」
「たかがモンスターの分際で僕のアルを押し倒したんだから、これくらい当然の報いだよ」
「あ、あのなー!?…あーあ、せっかくカッコよかったのに…」
「えっ!?まさかアル、こんなのが好きなの!?」
「うん。ティラノは昔からカッコよくて好きだ」
「………残りの胴体も跡形残さず粉微塵にしてしまおう。うん、それがいい」
「ちょっ……ちょっと!?お待ちくださいエドワード様!」
今度はなんとか止めに入るのが間に合った。
精一杯声を張り上げた私を、エドワード様が振り返ってくる。
…なんとなく深淵を思わせるような目つきをしてらっしゃるのが気になるが…
とにかく、看過できない。
こうして倒せたからには、ドラゴンの死体はお宝なのだ。
鱗や爪や骨は最上級の素材となるし、肉は極めて美味と聞く。
無駄にできる部分が一片たりともないのに、既に頭部をまるっと無駄にされてしまったのは痛恨の極みである。
「ドラゴンって食えるんだ!?じゃあドラゴンステーキ食ってみたい!」
私の説明を聞き、アルバート様が真っ先に反応を示した。
つーか、完全に食い気に走ってる。
…ドラゴンだぞ?
いくら討伐の第一功とはいえ、簡単に食いたいとか言うな。
騎士団として討伐して得たものは、すべからく国の財産なのだから。
渋面になる私だったが、
「いいよ、アル。それじゃあここで食べていこう!」
おいぃぃぃぃぃぃッ!!?
エドワード様!?
王族なら確かにある程度の融通は利きますが、そんなあっさり…!
え?
アルバート様の意向が最優先?
実質アルバート様だけで倒したんだから、文句は言わせない?
…はぁ。
もーいーです。
私はエドワード様とそれ以上議論するのを諦めた。
そんなワケで、しょっぱなから大ピンチだったダンジョン攻略が一転、楽しいキャンプのお食事会となった。
薪を集めて火を熾し、ワイルドにアースドラゴンの肉を焼いていくという。
味付けは塩胡椒のみ。持参した食料袋の中にあったのがそれだけだったので。
…ちゃんとした厨房で、ちゃんとした調味料を使った方が、絶対に美味だと思うのだが…
「こーゆーのは獲物をその場で食べるのが醍醐味だろ!」
アルバート様、あっけらかんと笑って言う。
彼のそういったざっくばらんとした気質は好ましい。
とはいえ、限度ってものがあるよなぁ…
若手騎士たちはやたらと憧れと尊敬と感謝の眼差しを向けているが。
大人気だな、アルバート様。
それもそのはずで、なんとアルバート様は、我々にも共にアースドラゴンの肉を食す栄誉を与えてくださった。
「俺ひとりで食ったりするわけないだろ。こーいうのは分け合って食うのがうまいんだ」
本当に、気持ちの良い人柄のお方なのだよなぁ…
いくらなんでも物事を雑に考えすぎだとは思うのだが…
しかし、おかげで私も口にできることになった。
ドラゴンの肉…!
無論、こんなもの市場に出回ったりするはずはないから、実食は私も初めてだ。
噂というか伝説では、極めて美味であり、食した人間の肉体を強靭にする効果まであるといわれる。
素材として加工すれば血液は万能薬になったりもするというし。いかにも信憑性のありそうな話だ。
ダンジョン内の森に、焚き火の煙と、肉をジューッと炙って焼く香ばしい匂いが漂った。
若手騎士たちなどもう涎を垂らさんばかりの表情だ。
おっと…
私も人のことは言えない。こっそりと口元を手の甲で拭う。
こんなことしてて、他のモンスターがやってこないかが常に気掛かりではあったが、
「他の気配は全然しないから、大丈夫だと思うぜ?」
「おそらくアースドラゴンを畏れて遠くまで逃げていったんじゃないかな。当分は他のモンスターは近寄ってこないと見ていいと思うよ」
規格外の強者お二人が口々に太鼓判を押したので、まずは安心か。
…アースドラゴンをあっけなく屠る実力者が、ここにいるわけだしな。
さて。
いい感じに、肉が焼けた…!
一番口は、もちろんアルバート様だ。
肉の塊を刺した木の枝を片手で掴んで、大口を開けて齧り付く!
「うまーいっ!」
満面の笑顔で、たった一言!
しかし、それ以上の言葉なんて不要だろう。
どれだけ美味であるかは、彼の表情が言葉より雄弁に物語っているのだから。
「ほら、みんなも食えよ。焼け焦げちゃもったいないだろ」
促されたとたん、四方八方からワッとばかりに手が伸ばされていく。
焚き火の周りに枝に串刺しにされて焼かれていたたくさんの肉が、瞬く間になくなっていき…
って、言ってる場合ではないな!
私もいただくぞ!
〜実食中〜
伝説は正しかった…!
最高に美味であった…!
こんなものを口にしてしまって、これから普通の食事で満足できるかがちょっと心配になってくる。
私たちは食後のまったりとしたムードに包まれていた。
「じゃあそろそろ帰りましょうか、団長?」
ん、そうだな…
残ったアースドラゴンの素材は一纏めにして運搬できるようにした。
これを持って王城に凱旋できるのは、誇らしい気分だ。
では各部隊で荷運びの分担を…
………。
って。
ちっがーーーーーうッ!!?
危うく流されるところだった!
違うだろ、ダンジョン攻略はまだこれからだろ!?
アースドラゴンを狩っただけで達成感を醸し出すな!
その戦果だってほぼ全部アルバート様のおかげだし!
我々騎士団はまだ何もしてないぞ!?
「チッ………流されてくれませんでしたか」
当たり前だ!
というか副団長、もしかしなくても確信犯か!?
「いやだって、これヤバくないですか?ダンジョン入ったとたんアースドラゴンと遭遇とか。このまま突き進んでいったら、エドワード様とアルバート様を除いて全滅する未来予想図しか浮かんでこないですよ」
うっ…!?
それは確かに、私も同感だが…!
「ね?だから部隊編成とか装備とかを一から見直して、出直しましょうよ」
ううううむっ…!?
副団長の言うことにも一理ある。
何の活躍もせず引き返すなど騎士団の名折れだが、だからといって生存率の低い任務をこのまま続行するのは愚の骨頂か。
命あっての物種ともいう。
指揮官としては引き際を弁えているべきだし…!
「なあ、団長さん」
私が総撤退を検討しているところに、アルバート様が声を掛けてきた。
なんだろうか?
戦闘力の高さから、彼の意見はダンジョン攻略をこのまま続けるかどうかの判断材料として入れるべきだ。
しっかり聞こうと居住まいを正した私に、アルバート様は今いる森のずっと遠くを指差して、
「あそこにモロ怪しい館みたいなのが建ってんじゃん。何か手掛かりがありそうだし、行ってみようぜ!」
…なんですと!?




